いと

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郵便受けを覗くと、届いていた。
とても丁寧な字で私の名前と住所が書かれている。
封筒からは少しのバニラの香りが漂う。

ウキウキで2階の自分の部屋まで駆け上がる。
丁寧に開封すると今まで微かだったバニラの香りが強くなる。彼の匂いだ。
封筒には購入したアクキー10個にお礼の手紙、おまけにサインまで同封してある。これだからオタクは辞められないんだ。

私の推しはいわゆる新人歌い手だ。チャンネル登録者は3桁、フォロワーも最近やっと1000人を超えたところ。配信の同接は良くて10人くらい。正直に言えばそんなに人気はない。
でもだからこそファン一人一人を大切にしてくれる。今までにも何人か推してきたがこんなに素敵な推しと出会ったのは初めてだ。彼が最初で最後だろう。

同じ匂いになりたくて使っている香水をDMで尋ねてみる。
すぐに返信が来た。即購入した。

学校へもおでかけの時も家にいる時もその香水を身につけた。
友達に推しと同じ匂いなのだと言うと「気持ち悪いな」と冗談交じりに笑われた。「推しとか手届かない人間追ってないで彼氏でもつくりなよ」だって。

手が届かないなんてそんなのはわかってる。推しとワンチャン繋がれるんじゃないかとかそんなバカみたいなことも考えてないよ。高校生の私なんて繋がったってきっと遊ばれて終わり。でもほんのちょっとだけ夢見てたい。

8/30/2024, 3:51:10 PM