辛いこと

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ー裏側ー(My Heart)

「あー、その引き出し変なんだよね」

友達の家に遊びに行った時、
友達は俺の質問を軽く笑って受け流した。

「いやいや、閉まらないとか……。気持ち悪くないの?霊とかかも」
「ははっ。俺そういうの信じないタイプだから」

そう。
友達……カイの家のタンスが、微妙に閉まりきらないのだ。
数ミリ程度の隙間だが、俺はどうしても気持ち悪く感じる。

「そうじゃなくても、大事なものが裏側に落ちてるのかも」
「いやー。大丈夫じゃないか?それ、愛用して長いから。入ってたとしてもおもちゃだろ」

「はぁ?ダメだろ。確認するべき。ちょっと見てみよーぜ」

軽いノリだった。
酒が入っていたせいもある。
とにかくそんなこんなで、裏側を確認してみることになったのだ。

「おい、なんか開かないんだけど」
「あー。じゃあ諦めたら?」

俺がタンスの段を引いていくら唸っても、
タンスはびくともしない。

そこまで乗り気ではなかったカイは、缶ビールを片手に鼻で笑った。

「なんか引っかかってんだろ。もういいじゃん」
「ここまで来たら本気で気になるだろ!手伝えよ」

「なんでだよ。別に俺、開かなくても気にしないし」
「お前この棚になんか入れてないのかよ?いーじゃん。減るもんじゃないし」

俺が口をすぼめると、カイはため息をついた。

「じゃあ、そこに大したものがなかったら1000円な」
「おっ。マジ?やろやろ」

若干浮かれつつ、カイの場所をあける。
カイは間もなくそこに座って、
「せーの」
なんて掛け声をかけた。


「お前ちゃんとやってる!?」
「お前なぁ…」

かれこれ二十分程経つが、未だ開いていない。

「疲れたぁ。もうやめね?」

カイの提案に、俺は断固として首を振る。

「ダメ」
「なんでだよ。……じゃあさ、最後に全力でやって、ダメならもう終わりにしない?」

時間は深夜二時を回っている。
今更ながら、なぜか虚しくなった。

「……うん。なんか付き合わせてごめんな。それでいいよ。開けられなかったら俺が1000円払うし」
「よし!じゃあ頑張ろう」

ちょっと力を入れる。
緊張していた。

「ふんっ」
「おっ」

力を入れた瞬間、宙に放り出される。
声を発する間もなく、俺は尻もちをついていた。

「大丈夫かよ」

カイは変な顔でこっちを見ている。

「いや、こんな簡単に開くとは……」

抜けた段を見る。
カイはそれを見て、一瞬固まった。

「お。どうかした?」
「見ろよこれ」

カイはそこを指差す。
それは、裏面と接していたと思われる面。
べっちょりとなにかが付着していた。

「うわ………ネバネバしてないか?これ。これがさっき、接着剤的な役割してたんじゃ…」
「いや、だとしてもあんな急に抜けないだろ」

顔を見合わせて、棚の奥に目を向ける。
暗くてあまり見えないその向こう側には、確かに同じような液体がついていた。

「なんか、グロ……」
「うおぇ」

カイが口を押さえる。

「変な匂いしないかこれ」
「……まぁ、言われてみれば。」

変な匂い。
部屋に充満したそれは、俺たちの肺を満たしていく。

「うおぉ。…この液体、微妙につぶつぶしてる」
「え?触ったの?」

カイは自分の指先をこねくり回しながら、あきらかに顔をしかめていた。

「これ、なんの液体だろ」
「……考えたくもねぇよ」

そういえばこのタンス、いつから使ってるっていってたっけ。

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いつから一緒だったんだろう。
おはようございます。

3/27/2026, 12:33:40 PM