僕はこの社会から、この世界から、この人生から、逃げ果せる。死にたいと藻掻く奴らよさようなら!僕は一足先にゆるされるのだ。僕の勝ちだ!
と思った。思っていたのに、今こうしてベッドに寝そべっている。そういう意識がある。ということは、死んでいない。
目覚めて飯食ってクソして薬飲んで寝る目覚めて飯食ってクソして薬飲んで寝る目覚めてクソして飯食って薬飲んで寝る目覚めて
あーーーーーーーーーーーーーーー
ゆるされたい。もうゆるされたい。
生きるというのは罰みたいなものだ。僕は今尚罰を受け続けている。死というのは救済で、生からの解放。だから死にたいと喚き自死を実行する。というのに、僕は尚生きている。
もうゆるされたい。ゆるされたい。ゆるされてしまいたい。生地獄から解放されたい。ゆるされたい。人生からゆるされたい。生きるということからゆるされたい。
ゆるされたい。ゆるされたかったのに。
天井が見える。心臓が動いている。
僕は生きてる。生きてる。生きてる。
手紙を開くと
あなたのようになれたらどれほどだったろう。
冷凍焼けの臭いがするお前はもう誰にも美味しく食べてもらえないんだろうな。今も全身バラバラなまま青くて冷たい世界でおやすみなさいしてる。ナイフを手向けたのはお前なのに、先に勝ち逃げしやがって。真っ赤に染まったこのはらわたはどうしてくれようか。あついよ。
僕もそっちに行きたかった。お前みたいになれたらどれほどだったろうと思う。そのたび心臓に縄が食い込んで痛むのだ。頭はドリルで貫通させられている。
僕もそっちに行きたかった。全ての音を吸い尽くす積雪に沈んでしまいたかった。冷凍焼けの臭いがするお前を思い出したらできなかった。
可哀想で羨ましかった。可哀想だったのは僕だ。お前はちっとも可哀想なんかじゃない。だって勝ち逃げだぜ?羨ましいよ。僕は何が羨ましかったかって、そんなの明白だ。お前のその、冷たい皮膚と、冷淡さだ。僕の心は温かいからお前みたいに人を置いて行ったりできない。置いて行ったりなんて。
あなたのようになれたらどれほどだったろう。僕のこんな、ちんけな覚悟なんて。
薄い酸素を吸って息を繋いでいる。白い煙を口から吐き出しては、自らの命を削り落としているかのような錯覚がしてくる。体が重たいならば手足を切り落として軽くなればいいじゃない、と、肉だるまになったお前は平気で言うのだ。蹴飛ばしてやろうか。僕がどんな思いでお前の姿を見ていたと思ってるんだ、ちくしょう。
やっと辿り着いたかと思えば空白だらけで、軋む床板が嘲笑いながら僕を責め立ててくる。知っていた、知っていたさ。ホコリをかぶって待ち続けていたお前の分身は、一体僕に何を言うつもりなのか。僕はあいつと違って君を置いていったりしないよ。この手紙ですら、置いてこの世を去ることなど、できない。
手向けられたペーパーナイフで封を切り、ついでに床に落ちていた名刺も破ってやった。見たくない文字列だった。どうして僕達、元は同じ名字だったのに。
手紙を開くとコロン、と何かが転がり落ちた。臍の緒だった。
僕も、あなたのようになれたらよかったのに。
小さな幸せ
食べてしまったんです。
食べるつもりなんてありませんでした。
しかし食べてしまったのです。
愛情込めて飼っていたあなたを。
私よりずっと小さな――この場合私が巨大であるという方が適切でしょう――あなたを口に含むのは簡単でした。
青ざめ怯える顔を凝視しながら、左の腕を、右の脚を、腹の真ん中を、愛おしいままに。
食べてしまったのです。
皿に乗ったあなたを、ナイフで切り、フォークで突いて。
絶望に塗れた目を向けられたことを私は理解していました。理解していながら、大きく口を開け、フォークを中へ突っ込んだ。
食べてしまったのです。
咀嚼しきれなかった骨が喉に引っかかりました。あなたの「生きたい」という思いなのだろうと意味づけすると“命”を感じました。
食べてしまったんです。
とうとう。
食べてみたかったんです。
あなたは私の血となり肉となる。私の体はあなたと共にあるのです。
さよならさよならひらりひら
ぴょんぴょこ飛び跳ねるうさぎとさようなら
ぴょんぴょこ跳ねまわる脳みそとさようなら
さよならさうならひらりひら
ぴょんぴょこうさぎな脳みそとさようなら
ひらひらひらり
さようなら私
おかしな頭うさぎともさようなら
消えてしまいたい、死んでしまいたい、面倒くさい、しんどい、つらい、やりたくない、殺してしまいたい、むしゃくしゃする、投げ出してしまいたい、泣き喚きたい、死んでしまいたい、カウンセラーさんに会いたい、なんて言ってくれるのかな。怖いよ、先生に会いたい。死んでしまいたい。