よあけ。

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︰踊るように

触れたら大爆発する爆弾みたいな人が、あれやこれやと言い連ねるのを聞いていた。

「俺は今最高に気分がいいんだ。クソみたいなツラが見られて本当にラッキーだ。心底落ち込んでんだろ? 傷ついてんだろ? ゴミ溜めで一緒に踊っちまおうなあ! 踊り方なんて知らないが、お前の足なら何度だって踏んづけてやれるさ。なあそろそろいいだろ、なんで駄目なんだよ。さっさと『うん』って頷きゃいいんだ。俺はお前のことちゃんと大事だって思ってる。はは! ちゃんと。お前だって一度は頷いてくれたじゃないか。今更んなって何が駄目なんだよ」

お前に付き合っているのも変だと思っていた。変だ、おかしい、こいつはやっぱりイカれてる。でも一度「可哀想」なんて思ってしまったら見捨てられなかった。

「そりゃ俺だって最初は被害者だったさ。確かに俺は傷つけられた。だから傷つけ返した。やられたからやり返した。俺は立派な加害者になった。傷ついたからって傷つけ返したらそれは『ダメ』なことなんだと。だから俺はこれから加害者として生きていくんだよ。ゴミ共が決めたルールにちゃあんと則って生きていく、ああもう心底偉いぜ! 傷付けてきた奴らを踏み潰して生きていく。自由の身だ、やっと解放された、これでよくやく『被害者』から抜け出せた! だからもう俺は自由になっていいんだよ。なんにも縛られずに」

報復による暴力はまた新たな暴力を生み出すから禁止とされているように思う。間違ってはいないけど、同時に理不尽でもある気がすると少し思っていた。

「あいつは俺を攻撃した、だから刺した。あいつは俺を否定した、だから追い詰めて鬱にした。あいつらは因果応報だろ。他人にしたことを自分がされたら文句言うなんてそんな都合いい話あって堪るか。あいつらは挙げ句の果てに『攻撃したつもりなんかない!』とかぬかしやがる。それはたかが己の認識なのによ。受け取った側が“そう”受け取ったなら“そう”なんだよ。あいつも加害者だぜ。つっても、ぜーんぜん理解しないんだ。あいつらおつむ弱すぎる。だから自分が人に加害してるって認識すらできないんだよ。可哀想にな。人生ぶっ壊れちまえ」

その通りかも、と一瞬思ってしまった。果たして何が正解なのか分からなかった。言葉が出てこなかった。「いいや、駄目だよ、どんなことがあっても人を傷つける行為は駄目なことなんだよ」と幼い頃の声が脳内で響いている。

「やられたからってやり返したらダメ」と怒られたじゃないか。そう言いつけられたじゃないか。それが正しいはずだろう?

「じゃあお前はいじめられっぱなしでいんのかよ。いいようにこき使われて、あれしろこれしろって言われたら全部ハイハイって頷いてパシられんのかよ。そんなん我慢ならねぇだろ。いじめてるやつらも自分がいじめてんならいじめられて文句言えねーんだから、お前がいじめ返せばいいだろ? 殴られたら殴り返されても文句言えない、暴言吐いたら暴言吐かれても文句言えない、殺したら殺されたって文句言えないだろ。筋が通ってない奴が俺は一番嫌いなんだ。自分はするけどされるのは嫌って奴は尚更嫌いだ。やられたらやり返す、それの何がいけない? あーあー“普通”に考えたらは良くないってヤツだろ、そんなもん偽善だ。心の弱いやつをカモにして陥れたいクソ連中が綺麗事撒き散らしてんだよ。あんなもんクソ食らえだ。言う事聞いてたらお前はずっといいように搾取されるだけだ」

渡されたナイフを素直に受け取って、これを振り回せば、ムカつくやつは刺されて死んでくれるだろうか。そうしたぁまた報復があって、また連鎖して、ずっと負のループなんじゃないだろうか。

誰かが飲み込まなければならない。誰かが傷ついたままそれを抱えて終わらせないといけない。

そんなの、その人だけが、辛いじゃないか。

「だから素直に殴って刺して追い詰めた。それでやり返されるならまたやり返すだけだ。正当だよ。誰も文句言えないんだから。一度手を出したらみんな加害者なんだから今更被害者ヅラしたってもう遅い。『被害者だから自分は悪くない』は通用しない。加害者同士のボコし合いがあるだけ。やるからには腹括らないとな、それこそ筋が通らない」

負の連鎖は止めなければならない。誰かが抱え込んで誰かが止めないと。

「クソみたいに傷つけられてきた中で、それだけ善に溢れ聖人の心を保ったままでいられる奴がいると思うのか? いっそ狂気じみて頭がイカれてる。良い子ちゃんになりたい奴だとしか思えないな。それかやり返す勇気もないチキンなんだろ」

そえでも人に情けをかけようとする人と、それをしない人の違いはどこにあるんだろう。性格なのか、誰かれに支えてもらった経験があるかないかなのか。

ああでも、一度でいいから怒鳴りながら詰問してやりたいと思ったことは何度もある。なんであんなことされなくちゃならなかったんだとか、なんであんなこと言われないとならなかったんだとか、言いたいこと全部言って責め立てて、精神ぶっ壊してやりたいと思ったことは何度もある。

でもやったってなんにも得られないんだ。やったところで結局虚しいだけなんだ。最終的にこっちが追い詰めてる加害者になってしまう。「やりすぎ」だとか「それはちょっと……」と。そんなの不本意だ。自分が加害者になってでも人を傷つけたいと思ったことは何度もある。何度けど、けど、何度も……? じゃあ、この気持ちはどこへ。

根本から考え方がおかしいことにずっと気づかないままだった。きっと今後もずっとそうなんだろう。小さなズレを積み重ねて誤った選択ばかりを取り続けるのだ。

「気持ちってのは外に向くか内に向くかだ。外に向いてないってことはどうせ内側に向いてんだろ。自分を傷つけること、自らを貶めること、自分の人生を投げ捨てて廃人になること、そうやって内向きに感情を働かせて、結果的に他人を追い詰めるって常套手段をやってんだよ。俺は怒りに任せて暴れてるから離れりゃ危害は加えられないから誰も傷つかないだろう。お前はじっとり病んで静かに、ゆっくり、周りの心を蝕んでいく手段を選んでんだ。暴言を吐いたり暴力を振るわない代わりに人に罪悪感をぐっちょり植え付けさせてる。立派な加害行為だが、スッキリするのか? それ」

ゆっくり、精神攻撃してるんだった。全然、全然スッキリしない。全く、でも嫌じゃない。自分の命を人質にして脅してぅメンヘラと一緒だ。性に合ってるのか、だって不思議と心地良いと思っていぅ。遠回しにお前らが悪いんだよってゆうみたいな、それ、すごく、いいあ

さっきから、クソが、ところどころ呂律が回らない。

抱えらえるわけがない。自分だけが我慢すればいいとずっと思ってきたし、耐えて抱えて飲み込んであげるのが愛情だよねと思ってきた。自分もお前と同じ爆弾なんだろうか。

「メンヘラはあらゆる人に引っかかって捕まるんだよ。或いは捕まえて共倒れを狙ってるのか。俺のことを好きだといった奴らはみんな気が狂ってんだ。自分で言うのも癪だがこ〜んなに自己愛にみまみれてる人間なのによ、近寄ってくるなんてよっぽど馬鹿だ! 散々痛めつけられてきたから感覚が壊れてんだよなぁ、だから見抜けないんだよなぁ、まともに育たなくて可哀想だなあ? だから漬け込みやすいし、押しに弱いからあれやこれや言いくるめられるし、それっぽいことを適当に言ってれば簡単に納得した。お前は正に駄目な例そのままだ、楽しいな、俺はお前が好ましい」

お前だってそうだ。中途半端離れられなくてイライラばっかり募らせて暴力してお縄につくことになるのだ。お互い不幸しか呼び寄せない、ある意味ピッタリ、二人揃って留置所か精神病院行き。

踊りだす思考は止まらないようで、しかし処理に追いつかない。ら行の発音が難しい、脳内がラリってきた。あーなんだ、なんか、なんかやったか。

「俺たちゃ詰んでるみたいだ。クソはクソに育っちまったら元には戻れない。どれだけ治そうとしたって人格形成の時点で歪んでんなら一生歪み続けるだろ。補いまくって真っ直ぐっぽく見せたとして、それでやってけるのかよ。そんな面倒くさいことしたくないな! 暴れ散らかしてるほうがよっぽどマシだ。植え付けられたものを自力で治せだって? 努力なんてしたくないね。『言い訳すんな』って言いやがるから、更生の道なんな選んだら鬱陶しい言葉ばかりかけられる。ならクソ野郎になったほうがずっと生きやすい。クソ野郎なら罵詈雑言ネチネチ言われても素直にその通りだなとしか感じない。せ〜っかく頑張ってより良くなろうとしてた奴も心ない言葉に精神をもっと病んで死んだ。頑張ろうとしてる人を貶める発言をする奴らをクソだと思った。刺した時にはちゃんと痛がって苦しんでほしい。でもこれで俺が殺したら殺人で逮捕だ。ひでぇはなしだろ」

争いの中で育った、あ、争いしか生まない人になってしまうのか。じゃあそぉ責任って、じゃあそえって誰が原因なんだ。頑張っても「言い訳すんな」「人のせえにすぅな」「そんなん誰でもできう」と人を傷つけたいやゆは言う。鬱憤を晴らしたいのか、ただの暇つうしか、人を見下したいのか、色々理由はあるだろうが、そいつあももれなく病院で診てもらったほうが

診てもらって、そ で?

頭痛い、かち割れる。

救いようのない。救いようはないのか。私も、お前も、誰しも。

「救いとか別に求めてねぇよ、寒気すんだろ。綺麗事が好きな奴は『そう言いながら本当は助けてほしいんでしょ』って言うんだよ。苦しみを撒き散らすことで負の感情を蔓延させてみんな不幸にさせたいだけだとしたら? これは共感を求めているとも言えるかもしれないが。助けを求めてるんじゃなく、ただ同じような奴らを作ってみんなで共感し合いたいだけだとしたら? 蔓延させてしまいたい。結果的に救われることになっても、助けを求めているのとはまた違うぞ。分かるだろ? 分からないのか? あーあーなんて頭の足りていない! 実際には助けを求めてるわけじゃなく、自分の状態をどうにかしてもらいたいから辺りに撒き散らしてんだよ。それが『助けを求めてる』って? あー、あー、あーそうかもなあ? 人を攻撃すればするほど俺は清々しい気持ちになれる。腸が煮えくり返っているのが治まってスッキリする。優しく慰めるのだけが救いだと思ってるならとんだ傲慢野郎だ! 分からないのか。なら教えてやる、俺は人に教え強制することが好きだ。俺の為に傷ついてサンドバッグになってくれ。それがお前らの言う気色悪い『救い』ってやつになるんだから。生ぬるい優しさってやつじゃ俺はこれっぽっちも満足できない。全然満たされない。美談なんてここにはないしできる事もない」

助けを求めているだけなら、被害者ヅラをして弱いものの顔をして人に泣いて縋ればいいだけかぁ、ぁえ、あ、お、しれない。なら鬱憤を晴らしたいだけだとしぁら「救いを求めているとは言わない」とゆうのだろーか。

「ある人が言っていたさ。どうして虐待児が苦しむのかってのを事細かく俺に説明した。あいつは真剣に言ってた。親は自分こそが被害者だと思っているから我が子を攻撃するんだと。例えば我が子に向かって『お前が生まれてきたせいだ!』と言うとか。それで殴るとか。子供は親に太刀打ちできない、言いなりになるしかない。親は社会に向かって『毒親だって言いたいのか!? 自分こそが被害者なんだ!』と言うと。社会は一応体裁は守りたいが、出費だの面倒を見るだのはしたくない。社会は適当に親に話を合わせて相槌を打つだけ。これは俺の思いだが、要はめんどくさいんだろ。関わりたくないし、臭いものには蓋をしたいんだろうな。子供は社会に被害を訴える力もないし言葉も知らない。社会は子供を見殺しにして子供が成人すれば『お前の自己責任だろう』と問うだけ問うて放置すりゃ社会側は無傷で済むしタダで済む。あいつは俺が聞いてもないのに話した。だから『俺はちゃんと加害者になった』って言ったらあいつは俺を可哀想なものを見る目で見てきた。人って、というか、あいつみたいな奴がこうやってハマっちまうんだろうな。可哀想になあ、人並みに倫理観とか常識とか責任感とかをいっちょまえに持っちまったもんだからそうなってんだ。可哀想になあ、いつまでもいつまでも他人に責められ攻撃されて、被害者のままで。お前もあいつと同じように精神ぶっ壊すのか? じわじわ人を蝕むだけで、それだけで満足なのか」

それって結局誰かに助けてほしってことの証明なんじゃないか。だって暴れたいんあろ、あってムカつくんあぉ、怒りってのは悲しみの感情の上にあえ、あ、あるのだかぁ、悲しみが怒りに変わるのだから、本質は悲しみなのだ。

「悲しいからなんだ。それが怒りになってるんだろ? その怒りをすっ飛ばして悲しい気持ちにだけ寄り添って宥めようってか? それこそ最低だな。怒りは見ないふりか? お前もそうやっていい子ちゃんぶってクソみたいな奴らの言いなりなんだ。あーあーあーあー! 自己愛の塊みたいな連中に必死に縋った結果が今の哀れなお前だぜ。ぶち壊したいな、良いカモだな、お前ってやつは可愛いよ。少なくとも俺はお前を知ってる。俺はお前に情けってヤツがある。本質ばかり見てると救われる前に足すわれるぞ。それとも俺にすくわれてくれるか?」

言葉が上手く紡げない。そうだ、この感覚、懐かしーな、あの頃、吃りまくっちまって、全然なんにも言えなかった。喉が痛いほど震えている。

「話を戻そう。お前は一度『うん』と頷くだけでいい。俺はこれから自由の身だ、お前の首を絞めることだって厭わない。でもそれより精神的に傷つけるほうがもっと俺の救いになりそうなんだ。クソみたいな自己責任論って楽だよなあ、簡単に人を陥れられて便利だ。ところで、そろそろお前は喋れないだろ。どの道俺に縋るしかない」

お前はいーよーに搾取したいあけ。己もいーよーにこいつを利よーして過去のやり直しをしたがって、け、け、か、同じ道を辿って。あや、ちょっと違うか。

「お前が俺に手を差し伸べて“くれた”んだ。お前も加害者なんだぜ」

お前がさ、さ、あ、差し出した手ぇ取って一緒に踊っちまえば、もう全部なかっあ、ことになってくえたり、は、しなぁか。

「救いなんていらねぇがな、こう言った方がより『可哀想』って思ってくれるんだろ。それとも恐怖か? どっちにしろなんだっていい。さあさっさと俺に踊らされてくれ。さっさと俺に“すくわれて”くれ」

9/7/2024, 7:44:15 PM