辛いこと

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ー勇者とー(バカみたい)

誰もしらないような村で、勇者が選ばれた。
世界の勇者が。

本人はその場にいなかった。
ただ、その王国の騎士が、勇者の名だけを告げ、
去っていった。

村の人たちは呆然とした。
勇者に選ばれたのが、村一番の「バカ」だったからだ。

「あいつに役目が果たせると思うか?」
「うーん。無理だと思うけど」

取りあえず古い剣とか、村で一番良い服とかが贈呈された。
勇者に選ばれたそいつは、そういうのを持って村から追い出された。
「勇者」はまだ、状況を掴めていなかった。

「どういうこと?」

勇者は聞いた。
「友達」に。

友達…その青年は、勇者が心配で「ついていく」と言った、
優しい青年だった。

「お前が勇者になったんだと」
「……そうか」

勇者は少し眉を下げて頷いた。
「勇者」が何か逡巡していたのだ。

「じゃあ行くか」

勇者は前を向いた。
そこには、だだっ広い平原が広がっている。
見渡す限り、植物しかない。

「…どこ行くんだ」
「どっか」

青年はその返答にため息をついた。
なんてやつだ。

「…大丈夫か?」
「大丈夫だろ」

「なんで」
「選ばれたってことは、できるってことだ」

そうか?
青年は眉を潜めた。

「お前、勇者がなにするものか知ってる?」
「魔王を倒すんだろ?御伽話でしった」

「……取りあえず、町を目指すか」
「そうだな」

二人はしばらく無言で歩いた。
少し居心地が悪かったのかもしれない。
勇者が沈黙を破った。

「俺、村の外は初めて見た」
「ふーん」

「初めての場所って、だいたい何かあるよな」
「そうか?」

「そうなんだよ」

青年は、少し考えてやめた。
と、勇者が遠くを指差した。

「あれ、光ってる!」

子供みたいな興奮の仕方だった。
二人で近づく。
茂みのなかに、白い穴があった。
結構でかい。

勇者は一言。

「入ってみるか」
「は?ダメだろ。戻れなかったらどうすんだよ」

「まぁ大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないかもだろ」

「俺の勘が大丈夫って言ってる」
「お前の勘は当てにならないから」

青年はため息をついた。

「……大丈夫だったとしても、俺らが入る理由はない」
「理由ならあるだろ」

勇者は穴を指した。

「ここにある」
「?」

そのまま、穴に飛び込んだ。
勇者の姿が視界から消える。

…とんでも理論過ぎるだろ。

青年はため息をついて、自分も穴に飛び込んだ。


「おっ、来たか」

声がした。
頭上から。

その声は「遅かったな」と続く。
体は気づいたら、石畳の上で腰をついていた。

青年は、ゆっくり立ち上がった。

目の前に、立派な城。
異様な雰囲気を放っていた。

「ここどこだろうな?」

勇者の呑気な声に思わずため息をついて、青年は城を指差した。

「これ、魔王城じゃないか?」
「えっ、これが?」

勇者はごくりと喉を鳴らした。

「勇者は魔王を倒すんだろ?なら、今戦うってことか」

青年は思わず目を見開いた。

「え?それで?」
「どれ?」

勇者は「村一番の服」という名の普通の服と、
古い剣しか持っていなかった。

「どうやって戦うんだ」
「?もちろんこれで」

勇者は剣を抜いて一回振って見せた。

風を切る音がした。
それだけだった。

青年は顔を押さえた。
しかし、勇者は誇らしそうに言った。

「これで届く距離なら倒せる」
「届かなかったら」
「近づけばいい」

勇者は再度、剣を振った。
若干、剣から変な音がした。

ヒビが入っている。

「……ダメだ、戻ろう。さっきの穴は」
「消えた」

一泊。

青年はなにも言わなかった。

「そういえば、魔物がいないな。こういうのって、襲われるんだろ?」
「? あぁ、確かに。もう見つかって、捕まっててもおかしくない」

「歓迎されてるんじゃないか?」
「なんでそうなるんだよ」

二人は顔を合わせた。
勇者が頷く。

「入るか」
「え?いや」

「入るしかないだろ」
「戻ればいい。村まで、歩いて」

「なんでだ。俺たちがここまでこられたのは、今倒せってことなんだ」
「そんなことないだろ」

「ある!」
「……なんか、凄いなお前」

青年は城を見上げた。
さっきから不気味なほど静かだ。

「…行くか。しょうがない…」
「それがいい!」

二人は門の前に立った。
扉がひとりでに開く。
重い音を立てて。

「ほら」

勇者が青年を見て笑った。

「止められないってことは、入っていいってことだ」
「そんなわけあるか」

青年はそういって、軽く勇者をこずいた。


城のなかは、外と変わらず静かだった。
広い城のなかに魔物の姿は見えず、二人の足音だけが響く。
勇者はキョロキョロ見回した。

「誰もいないな」
「…最近、魔王がどっかと戦ってるらしいから、それかもな」

「ここの魔物のが戦に出てるってことか?」
「多分。でも、全くいないのはおかしいよな」

「うん、全員いないかもな」
「それはないだろ」

「いや、俺の勘がそう言ってる」
「だからお前の勘は当てにならないんだって」

「全員いないなら、今が一番弱いな。やっぱり俺たち導かれてる!」
「聞けよ。魔王がそんなバカなことすると思うか?」

「魔王だってミスはするさ」
「これはミスってレベルじゃないだろ」

奥へ進む。
重厚な扉。

「多分、奥に魔王がいる」

勇者はそうこぼしたが、青年は反応しなかった。
扉は、来たときのように自動的に開いた。

「歓迎されてる…」

玉座の間。
王の椅子がある場所は、そう言われていた。

黒いローブのようなものをまとった「怪物」。
それは、魔王。

勇者は変な顔をしたあと、魔王に話しかけた。

「こんにちは」

魔王は初めてそこで、侵入者に気がついたようだった。
玉座は、扉の真ん前にある。

「だれだ貴様」
「勇者です」

「…勇者はずっと向こうの村で生まれたと聞いたが」
「穴を使ったから」

「穴?」
「穴」

「穴…だと」
「はい」

「……なぜここに?」
「勇者は、魔王を倒すものだから」

「…私が言うのも変だが、先にそちらの王に会いにいき、倒す旨を伝えてからでないと、報酬は降りないぞ」
「報酬?」

「知らないのか?魔王を倒すと報酬がもらえるのだ」
「俺は、魔王を倒すために来たから…」

「………理由のない悪は、正当な悪よりよっぽど酷いぞ」
「悪?俺が魔王を倒すから?」

「あぁ、倒される気はさらさらないが」
「……じゃあ、俺勇者やめようかな」

「勇者をやめる?」
「勇者はカッコいいものだと思ってたから」

「…まぁ、そちらの世界でどんな扱いになるか分からんが、貴様がそれでいいならそうすればよいのではないか?」
「はい。帰ります」

勇者はパッと青年を見た。

「帰るか」
「…あぁ」

こうして二人は魔王城から立ち去った。
一人の勇者の物語は、今でも語り継がれている。

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こういうの久しぶりに書きました🙂
おやすみなさい。

3/22/2026, 12:04:03 PM