『香水』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
香水
あの日、初めて香水を買いに行った。
あの子と一緒に。
そのお店は重ね付けでオリジナルの香りを作るというコンセプトだった。
ボディミストしか買ったことがなかったけれど、大学生になったし香水くらい買ってみようかってふたりで入った。
あの子は、友達の誕生日プレゼントに買うと言っていて、少し複雑な気持ちだった。
私といるのに、他の誰かのことなんか見ないで…。
なんて言ったら、友達なのに重い、かな。
他の誰かのこと考えて、誰かのために迷っている君を見ているのは案外苦しいんだよって。
気づいてくれればいいのになんて思ってしまった。
あの子は金木犀の香りを探して、香って、香りをまとっていた。
私はヴァニラとサボンの香りの物を探した。
サボンは爽やかで、なんだか夏みたいな香りがした。
ヴァニラは重くて優しくて、冬みたいだと思った。
2つを合わせたら、どんな香りになるのかなって興味を惹かれて選んだ。
合わせるとどこか爽やかで優しい香りになった。
なんだか楽しく思いながら、帰路についた。
帰り際。
「おまけです」ってもらった小さいボトルの香水と、選んだ香りのついたカードを交換した。
あの子が私の選んだ香りを纏うときがあるのかな、なんて嬉しく思いながら。
「虫除け、してあげようか」
『……提案ではなく、宣言なのですね』
「どうせ拒否なんてしないでしょ?」
『香水はせめて出かける三十分前にしてくださいと、以前にもお伝えしたはずなのですが』
「ふふ、お説教? 出かけるまで、あと十五分もないのに?」
『……意地悪なお方ですね、私の主人は』
「虫除けなんだから、このくらいでいいの」
『虫くらい、自分ではらえますよ』
「べつに信用してないわけじゃないけれど、ね」
『……何度嗅いでも、私には少々甘すぎます』
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「香水」
鏡を見て、化粧をする。それが女の子の日常である。
二重を作って、涙袋に星をつけて、
花より弱い乙女を作る。
乾かすのがめんどくさい長い髪。
160℃の拷問にかけ、可愛さを作る。
お気に入りのワンピース。
気分だけは西洋のお嬢様になる。
鏡の前に立つ。
数時間前はパジャマでダメな女だったのに、
“みんなの理想である女の子”が作れてる。
みんな甘い匂いが好きでしょう。
髪に香水をふる。歩く度に“女の子”の跡を残すのだ。
私自身が消えてゆく。
遺書の笑顔を忘れずに。
、香水
【香水】*84*
そういえば…今日酒のつまみに瑛人出てたなぁ
瑛人の曲これしか知らないけど
流行ったよね
同時にチョコプラが浮かぶし笑
香水は好き
あんまキツいの苦手だけど
ほのかに甘いのは気分が上がる♪
後、香水なのか…洗剤なのか…柔軟剤なのか…
好きだった人を匂いで思い出すことはあるなぁ
何気に匂いって大事だよね
匂いでバレることも多いのでご注意を笑
ckoneの香りを嗅ぐと、世紀末の東京に時が戻る。
あの頃の退廃的な時代の空気や、諦めるしかない現実を、強がりながらも受け入れている高校生達の表情がまざまざと思い浮かぶ。
それなりに頑張るしかなかったんだよね。それで十分だよ。
大丈夫、1999年に世界は終わらないし、すぐ景気がいい時代も来るよ。好きな事を好きって言える時代もすぐそこだよ。
自分の為に生きていいんだよ。
あの頃、若者だった皆さんへ
[香水]
ある時の誕生日
君が買ってくれた
君とお揃いの香水
いつも何考えてるかわからない
口下手で天邪鬼で不器用な君は
物で愛を伝えてくる
いつもつんつんしてるのに
「お揃い」ってところが
らしくなくて可愛くみえてくる
「お揃いってことは私と同じ匂いがいいんだ」
ってからかうと
「そんな訳ない」と
鼻で笑った
君はいつももそうだ
冷たいフリをする
私に興味無いフリをする
でも本当は私のことちゃんとよく見てる
髪型もネイルもそしてマツエクも
前髪を少し切ったときでさえも
寝不足で空元気の時も
私が元気ないときも
全部君は気づいてる
でも伝え方はいつも口下手だ
何かの本に書いていた
香水をプレゼントするのは
香りで相手を独占したいという気持ちが含まれていると
伝え方が本当に不器用だ
そういうところが君らしくて私は好きだ
落として割れたボトルから
甘い甘い香り
あなたに会う日だけ
特別に纏っていたそれは
いつからか
棚の隅へと追いやられて
割れた瞬間に
あなたが溢れた
今、カレの隣で笑う私からは
シャンプーが香るだけ
【香水】
香水って苦手。
いつまでも記憶に残って
貴方のこと、ずっと忘れられないんだもの。
でも私はつけるの。
いっつも同じ香水。
この香りに街中で会ったら
私のこと思い出してね?
これは私の愛だから。
香水
優しくて
繊細で
それでいて芯は強い
そんな人だった
その人が来るのは香りで分かった
いつも同じ香水を纏っていた
その理由も
なんの銘柄なのかも
ついぞ聞けなかった
ある時気づいた
香水は
あの人の涙なのだと
涙で
テリトリーを作り
自分自身を守っているのだと
脆くて
折れそうな自分を護り
奮い立たせる
あの人にとって
香水は
涙のアーマー(鎧)だったのだ
あの人は
今も
アーマーを纏っているのだろうか
それとも
#香水
「コイツ贅沢だからよぉ」
一瞬受けた衝撃を辛うじて口を数ミリ引き攣らせただけで済んだのは今までの経験の賜物とも言える。
笑わせてくれる
なら、代わってやろうか。
お前の人生と俺の人生。
どっちが上手く生きられると思う
友達だと思っていた男だったが、腹の底では俺をそう思っていた訳だ。
贅沢だって?
俺の人生が?
そうかよ。
「昨日、お前の香水と同じ値段のうんこ踏んだわ。」
「は?何だよ」
「ペットショップの犬が幾らか知ってるか?そいつらを日割りして更に1日のうんこの回数を平均して計算すると。お前がずーっと使ってるその安物臭い香水と同じ値段になるんだぜ。」
よかったなぁ。
背中をバシバシ叩いてやると、別の奴が腹を抱えて爆笑し始めた。
辞めだな
今日でコイツらと連むのも終いだ。
「あー…あ。つまんね。」
安い香水の匂いが鼻にこびりついて取れねぇ
なぁ、俺のお姫様はどこ?
俺の事を大好きな子ってどうやって会えんの。
なぁ、お姫様。
お前は俺の人生を贅沢だって笑うか
それとも、頑張ったねって慰めてくれる?
どっかに落ちて来ねぇかな、俺のお姫様。
「あ、あのっ!すみませんっ!」
「ん?あ、俺か。何」
「足、退けてくださいっ!」
「あ?なんで?」
「踏んでますっ!わ、私の推しを踏んでますっ!」
見ると残念な事に俺の靴跡がはっきり付いたキラキラのカードが。
ん?どっかで見たなこれ。
「お。やっぱり有った。ね、ごめん。お詫びにコレ貰ってくんね。」
財布から同じキャラの別のカードを抜く。
コイツ俺の推しじゃないんだけどさ、レアカなんだよな。捨てらんねーじゃん。
「えっっ!!?」
「俺、青髪の方狙ってたんだけどダメだったんだよね。」
「レオ君推しなんですかっ!?」
「うん。かっけーじゃん。」
「私っ、レオ君の前バージョン持ってます!要りますか!?」
「まじ、?要るっいるいるいるっ!くれんの?」
「ぜひっ。」
お願いです何も告げないでください。
これ以上踏み込まないから、 何も聞かないから、
傍に居させてください。
わたしだってプリンセスに憧れる女の子。
どこにでも居る普通の女の子。
その女の子が夢を叶えるまでのお話。
プリンセスが大好きな女の子は、ある日こんなことを思います。
「わたしにもこんな素敵な王子様が迎えにきてくれる日があるのかなぁ」
もういない貴方の部屋でベットに寝転びながら、目を閉じた。貴方の部屋は本が積み重なっていて、少し埃っぽい。本の話をする時の貴方はキラキラとしていて眩しかったのを覚えている。そんな本の虫な貴方に、私があげた香水。ウッディ系の落ち着いた、貴方の雰囲気にぴったりだと思って買った香水。あまり嬉しそうではなかったけれど、この部屋に漂う本とは違う木の香りによく使っていてくれたことがわかり嬉しさが込み上げた。暖かな光と積み上がる本、そして香水。あと足りないものは、貴方だけ。貴方が居た痕跡はこんなにもあるのに肝心の貴方だけがいない。どこに消えってしまったのか。いつ帰ってくるか。この匂いが消えてしまわないよう、私はまたここに来る。貴方とお揃いの香水を纏って、貴方がくれた合鍵で。貴方の痕跡を確かめるように、少しだけ大きく息を吸った。
#香水
郵便受けを覗くと、届いていた。
とても丁寧な字で私の名前と住所が書かれている。
封筒からは少しのバニラの香りが漂う。
ウキウキで2階の自分の部屋まで駆け上がる。
丁寧に開封すると今まで微かだったバニラの香りが強くなる。彼の匂いだ。
封筒には購入したアクキー10個にお礼の手紙、おまけにサインまで同封してある。これだからオタクは辞められないんだ。
私の推しはいわゆる新人歌い手だ。チャンネル登録者は3桁、フォロワーも最近やっと1000人を超えたところ。配信の同接は良くて10人くらい。正直に言えばそんなに人気はない。
でもだからこそファン一人一人を大切にしてくれる。今までにも何人か推してきたがこんなに素敵な推しと出会ったのは初めてだ。彼が最初で最後だろう。
同じ匂いになりたくて使っている香水をDMで尋ねてみる。
すぐに返信が来た。即購入した。
学校へもおでかけの時も家にいる時もその香水を身につけた。
友達に推しと同じ匂いなのだと言うと「気持ち悪いな」と冗談交じりに笑われた。「推しとか手届かない人間追ってないで彼氏でもつくりなよ」だって。
手が届かないなんてそんなのはわかってる。推しとワンチャン繋がれるんじゃないかとかそんなバカみたいなことも考えてないよ。高校生の私なんて繋がったってきっと遊ばれて終わり。でもほんのちょっとだけ夢見てたい。
香水の何がいいのか分からない。
嗅いだら気持ち悪くなる
女の嗜み?
オシャレ?
身だしなみ?
くだらないことばかりで「女」を押し付けるな。
嫌いなもんは嫌い。
怒らずに聞いてください
いいですか?
ファブリーズは香水ではありません
消臭剤です
リセッシュもです
だからそれを手首に付けるのはやめましょうね
あの時の貴女も、今の貴女と同様、進んで香水をつけるような方ではありませんでした。着るものもあまり頓着せず、化粧のようなことなど以ての外、という様子でした。
けれど、こんなことを言うのは憚られますが、あの時の貴女からは本当に芳しい香りがしたのです。女ならば何でも、という気分でいた俺は、その香りと貴女の肌の柔さにすっかり夢中になってしまいました。花とも果物とも違う、けれどどこか甘いような、そして懐かしくとても落ち着くような、そんな香りでした。
今、貴女にあんな狼藉を働くわけにはいきません。
それでも、時折それを夢想してしまいます。あの時のように、貴女をこの腕の中に閉じ込めて、貴女の柔らかい肩口に顔を埋め、今の貴女の匂いを胸一杯に味わいたいのです。
そんな不埒な妄想にふける俺を、貴女は許してくださるでしょうか。
「香水付けてる……?」
私が聞くと彼は頷いた。
香水を付けることに反対はしていないけど、少しだけ背伸びした彼に驚く。
香水を纏った彼は普段よりも大人な雰囲気でなんだか彼じゃないみたい。
今までの私たちの思い出も飾り付けられているようで
少しだけ寂しくなった。
#香水
高校世界史。普仏戦争。フランス第二帝政が崩壊し、ドイツ帝国が樹立された。ドイツ皇帝の戴冠式が行われたのは、ヴェルサイユ宮殿、鏡の間。ドイツ帝国の樹立と同時期にイタリアの統一がなされる。なぜなら普仏戦争で負けたフランス軍がローマ教皇領から撤退したから。
明日のテストに向けた居残り勉強。高校で世界史を選ぶ生徒は少なく、一学年300人、うち160人が文系のこの高校でも、世界史を選んだのはたったの6人。うち4人が女子であり、世界史の授業で男子は圧倒的なマイノリティである。
色白、細身、銀縁メガネ、図書委員の裕一郎と日に焼けた肌、マッチョな体格、ラグビー部の紘也。普通だったら交わることのない2人だが、親しくなるのに時間はかからなかった。なにせ、希望者のほとんどいない世界史を選ぶ変わり者である。
2人とも興味もそこそこに面白半分で、2年の終わりの社会科科目希望調査で世界史探究に丸をつけた。なにせ毎年希望人数が少なく、開講基準の10人を下回ると聞いていたから、希望したところで実施されないだろうと思っていたのだ。それなのに、たまたま今年度赴任してきた教師が世界史を専門としていたから、例外的に開講されてしまった。
共通テストまで1年もないのに先史時代から21世紀まで学ぶ無茶苦茶なスケジュールも、Xデーまであと4ヶ月。少人数なのを良いことに飛ばしたペース進められる授業により、2学期中間テストの範囲はナショナリズムまでである。期末テストで帝国主義、植民地化、世界大戦、戦後をやるのだろうが、これらは歴史総合とも被っている範囲だから、多少の余裕が生まれているとも言える。
「いつも絵を見て思うんだけどさ」
資料集を見ていた裕一郎がつぶやきに、単語カードを捲っていた紘也は手を止める。
「ヴェルサイユ宮殿、めちゃくちゃ臭かっただろうな」
「……は?」
裕一郎の発言は用語とも歴史の流れとも全く関係のない内容で、紘也は思わず間抜けな声を上げた。
「絶対臭かったと思う」
「いや、待って、いきなり何。俺なんか今日臭う?」
「なんでそっちに思考が飛ぶの?絵を見てって言ったじゃん」
「そうだけど。いや、なんで?どういう思考でヴェルサイユ宮殿が臭いって話になるの」
時々、真面目そうな顔で——否、本人は至って真面目なのだが——周りからすればぶっ飛んだ発言をするのが裕一郎だ。エリート風味の優男な見た目なのに彼女がいないのは絶対こういうところが玉に瑕なんだろう、と爆弾発言が出るたびに紘也は思っている。
「いや、姉ちゃんが最近フランスに行ってたんだけど」
「あぁ、うん。それって大学生の姉ちゃん?」
「そうそう。短期留学で3ヶ月。結婚した方の姉ちゃんは名古屋にいる」
裕一郎は3人姉弟の末っ子ゆえ、家族の話題になるとよく姉2人の話が出てくる。しかし紛らわしいことに裕一郎はどちらも「姉ちゃん」としか呼ばないので、どちらの姉の話をしているのか確認しておかないと、前情報との齟齬が起きて紘也の頭が混乱する。
「OK。で、なに。ヴェルサイユ宮殿行ったの?」
「それはまぁ、行くよね。そこでの詳しい話は帰り道にする。ここじゃスマホ出せないから。でも、今言いたいことは別に宮殿で何かあったってわけじゃなくって、その道中」
「道中。そもそも行き方がわからん」
「パリからだから鉄道で行く。で、その鉄道。真夏に行ったらしいんだけど臭いがやばいんだって。たまたま姉ちゃんが乗ったところが悪かったのかもしれないけど、汗、体臭、腋臭、それから香水の匂いが混じって、車の中で本読んでも酔わない姉ちゃんですら気分悪くなるくらい臭かったらしい」
「へぇ」
「ピンと来ない?」
裕一郎がニヤッと笑って首を傾げる。紘也は眉を顰めた。集中力が切れたからなのか、腹が減ったからなのか、頭が働かない。
「……何にピンと来たらいいの?」
「ヴェルサイユ宮殿が臭いってこと」
「あぁはいはい、ってならないよ。説明」
「フランス人ってあんまり風呂に入らない、というか、姉ちゃんが言うにはシャワー浴びても頭洗わないことがあるらしくってさ。あと、服の洗濯頻度が低い。加えて、一般的にアジア系よりヨーロピアンもアフリカンも体臭とか腋臭とかキツイらしい。まぁ、この絵の時代だとヴェルサイユ宮殿に入れるアフリカンはほとんどいないだろうけどさ……」
「まぁ、植民地化はもうやってるから兵士にはいるけど」
「そうだね。で、そもそも香水って単体で嗅げばいい匂いだけど、混ざると臭いじゃん。香水じゃないけど、体育の後の教室とかさ」
「それはわかるけど……あ、そういう?」
やっと言いたいことがわかったと紘也が軽く首を振れば、裕一郎は満足そうに頷く。
「そもそも香水って体臭消しとして発展してきたもののわけ。とはいえ消せるレベルに限度はある。そりゃ、昔はこの夏みたいには暑くなかっただろうけど、人間、生きていれば何かしら体臭はあるし、汗かくし、うっかり服汚したりもするし。消せない悪臭と香水、しかも数種類混じったのを想像したら……」
「ウゲェ……」
「トイレとかも整備されてないしね。18世紀が舞台だけど、パトリック・ジュースキントの『香水』でもパリは悪臭の街として書かれてるし……まぁ、今も場所によっては悪臭の街らしいけどさ。少し離れているとはいえヴェルサイユも例外じゃないと思う、宮殿が使われている時代なら特に」
「なるほど。今回は割と妥当な話だった」
「ちなみに、姉ちゃん、電車の中での出来事があまりにもトラウマすぎて、香水買って帰るって言ってたのに一瓶も買わずに、むしろデオドラント買ってた。姉ちゃんから臭いしたことないのに」
「そっか」
「香害のヤバさを知った、香水なんて公共の場でつけるもんじゃない、とかなんとか」
「よっぽどだったんだな……」
紘也と裕一郎は顔を見合わせて苦笑いする。従業員の制服の柔軟剤の匂いですら揉める日本だ。香気も臭気もない空気で育った鼻には耐えられない臭さだったのだろう。
「俺たちが香水を使う日、来るのかな」
紘也は言った。ファッショナブルと言われるほど見た目に頓着しているタイプではない、というよりかは洒落た服には身体が入らないのでオシャレのしょうがないのだが、その分アクセサリーだとか、香水だとか、身体のサイズが関係ないものには興味があった。
「いやぁ……どうだろう。女の人だとつけてるかもしれないけど、男で香水つけてるのってホストくらいじゃない?」
「イメージ的にはそう」
「僕は姉ちゃんを泣かせないように、無臭になるよう努める気だけどね」
「下手に匂うよりは無臭が良いか」
「多分」
紘也が自身のリュックサックに視線を向ける。裕一郎も少し体を曲げて紘也の視線を追う。サイドポケットには黄緑色のシーブリーズが刺さっている。
「……無香料、買おう」
「それが良いよ」
香水
「いいにおい。ままのにおい。」
夜寝る前のベッドの中。
最近しゃべり始めた娘が覚えたてのたどたどしい日本語でそう言った。
「ん?シャンプーの匂い?」
さっき一緒に入ったお風呂で付いた匂いかな?
そう聞くと、「ちがーう」とふるふる首を横に振る。
ぷにぷにの腕を私の首に絡ませ、小さな鼻先をうずめてくる。
「ままのにおい。あまーいにおい。」
くんくんくん
ずいぶん前から始まった夜寝る前の二人の儀式。
「ふふふ。わんちゃんみたい。」
私はふわふわの柔らかな娘を壊さないよう、そおっと抱き寄せた。
「わんわんわん。」
子犬になった娘の背中を優しく優しく叩いてやる。
とんとんとん
「わんわんわん。」
とんとんとん
「わんわんわん。」
じゃれつく子犬はなかなか寝ない。
私は母犬。辛抱強く、
とんとんとん。
とんとんとん。
とんとんとん。
「………………。」
ひとしきりふざけて遊んで静かになった。
娘にしか分からない私の匂い。
「それはどんな匂いがするのかな?」
寝息を立てる娘の柔らかな髪を梳(す)いてやりながら私は聞く。
もちろん返事はないけれど。
それはきっと、小さな可愛い怪獣を夢へと誘(いざな)う、魔法の香水なのだろう。
お題
香水