『踊るように』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
ドイツではサッカーがとても人気
少年少女が一生懸命ボールに集まって、
お団子サッカー
一心不乱に目の前に没頭
そんな時期が僕にもあったな
お団子サッカーでいいじゃないか
踊るように
︰踊るように
触れたら大爆発する爆弾みたいな人が、あれやこれやと言い連ねるのを聞いていた。
「俺は今最高に気分がいいんだ。クソみたいなツラが見られて本当にラッキーだ。心底落ち込んでんだろ? 傷ついてんだろ? ゴミ溜めで一緒に踊っちまおうなあ! 踊り方なんて知らないが、お前の足なら何度だって踏んづけてやれるさ。なあそろそろいいだろ、なんで駄目なんだよ。さっさと『うん』って頷きゃいいんだ。俺はお前のことちゃんと大事だって思ってる。はは! ちゃんと。お前だって一度は頷いてくれたじゃないか。今更んなって何が駄目なんだよ」
お前に付き合っているのも変だと思っていた。変だ、おかしい、こいつはやっぱりイカれてる。でも一度「可哀想」なんて思ってしまったら見捨てられなかった。
「そりゃ俺だって最初は被害者だったさ。確かに俺は傷つけられた。だから傷つけ返した。やられたからやり返した。俺は立派な加害者になった。傷ついたからって傷つけ返したらそれは『ダメ』なことなんだと。だから俺はこれから加害者として生きていくんだよ。ゴミ共が決めたルールにちゃあんと則って生きていく、ああもう心底偉いぜ! 傷付けてきた奴らを踏み潰して生きていく。自由の身だ、やっと解放された、これでよくやく『被害者』から抜け出せた! だからもう俺は自由になっていいんだよ。なんにも縛られずに」
報復による暴力はまた新たな暴力を生み出すから禁止とされているように思う。間違ってはいないけど、同時に理不尽でもある気がすると少し思っていた。
「あいつは俺を攻撃した、だから刺した。あいつは俺を否定した、だから追い詰めて鬱にした。あいつらは因果応報だろ。他人にしたことを自分がされたら文句言うなんてそんな都合いい話あって堪るか。あいつらは挙げ句の果てに『攻撃したつもりなんかない!』とかぬかしやがる。それはたかが己の認識なのによ。受け取った側が“そう”受け取ったなら“そう”なんだよ。あいつも加害者だぜ。つっても、ぜーんぜん理解しないんだ。あいつらおつむ弱すぎる。だから自分が人に加害してるって認識すらできないんだよ。可哀想にな。人生ぶっ壊れちまえ」
その通りかも、と一瞬思ってしまった。果たして何が正解なのか分からなかった。言葉が出てこなかった。「いいや、駄目だよ、どんなことがあっても人を傷つける行為は駄目なことなんだよ」と幼い頃の声が脳内で響いている。
「やられたからってやり返したらダメ」と怒られたじゃないか。そう言いつけられたじゃないか。それが正しいはずだろう?
「じゃあお前はいじめられっぱなしでいんのかよ。いいようにこき使われて、あれしろこれしろって言われたら全部ハイハイって頷いてパシられんのかよ。そんなん我慢ならねぇだろ。いじめてるやつらも自分がいじめてんならいじめられて文句言えねーんだから、お前がいじめ返せばいいだろ? 殴られたら殴り返されても文句言えない、暴言吐いたら暴言吐かれても文句言えない、殺したら殺されたって文句言えないだろ。筋が通ってない奴が俺は一番嫌いなんだ。自分はするけどされるのは嫌って奴は尚更嫌いだ。やられたらやり返す、それの何がいけない? あーあー“普通”に考えたらは良くないってヤツだろ、そんなもん偽善だ。心の弱いやつをカモにして陥れたいクソ連中が綺麗事撒き散らしてんだよ。あんなもんクソ食らえだ。言う事聞いてたらお前はずっといいように搾取されるだけだ」
渡されたナイフを素直に受け取って、これを振り回せば、ムカつくやつは刺されて死んでくれるだろうか。そうしたぁまた報復があって、また連鎖して、ずっと負のループなんじゃないだろうか。
誰かが飲み込まなければならない。誰かが傷ついたままそれを抱えて終わらせないといけない。
そんなの、その人だけが、辛いじゃないか。
「だから素直に殴って刺して追い詰めた。それでやり返されるならまたやり返すだけだ。正当だよ。誰も文句言えないんだから。一度手を出したらみんな加害者なんだから今更被害者ヅラしたってもう遅い。『被害者だから自分は悪くない』は通用しない。加害者同士のボコし合いがあるだけ。やるからには腹括らないとな、それこそ筋が通らない」
負の連鎖は止めなければならない。誰かが抱え込んで誰かが止めないと。
「クソみたいに傷つけられてきた中で、それだけ善に溢れ聖人の心を保ったままでいられる奴がいると思うのか? いっそ狂気じみて頭がイカれてる。良い子ちゃんになりたい奴だとしか思えないな。それかやり返す勇気もないチキンなんだろ」
そえでも人に情けをかけようとする人と、それをしない人の違いはどこにあるんだろう。性格なのか、誰かれに支えてもらった経験があるかないかなのか。
ああでも、一度でいいから怒鳴りながら詰問してやりたいと思ったことは何度もある。なんであんなことされなくちゃならなかったんだとか、なんであんなこと言われないとならなかったんだとか、言いたいこと全部言って責め立てて、精神ぶっ壊してやりたいと思ったことは何度もある。
でもやったってなんにも得られないんだ。やったところで結局虚しいだけなんだ。最終的にこっちが追い詰めてる加害者になってしまう。「やりすぎ」だとか「それはちょっと……」と。そんなの不本意だ。自分が加害者になってでも人を傷つけたいと思ったことは何度もある。何度けど、けど、何度も……? じゃあ、この気持ちはどこへ。
根本から考え方がおかしいことにずっと気づかないままだった。きっと今後もずっとそうなんだろう。小さなズレを積み重ねて誤った選択ばかりを取り続けるのだ。
「気持ちってのは外に向くか内に向くかだ。外に向いてないってことはどうせ内側に向いてんだろ。自分を傷つけること、自らを貶めること、自分の人生を投げ捨てて廃人になること、そうやって内向きに感情を働かせて、結果的に他人を追い詰めるって常套手段をやってんだよ。俺は怒りに任せて暴れてるから離れりゃ危害は加えられないから誰も傷つかないだろう。お前はじっとり病んで静かに、ゆっくり、周りの心を蝕んでいく手段を選んでんだ。暴言を吐いたり暴力を振るわない代わりに人に罪悪感をぐっちょり植え付けさせてる。立派な加害行為だが、スッキリするのか? それ」
ゆっくり、精神攻撃してるんだった。全然、全然スッキリしない。全く、でも嫌じゃない。自分の命を人質にして脅してぅメンヘラと一緒だ。性に合ってるのか、だって不思議と心地良いと思っていぅ。遠回しにお前らが悪いんだよってゆうみたいな、それ、すごく、いいあ
さっきから、クソが、ところどころ呂律が回らない。
抱えらえるわけがない。自分だけが我慢すればいいとずっと思ってきたし、耐えて抱えて飲み込んであげるのが愛情だよねと思ってきた。自分もお前と同じ爆弾なんだろうか。
「メンヘラはあらゆる人に引っかかって捕まるんだよ。或いは捕まえて共倒れを狙ってるのか。俺のことを好きだといった奴らはみんな気が狂ってんだ。自分で言うのも癪だがこ〜んなに自己愛にみまみれてる人間なのによ、近寄ってくるなんてよっぽど馬鹿だ! 散々痛めつけられてきたから感覚が壊れてんだよなぁ、だから見抜けないんだよなぁ、まともに育たなくて可哀想だなあ? だから漬け込みやすいし、押しに弱いからあれやこれや言いくるめられるし、それっぽいことを適当に言ってれば簡単に納得した。お前は正に駄目な例そのままだ、楽しいな、俺はお前が好ましい」
お前だってそうだ。中途半端離れられなくてイライラばっかり募らせて暴力してお縄につくことになるのだ。お互い不幸しか呼び寄せない、ある意味ピッタリ、二人揃って留置所か精神病院行き。
踊りだす思考は止まらないようで、しかし処理に追いつかない。ら行の発音が難しい、脳内がラリってきた。あーなんだ、なんか、なんかやったか。
「俺たちゃ詰んでるみたいだ。クソはクソに育っちまったら元には戻れない。どれだけ治そうとしたって人格形成の時点で歪んでんなら一生歪み続けるだろ。補いまくって真っ直ぐっぽく見せたとして、それでやってけるのかよ。そんな面倒くさいことしたくないな! 暴れ散らかしてるほうがよっぽどマシだ。植え付けられたものを自力で治せだって? 努力なんてしたくないね。『言い訳すんな』って言いやがるから、更生の道なんな選んだら鬱陶しい言葉ばかりかけられる。ならクソ野郎になったほうがずっと生きやすい。クソ野郎なら罵詈雑言ネチネチ言われても素直にその通りだなとしか感じない。せ〜っかく頑張ってより良くなろうとしてた奴も心ない言葉に精神をもっと病んで死んだ。頑張ろうとしてる人を貶める発言をする奴らをクソだと思った。刺した時にはちゃんと痛がって苦しんでほしい。でもこれで俺が殺したら殺人で逮捕だ。ひでぇはなしだろ」
争いの中で育った、あ、争いしか生まない人になってしまうのか。じゃあそぉ責任って、じゃあそえって誰が原因なんだ。頑張っても「言い訳すんな」「人のせえにすぅな」「そんなん誰でもできう」と人を傷つけたいやゆは言う。鬱憤を晴らしたいのか、ただの暇つうしか、人を見下したいのか、色々理由はあるだろうが、そいつあももれなく病院で診てもらったほうが
診てもらって、そ で?
頭痛い、かち割れる。
救いようのない。救いようはないのか。私も、お前も、誰しも。
「救いとか別に求めてねぇよ、寒気すんだろ。綺麗事が好きな奴は『そう言いながら本当は助けてほしいんでしょ』って言うんだよ。苦しみを撒き散らすことで負の感情を蔓延させてみんな不幸にさせたいだけだとしたら? これは共感を求めているとも言えるかもしれないが。助けを求めてるんじゃなく、ただ同じような奴らを作ってみんなで共感し合いたいだけだとしたら? 蔓延させてしまいたい。結果的に救われることになっても、助けを求めているのとはまた違うぞ。分かるだろ? 分からないのか? あーあーなんて頭の足りていない! 実際には助けを求めてるわけじゃなく、自分の状態をどうにかしてもらいたいから辺りに撒き散らしてんだよ。それが『助けを求めてる』って? あー、あー、あーそうかもなあ? 人を攻撃すればするほど俺は清々しい気持ちになれる。腸が煮えくり返っているのが治まってスッキリする。優しく慰めるのだけが救いだと思ってるならとんだ傲慢野郎だ! 分からないのか。なら教えてやる、俺は人に教え強制することが好きだ。俺の為に傷ついてサンドバッグになってくれ。それがお前らの言う気色悪い『救い』ってやつになるんだから。生ぬるい優しさってやつじゃ俺はこれっぽっちも満足できない。全然満たされない。美談なんてここにはないしできる事もない」
助けを求めているだけなら、被害者ヅラをして弱いものの顔をして人に泣いて縋ればいいだけかぁ、ぁえ、あ、お、しれない。なら鬱憤を晴らしたいだけだとしぁら「救いを求めているとは言わない」とゆうのだろーか。
「ある人が言っていたさ。どうして虐待児が苦しむのかってのを事細かく俺に説明した。あいつは真剣に言ってた。親は自分こそが被害者だと思っているから我が子を攻撃するんだと。例えば我が子に向かって『お前が生まれてきたせいだ!』と言うとか。それで殴るとか。子供は親に太刀打ちできない、言いなりになるしかない。親は社会に向かって『毒親だって言いたいのか!? 自分こそが被害者なんだ!』と言うと。社会は一応体裁は守りたいが、出費だの面倒を見るだのはしたくない。社会は適当に親に話を合わせて相槌を打つだけ。これは俺の思いだが、要はめんどくさいんだろ。関わりたくないし、臭いものには蓋をしたいんだろうな。子供は社会に被害を訴える力もないし言葉も知らない。社会は子供を見殺しにして子供が成人すれば『お前の自己責任だろう』と問うだけ問うて放置すりゃ社会側は無傷で済むしタダで済む。あいつは俺が聞いてもないのに話した。だから『俺はちゃんと加害者になった』って言ったらあいつは俺を可哀想なものを見る目で見てきた。人って、というか、あいつみたいな奴がこうやってハマっちまうんだろうな。可哀想になあ、人並みに倫理観とか常識とか責任感とかをいっちょまえに持っちまったもんだからそうなってんだ。可哀想になあ、いつまでもいつまでも他人に責められ攻撃されて、被害者のままで。お前もあいつと同じように精神ぶっ壊すのか? じわじわ人を蝕むだけで、それだけで満足なのか」
それって結局誰かに助けてほしってことの証明なんじゃないか。だって暴れたいんあろ、あってムカつくんあぉ、怒りってのは悲しみの感情の上にあえ、あ、あるのだかぁ、悲しみが怒りに変わるのだから、本質は悲しみなのだ。
「悲しいからなんだ。それが怒りになってるんだろ? その怒りをすっ飛ばして悲しい気持ちにだけ寄り添って宥めようってか? それこそ最低だな。怒りは見ないふりか? お前もそうやっていい子ちゃんぶってクソみたいな奴らの言いなりなんだ。あーあーあーあー! 自己愛の塊みたいな連中に必死に縋った結果が今の哀れなお前だぜ。ぶち壊したいな、良いカモだな、お前ってやつは可愛いよ。少なくとも俺はお前を知ってる。俺はお前に情けってヤツがある。本質ばかり見てると救われる前に足すわれるぞ。それとも俺にすくわれてくれるか?」
言葉が上手く紡げない。そうだ、この感覚、懐かしーな、あの頃、吃りまくっちまって、全然なんにも言えなかった。喉が痛いほど震えている。
「話を戻そう。お前は一度『うん』と頷くだけでいい。俺はこれから自由の身だ、お前の首を絞めることだって厭わない。でもそれより精神的に傷つけるほうがもっと俺の救いになりそうなんだ。クソみたいな自己責任論って楽だよなあ、簡単に人を陥れられて便利だ。ところで、そろそろお前は喋れないだろ。どの道俺に縋るしかない」
お前はいーよーに搾取したいあけ。己もいーよーにこいつを利よーして過去のやり直しをしたがって、け、け、か、同じ道を辿って。あや、ちょっと違うか。
「お前が俺に手を差し伸べて“くれた”んだ。お前も加害者なんだぜ」
お前がさ、さ、あ、差し出した手ぇ取って一緒に踊っちまえば、もう全部なかっあ、ことになってくえたり、は、しなぁか。
「救いなんていらねぇがな、こう言った方がより『可哀想』って思ってくれるんだろ。それとも恐怖か? どっちにしろなんだっていい。さあさっさと俺に踊らされてくれ。さっさと俺に“すくわれて”くれ」
風が吹いて、足許の花が踊った。
最近、こんな風に生きてないな。
『踊るように』
ゆれるゆられる
ひらひらと舞う
澄んだ水の中に落ちる花びらは
貴方を思い出させる
ゆれるゆられる
ひらひらと踊る
澄んだ瞳の中に落ちる君の姿は
僕を魅了していく
惹かれていく
花を見つけた。かわいらしく、どこか少女を思い起こさせる花を。
花瓶に飾ってみた。なかなかいい感じだ。名前も知らないが、インテリアとしてしばらく利用させてもらおう。
なんて思ってたら、目の前の花は少女へと姿を変えてひらひらと踊り出した……様な気がした。
気のせいかと思ったが、それから毎日、あの幻覚を見るもので。
流石に麻薬の材料でも拾ったのか?と焦り、調べてみた。彼女はオンシジウムと言うらしい。花言葉は一緒に踊って、だそうだ。
だから僕は急いで帰ったよ。もちろん、踊るように、ね。
踊るように
手を叩き
じゃれくりあい
もぎ取った
俺たちのハートたち
お前に掴まれちやぁ
私もイチコロだよ
でもすまねぇ、そんな私にも
心に決めたヤツがいるんさ
そんなもん
ばやしこばやしちみにきまってる
今日の今夜はお前と夜を明かし、一緒に
朝日をみるぜ
俺たちの証
心に刻もう
証らぶゆー
お前にゆー
【踊るように】
タンタン、タン。
「おめでとう」とスマホのチャットアプリに打ち込み3分が経過した。未だに送信ボタンを押すことはできていない。この言葉が本心ではないとはいえ、軽く人差し指を動かすだけで済むことなのに、頑なに動いてくれない。どのような言葉を打ち込めば、この指は送信ボタンを押す気になってくれるのだろうか。キーボードの右上にある消去ボタンを、さっと左へスワイプさせる。一気に「おめでとう」という文字が消えた。
トーク画面の1番下には、相手から送られてきたスタンプが表示されている。わーいという文字と共に、可愛らしいうさぎの絵が描かれている。何がわーいだ。人の気も知らずに。
私がこんなにも悩んでいるのは、彼女から送られてきた1つのメッセージが原因である。
「聞いて聞いて、彼氏ができた!」だと。客観的に見ればとてもおめでたいことなのだが、私にとっては違う。何故なら彼女のことを恋愛対象として見ていたからだ。いや、恋愛対象どころか、恋人になりたいとはっきり思っていた。
いつかはこうなるだろうとは思っていた。お互い永遠に恋人ができない可能性の方が低いし、うんざりするほど彼女から「彼氏ほし〜」という言葉を聞かされていたからだ。本当に、人の気も知らずに。
「彼氏ほし〜」という言葉から、彼女からして私が恋愛対象外であることは明白だった。彼氏ということは、恋人として求める条件の1つとして、男であることが定められていることが分かる。これが「恋人ほし〜」という言葉であれば、私にも可能性が僅かながらにでもあったと解釈できる。加えて更に「彼女ほし〜」であれば、喜んで私が彼女候補として立候補していただろう。きっと、おそらく。しかし、そんな可能性は最初から潰されている。「彼氏」なのだから。
それよりも、彼女に何らかのメッセージを返さなければならないことの方が最優先だ。こんなことを考えていたら、私が既読を付けてから7分が経過していた。ああ、もったいない。相手に既読したと伝わってしまうこの機能が本当に鬱陶しい。こんな機能がなければ、メッセージを返すのが遅くなったと理由をいくらでも付けることができるのに。
何よりも、最後にスタンプを送った彼女の方が恨めしいかもしれない。トーク一覧の「スタンプを送信しました」というメッセージのせいで、彼女が私に何を伝えようとしたのかを知るために、トーク画面を開いてしまったからだ。スタンプ機能も嫌いだ。全部嫌いだよ、もう。
彼女は頻繁に追いメッセージというものをする。「おーい」「何やってるの?」「ねえ!」とよく催促されるため、私は既読を付けたら直ぐに返信をしなければならないという習慣を植え付けられた。
返信しなければならないタイムリミットは、彼女からの普段の追いメッセージから推測するに、30分であると見立てる。30分を過ぎれば、彼女は私の既読に気づいてしまうだろう。そして返信をしない私に違和感を覚える。最悪な場合、彼氏ができたことに対して私がよくないと思っていることがバレてしまう。それだけは避けなければならない。
では、どのような言葉であれば、この指は送信ボタンを押す気になってくれるのだろう。
タタタタ、タッ。
「羨ましい!」と打ち込んでみた。そんな訳があるか。
タンタンタンタンタン。
人差し指もそうだそうだと言わんばかりに消去ボタンの上で激しく頷いた。いや、それなら送信ボタンの上で頷いてくれよ。どうやら私の人差し指は嘘が苦手らしい。真実を含んだ言葉ならば、きっと送信してくれるに違いない。
タンタン。タン、カツカツ。
「私も恋人ほし〜」と今度は打ち込んでみた。この言葉に偽りはない。何故なら貴女を恋人にしたかったからだ。私の人差し指が送信ボタンの上で固まった。どうだ、この言葉なら文句を言うまい。
スーッ。
またもや言葉を消されてしまった。どうして、なに、恥ずかしいって?わがままなやつめ。またもやこの指を説得することができず、別の案を考えることになってしまった。
タッ、タッ、タッ、タッ。
「どんな人?」
どうだ。お前もどんな人が彼女の恋人になったのか気になるだろう?送信ボタンの上で、大切なものが質に取られたかのように人差し指が震える。…分かるよ、できるなら私だって、相手のことは少なくとも今はあまり知りたくない。人差し指のために、この言葉は消してあげた。
タンタン、タン。
何も思い浮かばず、初心にかえって「おめでとう」と打ってみた。しかし、やはり人差し指は動いてくれない。現在、既読を付けてから22分が経過していた。もし私の見立てが誤っていたとしたら、もう彼女に既読が付いていると気付かれているかもしれない。いや、嬉しい話題だからこそ普段より返信が待ち遠しくて、トーク画面を彼女にチラチラと見られているかもしれない。
タン。
「……あ」
うさぎのスタンプの下に私の「おめでとう」という文字が追加された。メッセージを送信したのは私でも人差し指でもない、中指である。なんという刺客だ。想定していなかった事態に、焦りが加速していく。
(書き途中です、操作に慣れてなくてOKボタン押してしまいましたごめんなさい。これで完成でいいですかの一言くらいくれよ!)
踊るように
将来の夢という題名の作文は周りに合わせて、お花屋さん、パティシエ、先生…。適当に夢を語って、周りの大人の反応を気にしていた。大人が求めている答えを知っていた、いや知りすぎていた。小さい頃から、夢などなかった。いや、そう自分に言い聞かせていた。
書くのが怖かった、何か言われるのが怖かった。心の奥底で強く音が鳴りひびいていた。その音に気づかないふりをした。ただ、あのとき本当は願っていたのかもしれない、ダンサーになりたいと。ただあのとき書きたくてたまらなかったのかもしれない、踊りたいと。踊るように書きたいと。
“踊るように”
ジュウジュウという音に合わせて踊るように、フライパンの上で薄いベーコンが跳ねる。時刻は午前10時。朝ご飯を作り始めるには少し遅い時間だけれど、日付を跨いでからしばらくして帰ってきた不眠気味の同居人が起きてくるには少し早い時間だ。
BGMとして付けたテレビからは、気象予報士の抜けるような青空が広がり、絶好の洗濯日和ですとこの時間帯に告げるには少し遅いようなコメントが聞こえてきた。もしかしたら三連休初日の今日はどの家庭ものんびり過ごしているのかもしれない。カリカリのベーコンを2枚ずつお揃いの皿に乗せて、残った油の上に卵を落とす。ジュウっと少しだけ油が跳ねて、白身が歪な形になる。
ゆで卵の黄身の具合には口うるさい同居人は、なぜか目玉焼きには頓着がなく、焦げない程度に火を落とし隣のコンロに火を付ける。小さい鍋には野菜のたっぷり入ったミネストローネが入っている。
チラチラと目玉焼きを確認しつつ、テーブルのセッティングをしているうちに洗面所から水が流れる音が聞こえてきた。どうやらやっと同居人も目を覚ましたらしい。テレビをちらっとのぞくと、最新の映画情報が流れていた。
今日はゆっくり家で映画を見るのも悪くないな。しっかりと火が通った目玉焼きをベーコンの上に落とす。もう一つ卵を落としたところで思いの外しゃっきり目を覚ました様子の同居人が顔を出した。
ちょうど、今話題のホラー映画の予告映像が流れたせいかちょっとびっくりしている同居人に少しだけ笑いつつおはようと声をかける。おはよう、って時間じゃないけどね。同居人はちょっとだけバツが悪そうに口を尖らせてそう言った。
もうすぐできるから、ちょっと待っててとバケットの入った皿を渡す。口を尖らせたままの同居人は子供扱いするなと言いながらも大人しく皿を持ってテーブルの方へ歩いていった。そのままいつも通りのイスに座って仕事用の端末を覗いている様だ。やっと取れた休暇だというのにワーカホリックも大変だ。
目玉焼きをテーブルに置きがてら、仕事も程々にねと寝癖のついたままの頭を軽く小突くとすぐ終わる!と拗ねた様な声が聞こえた。
【踊るように】
君の文面はいつも優しくて踊っているように楽しそうだった
でも君の本音を一度だって聞いたことがない
踊るようにはしゃぐ君も優しい君も本当の君なのだろう
でも言葉だけはどこか嘘をついてるような感じで
君の言う「大丈夫」はいつも信用できなかったんだ
君の「大丈夫」はいつも弱々しかったからね
詩(お題)
『踊るように』
踊るように…と言いながら
ステップ踏んで肩を揺らして
歌うように…と言いながら
大声だして夜空に叫ぶ
人は卑屈で謙虚なのだ
勇気というチケットはいつも
○○のように…なのだ
愛するように、好きなように
あなたの前では、初恋のように
踊るように、歌うように
あなたの前では、道化のように
心臓がダンス、ハートがジャンプ
あなたの前では、
「ように」じゃいられない
踊るように
跳ねて
飛んで
回って
笑うの
あぁ幸せだった、と
_踊るように
私の仕事はデスクワーク。
各ブースに隔てられた静かな空間、単純作業だし味気がないから、口パクで歌いながら踊るように左から右へと手を運ばせる。
傍から見たらノリノリで横揺れしてる奴だろう。
自分でもトモコレのウキウキ状態くらい揺れていると思う。無心で仕事をする時もあるけど、揺れてる時のが何だかんだ楽しい。勤務時間中ほとんど座ってるけど体を動かしてるから姿勢もきつくないし。
ダンスって楽しいから、踊るように仕事をするのも楽しいんだな。
わかってる事が
どうしてもできない
覚えてきた日常に囚われて
手を伸ばせない
誰も助けてくれない
自分が決める自分の人生
…
言い訳していないか
流されていないか
怒りを忘れていないか
弱いから立ち向かえる
弱いから優しくなれる
誰のものでも
誰のためでもない
掛け替えの無い僕の人生
風の坂道 小田和正
踊るように
明かりの灯らない、
蒼い月が照らす部屋で、
独り、踊るように、
ステップを踏む貴方。
まるで貴族の様な、
優美で華麗な身の熟しで、
誰もいない虚空を見詰めて、
そっと手を伸ばし、
優しく微笑む貴方…。
僅かに潤んだ、貴方の瞳には、
一体、何方が、
映っているのでしょう?
窓から差し込む月明かりが、
貴方の影を作り出します。
貴方は、とても楽しげに、
踊るように、ステップを踏んでいるのに、
貴方の影は、酷く悲しげに、
何方かを求めて、彷徨います。
大切な人と、踊るように。
独りきりの貴方は、
月明かりが照らす、
静かな部屋の中で、
夢に揺蕩っていました。
挙動不審をまるで踊っているかのように見せるのが私の特技です。
私はこれでブロードウェイに立ちました。
本当です。
【踊るように】
まるで踊るように歌を歌う子がいるのです。
盛り上がったり、悲しんだり、
歌から動きが感じられました。
とても楽しそうに歌う子です。
その歌い方はその子自身を表しているようでした。
ーとある後輩の印象ー
合わせて手足をくり返す動かす意味が理由が
わからないの
楽しいときに無秩序に跳ねたいの
悲しいときはぐるぐる回るの
#踊るように
会議は踊る、されど進まず
ナポレオン戦争後のウィーン会議を揶揄してつくられた言葉。私はてっきり、話がコロコロ変わって何も決まらないというニュアンスだと思っていたが、本当にダンスばっかりしていたかららしい。
ダンスしながらだと、悪いことなんか言えなそうだ。実際、めっちゃ踊ってはいたけどけっこう戦後の平和に貢献したらしい。
同じリズムで、足を揃えてステップを踏めば、意見も揃いそうだ。レコードのグルーヴ感に酔って、全てYESだと首を振れば、縦ノリのフロアの完成だ。
会議は踊るように進む。
さあ、君も一緒に。
踊るように
足取りひとつ、愛の対象であった。
時折の無視も、ぼけっとしていた、と頭を下げて謝る姿も、私だけに向いた好意の具現化だった。
どうやら双方の生活は暖かいらしい。
ありがたいことに毎日は癒しに満ちていて、不思議と猫背にならず過ごしている。
私を笑わせることに命をかけるあなたの気概は、私の生活をぐんぐんと幸福に吊り上げていく。
おそらくこの桃源郷は守られ続けるだろう。
なぜなら、日々前を向く怖さが薄れていっているから。
そして何よりお互いの足取りが、以前は死なないために踏みしめていた一歩一歩であったのに対し、今ではステップを踏むように軽やかだから。
昔より随分大らかになったあなたが口を開く。
「生きているんだから、細かいことはいいんだよ」
私はあなたの目を見つめて答える。
「おっしゃる通りだよ」