以前、私がお付き合いさせていただいた女性は、何故か赤い翼の大ファンだった。
ファンになるのに理由なんて要らない、好きだから、好きなのだ。子供の頃から憧れていたらしい。
うっかり全日空のチケットを取ってしまった事があり、その事をメールで告げたら激怒して、「日航に変えなさいよ!」と言い出した。
これ、彼女が乗る訳ではないのだ。ただ私1人が移動するだけの、軽い報告メールを送信したら、お怒りの返信が来たのである。
知らない人は冗談だと思うだろうが、彼女の場合、日航に関する話はまったく本気100%なので、
放置してANAを使ってしまうと後で恐ろしい展開になると察知したので、わざわざ手続きして日航に替えてもらったのである。
付き合い始めた時、「これを読んで下さい」と渡されたのが山崎豊子の単行本『沈まぬ太陽』全5冊だった。
日航が大好きな彼女は、自分と付き合うなら日航の事も理解してくれないとイヤだと思ったのだろう。
山崎豊子の作品は『白い巨塔』『華麗なる一族』などが有名だ、
緻密な取材を重ねて書き上げる社会派小説で、私はそれまで読んだ事なかったが、こちらとしても彼女のことが知りたかったから、喜んで読んだのだった。
なるほど、確かに読むのに値する重厚な作品であったが、これは日航(作中では国民航空となっているが)礼賛の小説ではない、むしろ、日航の暗部を暴き、さらけ出してしまうものだ。
確かに日航の事はよく理解出来たが、日航は『沈まぬ太陽』には批判的な立場なはずである。
クライマックスは日航機墜落事故だが、
この描写もリアルだし悲惨過ぎる、私もこの事故は旅先の九州にいた時にテレビで知っていた。史上2番目の520人もの犠牲者を出した飛行機の大事故だ、話題は連日こればかりであった。
そして事故発生までに至る、巨大組織の腐敗していく様がとても丁寧に描かれているのである。これは小説と言うよりむしろ現実に近いものだろう。
もちろん、優秀な乗務員がいかに誇りを持って仕事しているのかも分かるのだが、
この作品を読んで、日航のファンになるかどうかは微妙なところだ。
それでも彼女は、これを読んだ人と出ないと、自分とは深く付き合えないと思ったのだろう。
旅行業界にとって大きな痛手となるコロナの試練も越え、もう日航の体質も『沈まぬ太陽』の頃とは随分変わってしまったのではないかと思う。
次に飛行機を使う時は、赤い翼を使おうと思っている。
4/13/2024, 2:04:13 AM