辛いこと

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3/27/2026, 12:33:40 PM

ー裏側ー(My Heart)

「あー、その引き出し変なんだよね」

友達の家に遊びに行った時、
友達は俺の質問を軽く笑って受け流した。

「いやいや、閉まらないとか……。気持ち悪くないの?霊とかかも」
「ははっ。俺そういうの信じないタイプだから」

そう。
友達……カイの家のタンスが、微妙に閉まりきらないのだ。
数ミリ程度の隙間だが、俺はどうしても気持ち悪く感じる。

「そうじゃなくても、大事なものが裏側に落ちてるのかも」
「いやー。大丈夫じゃないか?それ、愛用して長いから。入ってたとしてもおもちゃだろ」

「はぁ?ダメだろ。確認するべき。ちょっと見てみよーぜ」

軽いノリだった。
酒が入っていたせいもある。
とにかくそんなこんなで、裏側を確認してみることになったのだ。

「おい、なんか開かないんだけど」
「あー。じゃあ諦めたら?」

俺がタンスの段を引いていくら唸っても、
タンスはびくともしない。

そこまで乗り気ではなかったカイは、缶ビールを片手に鼻で笑った。

「なんか引っかかってんだろ。もういいじゃん」
「ここまで来たら本気で気になるだろ!手伝えよ」

「なんでだよ。別に俺、開かなくても気にしないし」
「お前この棚になんか入れてないのかよ?いーじゃん。減るもんじゃないし」

俺が口をすぼめると、カイはため息をついた。

「じゃあ、そこに大したものがなかったら1000円な」
「おっ。マジ?やろやろ」

若干浮かれつつ、カイの場所をあける。
カイは間もなくそこに座って、
「せーの」
なんて掛け声をかけた。


「お前ちゃんとやってる!?」
「お前なぁ…」

かれこれ二十分程経つが、未だ開いていない。

「疲れたぁ。もうやめね?」

カイの提案に、俺は断固として首を振る。

「ダメ」
「なんでだよ。……じゃあさ、最後に全力でやって、ダメならもう終わりにしない?」

時間は深夜二時を回っている。
今更ながら、なぜか虚しくなった。

「……うん。なんか付き合わせてごめんな。それでいいよ。開けられなかったら俺が1000円払うし」
「よし!じゃあ頑張ろう」

ちょっと力を入れる。
緊張していた。

「ふんっ」
「おっ」

力を入れた瞬間、宙に放り出される。
声を発する間もなく、俺は尻もちをついていた。

「大丈夫かよ」

カイは変な顔でこっちを見ている。

「いや、こんな簡単に開くとは……」

抜けた段を見る。
カイはそれを見て、一瞬固まった。

「お。どうかした?」
「見ろよこれ」

カイはそこを指差す。
それは、裏面と接していたと思われる面。
べっちょりとなにかが付着していた。

「うわ………ネバネバしてないか?これ。これがさっき、接着剤的な役割してたんじゃ…」
「いや、だとしてもあんな急に抜けないだろ」

顔を見合わせて、棚の奥に目を向ける。
暗くてあまり見えないその向こう側には、確かに同じような液体がついていた。

「なんか、グロ……」
「うおぇ」

カイが口を押さえる。

「変な匂いしないかこれ」
「……まぁ、言われてみれば。」

変な匂い。
部屋に充満したそれは、俺たちの肺を満たしていく。

「うおぉ。…この液体、微妙につぶつぶしてる」
「え?触ったの?」

カイは自分の指先をこねくり回しながら、あきらかに顔をしかめていた。

「これ、なんの液体だろ」
「……考えたくもねぇよ」

そういえばこのタンス、いつから使ってるっていってたっけ。

――――――――――――――――――
いつから一緒だったんだろう。
おはようございます。

3/26/2026, 10:11:29 AM

ー不幸ー(ないものねだり)

もってないの。
私なんにも、持ってないの。

あなたはいいよね。
全部全部もっててさ。
楽しそうで、嬉しそうで。

それなのに、
何がそんなに辛いっていうの?

バカにしないでよ。
私のほうが、ずっとずっと辛いのに。

あなたばっかり。
誰かの前で号泣できて。
誰かに不満をぶちまけて。

私には、それすらない。

3/25/2026, 12:28:16 PM

ー傘の中ー(ところにより雨 好きじゃないのに)

学校の窓ガラスを、雨粒が絶え間なく叩いていた。
ぼんやりと外を眺めながら、先生の抑揚のない声を聞き流す。
子守唄みたいで、意識が沈んでいく。

「きりーつ」

間延びした声に、慌てて立ち上がった。
いつの間にか授業が終わっている。

「ありがとうございましたー」

ばらばらの挨拶が教室に散らばる。
先生は一瞬だけこちらを見て、そのまま出ていった。

「おい。なに寝てんだよお前」

振り向くと、鈴木が立っていた。

「寝てた?私。さっき先生に睨まれたんだけど」
「あーあ。次の通知表、終わったね」

軽く笑われて、少しだけむっとする。

「あー、てかさ。私今日、傘持ってきてないんだけど。あんた持ってたりする?」
「あるけど。…なに、天気予報見てないの?」

「うん。まぁ…。お願い、入れてくれない?」
「は?相合傘ってこと?やだよ。はずいし」

あっさり断られて、言葉が詰まる。
冗談みたいに笑ってるけど、少しだけ本気で期待していた。

「友達は?」
「別方向。だからお願いってば」

「うーん……」

鈴木は少し考えてから、鞄をごそごそ漁る。

「じゃあ、傘だけ貸す。明日返せよ」
「マジ?ありがとー」

受け取った折りたたみ傘は軽いのに、
なぜか少しだけ重く感じた。
……ほんとは、一緒に帰りたかったのに。

言葉にだせないそれは、胸の中でチクチク痛んだ。

_____

下駄箱で、濡れた音が響いている。
白い内履きを脱いで、外履きに足を入れた。

「なぁ」

肩を叩かれて、思わず体が跳ねる。
振り向くと、隣のクラスの佐々木がいた。

「びっっくりした!なに?」
「あー、俺さ、今日傘忘れて。持ってたりする?」

「え?うん。…人のだけど」
「マジ?じゃあさ、入れてくれない?」

一瞬、迷った。
…まぁいいか。

「いいけど。これ借り物だから」
「おっけ。助かるわ〜」

_____

二人で入る傘は、思ったよりずっと狭い。
肩が触れそうで、無意識に少しだけ距離を取る。

水を弾いた靴先が、時々ぶつかった。
濡れた空気がまとわりついて、息が浅くなる。

私の心臓は、やけにうるさかった。
嬉しいわけでもないのに。

佐々木のことなんて、ほとんど知らない。
前に同じクラスだった、それくらいだ。

ふと横を見る。
雨に濡れたせいか、頬が少し赤い。

知らない表情に、なぜか視線を逸らせなかった。

どうして。

こんなに近いだけで。
こんなに、うるさいの。

私、なんでこんなドキドキしてるの?

別に、好きじゃない。
好きじゃないのに。

――――――――――――――――――
おやすみなさい。

3/24/2026, 9:59:07 AM

ー繋がれたー(特別な存在)
____________

天才。
彼女はすべてをもって生まれた。

何をやらせても上手くいく。
容姿は申し分なく、環境にも恵まれていた。

それ故に、疎まれる。

幸い彼女のメンタルは強かった。
いや、そう見せたのだ。

ちょっとしたことで傷つき、涙がでる。
しかし、それを悟らせないこと………相手に気を遣わせないことも、
彼女の才であったのだろう。

まさに、誰かの為に生まれたような人間だった。
誰もが彼女を期待し、
また彼女も、その期待に答えてみせた。

その自己犠牲精神は計り知れない。
彼女をそんな風にさせたのは、きっとその両親なのだろう。

冷たく、自分中心的だ。
子どもに日々のストレスをぶつけ、時には手をあげることもあった。

そんな中で着々と
空気を読む力をつけた彼女は、周りから頼られる存在になった。

高校卒業後。

彼女はいつの間にか、
そういう__いわゆるP活などと呼ばれる__ことをする様になった。
それは彼女にとっての、自傷行為なのではないか。

もう、見ていられない。
これは彼女にとって最善の生き方ではない。
____________

整えられた字は、そこから先を綴ってはいなかった。
きっと、この“彼女”へ会いに行ったのだろう。

遺書のようなそれは、部屋にあった机にポツンと残っていた。

まさか、彼女を助けたかったのだろうか。
私たち上位存在の介入は許されないと言うのに…。

人間界へ着いた途端に記憶を消され、
自分の目的も失い、何も持たない成人として生きることになる。

知らなかったはずがない。
親から子へと、よく聞かされるものだから。
破ってはいけない暗黙のルールとして。

破ればその一族は、さらなる上の上位存在様への裏切りとして虐殺されることになる。

……そういえば、この遺書……日記の主の一族はこいつ一人だったか…。

最近朝礼へ出なくなったやつの元を訪ねてはこれだ。
この“彼女”の被害者はこれで何回目だ?

ストーカーまがいの監視をして日記を書いては、
ついに人間界へ……。

あぁ、上位存在様へなんと言えばいい?
いっそ“彼女”を幸せにできれば、この相次ぐ裏切りをやめさせられるのだろうか。

――――――――――――――――――
おやすみなさい。

3/22/2026, 12:04:03 PM

ー勇者とー(バカみたい)

誰もしらないような村で、勇者が選ばれた。
世界の勇者が。

本人はその場にいなかった。
ただ、その王国の騎士が、勇者の名だけを告げ、
去っていった。

村の人たちは呆然とした。
勇者に選ばれたのが、村一番の「バカ」だったからだ。

「あいつに役目が果たせると思うか?」
「うーん。無理だと思うけど」

取りあえず古い剣とか、村で一番良い服とかが贈呈された。
勇者に選ばれたそいつは、そういうのを持って村から追い出された。
「勇者」はまだ、状況を掴めていなかった。

「どういうこと?」

勇者は聞いた。
「友達」に。

友達…その青年は、勇者が心配で「ついていく」と言った、
優しい青年だった。

「お前が勇者になったんだと」
「……そうか」

勇者は少し眉を下げて頷いた。
「勇者」が何か逡巡していたのだ。

「じゃあ行くか」

勇者は前を向いた。
そこには、だだっ広い平原が広がっている。
見渡す限り、植物しかない。

「…どこ行くんだ」
「どっか」

青年はその返答にため息をついた。
なんてやつだ。

「…大丈夫か?」
「大丈夫だろ」

「なんで」
「選ばれたってことは、できるってことだ」

そうか?
青年は眉を潜めた。

「お前、勇者がなにするものか知ってる?」
「魔王を倒すんだろ?御伽話でしった」

「……取りあえず、町を目指すか」
「そうだな」

二人はしばらく無言で歩いた。
少し居心地が悪かったのかもしれない。
勇者が沈黙を破った。

「俺、村の外は初めて見た」
「ふーん」

「初めての場所って、だいたい何かあるよな」
「そうか?」

「そうなんだよ」

青年は、少し考えてやめた。
と、勇者が遠くを指差した。

「あれ、光ってる!」

子供みたいな興奮の仕方だった。
二人で近づく。
茂みのなかに、白い穴があった。
結構でかい。

勇者は一言。

「入ってみるか」
「は?ダメだろ。戻れなかったらどうすんだよ」

「まぁ大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないかもだろ」

「俺の勘が大丈夫って言ってる」
「お前の勘は当てにならないから」

青年はため息をついた。

「……大丈夫だったとしても、俺らが入る理由はない」
「理由ならあるだろ」

勇者は穴を指した。

「ここにある」
「?」

そのまま、穴に飛び込んだ。
勇者の姿が視界から消える。

…とんでも理論過ぎるだろ。

青年はため息をついて、自分も穴に飛び込んだ。


「おっ、来たか」

声がした。
頭上から。

その声は「遅かったな」と続く。
体は気づいたら、石畳の上で腰をついていた。

青年は、ゆっくり立ち上がった。

目の前に、立派な城。
異様な雰囲気を放っていた。

「ここどこだろうな?」

勇者の呑気な声に思わずため息をついて、青年は城を指差した。

「これ、魔王城じゃないか?」
「えっ、これが?」

勇者はごくりと喉を鳴らした。

「勇者は魔王を倒すんだろ?なら、今戦うってことか」

青年は思わず目を見開いた。

「え?それで?」
「どれ?」

勇者は「村一番の服」という名の普通の服と、
古い剣しか持っていなかった。

「どうやって戦うんだ」
「?もちろんこれで」

勇者は剣を抜いて一回振って見せた。

風を切る音がした。
それだけだった。

青年は顔を押さえた。
しかし、勇者は誇らしそうに言った。

「これで届く距離なら倒せる」
「届かなかったら」
「近づけばいい」

勇者は再度、剣を振った。
若干、剣から変な音がした。

ヒビが入っている。

「……ダメだ、戻ろう。さっきの穴は」
「消えた」

一泊。

青年はなにも言わなかった。

「そういえば、魔物がいないな。こういうのって、襲われるんだろ?」
「? あぁ、確かに。もう見つかって、捕まっててもおかしくない」

「歓迎されてるんじゃないか?」
「なんでそうなるんだよ」

二人は顔を合わせた。
勇者が頷く。

「入るか」
「え?いや」

「入るしかないだろ」
「戻ればいい。村まで、歩いて」

「なんでだ。俺たちがここまでこられたのは、今倒せってことなんだ」
「そんなことないだろ」

「ある!」
「……なんか、凄いなお前」

青年は城を見上げた。
さっきから不気味なほど静かだ。

「…行くか。しょうがない…」
「それがいい!」

二人は門の前に立った。
扉がひとりでに開く。
重い音を立てて。

「ほら」

勇者が青年を見て笑った。

「止められないってことは、入っていいってことだ」
「そんなわけあるか」

青年はそういって、軽く勇者をこずいた。


城のなかは、外と変わらず静かだった。
広い城のなかに魔物の姿は見えず、二人の足音だけが響く。
勇者はキョロキョロ見回した。

「誰もいないな」
「…最近、魔王がどっかと戦ってるらしいから、それかもな」

「ここの魔物のが戦に出てるってことか?」
「多分。でも、全くいないのはおかしいよな」

「うん、全員いないかもな」
「それはないだろ」

「いや、俺の勘がそう言ってる」
「だからお前の勘は当てにならないんだって」

「全員いないなら、今が一番弱いな。やっぱり俺たち導かれてる!」
「聞けよ。魔王がそんなバカなことすると思うか?」

「魔王だってミスはするさ」
「これはミスってレベルじゃないだろ」

奥へ進む。
重厚な扉。

「多分、奥に魔王がいる」

勇者はそうこぼしたが、青年は反応しなかった。
扉は、来たときのように自動的に開いた。

「歓迎されてる…」

玉座の間。
王の椅子がある場所は、そう言われていた。

黒いローブのようなものをまとった「怪物」。
それは、魔王。

勇者は変な顔をしたあと、魔王に話しかけた。

「こんにちは」

魔王は初めてそこで、侵入者に気がついたようだった。
玉座は、扉の真ん前にある。

「だれだ貴様」
「勇者です」

「…勇者はずっと向こうの村で生まれたと聞いたが」
「穴を使ったから」

「穴?」
「穴」

「穴…だと」
「はい」

「……なぜここに?」
「勇者は、魔王を倒すものだから」

「…私が言うのも変だが、先にそちらの王に会いにいき、倒す旨を伝えてからでないと、報酬は降りないぞ」
「報酬?」

「知らないのか?魔王を倒すと報酬がもらえるのだ」
「俺は、魔王を倒すために来たから…」

「………理由のない悪は、正当な悪よりよっぽど酷いぞ」
「悪?俺が魔王を倒すから?」

「あぁ、倒される気はさらさらないが」
「……じゃあ、俺勇者やめようかな」

「勇者をやめる?」
「勇者はカッコいいものだと思ってたから」

「…まぁ、そちらの世界でどんな扱いになるか分からんが、貴様がそれでいいならそうすればよいのではないか?」
「はい。帰ります」

勇者はパッと青年を見た。

「帰るか」
「…あぁ」

こうして二人は魔王城から立ち去った。
一人の勇者の物語は、今でも語り継がれている。

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こういうの久しぶりに書きました🙂
おやすみなさい。

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