『遠くの空へ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「遠くの空へ」
あの空の向こうで繋がってるんだろうか
同じ空を見ているんだろうか
今何をしているんだろうか
叫んだら届きやしないだろうか
遠い遠い向こうの君へと想いを馳せる
カウントダウン
エンジン燃焼開始
リフトオフ
SRB-3分離
衛星フェアリング分離
第1段エンジン燃焼終了
第1段・第2段分離
第2段エンジン第1回燃焼開始
第2段エンジン第1回燃焼終了
衛星分離
…小さな星の前途に幸あれ!
: 遠くの空へ
雨音が、遠くの空へ向かって走り去る。
厚塗りされた灰色の空を見上げる、その物憂げな横顔から目が離せなかった。
スクランブル交差点の歩行信号は、強制的に人々の歩みを止めている。
同じように立ち止まる彼女の隣に俺も並んだ。
「好きです」
「ごめんなさい」
口から溢れた唐突な告白を、彼女は間髪入れずに一蹴する。
横顔のラインが崩れることなく、長い睫毛が揺れることなく、黒い大きな瞳が動くこともなかった。
周りの人々にならうように、彼女はさしていた傘を閉じる。
傘紐をキツく締めたあと信号が青に変わった。
人々に紛れて、彼女は青信号に吸い込まれていく。
結局一瞥もされないまま、俺は彼女を見失ってしまった。
*
あれから約3年が経つ。
スクランブル交差点の歩行信号は赤を示したばかりだ。
鮮やかな夏の色と同化するためには、まだ1分ほどかかるらしい。
人の視線は常に携帯電話を向いており、車やバイクのエンジン音はイヤホンで塞いでいた。
ぎゅうぎゅうと信号待ちをする人で溢れ返り、自然と縮まった彼女との距離を利用する。
「好きです」
「え……」
つぶやいた言葉のせいで、信号を見つめていた彼女の瑠璃色の瞳が俺に移った。
あのとき、横顔しか見せてくれなかった彼女が俺を真っすぐ見上げている。
長い睫毛が小刻みに揺れて、大きな瑠璃色の瞳は熱を帯びた。
「……きゅ、急に、なに?」
顔を逸らしてと色づく頬を隠したが、耳が真っ赤に染まっている。
「いえ。ここであなたに告白したことを思い出しまして」
「こんなところで?」
身に覚えがないと言いたそうにしながら、人で溢れたスクランブル交差点を見渡す。
「……いくらなんでも、見境なさすぎじゃない?」
「どうせ振られるならどこで告っても一緒かなと思いまして」
「なにそれ。雑すぎ……」
事実、俺は容赦なく彼女に振られる。
当時の彼女は俺の告白など噛み締めてすらくれなかった。
「あのときは質よりも量が適切だと判断しました」
押しに弱い彼女をなし崩すには、シンプルな言葉と数と勢いだ。
「そのおかげで、しっかり絆されてしまったでしょう?」
「う……」
身に覚えしかないのだろう。
悔しそうに唇を尖らせた。
その場しのぎの駆け引きは時間の無駄だし、ふたりきりの食事やデートに誘う隙を、心を閉ざした彼女は与えてくれない。
彼女にはひたすら好意のみを伝えて、水面下で牽制しながら周りを囲っていった。
「それで、返事はくれないんですか?」
「意地悪……っ」
毎日のように口説き続けた結果。
今ではこうして真っ赤になって、彼女は俺に動揺してくれるようになった。
彼女は俺を受け入れてくれる。
求めたら求めていたこと以上を返してくれるから、余計に彼女への想いを拗らせた。
「……そんなの、聞かなくても知ってるクセに」
「ふふ。そうですね。すみません」
拗ねたように再び顔を逸らして彼女は空を見上げた。
今日も鮮やかに夏空は光っている。
「好き……」
遠くの空へと放り出された飾り気のない感情は、優しく頬を撫でる風のように柔らかく俺の耳に届いた。
囁きよりもか細い声だっのにの関わらず、彼女の素直な気持ちに、激しく胸を揺さぶられる。
相変わらず……。
この喧騒に紛れて俺が聞き逃していたら、放った気持ちをどうするつもりだったのか。
最悪の可能性が頭をよぎったから、ため息と一緒に吐き捨てた。
「……どうせなら、こっち見て言ってくださいよ」
「……さすがに、むちゃ言わないで……」
信号が青に変わる。
いたたまれなくなったのか、彼女は夏の鮮やかな空に向かって横断歩道の白線を跨いだ。
人混みを器用に避けていく彼女のポニーテールは、しおしおと気恥ずかしそうに垂れている。
俺は息を溢して、そのポニーテルのあとを追いかけた。
『遠くの空へ』
遠くの空へ、ミサイルを撃ち込む。
同じ空の下なのに、国境という見えない線を越えて。
話す言葉が違う。
肌や目の色が違う。
確かなことはひとつ、同じ人間であるということ。
だが、ミサイルは相手国へ着弾する。
そして、破裂し、燃え尽き、死をばらまく。
遠くの空へ、物資を届ける。
命の糧となる食べ物や衣服、医療品から住居まで。
それは思いやり。
そして、切なる願い。
確かなことはひとつ、生きるために生まれてきたこと。
だから、救済という名の宿命を果たす。
それは、祈り、与え、生を満たすために。
遠くの空へ、思いを馳せる。
それ以上何も出来ずに、安心なるこの空の下で。
過去を振り返る。
惨たらしい現実を知る。
確かなことはひとつ、繰り返してはいけない歴史があること。
ただ、それを守り抜く術は未だに霧の中。
そして、訴え、言い争い、互いの正義を振りかざす。
戦後80年。
この国に関して言えば、の話。
戦争は続いている。
いつか、戦後という言葉が、戦前に変わる日が来るかもしれない。
新たな戦いが生まれ、遠くの空から飛んでくるミサイル。
物資も思いも、何の救いにもならないその日が。
その時はきっと、人間の愚かさを憂うだろう。
今、この空を見上げて、想うこと。
この幸せは、当たり前なんかじゃない。
山がずらっと整列し、どこまでも続く青い空。
今日は日頃の鬱憤を晴らすため、山に登り、やまびこをしに来た。
空がいつもより近くて、まるで神様になった気分だ。
息を吸い込み、遠くの空へ向かって叫ぶ。
「たまには家事手伝いなさいよー!バカ夫ー!」
バカ夫~~!バカおっと~~……。
私の叫びが山に響き、何度かこっちへ返ってくる。
う~ん……叫ぶのって気持ちいい!
「最近物価高なのに飲みに行ってるんじゃないわよー!」
行ってるんじゃないわよ~~!わよ~~……。
それから何度か日頃の鬱憤を叫び、気分がスカッとした。
鬱憤の九割が、夫への不満。
「お前の叫びが凄すぎて、圧倒されてしまうよ」
私の叫びを隣で聞いていた夫が、苦笑いしながら言った。
「お前の負担が減るように頑張ってみるか」
「頑張るんじゃなくて、やるのよ」
「はは……厳しいなぁ。今日の家事は俺がやるよ。山登りで疲れてるだろうしな」
夫はそう言いながら、私の手を握る。
私も、夫の手を握り返す。
叫んでスッキリしたし、今日の家事は夫がやってくれるし……。
今日はとっても、清々しい気分だ。
ばっちゃの 昔話ではじまる
あの空は 誰のものでもないこと
ばっちゃが 指差す
雨上がりの砂利の匂いと
夕焼けが混ざる 日常の不思議
ぼくは 今ようやく理解した
ばっちゃが 遺してくれたもの
それは 言葉だけじゃなかった
空と心の「つながり」
その名を持つと知った瞬間
視界に映る世界は
いつもと違って見えたんだ
また 遠い時間の向こうで会えたら
今度は ぼくから話そう
季節の変わり目にある 不思議の数々
どうか あちらで元気でいてください
ぼくの大切な家族 ばっちゃへ
遠くの空で笑う ばっちゃへ
「遠くの空へ」
ラムネの瓶が陽に透けて、青い光を放っていた。私は縁側に腰を下ろし、その小さな瓶を指先で転がした。シュワシュワと微かな音が夏に似合っていた。私の脇には、愛犬のクロが静かに寝そべっている。クロの黒い毛並みは、この世のどんな墨よりも深く美しい。彼は私の気配に安心したのか、小さな鼻先だけが時折ひくつき、残りは夢の国だ。私は瓶の口に唇を寄せて、喉を冷たい泡で満たした。ああ、なんということであろう——この平穏な午後、遠い空の彼方へ思いが飛んでいく。ふと見上げると、雲が流れる。ひとつの雲は、まるで先ほど見たクロの寝姿のようだ。私は思わず笑った。空も地上も、今はやさしく、ひろがっている。人間は時に悩み、時に喜ぶ生きものだが、この瞬間ほどまっすぐに生きようと思うことはない。ラムネの瓶の中のビー玉がコトンと鳴る。その音を聞きながら、私はもう少し、この夏の夢に浸っていたくなった。
遠くの空へ
今日、神奈川県横浜市でヒロアカ声優さんたちが
集まった台詞イベントが開催される
開催されること知っていたけどエントリーするの
諦めた
過去のバンテリンドーム、東京、神奈川、長野県など
いろんなアイドルやアーティストコンサートに参戦した
元々は、芸能人のジャニーズファンだった
過去のバンテリンドームで嵐、関ジャニ∞
コンサートで人混みの中、体調を崩して
2時間くらいバンテリンドームの保健室?で休んで
嵐の生中継ライブのテレビも無く
そのままコンサートが終わってしまったから
それがキッカケなのか、アイドルに幻滅してしまい
アイドルも私と同じ人間だし恋愛結婚する。
アイドルや、芸能人から離れて
今の私は、アニメのヒロアカ死柄木弔ファンだ
今日も、死柄木弔の夢を見た
昨日の夜に、ほん怖を見たから
夢の中にも死柄木弔が幽霊として廃墟の古い工場内で
ピンク色のマーメイドウエディングドレスを着た弔が
私の目の前に出てきた
彼は私を脅かしてきたけれど、私
は全く驚くこともなくて
笑顔を死柄木弔に見せたら彼も
笑顔になり成仏した夢だった
コンサートは、2022年に韓国アイドルを最後に
生コンサートに行っていない
夢の中でコンサートに参戦しているから、
それも幸せだ
『遠くの空へ』
緑深い山に囲まれた高台の神社。
本殿から見下ろす村は、
まるで手のひらに収まる箱庭のよう。
瓦屋根が連なる家々、田んぼに映る空の青、
細い川筋がくねくねと蛇のように村を貫いている。
紫は巫女装束の裾を風になびかせながら、
遥か遠くの空を見つめていた。山の稜線の向こうに
広がる青い空。雲がゆっくりと流れて、
大きな生き物の如く形を変えながら消えていく。
あの遠くの空の向こうへ飛び立ってしまった、
私の可愛い小鳥——。
小鳥との思い出は、まるで南京玉のように
心の中でひとつひとつ美しく輝いていた。
透明で色とりどりで、光が当たるたびにきらめいて。
二人でお手玉を投げ上げて笑い合ったり、
あやとりで橋やほうきを作ったり、夏の暑い日には
川原まで手を引いて、浅瀬で水しぶきを上げながら
はしゃいだり――素手で鮎を捕まえて
「見て見て、紫ちゃん!」と目を輝かせていた姿。
夕方になると、赤とんぼが群れをなして舞い、
ひぐらしの声が山間にこだまする。
茜色に染まった空の下、
歌いながら手を繋いで歩いた帰り道。
小鳥の小さな手は汗ばんでいて、
それがなぜか愛おしかった。
「紫ちゃん、紫ちゃん」
一生懸命自分を追いかけてくる姿。
袖を引っ張って甘える仕草。すべてが愛しくて、
胸が締め付けられるほど可愛かった。
昔から小鳥は自由奔放な子だった。
じっとしていることができなくて、
いつも何かに興味を持って駆け回っている。
きっとこの村は、彼女にとって狭い鳥かごのような
ものだったのだろう。古い慣習、決められた道筋、
女は家を守るものという価値観。
成長するにつれて、小鳥の瞳は遠くを
見つめるようになった。
そして、ついにその日が訪れた。
彼女が、この村を出て都会へ行くと――。
麦わら帽子を被り、檸檬色のワンピースを
着た小鳥は、夏の陽射しを浴びて、
まるで向日葵のように輝いて見えた。
「行ってきます、紫ちゃん。
お盆には必ず帰ってくるからね」
最後に、いつものように飛び込んできた小鳥。
彼女の柔らかな感触、温もり、心地よい匂い。
瞳に映る自分の姿を見つめながら、
紫は心の中で叫んでいた。
行かないで。ここにいて。私のそばにいて。
でも、口に出たのは違う言葉だった。
「気をつけて行ってらっしゃい」
素直に応援していると言えたらよかったのに。
でも、できなかった。
私は、この村から出ることができない存在だから。
神として、この地に根ざした存在だから。
小鳥のように自由に空を飛ぶことはできない。
-----
遠くの空を見つめていると、神社の両脇に鎮座する
狐の石像がぴくりと動いた。
右の狐がゆっくりと頭を持ち上げ、
左の狐が尻尾を振る。
そして台座から飛び降りると、
紫の傍らまでやってきた。
「紫様、また小鳥のことを考えてるんでしょう?」
「そんなに恋しいなら仲間にしちゃえば?」
「そしたらずーっと一緒にいられるよ」
右の狐が高い声で囁き、左の狐が低い声で続ける。
その提案に、紫の心は激しく動いた。
確かに、神としての力を使えば可能だろう。
夫婦の契りを交わし、子を授かることで、
相手を己の元に縛りつけることもできる。
でも、それには互いの同意が必要。
相手の心からの愛が必要。
小鳥が私に抱いているのは、憧れや慕情。
子供の頃からの純粋な愛着――。
「だめよ」
紫は小さく首を振った。
「小鳥ちゃんの気持ちを無視して、
私の都合だけで彼女を縛ることはできない」
「でも、このまま指をくわえて見てるだけ?」
「都会で誰かと恋に落ちちゃうかもしれないよ?」
狐たちの言葉が、心の奥の暗い部分に響く。
それでも、紫は目を閉じて首を振った。
愛しているからこそ、彼女の自由を奪いたくない。
たとえ私の心が引き裂かれても。
「もういいの。邪魔をしないで」
あれこれ言ってくる狐たちを手で制して、
紫は静かに立ち上がった。
そして袖の中から小さな沈丁花の花を取り出す。
紫色の花びらは香り高く、上品で控えめで、
心に深く染み入るように美しい。
手のひらの上の小さな花を見つめて、
そっと息を吹きかける。花びらがひらひらと
舞い上がり、風に乗って遠くの空へと舞っていく。
まるで小さな蝶のように、山の向こうへ、
雲の彼方へと消えていく。
どうか、この香りがあの子の元へ
届いてくれますように——。
そして、いつかまた私のもとに
帰ってきてくれますように。
紫の祈りは、遠くの空へ溶けていった。
この辛い気持ちや悩み、不安を全て遠い遠い空に向かって吹き飛んでいけーーー
また寝坊〰
目覚ましを
かけたつもりだった
間違えて
月曜日に
セットしていた
こういうのを
間抜けというのか
自分で呆れる
またかなりの
支度を短縮
どうにか
間に合った
駅近のカフェで
アイスティー
早朝から
お客さんで
賑わっている
ふと
遠くの空へ
視線を外した
✴️487✴️遠くの空へ
遠くの空へ。
私の気持ちを遠くの空へ
あなたへの気持ち遠くの空へ
届いてほしい
私の気持ち
仕事よ!スムーズにいってくれっ
人間関係!良好であれっ
心よ!もっとしっかりしてくれっ
あなたへの気持ち
私はあなたが好き
あなた今は余裕なさそうだね
お互い余裕ができたら会おうね
たくさんお話したい
私は思った
今心の中で抱えてるものがありすぎる
全部遠くの空へ行ってくれ
届いてくれ
私は思う
心も身体も元気でいたい!
今日はゆっくり休む!
明日からまた頑張りたい!
茜色に染まった空の下、母娘の影が長く伸び、
踊るように揺れている。
「夕焼け小焼けで日が暮れて〜」
夏の夕暮れに響く澄んだ歌声。
ふいに、歌声が途切れた。
母が立ち止まって、遥か遠くの空を見つめた。
雲間から差し込む夕日が、母の頬を染める。
「お母さん、どうしたの?」
娘が見上げると、母はハッとしたような表情を見せ、いつものように優しく微笑みかけた。その瞳は、
うっすらと涙の膜で潤んでいるような気がした。
「ううん、なんでもないの」
そして何も言わずに、また歩き出した。
娘の小さな手を、今度はより強く握りしめて。
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オフィス街の屋上庭園。
小鳥はペットボトルを手に、遠くに霞む山並みを
眺めていた。空は高く青く、雲がゆっくりと
流れている。そんな時、不意に吹いた風に乗って、
懐かしい香りが頬を撫でていった。
紫ちゃん——。
胸の奥で、小さく呟く。
実家の村の小さな神社。朱色の鳥居の奥、
苔むした石段の先にある古い神社。
そこに暮らしていた少女の名前。
いつも巫女装束に身を包み、長い黒髪を丁寧に
結い上げて。その微笑みは春の陽だまりのように
温かく、その手は夏の小川のように冷たく、
その香りは沈丁花のように上品だった。
紫ちゃん、元気にしてるかな。お盆になったら、
久しぶりに実家に帰ってみようか。
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ミンミンゼミの声が耳をつんざくように響き、
緑豊かな田んぼ道に陽炎がゆらゆらと立ち上って
いる。懐かしい風景が目の前に広がっていた。
「おかえり!」
実家の玄関先で、両親と祖父母が手を振って
出迎えてくれた。みんな少し年を重ねたけれど、
笑顔は変わらず温かい。
「エアコンがまた壊れちゃってね」
と母が苦笑いしながら言った。
扇風機が首を振りながら回っているが、熱い空気を
かき混ぜているだけで、汗が頬を伝い落ちる。
「小鳥も年頃だし、そろそろ結婚は考えないの?
孫の顔も見てみたいしねぇ」
帰ってくる度に祖母が決まって口にする話題を、
小鳥は曖昧に笑いながら受け流した。
夕方、小鳥は一人で神社へ向かった。
昔と変わらない石段を一段ずつ踏みしめながら。
セミの声が次第に遠ざかり、
代わりに風が木々を揺らす音だけが聞こえてくる。
朱色の鳥居をくぐると、
ずっと会いたかったあの人がいた。
「紫ちゃん!」
小鳥は子供の頃のように駆け寄り、勢いよく抱きつく。紫は少し驚いたような顔をしたが、すぐに
優しい笑顔を浮かべ、小鳥を受け止めてくれた。
「おかえりなさい、小鳥ちゃん」
-----
神社の縁側で、二人は横に並んで座っていた。
紫が用意してくれた白玉団子は上品な甘さで、
番茶の香りと相まって心を落ち着かせてくれる。
この神社は外から見るよりもずっと奥行きがあり、
薄暗い廊下の先は見通せないほど続いている。
不思議な造りだなと子どもの頃から思っていた。
「前より少し痩せたかな?ちゃんと食べてる?」
紫の手が小鳥の頬に触れる。ひんやりとしていて
気持ちいい――小鳥は思わず目を細めた。
「それでさ、おばあちゃんったら結婚結婚って。
全然その気ないのに」
愚痴をこぼす小鳥を、愛おしそうに見つめる紫。
「でも」と小鳥は冗談めかして言った。
「紫ちゃんがお嫁さんだったら嬉しいかも」
「えっ」
一人暮らしは気楽だけれど、時々無性に寂しくなる。帰宅した時に「おかえりなさい」と言ってくれる人がいたら。それが紫だったら。
そんなことを考えながら、
小鳥は紫の白い手をそっと取った。
「私と結婚してくれませんか?……なーんてね!」
冗談だと笑って見せたのに、
紫は急に俯いてしまった。長い沈黙が流れる。
何か変なことを言ってしまったのだろうか。
心配になって紫の顔を覗き込もうとした時、
「小鳥ちゃん、夕立が来るから
もう帰った方がいいかも」
見上げると、先ほどまで晴れていた
空に黒い雲が立ち込めていた。
「――それに、準備をしないといけないの」
準備? お祭りでもあるのだろうか。
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深夜、小鳥は母と祖母に起こされた。
まだ眠い頭のまま、鏡の前に座らされ、いつもと違う丁寧な化粧を施される。それから真っ白な着物を
着せられ、髪を結い上げられ、
気がつくと花嫁のような姿になっていた。
「お母さん、今から何かあるの?」
母は何も答えず、ただ優しく微笑むだけ。
外に出ると、村中の人たちが白い装束を着て
道の両脇に並んでいた。
みんなどこか表情がぼんやりとしていて、
月明かりに照らされた列が、神社まで続いている。
神社に着くと、そこには同じように白無垢を着た紫が立っていた。月光の下、彼女の姿は幻想的なほど
美しく、まるで天女のようだった。
「紫ちゃん、これって何かのお祭り?」
「うん」紫は目を伏せ、頬を薄紅色に染めながら
答えた。「夫婦の契りを結ぶお祭り」
そして深く頭を下げる。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
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「おかえりなさい、あなた」
「ただいま」
「お母様、ただいま!」
神社の境内で、巫女装束を着た
美しい少女が笑顔で出迎えてくれた。
紫の手が、小鳥の膨らんだお腹をそっと撫でる。
「身重なのに、階段はきつかったでしょう?」
「ううん、大丈夫。たまには運動もしないとね」
「お腹すいたー!」
「うふふ、ご飯の支度はできていますよ」
無邪気な声を上げる娘に紫は優しく微笑みかけ、
三人は神社の奥へと吸い込まれるように
入っていった。
お題「遠くの空へ」
遠くの空の下君は笑えてる
のだろうかドクダミを燻す
♯遠くの空へ
今何をしたいか、伝えたいか、分からないけど
とにかく、普通に気を使わず、思いやりのある
楽しく、嘘偽りのない生活をしたい。
なぜ、それが難しいの?教えて欲しい。
子供達にのびのびと生きて欲しい。
私は弱い人間。だから強すなれなくて
悔しい。どうしたらなれる?お父さん、おばあちゃん、おじいちゃんみたいにどうしたらなれる?
教えてください。
「遠くの空へ」
空を見上げると果てしない
どこから遠くて、どこから近いのか
見当がつかなくなるほどに
とてもとても不思議で
とてもとても美しい
だからみんな、思いを馳せる
だからみんな、空に惚れてる
昔の人は星々を紡ぎ、空を彩る
次の人は恋文を書き、空へ宛てる
またある人は鉄を曲げて、空へ飛び立つ
みんなみんな‘ここじゃない何処か’の空に惹かれてる
母の最後の言葉は、「雲が綺麗」だった。
病室の窓から眺める空は、いつもと変わらず灰色で、雲などどこにも見えなかった。けれど、母の瞳は、私には見えない、もっと遠くの何かを追っているようだった。
葬式の日、空は抜けるような青だった。参列者たちは皆、下を向いて歩いている。私だけが空を見上げていた。青い空に、雲がゆっくりと流れていく。形を変えながら、私の知らない、どこか遠い場所へ行く。
あれから三年。私は母の好きだった丘に立っている。
「いつか行ってみたい」と病室でいつも呟いていた、遠い異国の、緑あふれる丘。
風が髪を優しく揺らし、雲を運んできた。
そのまま私を飛び越え、どこか遠くに向かって歩いている。
「またね」
小さく呟く。
雲は、ゆっくりと動いた。まるで私に微笑みかける母の様に、ゆっくり、やわらかく形を変えた。
「またね」
滲んできた目をこすり、もう一度呟く。
あぁ、本当に、雲は綺麗だ。
君の元に声を届けたい、思いを届けたい。
でもそんなのは無理な話だろう。
だから君の世界でも繋がってるであろう空。
空に向かって君の思いや声を届けてみる。
君の世界に僕の声はちゃんと届いているかな。
むすめは小学4年になって
バスケを始めた
部活のない日は
いつも外に出て自主練をするのだが
一人でできない練習には
わたしもつきあっていた
そんなある日
学校から帰ってきたむすめは
わたしに
折りたたまれたメモをわたしてきた
''おかあさんへ
今日これから
空で
パス練習しよう"
「………」
わたしは赤ペンで
"空"のところを丸で囲み
やじるしで指して
"ムリ"と書いてむすめに渡した
むすめはアワアワしながら
「外と空、間違っちゃった」
と恥ずかしそうにしていたが
まぁ、空のパス練習
楽しそうだけどね
自宅から歩いて5分の橋の上にやってきていた。携帯の時刻は19:00を示している。遠くの空へ視線を向けると、うっすらとバターが塗られたような空で、ドローンによるナイトショーが花火と火薬の匂いを携えて行われていた。時代の進歩を感じつつ、僕の知らないところで世界は少しずつ変化しているんだなと感慨に耽った。僕も変わっているのかな。いつか誰かの世界とどこかで交わる日がくるのかな。
題『遠くの空へ』