『過ぎた日を想う』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
あの日。
僕がキミの手を掴まえていたら。
行かないでくれ、と引き止めていたなら未来は変わっていたのかな。
何度も夢に出てくるんだ。
僕のせいだって、周りから責められ続ける悪夢を。
あの日をやり直すことはもうできない。
過去にはもう戻れない。
嘆いても、何も変わらない。
こんな僕を見たら、キミは何と言うだろうか。
呆れた顔をするだろうか。
一緒になって落ち込む優しさもあるから、もしかして涙を見せるかもしれない。
キミのことを思い出すのは決まって悲しい顔だ。
僕の思い出の中のキミは寂しそうな表情ばかりだよ。
これも僕のせいなんだろうな。
キミを幸せに出来なかった、僕の責任だ。
そんな僕は、辛いとか苦しいだなんて思っちゃいけないんだ。
過ぎたあの日を尊ぶことで赦されることじゃないけれど、
今日もキミの悲しげな顔を思い出しては自分を戒めるようにするよ。
︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎小さなあの子と僕の記憶︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎
眠い目を擦りながら重い瞼を開ける。
開けると僕の視界には不向きな自然の光が、
差し掛かる。
そう、嫌でもかってくらいに眩しすぎるこの光。
夜が明け、
朝が来たんだなって改めて思う。
昨晩ずっと、前に僕の窓に
訪れたあの子の事を考えていた。
その鳴き声で僕は
苦しい朝も
憂鬱な朝も
耐えられたから。
感謝してるからまた会いたい。
君の姿が変わったとしても、、
今は何も考えず、あの子の事だけを
考えている。これが恋心というものなのかな。
今日もまた布団の中で
キミの存在を知ったあの日を、
あの遠くに飛んでいってしまった
過ぎた日を想う。
終。 #002 「過ぎた日を想う」
過ぎた日を想う
今、彼と別れてきた。交際期間、四年。何故、別れたか?私にもよくわからない。ただ言えることは、もう彼を愛していなかった。
四年前、同じ大学の心理学の時間、たまたま隣に座ったのが貴方だった。朝までアルバイトをして、心理学の授業は眠ってしまい、ノートを貸して欲しいと言われた。連絡先を交換し、後日、ノートを返してもらうために、一緒にご飯を食べに行った。
それから何度か会い、付き合うことになった。
一緒にディズニーランドに行って、
「やっぱり、シンデレラは可愛い」
と言うので、私はシンデレラが嫌いになった。
初めて温泉に行った時は、私の浴衣姿を見て
「可愛いよ」
と、言ってくれた。
優しく包み込んでくれる夜が好きだった。
一緒に笑ったり、時々、喧嘩したり、彼しか見えない日々が続いた。
過ぎた日を想う。
たくさん思い出はあるけれど、何故か彼のことが愛せなくなった。お互い、そうだったと思う。私が別れを告げた時、彼はほっとしたみたいだった。
今までありがとう。
貴方を本気で愛していました。
いい人を見つけて幸せになってね。
さようなら。
たくさんの思い出
たくさんの後悔
全てを握り締めて
今日もあなたとの日々を
もう戻らぬ日々を
想い過ごします
【過ぎた日を想う】
人付き合いは、嫌いやないけど苦手なんやと思う。
おはよー!あれ、昨日休んどった?
うんーちょっと熱出て
えー大丈夫ー?
最初はなんとなく上手くいくけど、ボロが出る。
ハーフとか 空気読めへんとか 単に合わんとか
そんなシンプルな理由で上手くいかへん。
我ながらとっくに人嫌いになっててもおかしないんやけど。
なにそれ!笑
天然やんな〜
ツッコミやめて笑笑
周りの人に恵まれたから、人と関わる楽しさを知ってしもとる。理不尽な理由はわからへんけど、無意識に人を傷つけるとかはしたないから、空気読めへんのは直したかった。
新しい環境。新しい人。
過去を振り返ったらしんどい思い出もある。
そやけど関係あれへん。今には全く関係あれへん。
今だけ見とったらええ
後悔ばかり想い出す
すぐにいいことが出てこない
これは性格なのか脳の癖なのか
過ぎた日を想わず
楽しい未来のことを考えよう
過ぎた日を思う (10.7)
え?——あぁ、ごめんね。“ブックストア”って私のあだ名だったから。小学校の頃の。
ちょ、ダサいとか言わないで。
呼んでたのは一人の男子だけだよ?「ブックストア、今日読んでるのは何の本なん?」みたいに、毎日私の読書に干渉してくるだけ。
別に悪口じゃないし困ってなかったけど、ある日宿題で
「嬉しかったことも、嫌なことも、今のみんなの気持ちを教えて」
って作文を渡されたんだ。それで——何となくあだ名のことを書いたら、すぐ呼び出されちゃって。
ほら、あの頃いじめとか問題だったじゃん?だから、仕方ない。
でもね。
次の日名字で呼ばれたら、肺が急にちっさくなって息が苦しくなったの。視界がじんわり滲んで、よくわかんないけど嫌だーって。
先生はからかってると思ったんだろうけど、私にとってはアイツからの“特別”のしるしだったの。些細な会話の繰り返しが、私の大好きな時間だったんだよ。
彼にとって私ってなんだろう。
都合のいい女?
「……みじめだ」
私はまたお酒を流し込んだ。
"過ぎた日を想う"
いつだって後悔ばかりが想起する。
あのときこうしていればとか。
あのときこう言ってあげていればとか。
ああ、間違ってしまったなと、苦く思うのだ。
でも幸せだったことや、楽しいことだって、後悔と同じ数だけあるのは確かで。
だから僕はたぶん。
間違ってばかりでもなかったはずだし。
それが間違っていたかどうかは、きっともっと後になって噛みしめることになるのだろう。
過ぎた日を何度も想いながら、今日も僕は今の僕だけができる選択を、どちらがいいだろうと天秤にかけている。
【過ぎた日を想う】
『過ぎた日を想う』
過去を振り返ることが年々増えてきたなと思う。もし自分の人生に心底満足していたなら、ここまで振り返ってたのかな。
人生をやり直せるならいつからがいい?っていう質問をたまに耳にします。やり直したいなんて思わない!前しか見てない!って言い切れたら格好いいですね。
私の場合は割と頻繁に、自分に対してこの問いを投げかけることがあります。答えはだいたい、高校生から。それか、高校も選び直したいから中学生の進路を決める頃からになるかな。
もしそこで別の道を選んでいたら、今とは違った人生になっていたのか。今頃どこで何をしていたのか。しかし思い返してみても、当時自分が選んだ道以外に選択肢ってなかったような…
それでも過去か未来かどっちに行きたいかと問われれば、即答で過去!
ということはやり直したいんだね、やっぱり。それは別の人生に興味があるからというんじゃなく、今の人生に納得がいってないからだと思う。納得できる部分もあるけど、全体通して見るとやっぱり納得いかない。現状に対して「なんで?」と思う部分がたくさんあるから。けどそれもこれも全部自分が選んできたこと。だから不満も満足も全部受け入れないと、、ってことになりますね。
昔の自分に会いたくなって、過去に働いていた場所を再訪したことがあります。
知ってる人いるかなとかそういうことじゃなく、ただそこの風景をもう一度見たくて。
もう従業員じゃないから内部には当然入れないけど、建物の外観とか中の雰囲気とか、あぁこういう感じだったなーこのドアから毎日出入りしてたなーとか。
懐かしさと、退職してから10年も経つのに何も変わっていない安心感がありました。
無意識に当時の社員さんの顔を探してしまってましたね笑 見当たらなかったし、私も気づかれてなかったと思いますが。たぶん。別に気づかれても良かったけど。
退職後、結果的にここでの仕事が足掛かりとなって今の仕事に繋がりました。
だから当時この仕事を選んだのは正解だったことになる。…けど間違いだったかもしれないと今は思う。思ってしまう。。
自分の経験で言うと、人生にタラレバは尽きないなと思います。言いだしたら本当にキリがない。なんなら生まれるのがあと10年遅かったら良かったのにとか。両親が出会うの早すぎたわとか。何の根拠もないのに。
ドラえもんの道具で過去に戻ってそこから人生をやり直しても、満足してたかなんてわからない。もしかしたら今よりもっと辛い状況になってたかもしれない。隣の芝はどこまでも青いんだろうと思います。
自分がこれからどこに向かうのかまったくわからないけど、たまには過去に戻ってみるのもいいことだと思う。くよくよしたっていいんだよ。そこで何か気づきがあるかもしれないし、なくてもいいし。
この先後悔が消えることはきっとないけど、満足100%になることもたぶんない。
行きつ戻りつしながら歩んでいったらいいのかなと思います。
もう終わったこと。
好きだったことも
毎日が幸せでワクワクしてたことも。
過ぎ去った日々は戻らない。
美しく、切ない色の記憶に変わるだけ。
物事は必ず終わりを迎える。
変わらないものはない。
そしてまた新しく迎える。
過ぎた日を想う
楽しくて仕方なかった日
悲しかった日
後悔で溺れた日
幸せを感じた日
うん。色んな日々を味わえてる
明日想う今日はどんな日かな
舞華
暗がりの道を歩き、ふと上を見やると電柱の明かりが点滅していた。この辺りにはこれ一つしかない、点滅する電柱。そうだ、確か、私があの時待ち合わせたのもここではなかったか。もう二度と来ることなどないだろうと思っていたがしかし、奇妙な巡り合わせだとも思った。あの頃からずっと、明かりはチカチカと点滅していたのか。
[過ぎた日を思う]
人生で出会う人達は必然なのか偶然なのか。
あの日あの時、こうしてたら、こうしてなければ
出会わなかった人達。
些細な事から重要な事まで毎日選択の繰り返しが
人生。
目の前には常に岐路があり、どちら一つにしか
進めないのが人生。
その中で出会っていく人達ってある意味
運命の人な気がする。
今まで出会った人達、これから出会う人達、
過ぎた日に想う、自分の選択は間違いじゃなかったと。
これからの日に想う、きっとこれからの選択も
間違いないんだと。
出会ってくれてありがとう。
過ぎた日を想うと苦しくなる
過ぎてしまったのは仕方の無いこと
わかってる
わかってるけど苦しい
過ぎてしまったけどまだ次がある
いつまで道があるかわかんない
だから過去も大切に扱おうか
過ぎた日を思う
若い男だった。
妻がいる。妻はどうやら妊娠している。家の中は質素だが、二人ともよく働くので日々の暮らしに不自由はなかった。
家の横に小さな畑があり、それなりに収穫できた。俺は農具も作るんだ。
そうそう、食卓の上の天井近くに棚を作って皿を飾るのが女たちの間で流行ってたんだっけ。
妻が珍しく何度も言ってきたんだ。俺に棚を作って欲しいって。あなたなら造作もないことでしょう?お願いよ。うんうん分かった。今度な。任せとけって。
そのうち戦争が始まって、俺たち若い男はよく分からないまま全員駆り出されることになった。
家を出る時、妻はイヤな顔をしていたが、俺たちは日常とは違う時間にワクワクしていて気にも留めなかった。
ずいぶん長い時間歩いて歩いて、みんな砂まみれになって、何もないこの土地にやって来た。
どうやらここは、俺たちの国の端っこに当たるそうだ。最果てってやつ。
…国?そんなこと考えた事もなかったな。
戦いが始まった。
誰かの号令と共に俺たちは走り出す。
何でもいいからあの岩の向こうに隠れてる奴らをやっつければいいんだよな。
あれ?武器が俺たちのとは違う。ずいぶん遠くから飛んでくるじゃないか。これは反則だろう。そうかルールもクソもないから戦争なんだ。
そんならこっちも…と俺は敵を踏み越え何とか斬り込んで行く。けっこうやれるな。みんな痩せた奴ばっかだもんな。
その時左の後ろから尖ったあれが飛んで来て、こめかみに突き刺さった。
俺もさっき誰かの頭に斧をブチ込んだばかりだ。あいつもこんな感じだったのかね?
大量の血が噴き出してきて、思わず持っていた武器を捨てて両手で押さえた。何てこった。ここでおしまいとは。全く思ってもみなかった。
こんなことならとっとと棚なんか作ってやればよかったな。俺が死んだらあいつはどうなるんだっけ。子供は生まれるのだろうか。髪は俺と同じ金色で、瞳はあいつの緑がかった灰色とか?
…ま、何とかなるだろう。俺だってここまで生きて来れたんだしさ。
しかしこのデカイ体がここで朽ちてしまうのは、何とももったいねえことだな。
ああ目が霞んできた。右の耳はまだまだ聞こえてる。鼻は元から大して利きゃしなかった。
男は膝から崩れ落ちた。足下にできていた自分の血溜まりが彼を受け止める。
砂と混ざり合い、ざらざらと温かく塩辛い血。大きかった俺の体に流れていた血。これが懐かしいってやつかなあ。
ともかく一旦ここで終わりだ。
さらば。さらば世界よ。
瞼が閉じられ、世界は消えた。
とさ、と、静かに着地をする音が聞こえた。紅葉の帳が降りる逢魔が時、決まって静かに現れては、いつの間にか消えている音。縁側に座る私の、すぐ隣にいる音の主は、いつもただ黙って私を見ている。私はゆっくりと立ち上がると、数歩ほど歩いてみる。ガサガサ、と落ち葉を踏む音が静かに響いた。
「こうして会うのも、今日で最後になりそうね」
縁側に座り、私を見る男は、罰が悪そうに立ち上がると私の手をとり縁側へ連れ戻した。そよ風が頬を撫でる。この心地よい風は、あと少しで肌を刺すような冷たい風に変わるのだ。
「何か、喋ってくださいよ。私だけ話をするのは寂しいわ。それとも、何か怒っているの」
男は気まずそうに息を吐いた。
「怒ってないよ、……ただ、僕が今までここにきてたの、バレてたんやなって恥ずかしくなっただけ」
握った手の感触。どこか力の抜けた、ゆるりとした声色は出会った時と何ら変わらず、どこか可笑しくて、くすり、と笑った。
「……ほんと、いやんなるわ。人間が生きられる時間は短い」
「まあ、貴方からするとそうね」
私は、随分昔に機能しなくなった瞳を彼に向けて微笑んだ。彼は、私の手をぎゅっと握った。ひんやりとした外気に寒くなった体を震わせると、彼が私の背中に羽毛をまわすのが分かった。
「今年は、もうここへ来ないんでしょう。明るい話がしたいわ。ほら、思い出話とか、ね」
「……呑気やな。君は。来年の秋までもたないって、医者から聞いた。……最後って、君も分かってるやろ」
男はむっとした口調で吐き捨てた。私は困ったように笑って、でも何も言わなかった。
「……最後くらい、なんかないの。もっと生きたいとか、死にたくないとか……そんなん。……一応、僕妖怪だから、君のお願い、一つなら叶えてやれるけど」
背中にまわった羽毛にぎゅっと力が入った。そうねぇ、と呟いて、お願いを考える。今、彼はどんな表情で私を見ているのだろう。初めて出会った時から胡散臭い薄ら笑いばかりしていた彼は、今。
「じゃあ、思い出話に付き合ってほしいわ」
―――
畳の上に敷かれた布団。横たわる彼女の傍らで、妖怪は呆然と座っていた。去年の今頃、妖怪は彼女と思い出話をした。話した思い出は出会った時のものばかりで、それでも彼女は嬉しそうに笑った。
彼女は、肝の座った少女だった。唐突に彼女の前に表れた妖怪に、自分も十分に食べれていないだろうに、少ない飯を恵んでやるくらいには、強かな娘だった。妖怪が少女を好きになるのに、時間はかからなかった。寿命について意識しだしたのも、このごろだ。少女の寿命はあとたった数十年でつきる。数千年生きてきた妖怪には、その事実がたまらなくつらく感じた。これ以上好きにならぬように、妖怪は少女が成人を迎えるのと同時に忽然と姿を消した。少しだけ離れて、結局戻ってきた時には彼女は年をとっていて、事故で失明していた。それから秋の間は彼女を見守って、怖じ気づいて離れ、また秋に彼女のもとへ戻る、を繰り返していた。そんな調子だったので、思い出話をしたいと言われた時、妖怪は何も言えなかった。
距離を取っていた時間も、全部。彼女にあてていればよかった。そして、かなうなら彼女と共に年をとりたかった。後悔する時は、いつもこうだ。
彼女は春を迎えるとほどなくして息を引き取った。妖怪は思い出を語れなかったあの日から、彼女の側にいることを決めた。久しぶりに、一緒に桜をみた。ほどなくして青葉にかわり、また紅葉の帳をおろすのだろう。
妖怪は静かに目を閉じた。
過ぎた日を想う
父とカブト虫を取りに行ったり
裏山に探検に行ったり
クリスマスにアイスのケーキを買ってきてくれたり
お休みのチューをおでこにしてくれたり
命日が来る度に過ぎた日の父との遠い記憶に
想いを馳せる
みんな、居なくなればいい。
毎日毎日、祈っていたら神様が願いを叶えてくれたようだ。
朝、起きたら一人だった。
父も母も、妹も居ない。
二階の自分の部屋の窓から外を見た。
いつもなら誰かしら歩いている道には人っ子一人居ない、うるさいカラスの鳴き声すら聞こえてこない。
みんな、居なくなった。
やったあ、と今まで出したこともない大きな声で叫んでいた。
それからは楽しい毎日だった。
朝から晩までゲームをして、大好きな漫画や小説を読んで、大声で歌を歌った。
家々の窓ガラスを叩き割り、アパートに火を着けて燃やしてみたり、金持ちの家の庭の池に入浴剤をぶち込んで真っ黄色にもしてみた。
あ〜愉快愉快、さあ、次は何して――。
ブチン、と音がして私が消えた。
姉の脳腫瘍が見つかった時には、既に手遅れだった。
意味のない延命をするくらいなら、と姉は安楽死を望んだが、父も母も反対した。
どんな姿でも良いから生きていてほしい、そう言って。
その日から姉は変わってしまった、おっとりと優しかった姉が父や母を罵倒するようになった。
安楽死に賛成してれば良かった、なんて父も母も言い出すようになった。
治る見込みもなく、身体が動かせなくなり自分で死ぬことも出来なくなった姉は、掠れた声さえ出なくなった口を死の間際まで動かし続けていた。
みんな、いなくなれ。
わたしよりも、くるしんで、苦しみ抜いて。
死ね。 、と。
テーマ「過ぎた日を想う」
過ぎた日を想う
幼い時にとある病気にかかって入院をしたことがある。その時に優しく接してくれた看護師さんに憧れて、自分もいつか誰かの為になりたくてここまできた。志望した看護系の大学にも受かってしばらく、ついに実習が始まった。奇しくも実習先の一覧には昔お世話になった病院の名前が連ねてあり、その偶然と、もしかしたらあの時の看護師さんに再会出来るかもしれないと心を浮つかせていた。
ついにその病院で実習が始まった。初日の挨拶をして顔を上げた時、私はあっ、と思わず声を零した。あの人だ。
かつて私に親身にしてくれた看護師さんの姿がそこにはあった。あれから幾分か経つが、直ぐにその人だとわかった。自分の道を決めるきっかけとなった憧れの存在と、形は違うが同じ意味を持つ服を纏って、今度は患者ではなく同じ立場でこの場所に立っていることに感動を覚えた。
看護学生の実習は慌ただしく進む。やらなきゃいけないことも多くて、それでも何とか隙間をみて、憧れに声を掛けた。
言いたいことは沢山あった。入院していたあの時、あなたの優しさに励まされたこと。寄り添ってくれて、嬉しかったこと。あなたに憧れて、看護師を目指したこと。一言でもいいから、伝えたかった。
「あの、すいません...!」
返答はなかった。憧れはこちらを見向きもせずに、パソコンに何かを打ち込み始めた。
「あの、」
ようやくこちらに向けられた目は、驚くほど冷たく刺すようなもので、思ってもみなかった反応に身をすくませた。
「煩いなぁ、邪魔」
吐き捨てるようにかけられた言葉に凍りつく。確かに、これまでの実習でも看護師に邪険に扱われることはそこそこあった。けれども、けれども憧れだけは私を裏切らないと、あの時のまま優しく接してくれると無条件に思っていたのだ。だけど、結局その他と何も変わらなかったことを思い知らされてしまった。
心の支えにしていた存在が幻想であったことを突きつけられて、ここまで何とか耐えてきたしんどさがのしかかり、疲れが一気に噴き出したようだった。
辞めたいな。その思いが思考を埋めつくしたが、けれどもここまでの労力や山積みの課題を越えてきたことが頭をよぎって、結局このまま踏みとどまることしか出来なかった。
再開の感動や、看護師になりたいという熱意はすっかり無くなっていた。
ぎこちない私を置いて、看護師は無言で立ち上がり、ナースステーションを出ていった。
「すいません、でした」
誰にも聞かれることのなかった謝罪は、去って行った看護師への言葉なのか、憧れを壊してしまったことへの過去の自分に対してのものなのか分からなかった。