灰色の町から逃げ出したのはもう何年前だったろう。
あの町に私の居場所は無かった。
どこにいても息苦しくて体が重たかった。
遠く遠く知らない空は
きっと青く澄んでいると信じて飛んだ。
「君がこの町へ来てくれなかったら俺たちは出会うことも恋人同士になることも無かったんだよな。」
「う、うん。」
改めて恋人同士と言われるとなんだか照れくさい。
そんな付き合いたての初々しい関係ではないのに。
「それってめちゃくちゃラッキーなことだし、
今すごーく幸せだけどさ。…少し、帰りたいって思わない?」
俺が君をここに縛りつけていないかと心配だ。
この人がいつかこぼした言葉を思い出す。
「思わない。この町にはたくさんの大切なものがある。
あの町には何も無い。本当だ。」
「そっか。…うん、なんかごめんね。」
もにょもにょとまだ何か言いたげな口。
嘘は言っていない。言っていないのに。もう。
「私は私の意思でこの町にきて、そしてここを選んだ。
あなたのせいじゃない。」
物言いたげな口からまた何か出てくる前にキスして塞いだ。恥ずかしい。恥ずかしいけどこうすることが手っ取り早い。
「…帰らないでくれ。離れたくない。死んでしまう。」
ぎゅうとひとつになりそうなくらい強く抱きしめ合い
目を閉じた。
灰色の町が遠く知らない空の向こうに見えた。
遠くの空へ
4/13/2024, 3:32:37 AM