手紙を開くと
あなたのようになれたらどれほどだったろう。
冷凍焼けの臭がするお前はもう誰にも美味しく食べてもらえないんだろうな。今も全身バラバラなまま青くて冷たい世界でおやすみなさいしてる。ナイフを手向けたのはお前なのに、先に勝ち逃げしやがって。真っ赤に染まったこのはらわたはどうしてくれようか。あついよ。
僕もそっちに行きたかった。お前みたいになれたらどれほどだったろうと思う。そのたび心臓に縄が食い込んで痛むのだ。頭はドリルで貫通させられている。
僕もそっちに行きたかった。全ての音を吸い尽くす積雪に沈んでしまいたかった。冷凍焼けの臭いがするお前を思い出したらできなかった。
可哀想で羨ましかった。可哀想だったのは僕だ。お前はちっとも可哀想なんかじゃない。だって勝ち逃げだぜ?羨ましいよ。僕は何が羨ましかったかって、そんなの明白だ。お前のその、冷たい皮膚と、冷淡さだ。僕の心は温かいからお前みたいに人を置いて行ったりできない。置いて行ったりなんて。
あなたのようになれたらどれほどだったろう。僕のこんな、ちんけな覚悟なんて。
薄い酸素を吸って息を繋いでいる。白い煙を口から吐き出しては、自らの命を削り落としているかのような錯覚がしてくる。体が重たいならば手足を切り落として軽くなればいいじゃない、と、肉だるまになったお前は平気で言うのだ。蹴飛ばしてやろうか。僕がどんな思いでお前の姿を見ていたと思ってるんだ、ちくしょう。
やっと辿り着いたかと思えば空白だらけで、軋む床板が嘲笑いながら僕を責め立ててくる。知っていた、知っていたさ。ホコリをかぶって待ち続けていたお前の分身は、一体僕に何を言うつもりなのか。僕はあいつと違って君を置いていったりしないよ。この手紙ですら、置いてこの世を去ることなど、できない。
手向けられたペーパーナイフで封を切り、ついでに床に落ちていた名刺も破ってやった。見たくない文字列だった。どうして僕達、元は同じ名字だったのに。
手紙を開くとコロン、と何かが転がり落ちた。臍の緒だった。
僕も、あなたのようになれたらよかったのに。
5/5/2025, 9:18:46 PM