辛いこと

Open App

ー傘の中ー(ところにより雨 好きじゃないのに)

学校の窓ガラスを、雨粒が絶え間なく叩いていた。
ぼんやりと外を眺めながら、先生の抑揚のない声を聞き流す。
子守唄みたいで、意識が沈んでいく。

「きりーつ」

間延びした声に、慌てて立ち上がった。
いつの間にか授業が終わっている。

「ありがとうございましたー」

ばらばらの挨拶が教室に散らばる。
先生は一瞬だけこちらを見て、そのまま出ていった。

「おい。なに寝てんだよお前」

振り向くと、鈴木が立っていた。

「寝てた?私。さっき先生に睨まれたんだけど」
「あーあ。次の通知表、終わったね」

軽く笑われて、少しだけむっとする。

「あー、てかさ。私今日、傘持ってきてないんだけど。あんた持ってたりする?」
「あるけど。…なに、天気予報見てないの?」

「うん。まぁ…。お願い、入れてくれない?」
「は?相合傘ってこと?やだよ。はずいし」

あっさり断られて、言葉が詰まる。
冗談みたいに笑ってるけど、少しだけ本気で期待していた。

「友達は?」
「別方向。だからお願いってば」

「うーん……」

鈴木は少し考えてから、鞄をごそごそ漁る。

「じゃあ、傘だけ貸す。明日返せよ」
「マジ?ありがとー」

受け取った折りたたみ傘は軽いのに、
なぜか少しだけ重く感じた。
……ほんとは、一緒に帰りたかったのに。

言葉にだせないそれは、胸の中でチクチク痛んだ。

_____

下駄箱で、濡れた音が響いている。
白い内履きを脱いで、外履きに足を入れた。

「なぁ」

肩を叩かれて、思わず体が跳ねる。
振り向くと、隣のクラスの佐々木がいた。

「びっっくりした!なに?」
「あー、俺さ、今日傘忘れて。持ってたりする?」

「え?うん。…人のだけど」
「マジ?じゃあさ、入れてくれない?」

一瞬、迷った。
…まぁいいか。

「いいけど。これ借り物だから」
「おっけ。助かるわ〜」

_____

二人で入る傘は、思ったよりずっと狭い。
肩が触れそうで、無意識に少しだけ距離を取る。

水を弾いた靴先が、時々ぶつかった。
濡れた空気がまとわりついて、息が浅くなる。

私の心臓は、やけにうるさかった。
嬉しいわけでもないのに。

佐々木のことなんて、ほとんど知らない。
前に同じクラスだった、それくらいだ。

ふと横を見る。
雨に濡れたせいか、頬が少し赤い。

知らない表情に、なぜか視線を逸らせなかった。

どうして。

こんなに近いだけで。
こんなに、うるさいの。

私、なんでこんなドキドキしてるの?

別に、好きじゃない。
好きじゃないのに。

――――――――――――――――――
おやすみなさい。

3/25/2026, 12:28:16 PM