『1つだけ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「お一つです」
無機質な声が聞こえ、目を開けた。
広い畳敷の広間。厳重に封をされた陶器の壺を前に座っている。
また、同じ夢だ。
正面に座る、面布をつけた神主のような格好をした人物を前に考える。
壺に視線を落とす振りをしながら、そっと左右を見た。
壺のような光沢を放つ面をつけた子供らと、それぞれの前に置かれた壺。変わらぬ夢の内容に、密かに眉を寄せた。
「お開けください」
その言葉と共に手が意思とは無関係に動き、壺の封を剥がしていく。一枚、また一枚と、剥がれ落ちた瞬間に煤となって消えていく不安に、どうしようもなく不安を覚えた。
止めようとしても無駄だ。どんなに指先に力を込めても動きが僅かに緩慢になるだけで、止まることはない。
「お一つです」
繰り返される言葉とほぼ同時、左右から悲鳴が上がる。
倒れる音。畳を転がりのたうち回る子供の姿が視界の端に映り、手が震え出す。
それでも手は止まらない。また一枚、封が剥がれ消えていく。
いつしか悲鳴は聞こえなくなっていた。しん、と静まり返る広間に、封を剥がす微かな音がやけに大きく聞こえる。
後一枚。封に指をかけながら、ふと目の前の人物に視線を向ける。
いつの間にか、面布は子供らのような白い面に変わっていた。つるりとした表面に灯りが反射し、一瞬だけ鱗のような模様を浮かばせる。
「開けなさい」
そう告げられ、壺に視線を落とした。最後の封は剥がれ消えて、壺は静かに開けられるのを待っている。
手が蓋にかかる。止めたくても止められない。
夢だと分かっていても、呼吸が浅くなる。額に汗が浮かび、蓋を持つ手がかたかたと震え出す。
これ以上は駄目だ。開けてはいけない。中を覗いては、二度と戻っては来られない。
救いを求めて左右に視線を巡らせた。
「――っ!?」
他の子供らはすでに蓋を開け、中を覗いてしまったらしい。
倒れ伏し動かない子供ら。その面はそれぞれ変わり、異様さを際立たせていた。
壺を開ける前までは同じだったはずの白い面。それが獣のように、あるいは人のように形を変えている。だがどれもが歪で、正しくはないのだと本能が告げていた。
かたん、と音がした。とうとう蓋が開けられてしまうのだろう。
視線が戻る。壺へと向けられていく。
もう、止められない。
「一人、一つだけ。その身に受け入れ、馴染ませなさい」
無駄だと思いながら、最後の抵抗に目を閉じた。
「――っ、は」
声にならない悲鳴をあげ、男は飛び起きた。
忙しなく暴れる鼓動を感じながら、深く息を吐く。
「またか……」
呟いて、項垂れる。夢の名残りが纏わりついているようで、男は眉を寄せ頭を振った。
ここ最近繰り返し見る夢に、男は明らかに憔悴していた。夢だと分かってはいるものの、伝わる五感全てが現実のような生々しさを孕んでおり、それは恐怖となって目覚めた後も男を苛む。夢を見ることが恐ろしく薬に頼り、神社へ行くこともあったが、その成果はないと言っても過言ではなかった。
「助けてくれ……誰か……」
睡眠不足からくる頭痛に顔を顰め、サイドテーブルから鎮痛剤を取り、水で流し込む。震える手でペットボトルのキャップを閉めサイドテーブルに戻すと、ちょうどスマホが一件の通知を知らせた。
――同窓会のお知らせ。
このような体調では参加は難しい。そう思い断りの連絡を入れようとしたが、不意にその手が止まる。
男の同級生で一人、民俗誌の記者として働いている女性がいたことを思い出した。
学生時代に謎の昏睡状態でしばらく学校を休んでいた同級生。前回参加した同窓会では、彼女はいくつかオカルト関係の事件に巻き込まれたらしい噂を耳にしていた。
縋る気持ちで、同窓会への参加の返信をする。彼女が同窓会に参加しなくとも、連絡先は知れるかもしれない。
「どうか……助けて……」
スマホを握りしめ、男は祈る。
だが男は気づかない。
スマホの明かりでできた自身の影。それが不気味に揺らぎ、体に巻きつく何かを浮かばせたことを知ることはなかった。
20260403 『1つだけ』
いちまいだけ大切にしていた上着があった。
寒くなくても着ていた上着とともに思い出は紡がれていた。
いつまでも共にあると思っていた大きめのだったのに、伸び始めた身長に上着と私の心は追いつかなかった。
あってほしい腕の位置に袖がない。
気づけば一年以上引き出しの奥にあった、いちまいだけの一番好きだった上着は。
「こんなものしかなくて、ごめんねえ。こんなの古臭くてやだよねえ」
祖母はそう言って、先ほど申し訳なさそうに出したドロップ缶を下げようとしたので、良心がちくりと痛んだ俺は「食べる」と無理矢理受け取った。
缶を傾けると、ころんころんとカラフルなドロップが転がり、手のひらを彩る。
無心に舐め続けていたら、ふと視線を感じた。
顔を上げると、4,5歳くらいの幼い女の子が大きな目をらんらんと光らせ、頬を林檎のように赤く染めてじっと見ていた。
どんな対応が正解なのか分からず固まっていると、女の子が口を開いた。
「それ」
「…え?」
「いっこ、ちょーだい。いっこだけ」
「…う、ん」
ぎこちない仕草でドロップを差し出すと、女の子は「ありあと」と舌足らずに感謝を述べ、ふっと消えてしまった。
そこへ、祖母がお茶を持ってきた。
「ばあちゃん、この辺に小っちゃい女の子がいる家族とかいる?」
「いや、この辺は全部じじばば農家の家だよ?」
きょとんとした祖母に、慌てて先ほどの出来事を話すと、祖母は目元の笑い皺を深く刻んで声を転がした。
「昔みたいだねえ。甘いものは虫歯になるからだめって言われてたから、よく『いっこ、いっこだけ』って母に強請ってたよ。なつかしいねえ…」
その頬の色は、あの女の子と同じ色をしていた。
一つだけ
人は産まれた時に必ず椅子を持って生まれる。
『存在』しているという証は
望む、望まないとしても必ず持っている居場所だったりするんだろう。
だとしたら『作られた命』はどうなんだ。
自然に産まれたものではない。
望まれて産まれたわけでもない。
道具として作られて
感情を持ってしまった。
人ではない人ならざるもの。
ましてや奪ってしまった俺はなんなんだ。
たった一つだけの椅子を奪いあうように
存在してしまった俺は、存在するだけで罪の証だった。
でも罪だと認めてしまえるほどに簡単な話でもない。だってティアは言うんだ。『ちゃんと見てる』って。変わってみせたかった。たとえ死ぬまで拭えない罪で両手が赤く染まり続けていても。
存在するだけで憎まれるレプリカは俺自身だった。望まれて産まれたわけじゃない。でも生きたかった。世界がどんなに辛くても、苦しいことだらけでも、それでも美しくて、そして好きだった。
世界でひとりぼっちだと思っていた。
憎まれるだけだと思っていた。
俺が奪ってしまった居場所を、いるべき人間に変えそうとした。そしたらアイツさ、顔真っ赤にして怒るんだ。
ずっとアイツ、俺を憎んでた筈なのに情けない事を言うなって。そんでわざわざレムの塔で助け舟まで出すんだぜ。天邪鬼すぎるよな。涙が出そうなくらい嬉しかった。
本当はさ、俺は『模造品』として世界の役に立って死にたかった。だってそうでもしなきゃ生まれてきた意味がわからなかった。
望まれて生まれてきたわけでない。
俺がみんなを不幸にすると思ってた。
そんなの望まない。だってさ、俺みんなが好きだったから。
死にたいって思ってたのに、死にたくないって怖かった。本当は誰からも必要ないって思われるのが怖かった。必要とされたかった。誰かの椅子を奪うんじゃなくて俺の、俺だけの一つだけの椅子が欲しかった。無いものねだりだっただけで、もうすぐ俺の時計が止まる。そうなってから初めて気がついた。
椅子なんてものみんな持ってなかった。
そんなの幻想だったんだ。
俺は俺が生きてるって安心感を他人に委ねたかった。そうじゃない、そうじゃなかったんだな。
昔イオンが言っていた。
『貴方は貴方であるだけでいい』って。
同じレプリカ同士の憐れみだと思ってた。
そうじゃない。お前はちゃんと全部わかってたんだ。もう居なくなってしまった差し出された手を、今ようやく握れる気がする。
誰から必要とされるから生きているわけではなくて、誰かを必要とするから生きているわけでもない。そんなの関係なく、生きている。命が続くから生きていて、だからその時間で何かを掴むことで、俺は俺を肯定するだけなんだ。
残された時間はもう僅かだろう。
頻繁にジェイドが点滴を打つように薦めてくる。
飄々としたいつもの顔に、隠しきれない切迫感を感じて嬉しくなった。
あのジェイドが、なんて昔の俺だったら嫌味なだけだとしか思えなかっただろう。口元に笑みが溢れる。
夜空の先には天空に立つエルドラントが見える。
随分と遠くに来てしまった。
明日には最終決戦となる地に立つことになるだろう。
最後まで保ってくれよ、俺の体。
かの地の先で待つ敵はかつての師だ。
止めなくていけない。
誰のためでもない。何かを成す為でもない。
自己犠牲でもない。
ただ話をしたい。結果として互いに剣を向けることになっても。
人は変わる。
良くも悪くも。
それは俺も、みんなも、誰も彼もだ。
何かを掴む為に人は選ぶ。
でも俺は誰かの犠牲の上にそれを成してはならないと思う。
偽りの過去をもち
偽りの命を与えられた俺が
たった一つだけ掴んだ答えこそが
本物であると証明する為に。
決戦の地は目の前で待っている。
この先あとひとつだけ出来そうな親孝行…母より先に逝かぬこと。
自分も若くはないから判らないけれど。
#1つだけ
1つちょうだいと言ったら、きっとあなたは1番美味しい部分を俺の皿に乗せるんだろうね。しかも1つに留まらず、あれもこれもと美味しい部分ばかりを俺に分け与えるのだろう。
でも、そんなんじゃあなたの皿に残るのは辛いのと苦いのばっかりで、俺は折角あなたがくれた美味しいのも目一杯楽しめなかった。
見てよ、俺の皿には辛いのも苦いのも1つもない。ちょっとでいい、1つだけでもいいから。あなたの皿に積み上がってる、その辛くて苦いの、俺にもちょうだい?
お題:1つだけ
あんなにたくさん作ったのに、冷蔵庫に残っていたのはたったひとつだけ。
「あのさあ」
冷蔵庫の扉を閉めてリビングにいる人間たちに声をかけると、Youtubeを見てゲラゲラ笑っていた彼らはぴたっと黙った。これは確信犯だ。私に怒られると分かっていながら食べたのだ。みんなで。私が作った特製とろうま卵プリンを。
「なんで黙るの?」
あえてそう聞いてみると、私と血の繋がりのある人間、戸籍上は父と母と祖母で人生の先輩とも言えるが、人生の先輩だからといって人が作ったプリンを勝手に食べて良いわけがない。
「ごめん、まりこ」
表面上申し訳なさそうにそう言ったのは私の父である。
「うまかった」
「だー! もー!!」
【お題:1つだけ】
1つだけ、ずっと間違えてしまうものがある。
それは右と左だ。
視点によって変わってしまうものは意味がないものだと思う。
でもその場で東西南北を知ることができないので人は左右を使うのだ。
当然のように右側とか左側とか言わないでくれ。
自分のボロが出てしまう前に。
ひとつだけ。
ひとつだけ好きなものを挙げて。
それが僕だったらいいな。
「好きなものなあに?」
「え?こんにゃく!」
喫茶店で問いかけて返ってきた答えに、コーヒーを噴き出しそうになった。
脈絡のない唐突な質問がいけなかったのだろうか。
「えっと、そういう意味じゃなくて」
「ん?どういう意味?」
「ん、やっぱいいや。こんにゃくね」
きょとんとした顔で尋ねられ、質問の意図を説明するのも気恥ずかしくなった僕は、そのまま受け流してしまった。
「今度群馬にでも行こうか」
4/3『1つだけ』
【1つだけ】
昔々。小六という男がいた。竹取をしては竹籠を売って、母と二人で慎ましく暮らしていた。
今日も小六は竹籠を山ほど積んで、山を越えて、隣の里まで売りに行った。竹籠は飛ぶように売れて、今日はたくさんの食べ物を買ってくることができた。
その、帰り道だった。
「おい」
と、山の中で声が響いた。小六はぐるりと周囲を見回す。山のちょうど村と村の間のところで、何かに声をかけられている。妖怪か何かだと思い、無視して早足に歩く。
「おい、小六」
びくり、と身を竦ませた。名を知られているのは危険だ。しかし足が怖くて動かなくなってしまった。
「小六、お前今日はたくさん売れたろう」
カラカラと笑う声に混じって聞こえてくる。
「そのしょってるもんから、一つよこせ」
小六はあたりを見回した。
「だ、誰じゃ!」
「お前の村の守り主だ、ほら、さっさと一つ置いていけ」
一つ、と言われて小六は荷籠を見た。ああ、せっかく買った魚の干物も干し柿も、鳥の肉も野菜も、どれも一つだって渡したくないのに。
しかし仕方なく小六は楽しみにしていた干し柿を取り出した。紐に通してあって、暗がりでは外せそうにない。仕方なく、六つ通してある干し柿を地面に置いた。
「ほら、干し柿一つじゃ」
「おう」
そうして小六がひとつ瞬きすると、それはなくなってしまっていた。
「ああ柿じゃ柿じゃ、小六、帰ってええぞ」
そう言われて、なんだかひどく悔しくなった小六は、ぎゅっと拳を握る。他のものも取られては敵わない、と走って山を下っていった。
母に山であったことを伝えると、ずいぶん困った顔をして、「そいじゃあ怖いねえ」と悩んでしまった。
「もう、向こうの里に行くのはやめたほうがいいんじゃないかえ」
「そんな、まだ売れそうじゃ、それにほら、柿はやられたが、こんなに色々買えたぞ」
小六としても諦めたくなかった。
そうして、小六が時々山を越えるたびにこんなことが起こっていた。守り主は姿を現さないが、小六が渋って何も出さずにいると、大きなものが林の中を動く音がしていた。結局そうして何か置かざるを得なくなってしまう。
「小六、柿は飽きた。他のものをよこせ」
「小六、この前は魚だったろう、魚じゃないものにせい」
と、こんな具合なので小六はせっかく母に買った肉や野菜を諦めることもしばしばだった。どうにも悔しくてやりきれないが、竹籠を売れるうちは今の里に売りに行きたい。そんなことでうんうん悩んでいた。
ある日、竹籠を売りに行く前のことだった。
小六は村の守り主、守神様のいる祠に向かった。そこで少し前に村に来た商人から買った、小さな金平糖を備えて、手を合わせてなむなむと祈る。
「守り主様、無礼は承知で、どうか、どうかお願いです。おっかあに買って帰っているもの、横取りしないでください。どうか」
そう祈って祠を後にする。
すると、村の外に向かう道で、知らない子供がにこにこしながら、小六に手を振っているのを見つけた。小六が手を振り返すと、子供は駆け寄ってきた。
「一つだけ、って言うんだよ」
と、子供は唐突にそう言った。
「いいね、小六、一つだけって言って、今日は小豆を買って帰るんだよ」
小六が瞬きした瞬間……子供はいなくなっていた。
ああ、もしかして、もしかして、と小六はもう一度そこから祠の方に手を合わせた。
その日も小六は山道を歩いていた。今日も竹籠は売れてくれた。とても質がいいのだと言って、随分大事に持っていってくれる人もいた。
そして、懐に小豆を入れてある。子供が言った通りにしてみようと思ったのだ。
「おい、小六」
と、いつもの声が聞こえてくる。
「一つよこせ、今日もよう売れたろう」
小六はごくっと息を呑むと、口を開いた。
「一つだけじゃぞ」
「おう、一つだ、一つよこせ」
懐からしずしずと取り出した袋を開き、小豆を一つ、しっかりと握る。それから、そおっと地面に置いた。冷や汗が背中と伝っていく。
ざっと風が鳴る。しばしの沈黙。
「あ、あ、小豆だと」
ぶるぶると樹木が震え出した。
「く、そ、くそ、小六のくせにー!」
そう叫んで何か大きな影が覆い被さってこようとして……気が付くとあの子供が目の前にいた。
「私は小豆一つを大切にしているのだよ」
「ひゃあ!」
と、悲鳴が上がって、どろろん、とそこに小さな狐が現れた。
「随分私の村の働き者を困らせていたようだね、どれ、お仕置きをしないと」
「ひぇえ、ごめんなさい、ごめんなさい、出来心だったんです、本当です!」
しかし子供はひれ伏す狐の尻尾をむんずと掴む。そして、くるり、と小六の方を振り返った。
「さあ、早くお帰りなさい」
小六は手を合わせてしっかりと頭を下げる。
「お助けくださって、ほんにありがとうございます」
小六が頭を上げた時には、もうそこには誰もいなかった。
それから小六は「一つよこせ」と言われることなく、母に良いものを持ち帰ることができるようになった。
そして祠には、幾度も金平糖を備えてきた。ある時、金平糖を備えようとすると、そこに小さな紙が落ちていた。
「一つだけ」
と、小さく書かれていたが……小六は、それなら、と金平糖を袋に入れて、それを一つだけ備えるようにしたのだった。
こんな夢を見た。両親が結婚記念日に旅行に行くと言うので、私と弟は快く送り出した。三日間、口うるさい両親がいないことに私たちは浮かれた。二日目の朝に弟が友人の家に遊びに行き、家には私一人だけになった。今のうちにお菓子を食べながら、友人から借りたホラー映画でも見よう。弟は大のホラー嫌いで、音が聞こえてくるだけで「すぐ消して!」と怒鳴り込んでくるのだ。少し神経質だと思う。雰囲気を出すためにカーテンを閉め、部屋を真っ暗にする。台所に行きお菓子のストックを持ってくると、居間のテレビを操作しホラー映画の鑑賞を始めた。ソファに寝そべりながらホラー映画を見、お菓子を食べられるなんて初めてだ。いつもなら母親にだらしないと怒られ、お菓子を取り上げられてしまう。だが、今日は母親も弟もいない。つまり、一人最高というわけだ。映画の中では主人公の周りに異変が起き始めている。
「何見てんの?」
映画に見入っていると、背後から声をかけられ私の心臓は思い切り跳ね上がった。もう、両親が帰ってきたのか。男の声だが、弟でもない。弟ならすぐにリモコンを取り上げ、テレビの電源を切ってしまうからだ。不審者が入ってきたのか。
「あ、お菓子だ。ねえ、それ一つだけでもいいからちょうだい」
振り向けず戦々恐々としていると、彼は私のお菓子に狙いをつけた。大袋のスナック菓子だ。たくさん入っているので、一つくらいは良いだろう。
「良いけど…」
お菓子の袋を持ち上げると、袋の中に手を突っ込んだのか、ガサガサと音を立てた。
「ありがとう、結構しょっぱいねこれ」
お菓子の感想を言い、食べ終えても立ち去る気配はない。まだ何か用があるんだろうか。
「…ふーん、ホラー映画見てるんだ」
次は映画か。
「そう、普段は家族がいると見られないから」
「へえ。別に一緒に見れば良いんじゃない?」
「ホラー映画が嫌いな家族がいるから」
「どうして?」
「怖いから」
「怖いから?ホラー映画はそもそも怖いものだよ」
勝手に入ってきて面倒くさい奴だな。無視して映画に集中し始める。
「ねえ、さっきのしょっぱいのもう一つちょうだい」
無言で袋を持ち上げると、ガサガサと袋を漁る音がした。気に入ったらしい。画面の主人公はガタガタと揺れる押し入れに近づく。
「こういうのって、開けても居ないんだよね」
パリパリとお菓子を食べながら、彼は呟く。何故私は不審者とお菓子を食べながら、映画を見ているんだろうか。取り敢えず、映画を見終わったら通報しよう。主人公が押し入れを勢いよく開けると、何もいない。
「ほら、やっぱり…」
主人公が押し入れを閉めようとした瞬間、青白い顔が画面いっぱいに迫ってきた。
「ひっ」
彼の小さな悲鳴が聞こえた。無視して展開に固唾を呑んでいると、弱々しく彼が話し出した。
「…今のは良くない。あんな大きな効果音と怖い顔出されたら誰だって驚くよ。怖いってそういうのじゃないし、解釈違いっていうか…」
ホラー映画は大体そういうものだろう。そうして彼は何度か悲鳴を上げながら、一本映画を見終わった。
「うん、まあまあかな」
「…まあまあ?」
「そう、普通。やっぱりフィクションだから、そんなに怖くなかったよ。というか、君は何でここに…」
ソファから起き上がり振り向くと、男と目があった。だが胴体はなく、天井の照明に長い首を巻き付けぶら下がっている。顔をテレビに向け私と会話していたらしい。
「面白そうな映画だったから、来ちゃった」
彼はニンマリと笑みを浮かべた。
1つだけ
悔しそうに睨みつける空を
頬を濡らすコバルトの涙
会いたいのに会えない
自分の弱さに今更のジレンマ
信じてなんかいないけど
期待なんてできもしないけど
1つだけ私に残されてる
ラッキーがあるならば
同じ空の下にいるあの人の髪を揺らす
風になりたい
「はっぴばーすでー!!」
勢いよくドアを開いて遠慮なしにドタドタ入って来るコイツは10何年になるだろうおれの友だち。
1番近いおれの友だち。
いきなりの侵入者に驚いて振り向くとその手には大きなケーキが乗っていた。
思わず怒るのを忘れて笑ってしまう。
「何それどーした」
「何ってお前の誕生日だろ。さぁさぁロウソク消して消して」
目の前に差し出されたその大きなケーキにはすでに火が灯されていて白いケーキの上でゆらゆら揺れていた。
「お前…それ点けて入って来たの?普通に危なくね?」
「上手に持って来たから大丈夫!」
謎の自信と共にさらにおれの顔に近付けてくる。
「ロウソク消してお願いして」
炎の先でアイツが笑う。
そっと回し吹くようにしてすべてのロウソクを消した。
「はい!おめでとー!!」
どこから取り出したのかフォークを突き刺してひと口分のケーキを上手に切り抜く。
それからおれの口元に運んで来てにんまり笑う。
「いいよ自分で食べれるから」
「いいからいいから」
コイツは1度やり出すと聞かないので大人しく口に含んだ。
甘い風味が口の中に広がる。
「…美味しいよ」
「それならよかった」
満足したように笑ってテーブルの上にケーキを乗せた。
「お前は食べないの?」
「あぁ!後でまた一緒に食べよう」
入って来ると同時に足元に置かれていた紙袋をガサゴソしながら応える。
「あとコレ、プレゼントな!」
にこやかにその沢山の紙袋を目の前に差し出して来る。
それを受け取って中を覗くと色んなものが入っていた。
「こんなにいいのに…」
「俺があげたかったからね!他にも何か欲しいものあったら言って」
「もう充分だよ」
「まだまだ受け付けてるよ?」
にこにこと微笑みながら尋ねてくる。
「んーじゃあ…お金ちょーだい」
ふざけてそう言うと彼は一際笑って
「ふざけんな」
と言った。
何でもいいって言ったじゃないか。
まぁ冗談だけどね。
本当に欲しいのは1つだけ。
「そーいえばさっきはなんてお願いしたの?」
「ないしょ」
曖昧に笑って答えた。
願いなんて決まってる。
この先もずっとお前の側に居れますよーに。
病める時も健やかなる時もお前とずっとずっと共に。
願いなんてこれしか思い付かないよ。
🐯🐵(1つだけ)
ひととおり
とおりすがり
つみかさねてきたつもり
だいじょうぶ 前より強くなっている
けっかんを伝って 決意とともに動く心臓
〚一つだけ〛
勉強しなくては。
これを読んでいる中高3年生になる君たちは勉強しようね。
ちなみに俺は今年で高3になるものです。Boomerang
まぁ、一緒に頑張ろ!
1つだけ
キャンディ缶を開けて
どれを食べよう
そんな楽しみは
子どものときに置いてきてしまった
キラキラした包み紙さえ
綺麗と思ったあの頃の
喜びって
小さくても
嬉しかった
たった1つだけの
キャンディでも
あれやこれや欲にまみれた
大人では
小さな喜びに
気づかなかった
特別、が小さな喜びでも
幸せと感じる自分に
かえりたい
俺は弟に比べて出来が悪かった。
両親は結果主義の人間で、俺はあっという間に弟に全てを奪われることになった。
お菓子に始まって、おもちゃも、お小遣いも、弟が生まれてからは全部弟のもの。
果てには、友人も、恋人さえ弟に取られた。
不出来というだけで忌まわしいのに、弟に負ける兄なんて、両親にとっては論外だったようだ。
俺は、実物どころか、存在さえも弟に取られた。
家では空気のような扱いで、食事だって一人だけ別、簡素なおにぎり1つで終わる。
足りない分は、必死にバイトを掛け持ちして稼いだ自分の金で補った。
両親が弟を褒める度、弟のものが増える度、俺はどんどん惨めになる。
そんな俺にも、唯一、たった一つだけ残されたものがあった。
まだおむつを履いていたような頃から一緒の親友。
彼だけは、俺の元から離れなかった。
家に来る度弟に愛想を振りまかれても、弟との出来の違いを見せつけられても、弟になびかずずっと俺を選んでくれた。
彼が最後の砦と言っても過言ではない。
彼まで奪われたら、俺にはもう何もない。
学も、能も、顔も声も愛嬌も、全部弟に負けている。
そんな自分がコンプレックスで、ある日彼に聞いたことがあった。
なぜ俺を選んでくれるのか、と。
彼はしばしきょとんとして、それから心底おかしそうに笑った。
彼は俺の頬に手を添えて、そっと撫でて口を開いた。
「僕は別に、出来のいい便利な友達が欲しいんじゃないよ。ちょっと不器用で、ドジで、素直じゃない君がいいの。」
キザなセリフだと顔を背けたが、赤くなった耳は隠せない。
俺の唯一にとって、俺もまた唯一だったらしい。
彼は、彼だけは、弟に取られるのを怖がらなくていい。
そう、思うことができた。
テーマ:1つだけ
" 1つだけ"
減るのが早いアイシャドウ
いつか全部をすきと言わせる
一つだけどんな願いでも叶えられるなら何を叶えるかな。
小さい頃は不老不死なんて軽く言えてたかもしれない。
今だって家族には一生生きてて欲しいとか思う事がある。でも、どうしようもなく悲しくて苦しい時が人生には何度もあって、幸せな時間も何度もあることを学んだ今一つだけしか叶えられないならお金がいっぱいほしいかな笑お金でしあわせになるって言い方は嫌だけど、お金がいっぱいあったら家族を幸せにする事は実際可能だと思ってるから。旅行とか連れてってあげたい。
私は大切な人の笑顔を沢山見れた人生なら、不老不死でなくても幸せに死ねると思ってる。
綺麗とかじゃなくて事実だと思ってる。
1つだけなんて選べない
大切なものは何一つ、うしないたくないから
『1つだけ』