『逆光』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
逆光
太陽に向かってカメラを向け
そのままシャッターを押す 逆光
被写体は暗く シルエットの様に
太陽を背に被写体にカメラを向け
そのままシャッターを押す 順光
被写体は明るく 色鮮やかに
そんなのわかってるよ
あえて逆光で撮る人なんているの?
でもね 逆光で撮ったこの写真を
よく見てご覧
動物写真では体毛が浮かび上がって見えてる
花の写真では葉っぱが透過光で鮮明に見える
人生も同じ
順光の場面では 自信満々に笑顔満面で
逆光の場面では 内面や普段気付かぬ面を
順と逆 陽と陰
どちらにも魅力があり
それを見抜ける目を養いたい
小さい頃は
なんで眩しい方向を向いて写真撮るの!
と思っていたけど、そのうちに理由が分かった
《逆光》
ぼくは相棒と言えるカメラと一緒に冒険をし、それをカメラで撮るのが趣味だった
趣味というだけでそこまで上手く撮れた経験はない
出来るなら撮ってみたいが…
やり方がわからなかった
熱中して夕方になっている事に気が付かなかった
ふと見るとぼくの好きな海があった
少し休憩して宿に戻ろう、そうして座ると
突然夕日をバックにイルカ達が飛び跳ねだした
その景色が圧倒される程に綺麗だった
この瞬間を撮る以外考えられず夢中になって撮ると
下手な写真の中から1枚とても綺麗に撮れた写真があった
それは夕日をバックイルカ達が逆光を受けている写真だった
逆光
(お題更新のため本稿を下書きとして保管)
2024.1.25 藍
【逆光】
小学3年の頃だっただろうか。
夏休みになり、友達と遊ぼうにも遊ぶ約束を立てる事が中々難しかった時代。
僕は1人、近所の駄菓子屋に500円を握り締め、いつもより贅沢に買い物をしようと意気込んでいた。
ざぁっ
いつもより大きく聞こえた風の音に、夏の暑さが一瞬和らいだ気がした。
はて、こんな小道があっただろうか?
風に意識が向いたから、普段通る道から見つけたことのなかった道が伸びていた。
せっかくの夏休みだ。
宿題の夏休みの日記に書く内容だって、見つけなければいけない。
冒険心が疼き、僕は方向を90度曲げて元気よく腕を振ったのだった。
夏なのに木が並ぶと涼しく感じるもんなんだと子供ながらに感心して、目の前に現れた長い階段にも臆する事なく足をかける。
風が背中を押す様に吹くため、長い階段のはずが登り切っても清々しい気分で汗もかいていなかった。
登り切った先には大きな木が一本立っていた。
ざりっ
小さく地を踏む音がした。
周りを見ても自分以外には誰もいない。
ひゅっと周りの空気が張り詰め、ドロリと重さをもつ。
(帰らなきゃ…!)
何故かわからないがそう感じた。
木から後ずさる様に距離をとり、
一歩、
二歩、
三、
四…
勢いよく振り返り、登ってきた階段を駆け降りようとした……つもりだった。
ぐいと引っ張られた腕の勢いで再び視界が振り返る。
その先には逆光なんだと言い聞かせるしか出来ない、黒く、顔の見えないモノが僕の腕を掴んでいた。
「ひッ……」
咄嗟に何かを押し除けようと、手のひらで何かの体を押せば僕の体は宙に浮いた。
スローモーションに見える視線の先では、僕が握りしめていたはずの500円玉は拾い上げられ、黒い顔の中央にある真っ赤な穴に飲み込まれた。
「許されるがなら、素顔を見してほしい」
意を決して、主にそう切り出いた。面の下で、どんな顔をしちゅーろう。
冷たい風の通り過ぎる音だけが聞こえた。
わかってはおる、まだ信頼が足らんのだと。
弱みを見せるだけの相手にはなっちゃあせんと。ほんでも、教えてほしい。不安になってしまうき。突然の別れだって、あり得る世界やき。
やけんどこりゃわしの我儘や。
それに、外せん理由もわかってしもうた。
人には知られたくない事があるし、それを暴くがは無粋や。
「ごめん、無理を言うてしもうて。ほんじゃあきに、今の話は──」
最後まで言う前に、主が口を開いた。
「吉行、ありがとう」
優しい声だった。
「君の不安は当然のものだ。だけど、ここまで不平をこぼさず、私の傍に居てくれた。それだけじゃない。自分の命も顧みずに助けてくれたのも……ね」
「そりゃ男士として当然のことや、間に合わざったら、わしゃ…………すまん、続けてくれ」
「君と、その主のことを調べさせてもらった」
心の中を覗かれちゅーような、そがな気持ちになる。
「戦いとは理不尽なものだよ。大切なものを奪い、壊していく」
息を吐いたのか、肩が微かに揺れた。
「吉行、君にとって私はどういう存在だ?」
「守るべき主や。あの時とは違うがやき!」
※未完、もしかしたらpixivに続き載せるかも
2024/01/25・逆行
分かる?と影が指差された。
「縁のね、そっちがわは青っぽくなってて。反対のこっちはオレンジっぽくなってるの」
「止まってると分かりにくいけど、歩いてるくらいの速度だともっと分かりやすいの」
「回折?で良いのかな?プリズムで分かれるのと同じのかなって思って」
「調べてる途中だったんだよ」
残念そうな声に振り仰いだ先。太陽に背を向けて俯くその子の顔は、よく見えた。
しゅんとした表情は影を生まず、光を透かし、はっきりと。
<逆光>
「キミを、愛しちゃいます」
そう、恥ずかしそうに目を細めて言う君。
指先を小さく交差させ、
照れたように笑う。
オレンジ色に染まった夕陽が、君を照らす。
――男女性別のない君が。
〜逆光〜
心が満たされる感覚と
会いに行けない距離と
反比例な気持ち
年相応のシワが
笑うともっと
クシャっとなるの
愛おしくって
可愛くって
触れたいけど
画面越し
早く、会いたいな…
遠距離の性
早く満たされたいです
<存在しない前回のあらすじ>
美紀が商店街で歩いていた時、突如怪人が現れ街で暴れ始めた。
美紀は逃げるが、転んで足をひねってしまい動けなくなる。
動けなくなった美紀を見つけた怪人は、他の人間に対する見せしめに殺そうとする。
怪人は持っていた斧で美紀を斬ろうとするが、間一髪のところで謎の男に助けられる。
謎の男の正体とは――
☆ ☆ ☆
目を開けると、さきほど私を殺そうとした怪人から離れていた。
そして私がさっきまでいた場所には、深く斧が突き刺さっている。
自分があそこにいたかもと思うと、体の芯から冷える感覚がする。
「大丈夫かい?」
声が聞こえたので振り向くと、逆光で見えなかったものの男性の顔があった。
なぜこんな近くに男性がいるのか?
ふと自分の体の見てみると、この知らない男性に抱きかかえられていた。
お姫様抱っこだ。
少し恥ずかしいが、どうやら状況的に彼が助けてくれたのだろう。
「ありがとうございます」
私は助けてくれた彼に礼を言う。
「無事なら何よりだ」
彼は口端を上げニヒルに笑った――ような気がした。
逆光で見えなかったのだ。
逆光?
この男、もしや……
「貴様、何者だ?」
対して怪人はいらだっていた。
当然である。
自分の獲物を横取りされたのだ。
「ふっ、私がわからんか」
男は怪人に向き直る。
「私は悪を挫き、弱きを助ける。
人呼んで――
逆 光 仮 面 !」
「なに!?逆光仮面だと!?」
怪人が驚愕する。
逆光仮面!
怪人が暴れるとどこからともなくやってくる正義の味方。
卓越した戦闘力で怪人を倒し、巻き込まれた人々を救助する。
そしてその善行に対して何一つ見返りを求めない。
まさにヒーロー。
そんな彼の最大の特徴は、誰も顔を知らない事。
名前のように仮面をつけているわけではない。
彼の顔を見るとなぜか逆光で目が眩み、だれも顔を見ることが出来ないのだ。
誰が呼んだか逆光仮面。
「ふん、貴様が逆光仮面とやらか。
どおりで顔が見えないはずだ」
私からも逆光で見えないが、怪人からも見えないらしい。
どういう理屈だろうか?
「まあいい。邪魔するのなら消すだけだ」
怪人は一歩前へ出る。
「このまま走って逃げるんだ」
そう言って彼は地面に優しく下ろしてくれた。
実に紳士的である。
「でも足を挫いてしまって……」
「そうか、じゃあここから動かないように。すぐ終わるからね」
そういうと、彼は怪人の方を見る。
だけど、彼の横顔も逆光で見えない。
「ほう、やってみるといい」
逆光仮面が一歩前に出る。
「お前を殺して、その女も殺す」
怪人も一歩前に出る。
「怪人、聞き忘れていたことがある。名前は?」
近づきながら怪人に問う。
「俺は斧怪人オーノ。貴様を殺す名だ」
両者がゆっくりと歩み寄り、徐々にスピードを上げていく。
そしてすれ違う寸前に、光が彼から放たれる。
私は眩い光に目が眩み、一瞬目をそらす。
光が収まって、視線を戻すと両者はすでにすれ違っていた。
どちらも動かない。
どちらが勝ったのか?
少しの静寂の後、オーノが膝をつく。
「くそ、目が、眩ま、なけ、れ、ば……」
そして怪人オーノは目に倒れ込む。
勝ったのは逆光仮面だった。
「今日も一つ悪が滅びた。ではお嬢さん、さらば――」
「待ってください」
私は彼を引き留める。
一瞬彼が驚いたような顔が見えたが、すぐに逆光で見えなくなる。
「ふむ、何かね?」
彼は何事も無かったかのように私に歩み寄る。
「あの、私、ファンです。一緒に写真を撮ってください」
「いいとも。ファンサービスもヒーローの務め。スマホで撮るのかい?」
「いいえ、この私のカメラでお願いします」
こうして私は持っていたカメラでツーショットを撮ったのだった。
☆ ☆ ☆
私はジャーナリスト。
真実を追い求めるのが仕事。
あの場に怪人が出るかもしれないという情報があり、私はそこに派遣された。
もちろん目的は逆光仮面だ
そして情報通り、怪人は現れ、死にそうになりながらも、写真を撮ることができた。
だが――
「やはり逆光か。最新型の逆光対応のカメラならあるいは、と思ったのだが」
私が撮った写真を見た上司が呟く。
写真の彼の顔は見事に逆光で映っていない。
「すいません」
私は少しも悪いと思ってないが、とりあえず謝る。
「いいよ。期待してなかったから」
その言い草にカチンとくる。
ならお前が行けよ。
こっちは死にそうになったんだぞ。
「じゃあ、次の取材に行ってこい。今度は書けるネタ取って来いよ」
「はい、行ってきます」
こいつ、言い方もそうだが無駄に偉そうで嫌いなんだよな。
怪我人だぞ、嘘でもいいから労われ。
私は痛む足を庇いながら、地下駐車場に停めてある自分の車に乗り込む。
そして周囲に誰もいないことを確認して、一枚の写真を取り出す。
その写真は私と彼のツーショット写真。
そして彼の顔がきれいに映ったものだった。
そう、逆光対応カメラはちゃんと彼の顔を映していたのだ。
上司に渡したものは、印刷する前にパソコンで加工した。
推しとのツーショットだぞ。
嫌いな上司に渡せるかよ。
笑顔の私と、少しはにかんでいる彼。
あんまり女性慣れしていないのかな?
あんなに勇敢なのに、ちょっとおかしくて笑ってしまう。
「よし頑張ろう」
その写真を見て気合を入れる。
上司に腹が立つがそれはそれ。
私は誰かの役に立ちたいからジャーナリストになったんだ。
いつか私も彼のようなヒーローになるんだ。
私を「僕の神様なんだ」と信仰している、あなたの方が神に見える
逆光
光あふれる美しい景色と一緒に、
あなたを撮りたい。
あなたは日射しがよく似合うから。
でも私が光に惹かれて、
近づこうとすればするほど、
あなたは逆光で暗くなり写らなくなってしまう。
私が光に背を向けた時、
初めてあなたがはっきり写るなんて、
なんだか皮肉ね。
#156
逆光になって見えない君の瞳が、群青色に輝くのを、僕は知ってる。
それは、その排他的感情の虫の居所の悪さ、といったところから、来るのかもしれないけど。
なんで君は、空に願わないの。
ずっと、星だけを見てるの。
永遠に届かないものを夢想して、どうして微笑んでばかりいられるの。
その自宅では、広葉樹の落ちた枯葉が、玄関先に沢山散らばっていて、それを片付ける君の背中が、明日死ぬともわからぬ湿っぽいメランコリで満たされていて、どうしても抱きしめたくなったけど、それは出来なかった。
俺が男だからじゃない。
君が男だからじゃない。
ただ、仕事仲間という関係であるのにも関わらず、これ以上の関係になるのは、俺が許せなかったんだ。
「ただ、君は俺の前に這いつくばっていればいいんだよ、負け犬」
そんな、非情な言葉をかけて悦に入るぐら俺は子供で、君は
「ははは、その通りかもしれない」
なんて日和見主義なことを言うから、目も当てられないんだ。
俺は、ただ微笑む君を目の前にして、目をそらすことしか出来なかった。
逆光
昔のカメラは
うっかり逆光で撮ると
後で現像した時に
顔がみんなわからない…なんて事があったな
昔は現像するまで分からなかったからね
今は
逆光でもすぐに分かるから
撮り直せばいいもんね
でも 逆光とか光の入り方で
不思議な仕上がりになったりして
あれはあれで楽しかったな
最近 不思議な写真撮らなくなったなぁ
paki
「お前…名前なんて言うんだ?」
「ごくごく…はぁ?」
俺の言葉にそいつは小さく反応した。
反応しただけで俺の質問に答えてはくれない。
飲みかけのペットボトルから水分を補給するとそいつは走り出した。
「お、おいっ!外は雨だぞ!?」
「だから?今は部活なんだし。あんたも駅伝部なら走れば?どうでもいいことに気を取られていると…タイム落ちるよ?」
「お前…喧嘩売ってんのか?」
雨で地面がぬかるんでいる中、そいつは涼しい顔で走っていく。
雨の中、小さくなっている背中を見ていたら、周りがため息混じりに筋トレを始めていた。
「でたでた…。奴のせいで関係ない俺たちまで変な目で見られるんだよな…。この間だっていじめか!?って生活指導に怒られたんだから…」
「たかが学校の部活なのになぁ。なんでそんなに必死になってるんだが…」
そいつを始めて意識した日の出来事だった。
この学校に転入してきて2ヶ月が過ぎようとしていた。
部活中喧嘩を売ってきたあいつにはあれきり会えてない。
「入ったばかりなのに…早波くんは凄いですね〜!前の学校でも凄かったんですよね?ぼ、僕も頑張りたいです〜!」
「お前…誰だっけ?」
「ガっ!?!?」
俺の言葉でお笑い芸人のように綺麗に滑るとそいつは「お、おかしいですよ。僕と同じクラスで…部活も同じなのに…2ヶ月間一緒に…過ごしたはずなのに…」ブツブツと念仏を唱えだした。
「お前、俺と同じ部活なのか!じゃ、教えてくれよ!この間の雨の中走っていったあのいけ好かないあいつのこと!」
「雨の中…?南くんのことですか?彼はいい意味で走るのが好きな方ですよ!悪い意味だと…懐かない猫ちゃんみたいな人と言いますか……先輩達には可愛がられないタイプの方ですね!部活で1番速いですし!」
「生意気なやつってことでいいのか?」
「そ、そんな事はないと思うのですが…。」
「だから、それを生意気で自分の意志を変えない奴って言うんだよ。俺はそいつに喧嘩を売られたから買うって宣言をしたいんだ!何が言いたいかわかるよな?」
「ひぇ……」
俺は名無し(名前知らないから)の首根っこを掴むと教室を後にした。
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「うるさいな。オレはお前のこと知らないし、覚えてないし、興味無い」
「な、んだと!」
部室に来るなり顧問に集められて言われた言葉は、1ヶ月ももうない駅伝大会の事。
よりによって俺がこいつ…南にたすきを繋がないといけないなんて。
「まぁまぁ…早波くん…最後に南くんが走るんですから…仲良くしません?このままだと走ってて気まずいですし…」
「どうせ…繋がらないからいいよ…」
「俺が走れないって言いたいのかよ?」
「オレにたすきが…繋がったことないからな」
「俺は繋ぐ」
フッと鼻で笑うと南はグランドへと駆け出していった。
「くそ……なんなんだよあいつは!名無し!あいつにたすき繋げてやる!今から走るぞ!」
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たすきを繋ぐ。
なんて言ったのが懐かしく思えてきた。
「先生!大変です!3区走る人が急に体調が……」
「ええ…補欠の俺が走るのかよ…」
先生の慌てぶりをよそに他の部員は、走りたくないとしか言わなかった。
「普通は補欠の自分に回ってきたら嬉しいもんじゃねーのかよ。どうなってるんだ。この学校の駅伝部は…」
「た、た大変なことになりました……。どうしましょ!?」
隣には、涙を浮かべてぷるぷるとチワワのように嘆く名無しの姿がある。
「ん?名無し…そうか!名無しお前が3区を走れ。走って俺にたすきを繋げ。わかったか?」
「へっ………?む、む、無理無理無理ですよ!?」
「無理もへったくれもねぇ。走って繋ぐ。これだけだ。簡単なことだろ?先生!こいつが走るって!」
「No!!!!!!!」
歩かない名無しを持ち上げて俺は先生の元に連れて行く。
これでたすきはなんとか俺に繋がることを信じて。
肺が痛くなってきた。
あと少しの距離がもどかしく感じる。
あの後、なんとか名無しが俺にたすきを渡してくれたから俺はこうして走れている。
「繋い…でやる…」
涙で霞む視界に南が映った。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔って今の南のような顔を言うんだろうな。そんな顔をしていた。
徐々に俺と南の距離が近付く。
近付くな連れて上手く息が出来なくなる。
酸欠なのか頭がぼーっとなる。
諦めたい。
そんな気持ちが胸を覆い尽くした。
「でも…それは今…じゃない…」
俺は最後の力を振り絞って…あいつに南にたすきを渡す。
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「なんで3人だけで写真撮るんだよ…名無し」
「僕は名無しって名前じゃないです!何回言えば理解してもらえるんですか?」
「どうでもいいだろ。さっさと撮れ」
「辛辣です…」
名無しはスマホのカメラアプリを素早く開くと俺と南の間に入ってきた。
「最後までたすきを繋ぐことが出来た記念ですよ。僕、走ってて…たすきを繋ぐことが出来て嬉しかったです!」
「そっか…」
言葉は冷たい台詞だけど心做しか南も笑っているような感じがした。
「名無しって…良い事言うんだな?」
「だから!!僕は名無しじゃないです!七瀬って言うですよ!」
「いや、似てるのかよ…!」
「あと、もう写真は撮ったので…解散しますか?それともどっか行きます?」
スマホの画面を見ながらニタニタと笑う名無し。
「オレは帰る。別にお前たちと今後…」
「普通にコンビニでなんか買って食えばいいんじゃね?」
「ぼ、僕もさんせーです!」
「おい、勝手に決めるな!」
名無しは嬉しそうに前を1人で走っていく。
その後を俺と南とで追っていく。
「早波……」
「なんだよ?」
「たすき……ありがとう」
「どーいたしまして」
俺は似合わない言葉にてれくさくなり、時間を確認するフリをしてスマホの画面を見ると名無しからメッセージが送られてきた。
確認してみれば今、撮ったであろう俺と南の写メが送られていた。
画面いっぱいに逆光が俺らを照らしていた。
最近のカメラは
性能が
とても良い。
良すぎて
あえての
写真が
撮りにくい。
写ルンです
みたいな
昔のカメラだから
撮れる写真も
きっとある。
何でも
新しい
性能の良さ
だけで
決めなくたって
いいよね。
#逆光
今日は何もしたくない一日だった。
昨日、ルミエールで牛脂を持ち帰るところを店員に見つかった。
「今度おなじことをやると事務所にきてもらいます。
店長から厳重注意してもらいます」
と言われた。
立ち直りきれなかった。
もうルミエールで買い物するのはやめたい。
というか死にたい。
「海神様の話をする前に、まずはこれを見てくれ。」
探偵を生業とする目黒が差し出したのは、一枚の写真だった。海を背景にした、花束を持った女性。逆光が彼女の美しさをより際だたせている。
「写真ですか?」
鑑識官の守山は応接用のソファから乗り出すようにして写真を覗き込む。
超常現象を専門とする目黒探偵事務所に依頼したのが、連続不審水死事件を担当とする鑑識官の守山と、検視官の鳶田だった。
この事件で目黒はSNSで賑わっている“海神様”が関わっているというのだが
「半年以上前に、うちの事務所に相談にきた女性が写真家でね。その方の撮った写真。」
「有名な方なんですか?」
「そう。聞いたことあると思うよ。普段は植物の写真が多いんだけど、これだけ人物写真だから話題になったんだ。」
例えば…と出された雑誌やメディアは確かに一度は聞いたことのある名前ばかりだ。そんな写真家の写真がどう関係あるのだろう。
「あ、彼女…」
「そう。今回の連続水死事件のひとり。30代の主婦。」
背筋がゾワっとした。写真の中でこちらにほほえんでいるのは、確かに先日水死体として引き揚げられた女性だ。
「その写真家の方は、友人だったんですか…?」
「20年来の親友だそうだ。…その親友の夫の不倫調査を依頼するくらいにはね。」
「不倫?身元確認の時にゃ随分泣いてたみたいですけど…」
「そりゃ、自殺となれば不倫してる自分が一番に疑われるからだろうな。」
鳶田が首を竦めながら口を挟む。
「まあ、旦那の方は置いておいて。2人はかなり熱烈な関係ってことさ。見てよこの花束。」
目黒が写真の花束を示すが、正直守山には花とかは全く分からなかった。葉の形から桑と蔦であることくらいは分かる。
守山の様子に合点がいったのか、そのまま目黒が解説をしてくれた。
「黄色いスイセンにマルベリー、アイビーの花だね。黄色いスイセンは『愛にこたえて』マルベリーは『ともに死のう』アイビーは『死んでも一緒』」
「こわいくらいの執心ですね…。」
「海神様にでも呪ってもらいたいくらいのね。」
目黒の言葉にめを見開く。
「ちょっと伝手があってね。この写真のデータを貰ったんだ。何回も撮り直したのか、何枚もあってね…」
デスクの引き出しから封筒を取り出して、そのまま渡される。中には写真が数枚入っていた。チラリと見る限り、先の写真とほぼ同じに見える。
「まあ、一枚ずつ見てみてよ。」
言われた通りに写真を取り出し、一枚ずつ捲っていく。
途中、写真が段々と変化していくことに気づいた。手を止めたい衝動に駆られる。このまま見てはいけない。そんな気がしたが、手は止まらなかった。
……最後の一枚を見たとき、足先から体が凍った。
枚数を重ねるごとに黒く染まるソレは、最早彼女とは似ても似つかない。
逆光に浮かび上がった異形のシルエットは、それでもハッキリわかるほど不気味に嗤っていた。
光に照らされて、眩しく感じ、思わず、眼をそらす。あまりにも、崎谷健次郎さんの目線が、向けられるのを耐えられなくて、ステージのライトが眩しくて、眼をそらしてしまった。なんて眩しいのだろうか。
眩しく明るく
それでいて、真っ暗。
まるで先の見えない
将来のよう。
美しいように見えて
怖くて
–逆光–