『飛べない翼』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
飛べない翼
当然のように使っているこの翼は、ただ滑空するだけの偽物だ。再び飛び上がることも、複雑な動きをすることもできない、飛べない翼。まるで俺みたいだ、なんて笑った日があった。昔は飛べたのだ。ここに来る前、揃いの蜂蜜色と2人で肩を並べていた頃。もう結構経っちゃったな、なんて、見上げた空は変わらずの澄んだ群青色で、それすらどこか白々しい。この話題になると、誰かしらが悲しそうな顔をする。相棒なんかその筆頭だ、その顔も可愛いのだけれど。
ぐっ、と。思いっきり伸びをした。いつからかの、気分転換のルーティン。気分が上がるかと言われれば否だが、多少暗い思考を外側に沈めておける。
いつだったか、とある神様が言っていた。兄弟というのは、血縁でも何でもなく、それ以外の何か不可思議なもので繋がっているものだと。双子であるのなら尚のこと、と優しく笑って付け足して、何事も無かったように世間話に戻っていった。
そうなのだろうか。信じていいのだろうか。もう会えないかもしれない、なんて、月の下でひとり涙に濡れた日も、諦めようと無理やりに笑った日も。そういう努力全部が、水の泡になってくれやしないだろうか。
今日も変わらず朝日は昇って、心地いい風に背を押されるまま歩き続ける。ひとりでなくてよかった、なんて隣を見れば、何も知らない非常食はわけも分からず笑うのだ。それにつられて笑うまでが、いつもの僕ら。
穏やかで平和な、無為の時を愛してしまった、薄弱な自身へ。止めない足が一種の諦めだとしても、それはきっと、あるべき虚無だと信じている。
テーマ飛べない翼
君は飛べない翼を
ジャンプ力に変えた
暗闇を見通せる瞳
鋭い爪鋭い牙
最強のハンター
ごろごろと鳴る喉
くりくりの瞳
ぷにぷにの肉球
もふもふの毛並み
最強の癒し
飛べない翼
隣のクラスのつばさちゃんは、空を飛べないらしい。
四年生になって始まった「高飛び」の授業で、それが発覚したんだって。そういう人も一定数いるっていうのは知っていたけど、そんな身近にいたとは思わなかった。
みんな、つばさちゃんをいじめるようなことはしなかった。飛べなくたって、つばさちゃんはつばさちゃんで、ただあまり遠いところへ出かけるのは避けるようになったって。
でもその優しさが、つばさちゃんを苦しめた。
ある日の授業で、つばさちゃんは誰よりも高くジャンプした。三階の教室の窓からも見えるくらい、高く高く。そしてそのまま頭から落ちて、動かなくなった。
中学生になって、高校に通って、大学生になった今でも、つばさちゃんのように飛べない人に会ったことはない。ひた隠しに隠しているだけかもしれない。
わたしみたいに。
飛べないつばさちゃんにわたしができたことは、きっと……。
僕の翼は
無気力の骨に
罪悪感の羽をしている
『飛べない翼』
飛べない翼
この時期、空を見上げると
鳴きながら列を連なって綺麗な白鳥が🦢新たな場所へと向かって空、高く飛んでいる、何とも言えぬ美しい光景である、たまにドライブで農道を走っていると畑で何百羽の白鳥が翼を降ろして休憩している風景も、また絵になるような綺麗な景色である時には、怪我をしているのか飛べずに1羽が、ひっそりと枯れ木に隠れて身を潜めている子も居て早く回復して仲間達と空高く飛べる様に元気になって欲しいなと思いを残す。また鶴のご夫婦も畑で見かけたりする
2羽が仲良く一緒に寄り添っている姿も美しい自然の中で出会う生き物は、美しいな
飛べない翼を持つ鳥も、果てしない大空を翼を広げて飛んで見たいと思っているのだろうか…私も何もかも忘れて飛んで行きたい果てしなく大空へ…天高く~
飛べない翼
地上が息苦しかった。何度も大きな翼を持った鳥のように空を自由に飛べたなら、何も考えずに生きることができたなら、どれだけ救われるだろうって。君もそうだろうか、笑うだろうか。期待も今に残ってしまって、もう一度大きく息を吸う、さよならを吐き出す前に。
飛べない翼
空の下を征く
この限りない大地で
立ち塞がる敵を討ち倒し
遥か先に広がる地平線を目指す
我らは人の子
この地に生まれ、根差し
幾多もの苦難を歩み
乗り越えてきた
空を行く鳥に有らず
大地を駆け抜ける者なり
土を踏み締めるこの足に、脚に
誇りを持って生きている
翼などいらない
眩しい陽射しが降り注ぐ中、今年産まれた3羽の息子たちは無邪気に飛び回っている。
片翼が小さく産まれたミカキも上手に空を飛べるようになった。兄弟との競争にも負けていないようだ。そんな子どもたちを見て父親のバトは嬉しく思う。ただ、それは平坦なこの地だからである。
渡りの時には一日中飛び続けなければならない。それも何日も。さらにその後には最大の難所であるヒマラヤ越えが待ち構えている。
ミカキに山を越えらるのか。それができなければ、ミカキとふたりでこの地で冬を越すか。ここの冬は過酷であると聞く。食べ物もなくなり、凍てつくような寒さの中数ヶ月を過ごさなくてはいけない。
自分一人では結論が出せないと判断したバトは群れのリーダーであるタングに相談に行った。
タングも同じようにミカキの事を心配していたようだ。タングは参謀の一人であるナムゲルを呼んだ。ナムゲルの飛行には力強さがある。ナムゲルの元で飛行術を学んではどうかとタングは提案した。
その夜、バトはミカキにその話をした。
「ボク、ひとりで?」
ミカキは不安そうにバトに聞く。
「ミカキが行くなら、僕も行くよ」
そばで聞いていたリグジンが大きな声で言う。
「僕も修行したい!」
ジグメも負けずに言う。
「お前たちは食べ物を集めたりする必要がある」
なんと優しい息子たちだろう。
「わかった。じゃあ、ジグメと僕は交代でいこう。ミカキとジグメが修行している日は、僕がみんなの食べ物を集めてくるよ。次の日はミカキと僕が修行するから、ジグメが食べ物を集めておいてよ」
バトはその事をナムゲルに話に行った。ナムゲルは
「おやおや、弟子がいっぱいになるな」
と嬉しそうに言った。
「ただ、ひとりでふたりを見るのは少し大変なので、バトもきてくれるかい?」
ナムゲルは数年前、息子を山越えの時に亡くしていた。そのため、ナムゲルにとって若鳥を無事に山を越えさせると言う事は息子への弔いであり、宿命のように感じていた。
翌日からナムゲルによる飛行訓練が始まった。
訓練は2つ。長距離の飛行と高度の飛行だ。
初日はジグメとミカキが参加する。
まずは平坦な地で長距離飛行の訓練からだ。
「ゆっくりでいい。出来るだけ長く飛んでみよう」
ナムゲルに続いてミカキ、ジグメ、最後にバトが飛ぶ。ゆっくりと湖の周りを何周もする。
「もう疲れたよ」
先に音をあげたのは、ジグメだった。
「ははは、じゃあ少し休憩だ」
ナムゲルは笑いながら高度を下げ、草地に降りる。
「ミカキは上手く力を抜いて風に乗れている。同じ速度で飛べるのも体力を温存するのに素晴らしい。ジグメは速度が一定ではないから、加速するのに余計な力がかかって疲れてしまうんだと思うよ」
〈中途〉
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お題:飛べない翼
昔は飛んでいたのに。
結婚してから飛べなくなった。
𓏸𓏸さんちの嫁、夫の妻、子供の母…
いろいろなしがらみと、時間の制約ばかり。
翼はあるのに、飛べないんだ。
こんな風に思うということは、私の結婚自体、失敗だったのだろう。
「結婚したって飛べる人は飛べる」
それを娘にも伝えなければいけなかったのに、
私の結婚生活の苦しいところばかりを見ていた娘は
「結婚は悪」
という考えに育ってしまった。
自分で自分の翼を折ってしまった。
私はまだ飛べるだろうか。
子どもの頃から動物園が好きだった。図鑑で見た動物を探し、自分の目で見て、その動物の絵を描く。中学生になったら、デフォルメしてキャラクターみたく描けるようになった。
同級生に頼まれれば、そいつの顔と好みの動物をマッチさせた似顔絵を描くこともできた。それぞれの習性も頭に入っていたから、特徴をオリジナルの技名でカッコよく演出できたりもした。
三十歳も間近に迫った今も、僕はキリンの檻の前にいた。この園で一番大きいマサルの首から上を何度も目でなぞっていた。
マサル、お前の目から見える景色は、どんなだ?
高校2年の時、動物たちの絵をキャラクターにして、少年漫画の新人賞に応募したら、佳作を取った。作品は月刊の増刊号に掲載されて、担当編集を付けると言われた。
高校を卒業したら大学に行かずに漫画を描いた。担当は「君ならやれる」「たくさん描けばもっと上手くなる」と僕を励ました。でも佳作以降、一度も雑誌に掲載されることはなかった。
ぼーっとしながら歩いていたら、エミューの檻の前に来ていた。翼を持ちながら、飛べない鳥。
翼があるって言われながら、ずっと飛べないなら、初めから翼なんか持ってなければ良かったのかもな。
あーあ、そろそろ諦めるかー。
「とりなのにおそら、とべないの?」
向こうで見ていた親子連れの声が聞こえる。見ると子どもは手に風船を握っていた。
そうだよ。いくら絵が上手くても。
「エミューさん、かわいそうなの?」
そうだよ。かわいそうな漫画家だよ。
「とべなかったら、ふうせんをくっつけたら、とべゆんじゃない?」
風船ひとつ付けたぐらいで、飛べるわけ…
「ひとつじゃだめだったら、いっぱいくっつけたら、いいよ。いっぱいくっつけたら、ふわーってなるんだよ」
…子どもは無邪気だな。いっぱい風船くっつけて。ひとりじゃダメでも、誰かとなら、か。
担当編集に呼ばれ、打ち合わせのため出版社まで出向いた。さすがに自分でも覚悟はできていた。でもどうせなら最後まで足掻いてやろう。
小さな会議室に通され、少ししたら担当が入ってきた。担当はすでに申し訳なさそうな、引きつった笑いを浮かべている。心臓が高鳴りはじめる。ここまで来て逃げてはダメだ。
「わざわざ来てもらってすまないね。ありがとう。話っていうのは…」
先に言われたらここで終わってしまう。先手を取らないと。
「その前に、僕からひとつだけお願いがあります」
担当の曇っていた表情が驚きに変わる。
「…わかった。どうぞ」
いざ口を開けると、それは自分の口から、漫画家であることを辞める宣言なのだと気づいた。
「原作者を付けてほしいんです」
口にしてみると、不思議と悔しさはなかった。
「そ、それは、君の希望、と、捉えていいんだね?」
担当の声は戸惑いと少しの興奮を帯びていた。
「え、あ、はい。その、自分でストーリーを書くのは、限界かなと、思っていて、でもやっぱり絵は捨てたくない、と、いうか…」
「実は今日、私から伝えたかったのはそのことなんだ」
担当は早口でしゃべりはじめた。
「君の作画で漫画を描きたいっていう原作者がいてね。向こうの編集から企画を見せてもらったら、間違いなく君の絵がピッタリだったんだ!」
僕は驚きで声を出すことができず、エサを求める鯉のように口をパクパクさせた。
「作画を、やってくれるかい?」
僕は飛んできた風船をジャンプして握りしめた。
「はい、よろこんで」
#飛べない翼
コウノトリが僕の弟を連れてきた。
丸々とした綺麗な赤ん坊だが、背中に翼が生えている。
「おやおや、またか…」
「メリッサは優秀な魔女だし、彼女のキャベツ畑は素晴らしいんだけど…」
そう言って、両親は苦笑する。
どういうこと?と尋ねると、父さんは笑いながら僕の髪をかき混ぜた。
「お前の時なんて、立派な尻尾がついてたんだぞ」
優秀な魔女のメリッサには一つだけ困ったところがあって、とにかく惚れっぽいのだそうだ。
昼も夜も恋人を想っているので、それがうっかり魔法に映ってしまう。
僕がやって来た頃は、逞しい灰色狼の若者に恋していて、赤ん坊にはみんな三角の耳や尻尾がついていたらしい。
弟の翼は真っ白だから、メリッサの今の想い人は、さしずめ美しい白鳥の精だろう。
赤ん坊に宿った彼女の恋心は、一日で消える。
この素敵な翼は今日だけなんだな…と、僕はまるで天使のように見える弟をそっと撫でた。
飛べない翼
翼が飛ぶためのものだと思うから
飛べない翼は欠陥のあるものに感じる
でもその翼は
自分を守るものなのかも
何かを集めるためのものかも
もしかしたら
飛ぶためのものではないのかも
眠りにつく前に見る鏡の中の自分が哀愁を誘う。
何も考えず横たわり、一日を静かに終える。
朝になり、カーテンの隙間から一筋の光が差す。
今日は薄曇りに柔らかい雨が降っている。
少し前まで一緒に過ごしていたあなたとわたし。
とても長い時間。
あまりにも普通に終わってしまった。
まるですべてが意味がないことだったみたいだと脳裏に浮かぶ。
道路向こうの川べりのススキは柔らかな雨と日差しを受けている。
こんな歳から何をするっていうんだ。
飛べない翼。
いやそんなものそもそもないか。
跡形もなく抜け落ちてる気がする。
後の人生をどう過ごすのか。
もうすぐ枯れ野原となるだけだろうススキ野を、ただ見つめる。
140作突破記念
「飛べない翼」
前回 11/2 130作目。
10作ごとぐらいにしている。
これまでのタイトルを並べて繋げたもの。
内容は続いていない。
インターバル的なもの。
お題『飛べない翼』
ある日、怪我をして飛べない白い小鳥を見つけた。
なんだか痛々しそうで思わず連れて帰って消毒液を塗って、包帯を巻いてあげた。
それからしばらく一緒に過ごしたと思う。鳥かごを買おうとしたら嫌がったし、鳥の餌を買おうとしたらつつかれて、人間の食事を好んだっけ。
とにかく仕事で疲れている僕の癒しになったことは確かだ。
何日か経って、小鳥は窓の外を見つめるようになった。
「どうしたの?」
と聞いたとたん、眩しい光が部屋にあふれて気がつくと僕の目の前に白いワンピースを着た少女が立っていた。少女の背中には真っ白な翼が生えていた。
「君……」
「今までたくさんお世話してくれてありがとう。楽しかった。でもごめん、戻らないと」
そう言って女の子は翼を広げ、光さす空の方へ飛んでいった。
とつぜんのことに呆然とした僕はなにも言えず、ただ空を見上げるしかなかった。
大丈夫!
出来るように
なるから!
励まして
くれている
けれど
そうだよね!
出来る
出来る!
と前向きに
なれない。
自分が
他人より
不器用なのは
よく
知っているから。
あなたは
出来ても
わたしが
必ず出来る
なんて
保証は
どこにもないんだ。
#飛べない翼
目に見えて傷がついているのならばきっとお医者様に治して頂けるに違いない。
そうではない、表面上は美しく立派な翼がそこにはある。
これを診てもらったとて、「特に問題なさそうですね」と一言いわれて終わるだけなのだ。
私の心が囚われている、あの人に。
今日も空は雲一つない美しいブルーで満たされているというのに。
きっとこの大空で翼をはためかせたら気持ちが良いだろうなあ、全てのことから解放されるだろうなあ。
嗚呼、あの人の足音が聞こえてくる。
逃げられない、私はこれからも永遠に。
どうせもう飛べないのなら、この命を賭けても良いと思った。願いは貴方が笑顔で生きていってくれる事だけだったから。
身勝手だと分かっていたけど。それでも、僕の事なんかより貴方自身を大切にして欲しかった。あぁ、この言葉、そっくりそのまま返されちゃいそうだなぁ。
貴方が褒めてくれた空を駈ける翼は、もう折れてしまった。それなのに愛しそうに撫でてくれるから。ずっと忘れないでくれるから。正しさなんてどうでも良くなって、ただひたすらにもっと飛びたいと願ってしまう。
また貴方に触れて、話して笑い合って。綺麗な世界を一緒に生きたいと。
君には敵わないや。例え叶わない願いでもずっとずっと願い続けるよ。
『飛べない翼』
翔べない翼は生えかわった。今、空から下を見ている。
ある日、にわとりだった僕が鷹になったんだ。
翼はしなやかでおおきく広い。
植物の実を啄み、柿を食べた。
旨かった。
夢の世界へ行ってみたい
夢物語のような世界に行くために
普段の翼では
行くことはできない場所
それには
さらなる翼の改良が必要となる
今までに培ってきた
翼への知識の見直し
設計図を描き
調べながら
試行錯誤を繰り返し
それでも
まだ現在でも成功はしていない
さらなる高みを目指し
翼への想いに乗せて
日々奮闘する
いつか
いつかきっと
長年の夢を現実の世界で
実現できるまで
決してあきらめない
自由の羽を広げること。
それは、両翼の先にいる誰かを傷付けうること。
あの澄みきった大空に思いを馳せ、人々は謳う。
自由を求め、自由を愛そう、と。
長く監獄にいた。
それはきっと、誰が犯人でもよかったであろう罪。
「僕がこの世に生を受けたことは、きっと罪なのだろう」
そう言って、自分を、この世界を呪った。
僕の姿に同情こそすれど、救おうとする者はいない。
僕をめぐって、世界中が議論した。
それでも僕の今日は、明日は、その先は、檻の中。
羽の生えた赤子。
そのニュースは、たちまち世界を震撼させた。
鳥でもない。人間でもない。
どちらの種からも仲間はずれの僕。
これは祝福を受けて生まれた天使か?
それとも人間に擬態したおぞましい悪魔か?
これまでの人生の半分を実験体に費やして
もう半分は見世物として世界中で展示された。
今日はサーカスの一幕に呼ばれたらしい。
観客の歓声や悲鳴を聞くたび、心底感情が冷えた。
劇団長にマイクを向けられた。
インタビューに答えろ、という無言の圧力。
「……『今まで皆さんは散々、この翼を作り物だ、飾りだと言ってきた。でもそれは違う。僕のこの姿は、自由を求め、自由を愛するためにある“本物”なのです』」
台本通りのセリフ。芝居がかって大袈裟に泣く劇団員。
全てが嘘で塗り固められた、この舞台。
唯一“本物”であるのは、この憎い立派な翼だけ。
「――自由の羽を広げること。
それは、両翼の先にいる誰かを傷付けうること」
舞台裏で、どよめきが聞こえた。
従順だった僕が突然台本を無視したのだから、当然だ。
僕はお構い無しに、勢いよく両翼を広げた。
ほんの瞬く間に、近くの団長と劇団員の首が飛ぶ。
観客は演出だと思ったのか、席を立たなかった。
劇団員が血相を変えて逃げる様子でようやく異常事態に気がついたようで、一拍遅れて大パニックに陥る。
研究施設から解放されて以降、僕は足先に生えている猛禽類に似た鋭い爪を集めて、大量に羽裏に縫い付けた。
未練がましくとも、望みがどんなに薄くとも。
僕もあの澄みきった大空に、思いを馳せていた。
長年しまい込んできた、この翼。
今この瞬間、反逆の咆哮をあげている。
無駄な賭けかもしれない。
それでも自由を求めずにはいられない。
――僕のこの愛おしき体は、飛べない翼じゃない。
2024/11/11【飛べない翼】