『遠くの空へ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
No.1 遠くの空へ
見渡す限り山。
でも、鳥はその山を超えて遠くの空へ飛んでいく。
鳥はどんな景色を見てるんだろうと時々思う。
強い日差しにぬるい風。
鳥はこの天気をどう思ってるんだろう。
行き先より鳥の方が気になるのは多分、私だけだろう。
お題 遠くの空へ
遠く 遠く離れた街に 1人の少女がいました
その少女はひとりぼっち
いつもどこか遠い国を夢見て過ごしていました
花が咲き乱れる東の国
美味しい食べ物がたくさんある南の国
森の中で生き物が生き生きと暮らす北の国
華やかな衣装で人々がダンスをする西の国
そんな国があれば
私もこの地から飛びたっていけたら
遠くの空へ思い馳せる少女の横顔は少し寂しそうでした
「先々週だったかな、空としては、『星空の下で』を書いたばっかりなんよ……」
6月の「あいまいな空」、7月の「星空」、9月頃の「空が泣く」、あるいは10月の「どこまでも続く青い空」。このアプリはともかく空ネタが多い。
都内と、ほんの少しだけ雪国を舞台に現代軸リアル連載風を書き続けているが、東京の空に「遠く」の「空」などあっただろうか。某所在住物書きは窓の外を見遣り、再度スマホのお題通知を見る。
港区や品川区、江戸川区あたりはどうだろう。たとえば、海浜公園のような?
「……奥多摩西多摩あたりも、確実に空はある」
物書きは考える。
「でも多摩は『星空』のためにキープしておきてぇのよ。『東京にだって美しい星空がある』って……」
重複しやすいお題は、空、雨、恋愛、等々等々。ネタが枯渇しないよう、引き出しは多めに持ちたい。
――――――
「春」がどこかに行っちゃったような温暖が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今日は晴れた都内某所、涼しい涼しい、森深き稲荷神社を舞台に、遠くの空の下の桜を思うおはなしです。
最近最近のおはなしです。雪降る田舎出身の、名前を藤森といいますが、最近あんまり暑いので、
春なのに木陰の涼など求めて、在来の花のたっぷり咲く稲荷神社に来ておりました。
だって、最高気温23℃など、藤森の故郷の晩春初夏。来週25℃予想が続くらしいですが、4月にそんな気温が襲来しては、藤森、溶けてしまうのです。
雪女か雪だるまみたいですね。
さて。その雪女か雪だるまみたいな藤森です。
食材の買い出しの前に、お茶っ葉屋さんでカラリ氷の涼しげな冷茶をテイクアウト。
そのお茶っ葉屋さんの店主の実家であるところの稲荷神社で、飲んでも良いと許可が下りまして、
涼しい木陰に腰を下ろし、ニリンソウにフデリンドウ、エンゴサクなんかを見渡して、
ふわり、穏やかに笑っておったところ、
くわー!くわぁー!くわうぅぅー!!
藤森の顔面目掛けて、稲荷神社在住の子狐が、郵便屋さんのポンチョを羽織って突撃してきたのです!
「おてがみ、おてがみ!お届けものです!」
しかもこの子狐、人間の言葉まで喋っちゃうから、さぁフィクション。
子狐の郵便屋さんに関しては、過去投稿分4月6日や5日あたりの作品でも取り上げていますが、まぁまぁ細かいことは気にしない。
「子狐、どいてくれ!あと私の髪など食っても美味くない!」
尻尾びたんびたん、甘え声くぅくぅ、藤森の髪をカジカジして毛づくろいのつもり。
子狐コンコン、随分藤森に懐いています。
それもそのはず。花と風と雨を愛する藤森、この稲荷神社にはよく来るのです。
子狐は藤森が稲荷神社の花を撮りに来るたび、突撃して、腹を見せて、背中も頭も撫でてもらって、
「おてがみっ!」
そして、こうして郵便屋さんのポンチョを着ているときは、藤森の後輩から預かった手紙を藤森に届けたり、逆をしたりするのです。
「手紙は分かった、分かったから!離れてくれ!」
なんとか子狐を顔から引っ剥がし、後輩からの手紙を受け取った藤森です。
「どれどれ。『拝啓先輩 今年ここ行きたい! 敬具』。……『ここ』?」
相変わらず手紙というより、グループチャットのメッセージに近い。藤森が封筒の中をよく見ると、1枚の便箋の他、カラーのチラシが畳まれて入っています。
「『これ』か」
それは、藤森の故郷の盛春を楽しむ、桜のイベントのチラシでした。
去年藤森の出身地を知り、今年の2月の帰省にちゃっかり同行して、雪とグルメと花を堪能した後輩です。
今度は藤森の故郷の桜を、東京より遅く涼しい薄桃色の氾濫を、スマホで撮りたいようです。
「あそこの桜は、たしか今……」
雪国出身の藤森、遠くの空へ、思いを馳せます。
藤森の故郷からは少し離れた、しかし同じ都道府県内のイベント会場であるそこは、子供の頃、藤森自身もよく連れて行ってもらった思い出の場所。
東京の桜は見頃のピークを過ぎましたが、遠くの空の下、故郷の桜の木は、今頃どうしているのやら。
「子狐おまえ、まぁ行かないとは思うが、仮に私が桜の故郷に帰省するとしたら、何か欲しいものは?」
後輩からの手紙を畳んで封筒に戻して、藤森、尻尾をぶんぶん振り回す子狐の背中を撫でました。
子狐は食べ物やらお花やら、何かの善良な匂いを感じたらしく、尻尾をびたんびたん、更に幸福に振り回して、藤森の頬という頬、鼻という鼻をべろんべろんに舐め倒しましたとさ。
遠くの空へ
意味もなく祈る
好きだよ
と遠い空へ行ってしまった好きな子に言った。
もう少し早ければ付き合ってたかもしれないなと思いながら涙を流した。
灰色の町から逃げ出したのはもう何年前だったろう。
あの町に私の居場所は無かった。
どこにいても息苦しくて体が重たかった。
遠く遠く知らない空は
きっと青く澄んでいると信じて飛んだ。
「君がこの町へ来てくれなかったら俺たちは出会うことも恋人同士になることも無かったんだよな。」
「う、うん。」
改めて恋人同士と言われるとなんだか照れくさい。
そんな付き合いたての初々しい関係ではないのに。
「それってめちゃくちゃラッキーなことだし、
今すごーく幸せだけどさ。…少し、帰りたいって思わない?」
俺が君をここに縛りつけていないかと心配だ。
この人がいつかこぼした言葉を思い出す。
「思わない。この町にはたくさんの大切なものがある。
あの町には何も無い。本当だ。」
「そっか。…うん、なんかごめんね。」
もにょもにょとまだ何か言いたげな口。
嘘は言っていない。言っていないのに。もう。
「私は私の意思でこの町にきて、そしてここを選んだ。
あなたのせいじゃない。」
物言いたげな口からまた何か出てくる前にキスして塞いだ。恥ずかしい。恥ずかしいけどこうすることが手っ取り早い。
「…帰らないでくれ。離れたくない。死んでしまう。」
ぎゅうとひとつになりそうなくらい強く抱きしめ合い
目を閉じた。
灰色の町が遠く知らない空の向こうに見えた。
遠くの空へ
遠くの空へと旅立つ国際線の飛行機✈️は、私に、さよならのトラウマを与えた。
子供達との別れ 親友達との別れ 兄弟達との別れ 父母との別れ
もう、嫌だよ・・・
【遠くの空へ】
誰に届くかな
風船の先にくくりつける
この手紙が届いた方へ
ずっと やってみたかった
風船にお手紙をつけて飛ばすこと
この風船はいったいどこに
たどりついたのでしょうか
もしかしたら、木々などにひっかかり
誰にも届かないかもしれません
でも もし この手紙を拾ったならば
幸運の持ち主だと思います
この世界は いろいろな ところと
つながっている
一期一会
出会えた奇跡に感謝を
手紙の文面の終わりに
返信先を記入する
遠く遠くの空へ昇っていく風船をずっと眺めていた
遠くの空へ
旅したいね。いつもどこか遠くに行きたいと思っているけどそんな金も時間もない。
もしどこかに出かけるならどこがいいだろうか。北海道とか行ってみたいね。海外は英語しゃべれないしなんか怖いからあまり行きたいとは思わない。
というか旅行ってなんのためにするんだろうな。どこかに行ったところでやることなんて観光と飯食うだけじゃね。そんなことのために金を使うってバカらしいな。
今時うまいものなんて通販で買えるし観光だってネットでできる。まぁ観光に関しては実際に見るのとネットで見るのじゃ大違いだろうけど。
そんなわけで旅行は金と時間の無駄だってことだ。でも旅したいね。
あれなんだよな。うまいもの食いたいとか観光したいというより単純に旅そのものが目的なんだよな。時間に追われることなく好きに生きたいというか。
でも現実は金と時間に追われてただ生きるだけの毎日。なんてつまらない人生だ。
モヤモヤしたこと
哀しいこと
残念なこと
じわじわ増え続ける怒り
全部投げてしまおう
むんずと手でつかみ
えい や と指先から放す
放たれたものは
遥かかなた遠くの空へ
どんどん飛んで
米粒みたいになって
胡麻のようになって
視界から消えてしまったら
不思議
からっぽになった
がらんどうな空間には
何が入ってくるのかな
わくわくするなぁ
#14『遠くの空へ』
「さて、人間どもを殺戮しよう」
地球に到着して早々にリーダーが言った。
仲間達が頷く。
「今回はこの薬をこの星に散布する」
リーダーはおもむろに懐から小指サイズの小瓶を取り出した。
仲間達はそれを見て震え上がった。
「そ、それはあまりにも残酷ですっ!」
「わかっている。しかし、急がねばならん任務だ。致し方ない」
散布を終えた宇宙船は遠くの空へと消えていった。
僕は船内で先輩に尋ねた。
「あの薬ってどんな効果があるんですか?」
「人間を強制的に500年ほどしか生きられない身体にする薬だ」
「そ、そんな!なんて残酷で非人道的な薬なんだ!」
僕達、ヨクイキール人の寿命は約5億年である。
寿命500年といえば、ヨクイキール蝉と同じくらいだ。
はかな過ぎる。
自分達ヨクイキール人の残虐性に僕は憤りを感じた。
遠くの空へ
小さな子供が泣いている。
燥ぎ過ぎて手を離してしまった様だ
視線を上に向けると風船がふわりと
遠くの空へ放たれ高く高く浮かんで行く
僕はあの風船は最終的にはどこへ
行くんだろうと疑問が浮かぶ
子供は泣きやんで落ち付いたらしい
しかしさっきよりかなり落ち込んでいた。
風船にはもう手が届かない
子供が悲しそうな顔で遠くの空に
行ってしまった風船に向けて手を
伸ばしていた。
僕は青い空に赤い風船が遠ざかって行く様を携帯画面の枠の中に収めた。
手の中にはもう戻らない赤い風船が
空の中で一つだけ赤く輝いていた。
遠くの空を見ると
似たような空をきっと昔見たんだろうかと思う。
大切な人や一緒に頑張っている仲間たちも
今同じ空を見ているだろうか
出会う前も同じ空を見て何かを思っていたかもしれない
もし見ていたらつながっている気がして嬉しいし
一人ぼっちじゃない気がする
不思議だけど昔も今も遠くの人も
本当に遠いけれど
それこそ空よりも遠いかもしれないけれどきっとつながってる
テーマ:沼っていく
人ってなんで嫉妬するんだろう。
人ってなんで…。
分かってるのに沼っていくんだろう。
知らない間に私の心に入ってきて
何もかも奪っていく
分かってるよ。
そんなこと…。
でも、キミが好きなんだ。
キミにもういちど会いたい♡
#ポエム
流れ星を追って、僕らは駆け出した。遠くの空へ、手を伸ばし、全てを忘れて明かりを頼りに走った。先なんて、この先の未来なんてどうでもいい。この先も笑い合えるのなら――――
あの日の気持ちを、忘れないで。ずっとずっと。
これから色々変わってくる世界も、過ぎていく時も、止められない。この瞬間、全て大事な時間。ここにいるんだ。ここに、僕らはいるんだ。
以前、私がお付き合いさせていただいた女性は、何故か赤い翼の大ファンだった。
ファンになるのに理由なんて要らない、好きだから、好きなのだ。子供の頃から憧れていたらしい。
うっかり全日空のチケットを取ってしまった事があり、その事をメールで告げたら激怒して、「日航に変えなさいよ!」と言い出した。
これ、彼女が乗る訳ではないのだ。ただ私1人が移動するだけの、軽い報告メールを送信したら、お怒りの返信が来たのである。
知らない人は冗談だと思うだろうが、彼女の場合、日航に関する話はまったく本気100%なので、
放置してANAを使ってしまうと後で恐ろしい展開になると察知したので、わざわざ手続きして日航に替えてもらったのである。
付き合い始めた時、「これを読んで下さい」と渡されたのが山崎豊子の単行本『沈まぬ太陽』全5冊だった。
日航が大好きな彼女は、自分と付き合うなら日航の事も理解してくれないとイヤだと思ったのだろう。
山崎豊子の作品は『白い巨塔』『華麗なる一族』などが有名だ、
緻密な取材を重ねて書き上げる社会派小説で、私はそれまで読んだ事なかったが、こちらとしても彼女のことが知りたかったから、喜んで読んだのだった。
なるほど、確かに読むのに値する重厚な作品であったが、これは日航(作中では国民航空となっているが)礼賛の小説ではない、むしろ、日航の暗部を暴き、さらけ出してしまうものだ。
確かに日航の事はよく理解出来たが、日航は『沈まぬ太陽』には批判的な立場なはずである。
クライマックスは日航機墜落事故だが、
この描写もリアルだし悲惨過ぎる、私もこの事故は旅先の九州にいた時にテレビで知っていた。史上2番目の520人もの犠牲者を出した飛行機の大事故だ、話題は連日こればかりであった。
そして事故発生までに至る、巨大組織の腐敗していく様がとても丁寧に描かれているのである。これは小説と言うよりむしろ現実に近いものだろう。
もちろん、優秀な乗務員がいかに誇りを持って仕事しているのかも分かるのだが、
この作品を読んで、日航のファンになるかどうかは微妙なところだ。
それでも彼女は、これを読んだ人と出ないと、自分とは深く付き合えないと思ったのだろう。
旅行業界にとって大きな痛手となるコロナの試練も越え、もう日航の体質も『沈まぬ太陽』の頃とは随分変わってしまったのではないかと思う。
次に飛行機を使う時は、赤い翼を使おうと思っている。
「遠くの空へ」
あるふと思う。自分の居場所はここのか?と
でも、私がいないと何も、出来ない人が居るから
私を必要にしてるみたい。私は居なくてもいいと
それを思っていれば遠くの空へいきたいと思う
お題『遠くの空へ』
ヒーローの必殺技のパンチを頬に喰らい、俺は豪速球の球にでもなったかのように遠くの空へと飛ばされていく。
とあるアニメの悪役のように挨拶する間もない。ヒーローのパンチはとてつもなく大きく重たい分銅のようなもので、喋る間もなく飛ばされるのだ。さしかえたばかりの奥歯がまた粉々に砕けたのだけ分かる。痛みを感じるよりも気圧が体を圧縮していくような感覚を覚えて、気がつくと俺は頭から海の中に落ちた。毎回同じパターンだ。
海の中へ沈められた後、俺は泳いで水面から顔を出す。そこでようやく痛みを感じ始める。何度食らっても痛みに慣れることはない。
船上に都合よく船が停めてあって、そこからうきわがこちらに投げ込まれる。俺はそれに捕まると、引き上げてもらう。
船上に上がると、何人かスタッフがいて
「お疲れ様でした!」
と言って、まずは医務室に案内される。砕けた歯を口の中から出して貰って新しい歯に入れ替えてもらう。それからタオルで包んだ氷の袋を渡されるので、それで殴られたところをおさえる。
治療した医者が口を開いた。
「しっかし、なんで悪役なんてやるんですかね? いくら子供達を楽しませるためとはいえ、そこまで痛い思いをして」
「お金のためですよ」
そう、俺達はビジネスで悪役をやっている。さっき俺を殴ったヒーローは、同じ会社のヒーロー部門に所属している。俺はヴィラン部門だ。ちなみにヒーロー部門よりも給料が1.5倍ほど高い。理由は、ヒーローに比べて怪我が多いからだ。
どうやら娯楽に飢えた一般人のために作った会社で、今は子供に人気があるビジネスにまで発展している。
だが、ヴィラン部門は給料が高い割に人気がなく、離職率も高い。その中で俺は会社創業当初からヴィランをやり続けている。入社時から顔の形が変わったが、もともとイケてないツラなので大して変わらない。
「世間ではヴィランでも、息子のヒーローにはなりたいんです」
「あぁ、息子さんね」
医師は言葉を選ぼうとしている。俺の息子は生まれた時から心臓の病にかかっていて、ずっと病院で生活している。そんな息子の治療費を稼ぐためなら殴られることなんて大した事ない。
俺は決意を新たにして拳を握りしめた。
母は私が物心つく前に亡くなった。
父は私が小学生になる前にいなくなった。
祖父母はよく分からない。
そうして私は鬼がいる地獄で暮らすことになった。
鬼たちは、私の靴を食べてしまったり、大きな手で襲いかかってきたりした。
痛くて怖くて、布団にくるまって逃げようとしたけれど、逃げた先も結局地獄で。
つまり、この世界はどこまでも地獄だった。
ある日、小さな地図を手に入れた。
それには、この世界からの逃げ道が書かれていた。
私は初めて希望を知った。
それを胸に裸足で外に出た。
地図を見ながら、一生懸命脚を動かした。
やっとの事でついたそこは、絶景だった。
私が生きた地獄が小さく見える。
あんなちっぽけな世界で生きていたのだと思い知らされた。
「ちっちゃいでしょ」
あの地獄。
いつの間にか、隣にいた天使のように透明な少女は、小さな口から言葉を紡いだ。
私は、前だけを見ていたけれど、なぜか少女の様子がなんとなく分かった。
「うん、小さい」
呆れるくらいに。
こんな小さな世界だけ見て、私は全てに絶望していたのか。
でも、こんな小さな世界だけれど、私のすべてだったから、
「でも、辛い」
少女の方を振り向く。
私の心の声を代弁した手足が細い少女は、小さな地獄を見つめていた。
「この広い世界から逃げ出したくなるほどに」
少女は、やっとこちらを見た。
彼女の顔には表情がなかった。
可愛らしい少女には似合わない、頬にある大きな傷が目についた。
「でもだめ」
ふわりと笑った少女は、今まで見た何よりも綺麗だった。
いや、今まで見た、1番綺麗だったものと同じくらい綺麗だった。
覚えていない、覚えていないけど、私はこの笑顔を見たことがある。
両親のいない私は、児童養護施設に入れられた。
その施設の先生も子どもも、同じ人間とは思えない酷いやつらだった。
子どもたちは、私の靴を隠して、先生たちは、私を叩いた。
痛くて怖くて、布団にくるまって夢に逃げたこともあったけれど、夢に見るのは両親が死ぬ瞬間。
見たことなんてないくせに。
この世界は、地獄だった。
そんな地獄にその子は現れた。
私の靴を取り返して、いじめっ子達を追いかけ回した。
私を叩いた先生に、思いっきりビンタを食らわした。
彼女は私の天使だった。
そして、当たり前に、いじめる標的はその子になった。
頬にある大きな傷は、手足が細いのは、透明になりそうなぐらい白い肌は、
すべて、私を守ったから。
なんで、忘れていたんだろう。
目から涙が溢れ出た。
喉が張り付いて、声なんかひとつも出ないのに、涙ばかりが出続けた。
彼女は、私の後ろを指さした。
「お迎えがきたよ」
今度、お手紙くらいはちょうだいね。
後ろを振り向くと、微かに見覚えのある男女が私の元に駆け寄り、抱きしめてきた。
私の名前を呼んで、泣きながら必死に謝ってきた。
祖父母だ。
「ああ、やっと見つかった」
ずっと探していた。
本当に、心の底から安堵しているように、私を抱きしめるその2人は、誰からみても私を愛していた。
私は2人を抱きしめ返しながら、もう一度振り返る。
そこにあるのは、揃えられた二足の靴だけだった。
きっと彼女は天使だから、天国に帰ってしまったのだ。
お手紙、書かないとな。
天国ってどこにあるか分からないし、何個あるかも分からない。
だから、空にさえいれば届くように。
彼女のもとに私の声が届くように。
拝啓、遠くの空へ
もう少しだけ待っててね。
『遠くの空へ』
-遠くの空へ-
私の見ている空。
鮮やかな青色、あの雲のかたち。
見せてあげたい。遠くに住む、あなたにも-
ゆっくりと流れて、少しづつ崩れていく…
遠くにも、この空は届いてくれない。