仮色

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【高く高く】

優しく風が吹いて、顔のすぐ横にある草がさらさらと音を立てた。
草をベッドみたいにして寝転んでいる今、その音が子守唄に聞こえて目を閉じる。

ひゅうひゅうと風が舞うのが収まって、たっぷり余韻に浸ってから目をゆっくり開ける。
目の前に広がるのは、青と黒の背景に銀のラメを散らしたような素敵な光景。
そこにぽっかりと浮かぶ、今にも折れそうな細々しい月があった。
それを目に入れて、もしや、あの細さなら今の自分にも握り潰せるのではないか、と手を空へ伸ばす。

月に手をかざして、ぐしゃっとするように握ってみた。

掴んだ感覚はない。重力に従って腕を下ろすと、ぼんやり光っている月が変わらずに見えた。
流石に掴めないかぁ、となんとなく悔しくなる。
自分の腕がにゅーんと伸びさえしたらぽきっといける気がするんだけどな。
そんな妄想を頭の中でして、ふぅ、と息をついて再び目を閉じる。
なんだか疲れて眠りたい気分になってしまった。
外で寝たら風邪を引くだろうか。まあ月の光が温めてくれるか、月光って布団みたいなもんでしょ。と、謎の持論を展開して深呼吸をする。

「おやすみ」と呟く声を、ぽきっとできそうでできない月のみが聞いていた。

10/14/2024, 5:33:33 PM