『Kiss』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
抱擁。
お互いの吐息で
呼吸をしているような近さ。
目と目が合うような距離もなく
体温を共有している。
「これもキスみたいだね」
「なにが?」
「……わかんないなら、いい」
拗ねたような声とは逆に
首の後ろにかけられた
両腕の力は、強まった。
2人の間には肌しかない。
甘やかな香りが動く。
深く呼吸をすると
もともと1つの塊であるかのように
二人は揺れる。
左肩の辺りに収まっていた彼女の
湿り気を帯びた声が届く。
「して、くれないの?」
そう言って顔をあげ
左頬を擦り合わせてくる。
「なにを?」
わざとそう、口にした。
瞬間、首にかけられた腕の力が
ふにゃと緩み、溶けるように彼女が動く。
頬とも、唇ともつかない場所に
はっきりと何かが触れた。
試すような態度をとったことを
後悔した。
素直じゃないタイプに弱いのは俺の方だった。
【KISS】
『唇を塞ぐ』
暗くなったこの部屋は 今や天使すらいない
小さな灯りに照らされて ぼんやりとしているだけ
布団がなんだか包み紙みたい 生命の謎を紐解いて
答えが出る前に そっと唇を塞ぐんだ
『Kiss』
悲しい言葉ばかり話す
あなたのその唇をふさぐ
私があなたの悲しみを
塞ぐ栓になれますように
バレンタイン
毎年私は好きな人に義理だからそう言ってチョコを渡していた
本命?あざっす
そんなノリがあって
んなわけないでしょ あげないと君もらえないでしょ
そう言って誤魔化していた
だけどもうあげ続けるのが辛くなって
今年でもう最後だからね
そう言って渡した
えー悲しい じゃあお返しは盛大にしないとな
君はそう言った
毎年律儀にお返しをくれる君 本当真面目なやつ
ねえ今返してもいい?
私はえ?今?
そう聞き返すと
これからもずっとくれよ
そう言ってkissをしてきた
!!
驚きの隠せない私
俺が本命で欲しいのはお前だけだし俺が返したいっていうのもお前だけだから
そう行って優しく抱きしめてくれた
それから4年後
私は今年もあなたに渡すチョコを作っています
「ねぇねぇ、秋(あき)こっち向いて」
「ん?」
チュッ
「...どーお?俺の投げキッス」
ドヤッ、と効果音がつくくらいのドヤ顔をかますのは私の恋人である拓也(たくや)。今流行りのアニメを見ていて、投げキッスをするシーンが先程流れたのだ。それの真似だろう。
なんというか...
「かっ.........ダサい」
「ちょ、今明らかに違うこと言おうとしたよな?か、って何?聞きたい」
「ダサい」
「絶対違うだろ!」
うーん...だって、可愛いなんて言ったら拗ねるでしょうが。カッコいいじゃないのかよって。可愛くて母性芽生えかかったし。私はそんな言葉達を飲み込んだ。
「ねぇねぇ、秋もしてよ。投げキッス」
「え?」
私は驚いて固まる。
「嫌だよ。恥ずかしい」
「え~お願い!一回だけ!」
「恥ずかしいし無理だよ」
「えー...」
しゅん、とショボくれる彼を横目に、そろそろご飯作るね、と立ち上がる。
「今日は私が当番だから、拓也はテレビ見てていいよ」
「マジ?ありがと」
さっきの不満そうな顔つきから一変して、テレビに集中し始める。なんだよ、私にしてほしかったんじゃないのか。もう。
私はむっ、となり考える。確かこうするんだっけ?えっと...手を口元に当てて、相手に向かって
「そういえば夕飯何?」
ちゅ
「.........」
「.........えっ」
リビングに沈黙が流れる。
丁度、拓也が見てない時を狙ったはずが予想外にこちらを向いてしまった為、投げキッスが拓也に伝わってしまった。
「...わああぁぁッ!!ち、違うっ!えっと、これはそのキャラの真似を!してみただけ!!別に対抗心とか全然なくて!だから...その......」
焦りに焦る私はどんどん墓穴を掘っていく。
誰か殺してくれ、そう思うほど羞恥心でいっぱいで手で顔を覆い隠した。
「......何か言ったらどうなの...」
先程から一言も発さない彼の様子を伺うように顔をあげる。
「えっ...あ...ごめん...その...」
口をモゴモゴとさせるが、なかなか言わない。
「な、何...?」
「......可愛くてキャパオーバーしてた」
少し頬を赤らめて彼は言う。
え、何?可愛い?え?
「...可愛い?何言ってるの......」
「本当に!マジで可愛い......え、今日俺が夕飯作るし皿洗いも全部俺がやるからもう一回やってくれない?お願い!」
「無理!!恥ずかしいよ!それなら夕飯作って皿洗い全部やる方が.........」
私はそこで止まった。本当にそうなのか?
内心、可愛いと言われてちょっと嬉しかった自分がいる。本当に夕飯を作って皿洗いをやる方がマシなのか?...でも。
「秋?」
「.........」
「...秋大丈夫?」
「...だけじゃなくて......」
「ん?」
「...夕飯作るとかだけじゃなくて、拓也からも投げキッスとかしてくれるならいいけど...」
あれ?私今何言った?条件増やしてどうするの。ちょっと上から目線過ぎない?ヤバい、これで不満な顔されたら私立ち直れない。
「...それだけ?」
「え?」
「投げキッスぐらい幾らでもしてあげるから......秋もしてね」
なんならキスもしてあげるよ、と余裕のある顔で言うからムカついて、私だってキスもしてあげられるから!と言ったのは間違いだったと後で気づいた。
お題 「Kiss」
出演 秋 拓也
Meltykissを食べる。(作者現在進行形)
美味い。矢っ張り冬季限定のプレミアムショコラが一番美味い。本当に。
もう食べ終わりそう。
美味しいけどちょっと高めだから買うとき悩む。
あ、溶けた。
美味しかったです。
なにこれ?
#kiss
正直な話、Kissで何も思いつかなかった。
どういう内容が適切か分からんかったんじゃよ…。
そしたら目の前にMeltykissがある。これはそういうことだろう。はい。すいませんでした。
Kiss
Kissする場所によって意味が違う。
唇は愛情。あなたのことが「好き」や
「愛してる」を意味する。家族間でも
することから家族愛を表すとも言える。
頭、髪の毛は思慕。
大切な人を愛おしむ気持ちを現す。
おでこは友情。祝福や賞賛という
意味もある。
頬は親愛。
まぶたは憧れ。
耳は誘惑。
などなど場所によっていろんな意味がある。
Kissは大切な人とのコミュニケーション。
唇で与えるプレゼント。
毎日食べて毎日しゃべって
好きとか嫌いとか日々重ねて
そんな人間性の出入口を重ね合わせる
なんて理屈はふさいだ口でKissをする
寝顔がかわいい
真顔もかわいい
あなたはわたしの宝物
ひまがあればひっついて
座っていたら膝にのるの
くちびる近くにもってって
今日もスタンプおしてもらお
「ね、チューしよ」
「なんだ、古いな。もはや懐かしいと言えるんじゃないか、それ。キスを求めているように聞こえるが、実際は『熱中症』をゆっくり言ってるというアレだろ」
「ねぇ」
「そういうくだらないコトを誰が考えるんだろうな。合コンとかで盛り上がるんだろうな。初対面の異性と軽い下ネタでワイワイキャッキャッと。そういう文化圏にいたことがないから、推測だが」
「ねぇってば!」
「なんだ急に大声を出すな」
チュッ
「…………なんだ、急に。そういうことは……ちゃんと、予告をしてからだな。……言った? いつだ? 熱中症? 何の話だ? 話をすり替えるな。まったく」
寂しさに 負けてしまうと 思い出す
あの日の夜の キスのぬくもり
なぜ人はキスをするのか? 生殖とは無関係なキスがどのような進化の必然性の中で生まれたのか? 元来、口は食欲を満たすための器官で、決して性欲を満たすための器官ではなかったはずである。
おそらく人類で初めてキスをした人間は、自らが考え出した口と口を合わせるという行為に、羞恥と困惑を感じながらも、性的な器官ではない口を性的に使うという背徳感に性欲を押し立てられながら、行為に及んだのであろう。
あるいは、人類で初めてキスをした人間は、自ら口と口を合わせる行為を考え出したのではなく、偶然の形で口と口が合わさる機会があったのかもしれない。その時の刺激が、人類に遍く拡がることになるほどの強烈なものであり、その行為を繰り返していったのかもしれない。
こんなことを書いているが、私は恋人ができたことがないので、無論キスをしたことがない。
あの夜あなたとキスをしてしまった
出会って8年目
今までそんな関係になりそうな雰囲気はまるでなかった
20歳になって再会し、お酒のせいでこうなったのだろうか
あなたは酔っている私の「好き」という言葉を本気にした
私はそんなあなたの「好き」を楽しんでいたのに今じゃ私が本気であなたのことが「好き」
なのにあなたは今日も丸一日LINEを返してくれない、返信もそっけない
また私だけが本気の恋をしている
「今宵、この唇で貴方のxxを奪います 」
たった一行の犯行予告。
貴方は何気なくその文に目を通すだろう。
だがよく考えてほしい。
犯人はその一瞬の隙を窺っていることに。
顔を上げたときに、唇が迫っているかもしれない。あるいは、温かな感触に目を見開くだろう。
体を注意深く見てみるといい。
もしかしたら、すでに奪われているかもしれないから。
『紅の跡、朱の頬』
やるべきことやらずに、都合の良いことばかり言うな。
お題 kiss
一昨日相棒が相棒の彼氏とキスをした。
普通のキスと普通じゃないキス。
2人とも覚えてないと言うけど、絶対覚えてるはずだ。
僕は相棒に嫉妬した。別に相棒が好きな訳では無い。
ただ、恋人という存在がいることに嫉妬していた。
僕がいる中で2人だけの世界に入るのもなんだか独りな感じで悲しくて虚しくて辛かった。
僕を置いて、2人だけで話して、僕を退けて、2人で写真を撮って、2人でアルバム作って。僕なんか居ないみたい。
相棒だって僕を必要としていない。なのになんで誘ったの。見せつけ?僕が辛いだけじゃん。
相棒の遠距離恋愛よりも辛い。無視されてる気分。
相棒は話す相手がいるが僕には居ない。好きな人がいない僕には恋バナも出来ない。惚気話を一生聞いて、僕に話すターンなんて無い。僕なんて居ないんじゃないかって思う。
そこから孤独感を覚えているのだろうか。
僕、好きな人も恋人も居ないって言ったのになんで簡単に「恋人作れ」だとか「告白しろ」とか、好きでも無い相手とキスできるの?俺だって、好きな人作って少しでもリアルを充実したいんだよ。
相棒が幸せになる度に僕が、俺が、辛くなってる
"Kiss"
「来たか」
正面玄関の扉を開け、ハナが外に出ないよう注意しながら迎え入れる。
「済まない。少し遅くなった」
「別にたった五分だし、気にしてねぇ。俺はそこまで時間にシビアじゃねぇし。それに、指定した期日まで全然余裕だから、どうでもいい」
比較的ラフな格好の飛彩が院内に入ったのを確認すると、扉を閉めて──まだ開院前なので──ポケットから鍵を取り出し、シリンダー錠をかける。カチャリ、と錠がかかった音を聞いて、ちゃんと閉まったか三回ほど扉を動かして確認する。扉が開かない事を確認すると、扉の取っ手から手を離して「こっち」と先頭に立って診察室へと促す。
「頼まれたデータだ」
診察室に入ってすぐに、ポケットから無骨で無地の黒い長方形のUSBメモリを出して差し出してきた。「おう」と受け取ると、差し込み口のカバーを外してサーバーに差し込み、デスクに座ってデータを確認する。
「確かに。助かった」
「礼には及ばない。この前の演奏のおかげで、予定より早く用意できた」
いつもの涼しい口調で恥ずかしい事を吐く飛彩に一瞥もくれずに「あっそ」と簡素な言葉を返して、パソコンのモニターに視線を向けながらマウスを操作して、なるべく早く形にしようとキーボードのカタカタという音を鳴り響かせながら打ち込んでいく。
──おかげでこの部分の入力が捗る。
最初は恥ずかしさを紛らわす為に少し進める程度でやっていたが、段々とキーを押す指の動きが滑らかになって、来客そっちのけで進捗率が上がっていく。
「……っ!?」
モニターに釘付けになっていると、急に頭部──つむじ辺りに柔らかいものが当たる感覚がして、肩が跳ね、その反動で打ち込んでいた手が止まる。バッ、と振り向くと、いつの間にか背後に飛彩が立っていた。「何すんだ」と睨みつける。
──いつ背後に回り込んだ!?足音も、服が擦れる音もしなかったぞ!?……まぁ、来客放ったらかしでパソコンに向かって資料作りし始めた俺が悪いんだけど……。だからって、なんなんだよ。心臓止まるかと思っただろうが。
言葉をつらつらと心の中で転がす。「済まない」と小さく呟くと、俺の手を取って顔を近付けた。
──おい待て、口付けする気か?
と少し焦って止めようとしたが、口にする前に動きが止まった。
「良い香りがする」
そう言うと、鼻を近付けて香りを嗅いできた。おそらく顔を近付けた時に、飛彩が来る少し前に塗ったハンドクリームの香りが飛彩の鼻をくすぐったのだろう。
「お前のはカサカサだな」
ずっとおとぎ話のお姫様のように手を取られているのを恥ずかしさに振りほどいて、デスクの引き出しからハンドクリームを取り出す。
「ほら。手出せ」
言いながら自身の手にハンドクリームの中身を出して、両手を合わせて手の平全体に塗り広げる。両手を出してきたので、片方ずつ丁寧にハンドクリームを塗り込んでいく。
──大きいな。
背は俺の方が大きいのに、俺と大きさがあまり変わらない手。
それでいて俺よりも男らしくしっかりした手。そのせいか大きく感じて、『大きい』という感想が浮かんだ。
俺より色々な物を持ったり持ち上げたりした手。特に手術は、俺の元の専門とは真逆。全体的に外科は体力勝負な所があると学生の時聞いた事がある。そして手術は患者の臓器に直接触れる。体力だけでなく、元放射線科の俺からは考えられない程の相当な集中力を求められているだろう。
そんな手を労るように、ハンドクリームを優しく念入りに塗り込んでいく。
「……終わったぞ」
塗り終わりを告げて手を離し、向き直る。
「ありがとう」
「いつも酷使してんだから大事にしろ。手荒れで手術中に赤切れ、なんて笑えねぇからな」
「あぁ、善処する」
そう言うと、手の甲を近付けて嗅ぎだした。
「貴方と同じ香りだ」
「同じの使ったんだから当たり前だ」
また恥ずかしい言葉をさらりと言ってのけて、顔を逸らすとサーバーからUSBメモリを抜いて差し込み口に、サーバーのそばに置いていたカバーを付けると「ほら」と半ば乱暴に差し出す。飛彩がUSBメモリを受け取ってポケットに仕舞ったのを横目に確認する。
「この後も時間があるから、何か手伝わせてくれ」
「じゃあ、時間までハナの相手頼む」
そう言って、いつの間にか膝の上に乗ってくつろいでいたハナを抱き上げて飛彩に渡す。
「承知した」
「みゃあ」
飛彩に抱かれたハナは『よろしく』と言わんばかりの鳴き声を出す。「あぁ」と答えると、ハナと共に診察室を出て居室に向かった。
物陰で見えなくなるとデスクに向き直り、大きなため息を出して突っ伏した。
『歩道橋』
打ち上げの帰り道
「酔い覚ましに1駅歩こう」と
誘ってくれた君
誰ともすれ違わない道を
2人で歩く
歩道橋の階段で
「手を繋いで欲しい」と
お願いしたら、
ちょっと困った顔して繋いでくれた君
「子ども以外と久しぶりに手を繋いだ」
と笑うから
「あはは」と笑って、
「高いところ苦手で」って私
本当は「キスして欲しい」って言いたかったの
#kiss
初めてのキスはレモンの味、なんてこと昔どこかで聞いた気がするがどこでそんなことを聞いただろうか。
気がついたらどこかで耳にしていたそのフレーズを思い浮かべながら、鮮やかに色づいた唇にそっと口付けをしてみる。
血に濡れたその唇は既に温もりが失われ、冷たく無機質なものになっていた。
「初めてのキスがレモンの味なんて嘘じゃないか……」
そう呟きながら、もう動くことの無い冷たい体をそっと抱きしめただただ縋ることしか出来なかった。
[Kiss]
第九話 その妃、正鵠を射る
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
瑠璃宮の妃――雨華《ユーファ》妃。
現後宮で最も歴が長く、家柄や教養も申し分がないことから、正妃に最も有力と高官たちが噂している人物だ。
容姿は申し分ないが、性格は非情に冷徹冷酷。礼儀作法には特に厳しく、それがたとえどのような身分の人間であろうと容赦はしない。
「つまり、この耳飾りに心当たりはないと」
「見た事も御座いませんわね」
「なら、瑠璃宮の侍女たちに話を伺っても」
「結果は同じでしょう。貴殿の御手を煩わせるわけには参りません」
陰陽師の男はつくづく、この場にあの妃がいなくてよかったと、安堵のため息を吐いていた。でなければ今頃、女たちの口喧嘩に巻き込まれていただろうから。
「では妃は、わざわざ青色の石で耳飾りを作る酔狂な者が瑠璃宮の外にいると」
「そもそも貴殿は、この後宮にまともな思考を持った女がいるとお思いなのかしら」
「ということはあなたもその一人だと」
「少なくとも、貴方と会話はできているつもりだけれど」
「……下女が一人行方不明になっていることについてはどうお考えに」
「運が無かった。それだけね」
それから、何度か聞き取りをしてから男は席を立つ。
すると、「少しいいかしら」と声をかけられた。話をしていた陰陽師にではなく、その御付きである宦官にだ。
「何故宦官に? 貴方ほどの美貌があれば、引くて数多だったでしょうに」
「こんなにも美しい方に残念がっていただけるとは」
その先を問う妃の視線に耐えかね、男は微笑を浮かべながら応えた。
「この道を選んだのは、あくまでも私の意志ですので」
それでは、本日はこれにて失礼致します。
そうして静かに頭を垂れ出て行こうとするが、妃は必死さをおくびにも出さない様子で再度引き止める。
「耳飾りについて、どう思っていらっしゃるのかしら」
問いにどのような意図があるのか。
何故陰陽師ではなくただの宦官に問うのか。
男たちは一度視線を合わせ、微かに合図を送り合った。
「その耳飾りがもし贈り物であるならば、贈り主は相手をとても大切に思っていたのではないでしょうか」
「……そう思う理由は」
「耳飾りの宝石は、恐らく藍方石。過去との決別や慰め、励ましなどの石言葉があります」
「……相手に、その心はなかったと」
「妹のようには愛していたかと」
「……口付けまでしても、妹でしかなかったと」
「かわいい妹の頼みを断る兄はいないでしょう」
その答えを最後に、今度こそ二人は颯爽と瑠璃宮を出ていった。
「……藍方石? 誰がどう見ても瑠璃だと思うけど」
「だねー。僕もそう思うよ」
城内では好奇や白眼の目で見られる陰陽師も、ひとたび後宮を訪れれば、その端麗な容姿に女たちは心を奪われる。
その付き人兼案内役として側に仕える、優姿の男もまたその一人。その風貌に微笑みを携え、形の良い唇からは、耳心地の良い言葉がこぼれ落ちてくる。たとえ宦官でも、その腕に一度は抱かれたいと、そう思う女は少なくない。
「……他に、僕に何か言うことは」
「ん? 何もないけど、敢えて言うなら……」
暗黙に口を閉ざされているが、無論妃も例外ではない。
帝の寵愛を受けられぬのならと、牽制し合う女たちは大勢いる。何とも愚かで、そして何とも傍迷惑な話であろうか。
「……こうなることは全て、とある方にはわかっていた、とだけ」
そのような事態にもかかわらず、彼等はこの場を訪れていた。
とある妃が蒔いた『種』に、水をやるために――。
#Kiss/和風ファンタジー/気まぐれ更新