『高く高く』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
【高く高く】
優しく風が吹いて、顔のすぐ横にある草がさらさらと音を立てた。
草をベッドみたいにして寝転んでいる今、その音が子守唄に聞こえて目を閉じる。
ひゅうひゅうと風が舞うのが収まって、たっぷり余韻に浸ってから目をゆっくり開ける。
目の前に広がるのは、青と黒の背景に銀のラメを散らしたような素敵な光景。
そこにぽっかりと浮かぶ、今にも折れそうな細々しい月があった。
それを目に入れて、もしや、あの細さなら今の自分にも握り潰せるのではないか、と手を空へ伸ばす。
月に手をかざして、ぐしゃっとするように握ってみた。
掴んだ感覚はない。重力に従って腕を下ろすと、ぼんやり光っている月が変わらずに見えた。
流石に掴めないかぁ、となんとなく悔しくなる。
自分の腕がにゅーんと伸びさえしたらぽきっといける気がするんだけどな。
そんな妄想を頭の中でして、ふぅ、と息をついて再び目を閉じる。
なんだか疲れて眠りたい気分になってしまった。
外で寝たら風邪を引くだろうか。まあ月の光が温めてくれるか、月光って布団みたいなもんでしょ。と、謎の持論を展開して深呼吸をする。
「おやすみ」と呟く声を、ぽきっとできそうでできない月のみが聞いていた。
天高く馬肥ゆる秋
洋上の小舟は進む
どうか安らかに
高く高く
高く高く…
スマホの待ち受け画面に
スカイツリーから見た夜景を使っている。
中央に東京タワーがある。
小学校の修学旅行で東京タワーに行った。
当時、東京タワーの中に手相の占い機があり
百円玉で人生を占った。
細かく印字された文字を丹念に読んだ。
自分の手相を機械が判定したのである。
絶対に当たる確信があった。
隅から隅まで何度も読んだ。
「大器晩成」
12歳の少女は
小さな胸にその言葉を刻み込んだ。
さて、私は現在57歳……
……あれ?
大器晩成!?
神様! 今ですよ!!
高く高く
街を独り歩く。
俺の隣は、空っぽ。
ただ、風が吹き抜ける。
ほんの少し前までは、
人見知りな俺を心配して、
貴方が、横に居てくれた。
その温もりが、
俺の支えだった。
なのに。貴方は。
こんな俺を、一人、
地上に置き去りにして、
俺には、何も告げずに、
天へと駆け上がって行った。
俺の心の中には、
今でも、貴方の笑顔で、
溢れているのに。
貴方は、もう、
この世の何処にも居ない。
泣き声が溢れない様に、
きつく口唇を噛み、
涙が溢れない様に、
そっと天を仰ぐ。
高く、そして蒼く、
果てしなく広がる空。
この広い空の何処かに、
貴方が居る、そんな気がして。
俺は、貴方に届く様に、
高く高く、手を伸ばすんだ。
だけど、
貴方には、届かない。
俺の手は、ただ、
虚空を掴むだけ。
高く高く
高く高く 目指して 生きても
下にある何かを 見落として
今いる場所が高いのか どこなのか
時々わからなくなる。
そんな時はどこを見たらいいんだろう。
【高く高く】
何故か笑うと泣けてきて、
泣けてくることに笑えた。
そして笑うと泣くからまた笑う
無限ループだった。
そしてその無限ループに泣けてきて、
また笑って泣く。
情緒不安定というのはこういうことをいうのだろう
ひとしきり泣いて笑ったら落ち着いて
でもそれが逆に落ち着かなくて、
また理由もなく笑う。
まるでクスリでもやったかのようで
友達に怖がられた。
なぜ『高く高く』というお題で
こんなことを話すかって?
高いところにいる周りの人に
追いつくために頑張ってたら
疲れを感じることすら忘れて
笑いながら泣いたよっていう話をしたかっただけ、
背伸びをして
届かない
手を伸ばして
届かない
跳ねてみても
届かない
助走をつけようが
届くことはなくて
焦って焦って
苦しくて、
他に届かない人だっているって思っても
届く人の方が多いから
また苦しくなる。
諦めようとしても 逃げようとしても
いつかは絶対に届かなければならないから
また試行錯誤する
疲れたな。
苦しいな。
でもそれはみんなそうだから
私なんかよりも他の人の方が頑張っているだろうから
疲れて休むなんてできない
いらない感情は飲み込んで
自分に言い聞かせる。
もっと高くへ行ったら休めるはずだから
それをご褒美に頑張るんだ。
もっと高く
高く、高く……
あれ……
どこまで高く行けばいいんだっけ?
いつになったら休めるの?
ストレス発散ってどうやるんだっけ…?
休むって何をするの…?
あはは…… なんか……
楽しくなってきちゃった……
これで疲れ取れたかな…?
∮高く高く
高く高く、どこまでも
空の彼方まで飛んでいく風船を
ただひたすらに
幸せそうに眺めていた
8月某日
今日はいつも通り嫌になるほどの蒸し暑さだ
だと言うのに今年もお祭りは人で賑わっている
屋台の手伝いでずっと外にいたのを見兼ねたのか
「休んでこい」と言ってもらえたのでありがたく日陰に行って休んだ
ぼーっと木漏れ日を見つめながら目を細める
そのまま、目をつぶっていれば子どもの声が聞こえてきた
「そこの兄ちゃん!手伝ってー!お願い!!」
いかにもわんぱくで元気いっぱいそうな少年に声をかけられる
「どうしたんだ?」
「あんね、外人さんからもらった風船が木に引っかかっちゃったん」
「それで取ってほしいのか」
「そう!……です」
急に落ち着きを取り戻したのか、しどろもどろに敬語でも使い始めた少年の姿を微笑ましく思う
「それで、その木はどこにあるんだ?」
「こっち!」
言われた通りにゆっくりと少年に合わせた速度で歩いていく
そうしてたどり着いた木は、辺りではひときわ大きなもので、その先端に引っかかった風船があった
「あの黄色いのか、中々に遠いな……」
ただ、と不安げな少年ににかっと笑ってみせる
「任せろ」
そうして屋台に戻り事情を話せば、簡単に屋台を組み立てたときの梯子を手に入れられた
「下で支えてくから、取っておいで」
「俺が取りに行ってもいいの?」
「自分のものは自分で、だ。ただし、危ないと思ったらすぐに降りてこいな」
「わかった!」
そう言えば慎重に一歩一歩少年は梯子を登っていく
無事に風船を木から外し持つことができたようだ
「ゆっくりで良いから、慎重に降りろよ〜」
「わかってるー!でもその前に」
少年は少し上を見上げ、そこに一面の青空が広がっているのを確認すれば、風船を手放した
「お前なにしてんだ…?!!」
「これでやっと〝もう大丈夫〟」
安心しきった様子でこちらの声が届いていないような少年はしっかりと梯子を確認したら、羽がついたような軽やかさでするすると降りてきた
「なんでわざわざ取れたのを放したんだ?」
「あれはそういう風船なんだ」
先程までのわんぱくはどこへやら、そこには寂しそうでいてどこか安心した目で飛んでいく風船を眺める少年
「願い事を書いた紙を風船の中に入れて飛ばすんだ、無事にどこにも引っかかることなく飛んでいけたら願いごとが叶うって」
「それでどうしても取りたかったのか」
「まあね、兄ちゃんありがとう」
「どういたしまして」
ところで、と言葉を続ける
「お前、そんなにして何を願ったんだ?」
「なんだと思う?」
「質問返しはずるいだろ…好きな子と仲良くなれますようにとかか?」
にやにやしながら聞いてみれば呆れたような顔をされる
「んなわけないじゃん。おじさんくさいなぁ」
「おじさんだと…?!!ピチピチの20代じゃこちとら」
「もうおじさんの一歩手前じゃん」
なにも言い返せない自分に悲しくなる
「でも、最後に会えたのが兄ちゃんで良かったよ」
「最後って、お前なに言って」
「ありがとう!いつかまた100年後ねー!」
「あ、おい!俺はあと100年も生きられねーぞ!!」
そうやって去っていった少年の背中を見送れば、いつの間にか日は暮れていて、本格的にお祭りが始まりだしたのを肌に感じた
「おっちゃん、遅くなりました。あとこれ梯子」
「おーそんでとれたんか、風船は」
「あぁとれたよ、そんですぐ空に飛ばしていったわ」
「そりゃあまた球紙鳶さんみたいだな」
「??たまだこさんってなんだ?」
「知らんのかい、まあ昔のことだかんなー」
そう言っておっちゃんは話を続ける
「球紙鳶さんってのは一種のお伽噺だな。昔々あるところに、体の弱い男の子がいた。そいつはいつも寝てばかりだったんで外に強い憧れがあったんだ」
「ある日、その子のとこにある外人さんがやってくる。まあ男で病弱なのを育ってるんだからいいとこのお子さんだったんだろ。んで、あるもんをあげるんだ。それが」
「たまだこってやつか?それって風船の別名なんか」
「そうさ。そして外人が球紙鳶に願いを込めて飛ばせば叶うとその子に言うんだよ。で、それ信じた男の子は自分が元気に外で遊べますようにって願って球紙鳶を飛ばすんだ」
「そんで引っかかるのか、木に」
うむ、とおっちゃんが強く頷く
「それでその子が動かない体頑張って動かして木に登って球紙鳶を掴んだんだ。たぁだ、そん時にバランス崩して球紙鳶ごと落ちちまった」
「それって」
「残念なことにそのままその子は死んじゃって、その拍子に球紙鳶がどこか飛んでいっちまった。そうして、その球紙鳶はまた別の木にひっかかる。そんでまたそれを見た子どもが球紙鳶を取ろうと木に登ってって…まあそんなことが続くもんだから、球紙鳶さん言うてずっと病弱な男の子が元気に動ける子を遊び相手にするために攫ってちゃうとまあそういう話だ」
俺はしばらく何も言えなかった。というか言おうにも言葉が出てこなかった
「まあ最後の攫うなんだは後から糊付けされたような眉唾もんだがな。俺の考えは違う」
「おっちゃんは、どう考えてんだ、」
「俺はな、その子はきっと、ずっとその球紙鳶を飛ばして欲しかったんだと思ってる。だが、自分の力では飛ばせんから他の子に変わりにお願いしてたんじゃないかってな。どうか、どうか」
「「飛ばしてくれますように」」
半ば無意識に呟く
「でも、きっと自分自身で飛ばさなきゃ意味がなかったんだ。その子自身で飛ばさなきゃ」
おっちゃんは火をつけた煙草を一息にふかす
「………その球紙鳶は、黄色だったそうな。太陽と同じくらい飛んでいくようにって。その子が球紙鳶を手に持って死んじゃったときは奇しくもその太陽が地面に落ちる夕暮れだったって聞いたことがある」
「…………………」
「ちゃんと、昼間に風船は飛ばせたか?」
おっちゃんの声がお祭りの喧騒がすべてかき消されるほどにはっきりと頭に残る
「…飛んでったよ、太陽に届くくらい高く、高くね」
2024-10-15… 【 高く高く 】
涙があふれる とめどなく
キミの魂が今あの青空に羽ばたき舞い上がる
青い翼を羽ばたかせながら…離れていくこの地を
ワタシの元を
高く高く 太陽よりも高く 広い宇宙へ
この胸の痛みは今だけ…そう、今だけ
悲しみに浸るのも今だけ今だけ…許してね
大丈夫、だってまた キミに逢えることを
ワタシは知っているのだから
悲しくはないよ、もう
キミは自由だ
✡ 黒猫ブルー ✡
: 高く高く
ちぎれ雲が浮かぶ穏やかな空を
君を乗せた飛行機が得意気に
高く高く飛び去っていく
見送りには行かなかった
涙を見せたくなかったから…
夢を語る君の瞳が眩しくて
心から応援したいと思った
だけど…、だけど本当は…
いや、やっぱり君を応援したい
だって僕は君の一番のファンだから
桜月夜
「ねぇパパ。たかくたかくして!」
「たかくたかく?」
娘からの不意の言葉に一瞬戸惑う。だが目の前の両腕を上げて期待している顔をする娘を見れば、先ほどの言葉は《高い高い》のことを言っているのだろうと理解する。
娘は保育園に通い始めてから色々な言葉を覚え、今ではすっかりおませな口ぶりをすることもある。それを思えば言い間違いくらい可愛いものだ。そう思いながらも一応の訂正をする。
「いーちゃん、《高く高く》じゃなくて《高い高い》って言うんだよ」
遊ぶ気満々だった娘は動くそぶりもなく小言を言い出した私に不満気になり、今度は語気を強くし幾分か丁寧に教えてくれた。
「ちがう! いーちゃんはたかくたかくしてほしいの!それで、パパがたかいたかいするの!」
「なるほどな」
娘の言葉に一理あるなと納得する。
「じゃあやるからおいで、ほら」
「いちばんたかくまでおねがいします!」
その後は満足のいくまで《高い高い》あらため《高く高く》して遊んだ。
『高く高く』
高く高く
世の中、確率なんてものは存在しない。1%で当たるものも、一回で当たることがあれば、一万回引いて当たらないこともある。確率は引くか否かの判断基準でしかなく、結果は引いてみるまでわからない。
暗闇の部屋で一人、排出率1%の文字を見つめていた。今日から始まったソシャゲのイベント。画面でポーズを取るキャラの笑顔はあまりにも眩しい。
俺は落ち着いていた。1%。100回引けば当たると思いがちだが、100回引いて当たる確率は約63%だ。100回引いても引けない確率はその逆の37%。引けないこともジュウブン考えられる。だが、その63%や37%という値も結果を保証するものではない。俺は確率を心得ている。
まずは10連。……むろん、当たらない。大丈夫だ、問題ない。予定通りといえるだろう。そう簡単に引いては経済が成り立たない。ここで大事なのは、この結果は次の結果に何も影響しないということだ。外れたから次は当たりやすい、と考えるのは間違っている。何回外そうが、次に当たる確率は変わらない。
つまりだ。最初に引くという選択をした以上、2回目以降も引くしかないのだ。途中で引かないと判断するなら、最初から引くべきではない。それが正しい確率の解釈だ。
大丈夫だ。俺は落ち着いている。
大丈夫だ……。大丈夫だ……。
高く高く
夜空に手を伸ばす
月明かりが私を照らす
あぁ私は
_高く高く
高く遠くアサギマダラ旅立ちぬ
どうかどうぞ道中ご無事で
#高く高く
高く高く
高く高く
手を伸ばして
届かない
太陽を
掴もうとした
なんて
輝かしい
なんて
眩しくて
暖かい
そんな
温もり与う
太陽に
私もなりたい
バスを待つ。
よく晴れた空を見上げると、視界の中で一羽の鳥がビルのてっぺんから飛び立った。
珍しくもない。
いつものように時刻通りにくる事のないバスが、昨日は5分、一昨日は10分遅れたほどの違いでしかなかった。
今日はすでに3分過ぎているのに、55系のバスはまだ来ない。
天高く、なんて言われる秋。
綺麗な円を描いて旋回上昇を続ける小さな黒い点が、あの鳥だったと気がついた。
隊列を組むでなく、単独の渡り鳥。
遠い旅路をつなぐ、はじめの一歩の瞬間だった。
いってらっしゃい。
そこからでもまだ見えない地平線の向こうまで。
「高く高く」
「高く高く」
高く高く跳ね上げる
まつ毛の先に捉えしあなた
高く高く
働きに応じて
給料が上がればいいのに。
搾取されてばかりやん
高く飛べるくらい
自由な翼が欲しかった
高く高く
ああ、 高く。
高く。
もっとその先へ
高く。
高く。
そう もっとね
ええ、いいわ
あそこを飛び越えるくらい
高く。
高く。
堕ちていきたいと願った
絶望が心地よい夜
そっと
『高く高く』
「そんなに高く飛んでどこへ行こうというのです?」
「誰の手も届かないところへ。誰からも見られないところへ」
「愛したひとのそばを離れて?」
「僕が愛したひとは僕を見てなんかいなかった。彼女は自分以外ただの一人も見ていない。自分以外ただの一人も愛せない。そんな彼女にとって、僕のおぞましい姿は視界に入れる事さえ嫌な事なんだ。だから僕は、彼女の目の届かないところへ行く」
「たった一人で?」
「生まれた時から僕は一人だ。泥に埋もれたままずっとずっと、長い時を一人で生きてきた。彼女と過ごした一瞬が、特別だったんだ」
「その特別を、永遠のものにしなくては」
「君には分からない! 誰からも愛され、称えられた君には!」
「でも、私も·····本当に愛したひとを幸せにする事は出来ませんでした」
「·····君はっ」
「私は間違えた。罪を犯した。でも·····彼女の為に心を焦がし、魂を燃やした事自体を、私は間違っていたとは思いません」
「誰が·····、誰が僕のようなおぞましい生き物を愛してくれる!? 彼女だって·····」
「たとえ一瞬だったとしても、その時の優しさや笑顔は、本物だったのでしょう? 」
「――」
「あなたを空へと向かわせたのも、それが真実だと知っているからでしょう?」
「何を·····」
「私には·····あなたをそばに置き続けることはあなたの本当に美しい姿を閉じ込めてしまうことになるのだと、その方が気付いたからのように思います」
「本当に、美しい姿·····?」
「なにものにも縛られず、自由に空を舞う姿。あなたのその姿は、美しく見えこそすれ、おぞましいものには到底見えません」
――高く高く。
――どこへでもいってしまえ。
(愚かな私の手など離れて)
「もう、遅いよ」
「そうでしょうか」
「僕は彼女の手を離した。僕は彼女の元を離れた。もう守ってあげられない。もう地上へは帰れない」
「あなたが信じたその方の眼差しは、今もあなたを捉えているのでは?」
――あぁ、そうだ。
僕は愚かで、美しくて、残酷な·····優しい君を、愛したんだ。
「もっと早く、君に会えていればよかった」
「そうですね」
「さよなら。私と同じ名前の君」
「――」
どんなに愚かなことでも貫き通せば真実になる。
彼女の笑顔を、彼女の眼差しを、彼女の優しさを、たとえ嘘だと分かっていても、僕自身が信じ通していればよかった。
あぁ、空が、まるで燃えるように真っ赤だ·····。
END
「高く高く」