『見つめられると』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
見つめられるとドキドキする。これは多分、「恋」なんだと思う。今まで恋愛なんて一切してこなかったから確信はできないけと。
【「お得」が私を駆り立てる】
見つめすぎたスマホがフリーズ
今日で「お気に入り」に入っている商品のセールがおしまいですよとか
今月末までに申し込むと30%引になりますよとか
そんな、知らなければ過ぎ去ってしまったであろうなもの
でも、知ってしまうと、何かを失いそうで
どうにかしなくてはと
衝動に駆られながらスマホの画面の「お得」を追いかけ
ずいぶん「時」を消耗していた
ふと我にかえると「まだやってんの?」と呆れた愛猫がこちらを見ている
そんな風に見つめられると自分がとても不甲斐ないように思えてしまい
そんな不甲斐なさを紛らわせるようにちゅーるを取り出し猫の機嫌をとっていた
#見つめられると
目を合わせるのが苦手な私は、真っ直ぐ目を見つめて話す人が苦手である。ただ、目を見て話さないと失礼かなとも思うので、とりあえず見つめる。
が、3秒も経つと(わぁ、この人すごく見つめてくる)と、そればかりが気になり自分の話なのにどこまでどんなふうに話していたか分からなくなり、結局目を逸らしてしまう事がしばしばある。
特に苦労したのは面接だ。面接官が数名いれば順番に見渡せば良いのだが、1対1なんてサイアクだ。テクニックとして「ネクタイの結び目」や「眉間」というのがあるが、どれも違和感があっただろうなと今振り返ると苦々しく思う。
だから私は複数人で話す方が好き。作業しながら話す方が好き。なのだ。
#9
見つめられると、ドキッとする。
「私何かしたかな…」「顔になんかついてる?」「相手に何か変化があったのかな」など…この場合のドキッとは、恋の予感とか考えている余裕など私には無いので、本当につまらない女である。私は良くも悪くも、あまり人(自分も含めて)に興味が無いので、「察する」というのが中々できない。「見られてるなぁ」と思いつつその理由をあれこれと考えるが、それがさっぱり分からない。相手の髪型などに変化があったとしても多分気づけないだろうし、自分に何かがあったとしてもそれもまた気づくのはかなり難しいだろう。ここまで長々と書いたが、要するに、
『直接言って欲しい。』これに尽きる。自分で考えてもわかるわけのないことについて悩むなんて言うものすごく無駄で不安な時間を過ごしてしまう。
最悪の場合眠れない。宿題もできない。ワガママだな〜と思いつつそんなことを考えていると、母からの視線を感じる。流石にこれは察せるよ。宿題しなきゃ。
(テーマ:見つめられると/コンルリ)
見つめられると…
貴方のその真っ直ぐな嘘偽り無い瞳で見つめられると…ドキドキしてしまう…見つめられると、脈打つ鼓動が早くなる…見つめられると、心拍数が上がる…見つめられると、何も考えられなくなる…見つめられると、照れてしまう…見つめられると、恥ずかしくて照れて目を逸らしたくなる…見つめられると、緊張してしまう…見つめられると、その先を想像してしまう…見つめられると、その先を妄想してしまう…見つめられると、その目から逃れられなくなる…見つめられると、二人の時は一瞬で止まる…見つめられるだけで、こんなにも沢山の感情が芽生えてしまう…ほんとにどれだけ、彼の事を溺愛してるかバレちゃうね…でも、それだけ、ホントに彼を心から愛してやまないんだ…もう駄目なんだ…彼が隣にいないと…
その目に吸い込まれてどこまでも落ちていきそうな
スカイツリーのガラス張りの床に乗った時のような気がして、ずっと苦手だった。
でも最近は怖さを堪えて人の目を見ることができるようになった気がする。
見つめられると
君に見つめられると僕は文字通り
石になり一歩も動けなくなるんだ....
まるで魔法に掛かったみたいに
地面に縫い止められて行く
嗚呼 君の笑顔が恨めしい.....
そうして僕は今日も君に振り回されて
行く。
見つめられると
たおれます
見つめられると
気恥ずかしい
でも 話は目を見て聞く物と
教わった
でも 誰にでも?
あの人のも?
お題:見つめられると
僕は君が好き
君の青い綺麗な瞳も雪のように白い肌
昔から大好きだった
のに ・・・どうしてそんな怯えるの?
嗚呼、僕が君の全てを消したから?
君の綺麗な瞳が僕を見てるって思うとたまらない
ねぇ、そんなに見つめられると …
もっと君を奪いたくなるじゃないか !
私にとって
見つめられることは警戒すること
人間にとってそれは
普通なことなの?
……たまにご飯くれる人間はいるけど
食べれるとは限らないものもあるし
基本食べないよ
それで私の兄妹が
いなくなったこともある
同種以外の生き物は
ほんとよく分からない
[見つめられると―猫―]
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色のあるものって不思議
ぱっと見ても
じっと見ても
色んな印象がある
人によっても
印象が違うところも
また面白い
固定概念があっても
そこから生まれる発想を
色んな人に聞いて回るもの楽しい
もし色に
私たち人間のように話せたりするなら
話しながら生活してみたい
もしかしたら
人間に性格があるように
色にも色んな性格があれば
楽しいかな?
赤と言っても落ち着いてるみたいな
真逆な性格とかだったら……
ふふ、妄想でしかないけど
いいかも
[見ること―好奇心―]
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中学の時
初めて同じクラスになった
女の子がいる
特定の誰かと仲良くするわけでもないけど
それなりにみんなと話している所を見たことがある
でもその子
不思議なところがあった
誰とも話していない時は
ずっと窓の外を見ている
何度かその目線の先を辿っても
何もないし
誰かがいる訳でもない
そしてもう1つ不思議なこと
その子の瞳って
涙の膜があるような
水が表面にあるような…
言葉では表しにくい瞳だったんだ
「何を見てるの?」
なんて、声をかけたかったけど
なぜか不思議という先入観で
恐怖も少しばかりあって
緊張を覚えていたから
結局1度も声をかけられなかった
…………そしてその子は
ある日突然姿を消した
[見つめる先―不可思議―]
見つめられると
人の視線を感じると緊張して動悸がバクバクと鼓動を打ち始める
症状が悪化してくると自分のコントロールが効かなくなり手足や声が震えてくる
対面で話していると相手の目つきが気になって仕方ない、そして自分がどんなふうに相手に映っているのかどうしても気にしすぎてしまう
相手の視線が怖い、いつもそんなふうに感じてしまう
でも中には自分を暖かく見つめてくれる人がいるかもしれない
そういった目で見てくれている人を探そうと思った
不安というのは期待が大きい分、反比例して増大するそうです
見つめられた事って、そんなに記憶がない。鑑賞に耐えられるようなビジュアルではないので、もし、見つめられたら石になってしまうかも知れない。
昔、寄席に通っていて週1以上のペースで行ったものだが、
その寄席は客の入らないので有名なくらいだったから、とうとう閉める事になったが、
そんなある日、いつものように暗い階段を3階まで登ると、入口に、どん!とテレビカメラが構えてあり、マイクを向けられてしまった。
不意打ちもいい所だか、閉鎖する寄席について、何か一言と訊かれて、恥ずかしい話し、一言も答えられなかった。
馴染みの お茶子のお婆さん達も、「ガンバレ」という暖かい視線を送ってくれていたが、それがなおさら重圧となった。
私はただ固まって、やけに大きく丸いレンズの前で、強いライトを浴びて、まるで蛇に睨まれたカエルみたいに、目を白黒させるほかなかった。
私だって、人前で話をする事はあるし、弁論大会にも出たりしたが、無機質な大きなレンズの前に立たされると、異様な緊張感があるものだと、この時はじめて知った。
見つめてしまうと石になるのは、ギリシャ神話のメデューサだが、彼女は恐ろしい顔をしており、髪の毛の1本1本がヘビで、その顔を見てしまうと石になってしまう。
もともと彼女は美しい娘で、海神ポセイドンの恋人だった。自分の容姿を自慢したり、アテナ神殿でポセイドンと仲睦まじい行ないをしたために、
アテナの怒りを買い、恐ろしい怪物に変えられてしまったという。
ペルテウスに首を切られ、切り落とされた後も見るものを石に変える効力は失われる事はなく、その首はアテナに捧げられて、
アテナはその首を自分の盾に用いた。最強の盾である。アテナもすごい事をするのである。
しかし、本当のメデューサは、コリントスの豊穣の女神であり、デメテルと同一の女神であった。
征服者の都合で、殊更みにくいバケモノに変えられてしまうのは、キリスト教が、魔女を異教徒として醜い悪魔の使いみたいにイメージ化したのと同じだ。
けれどメデューサはキャラが立っているので今も人気がある。
魔除けに使われたり、マンガやゲームにもよく登場する。それこそビジュアルが醜くて、かえって素敵なのである。むしろユーモラスなくらいだ。
バケモノ好きな私としても、無機質なカメラの眼よりも、よっぽど愛着を覚えてしまう。
「この前、二人で帰ったんだって?」
理子が紙パックジュースのストローを噛みながら、ニヤニヤと聞いてきた。
ようやく風の強さが和らいできて、ポカポカ陽気に身を包まれるようになった今日この頃。春休みに入ってからほとんど毎日部活をしに学校へ通っていた。入学式の翌日に新入生歓迎会と称して部活動紹介をするからだ。
私と理子は吹奏楽部に所属している。私はホルンを吹いていて、理子は曲によってエレキベースかコントラバスを弾いている。部員数は二学年合わせて二十人弱いるけれど、選曲の幅やコンクールの出場を考えると、新入部員は多く獲得したい。だから部全体が力を入れているのだ。
朝からパート別練習中に顧問の内田先生が回ってきて、ものすごくしごかれた。反省点が多すぎて落ち込んだまま、束の間のお昼休憩に入った。学校内なら基本どこで食べてもいいから、私と理子はいつも何となく同級生が集まっているラウンジに来てはいるが、結局二人でベンチに座り食べていた。
「二人でって何?」
話の状況が掴めなくて聞き返してしまった。理子はニヤニヤした目をそのままに、ズズッと紙パックのジュースを啜った。
「この前の雨の日! 武藤くんと相合傘で帰ったんでしょ?」
私は努めて冷静に話を聞こうとしたけれど、武藤くんの名前が出てきて思わずむせてしまった。
「ちょっと大きな声で言わないで!」
「ベタだけど。アンタの方が大きいよ」
理子は飲み切ったジュースの紙パックを潰して、ビニール袋の中に入れた。捨てるときに分別するから袋の口は緩く縛るらしい。中身が溢れないか私の方がハラハラしている。
「帰ったの?」
「帰った」
「どうだった?」
「あの、引かない?」
「言われないと分からない」
理子はわざとらしくスマホを取り出した。SNSをチェックするフリしてこちらの出方を窺っているのだ。
私は近づいて、周りに聞こえないように注意して言った。
「いい匂いした」
「きも」
理子の鋭い発言に撃沈した。でも本当のことである。
あの日の出来事をざっくり理子へ伝えると、きゃあと黄色い歓声をあげた。
「よかったじゃん。距離縮まって」
「それ全然良かったって思ってなくない?」
「思ってるって」
「ホントに?」
「だって、超幸せそうな顔してるよ。恋する乙女って感じ」
可愛いなぁと私の腕を肘で突いてきた。私は勢いに押されるまま、顔に手を当てて隠した。顔に出やすいと自覚している。話しただけでこんなに照れて恥ずかしい思いをしているんだから顔が真っ赤に違いない。
理子は思いの外楽しかったのか、それとも面白かったのか、私の体を大袈裟に揺らし始めた。私はなすがままである。ただし、膝の上に広げたままのお弁当箱はしっかり手で押さえた。まだ少しおかずが残っているから溢すわけにはいかない。
「ねーえー! いつ付き合うのー!?」
「まだ無理だって」
「相合傘しておきながら、アンタ、付き合ってないなんて!」
理子の言葉には苦笑いしか返せなかった。
*
午後から雨が降ったあの日。私と武藤くんは駅前の本屋に寄るために一緒に帰ったのだ。武藤くんはラノベの新刊を、私は好きなファッション雑誌を買いに。
並んで歩くには傘が邪魔だった。会話していて非常に遠く感じる。でも濡れる方が嫌だったから、私は仕方なく折り畳みの傘を広げた。そこで後ろから「あ、」と声が聞こえたのだ。
「傘、持ってたんだ」
「え、うん。予報見たし」
「そっか」
武藤くんは形の綺麗な眉毛をこれでもかというくらいに下げた。最近整えたらしく、可愛らしい顔に磨きが掛かっていた。
「え、何? 何かあった?」
「いや、別に、うん。なんでも、ないっていうか」
歯切れが悪い言い方をする。はっきり言ってくれないことに少しムッとした。
「ちゃんと聞きたい」
私は一旦傘を閉じた。近くへ寄ると、武藤くんは明らかに動揺していた。「あー」とか「うー」とか言いながら視線をウロウロ動かしている。やがて、大きな目が私に向けられた。
「僕、声大きくないし。でも、坂本さんと話したいから。その、あの、傘。僕の大きいし。いっ、一緒に、いかが、でしょうか」
だんだん声が小さくなっていき、最後の方は聞き取るのが大変だった。顔も耳も真っ赤にしていたのに、目は私から離れなかった。少し潤んでいるけれど、意志の強い瞳に見つめられて胸が高鳴った。私は無意識に頷いていた。
武藤くんは途端に嬉しそうに笑った。持ち手が黒いビニール傘をパッと広げて私との間に真っ直ぐ持ち上げた。しとしと降る雨の中、私たちは本屋までの約十分をゆっくり歩いた。
相合傘は私が思い描いていた以上に距離が近かった。一つの傘に濡れないように入るから、体がほとんど密着している。右隣の武藤くんを必要以上に意識しないようにしていても、熱が、匂いが、どうしても過剰に反応してしまう。
傘は頭上を覆うように被さるから、声も響いて聞こえる。低すぎず高すぎず、優しくて柔らかい口調の武藤くんの声が私の耳に届いた。多分私の耳は赤かったに違いない。
それでも傘に降り注ぐ雨の音量に負けてしまう時があって、お互いに顔を近づけることが何度かあった。武藤くんはどう思ったか分からないけれど、私は終始ドキドキしっぱなしだった。
徒歩十分という距離は本当にあっという間だった。ゆっくり歩いていたのに、結局すぐ辿り着いてしまった。
店先の屋根に入り、武藤くんが傘を閉じている間にハンカチタオルで濡れた場所を拭いた。でも私は鞄くらいしか濡れてない。なんでだろうと思って武藤くんを見ると、彼の右肩が濡れていたことに気がついた。傘を私の方に傾けてくれていたんだ。
武藤くんは濡れた右側が気になるのか、水を払うように腕を振っていた。私はそっと近づいて、自分のハンカチタオルを彼の右肩に当てた。
ビクッと体を震わせて、離れようとした武藤くんの腕を取った。彼は勢いよくこちらを振り返った。
「ごめんね、濡れちゃったね」
「いや、あの、全然」
「私ので申し訳ないけど、使って」
「えぇ!? いや、でも、坂本さんは」
「大丈夫、武藤くんのおかげで濡れなかったよ」
ありがとう、と伝えると、キョトンとした表情を浮かべていた。まるでそんな気遣い、最初からしてませんという顔だった。私は、無意識だろうと武藤くんの優しさにキュンときているわけだが、果たして本人の意図はどうだったのか。私は答え合わせする日が来るのだろうか。
あらかた水滴を払って、店内に入った。本に詳しい武藤くんはあれやこれやと作品や著者について語ってくれた。正直半分も理解できなかったけれど、キラキラした目で好きなことを語る武藤くんは可愛かったし輝いていた。今度、武藤くんがハマっているラノベを貸してくれることになった。楽しみが一つ増えて嬉しい。
目的は達成して、本屋を出たら解散した。電車の時間もあるからすぐ帰ることになったのだ。武藤くんなら、そこからマックへ行って駄弁るとかなさそうと思っていたからイメージ通りだった。
改札を通って、駅のホームへ降りる前に立ち止まった。武藤くんとは反対方向の電車だから、ここでお別れだ。
「今日はありがとう。じゃあ、またね」
名残惜しいけれど、そんな気持ちには蓋をして手を振った。
「あ、うん」
武藤くんは、手を振り返してくれた。それだけだと思っていた。
「僕、今日、楽しかった。ので、また、その、誘ってもいいですか?」
あ、まただ。
ジッとこちらを見る武藤くんと目が合った。
髪を切る前は、オドオドとかビクビクとかして俯いているイメージだった。でも最近、髪を切ってから目が合うようになって、気がついたことがある。
武藤くんの目は、彼の意思や感情が浮かんでいる。口下手で吃ってしまう彼にとって、目は口以上に重要な意思表示をしていた。
私はどうやら、彼のその強い眼差しに弱いらしい。また頷いていた。もちろん、提案自体は願ったり叶ったりだけれど。
彼は、私が頷くと決まって嬉しそうに笑う。この時も例に漏れず、周りに花でも飛んでるんじゃないかというくらいに大喜びしていた。
「じゃあまた!」
今日一番の大きな声で彼は言って、これまた大きく手を振りながら駆け足で去っていった。こんな姿誰かに見られたら、普段教室にいる武藤くんとはイメージが違いすぎて驚愕しそうだなと思った。
*
理子に対してあまり詳しく話せなかったのは、この武藤くんがレアすぎてもったいないと思ってしまったからだ。まだ、私だけしか知らない姿であってほしい。そう思ってしまった。内緒にし続けるのは難しいだろうから、ほんの少しの間だけのつもりだ。
「クラス替えの前に告白してくるんじゃないかなって思ったのに」
理子はつまんなそうに呟いた。私はようやく揺さぶられなくなり、残りのおかずに手をつけた。
武藤くんとは連絡先を交換していない。SNSも繋がっていないから、春休みに入ってから音沙汰がなくなった。このまま四月になれば早々にクラス替えがあるから、一緒のクラスになれるか分からない。その後もコンクールがあって、受験シーズンに入って。あっという間に時間が経過する中で、武藤くんはどのくらい一緒にいてくれるかも分からない。
そもそも告白されていないし、私からもしていないのだ。この前が偶然一緒に帰ることができただけだ。それが、今後も起こるとは限らない。
でも、武藤くんの目を思い出すと、雄弁に語られているように思えてしまうから不思議だ。多分あの雨の日から何かが始まったような気がする。もしかしたら私の願望混じりの憶測に過ぎないかもしれないけれど。見つめられると、自分じゃいられなくなる。
「悠長に構えてたら、武藤くんもっとモテて他の子と付き合うかもよ」
「そうだね」
理子の言葉を肯定しておきながら、心の中ではそんなわけないと思っていた。武藤くんは駆け引きとか色んな女の子にアプローチするとか、多分できない人だ。あれほど分かりやすく態度に出ているのに、これで私を好きじゃなかったらとんだ詐欺師だ。
理子の言う通りなら、彼の気持ちが変わったということだと思う。その前に告白して付き合ってしまえばいいのだろう。ただ、私から告白するのは、なんか、その、癪である。
どうしたらいいのかと考えていたら予鈴が鳴った。私たちは慌てて片付けて、音楽室へ急いだ。午後からは合奏だ。またしごかれると思うとゲンナリしてしまう。間違えないように集中しなきゃと自分を奮い立たせた。
忙しくしている間にも猶予はなくなっていく。今は春休み明け、武藤くんに会えることを祈るしかない。自分の膝に乗せたホルンをギュッと握った。
『見つめられると』
『わたしをみつめて』
誰かは言った。
見つめられると
怖くなる。
誰かは言った。
見つめられると
嘘がつけなくなる。
誰かは言った。
見つめられると
ちゃんとしなきゃと思う。
誰かは言った。
見つめられると
嬉しくなる。
あなたの見つめる先には
どんな人がいるんだろう。
そう思いながら
わたしはあなたを見つめる
これは一年前のわたし
年下の女の子にストーカーをされていた時の話
そんなに期待のこもった目でみつめないでほしい。
きみの期待に添えたことなどただの一度もないのだから
そんなに恋慕をもった目でみつめないでほしい。
きみのそれに応える気などないのだから
そんなに察して欲しそうな目でみつめないでほしい。
きみの狂気を孕んだそれを受け止められる気がしないから
そんなに泣きそうな目でみつめないでほしい
昔の過ちを繰り返してしまいそうになってしまうから
ああ頼むから誰も私を見つめてくれるな
どこから見られているのかわからない
その気配だけで息が苦しい
ああ頼むからわたしになにも求めないでくれ
つきまとわないで
おねがい。わたしに恋慕を向けないで。
人は人と人との間に生きる動物であり、その間をつなぐものは言葉である。と言う文章を思いだし、見つめられた時には何か一言でもよいと思うので、言葉を投げかけてみたいと思います。でもその一言は核心をついた言葉でありたいと思います。
あなたに見つめられると、全てを見透かされているような気持ちになる
実寸大アーモンドくらい小さくて、ずっと開ききっていないようなその目
隠している汚いところ、醜いところがバレているようで怖いけれど、
全てを理解してくれる人を探し求めている私にとって
あなたは特別な存在なのです
見つめられると
少しドキドキする
少し怖くて
少し嬉しい気がする
見つめると
少し恥ずかしくなる
少し怖くて
少し嬉しい気がする
なーんだ、2人とも
同じじゃん
『見つめられると』
視線には力がある。見る側は見ているものに影響され、見られる側は視線から力を得て強大になっていく。
よく行くショッピングモールの一角にアジア雑貨のポップアップストアができていた。紋様の刻まれた銀細工にビーズのアクセサリーや手の込んだ民芸品、独特な染め物の服なんかも並んでいて、そこそこ人だかりができている。そんな中に異彩を放っていたのは大きな仮面やキモかわいい人形たち。吸い寄せられるように近づくと目の部分が空洞になった仮面と目が合った。獣毛て飾られた装飾や木彫りの細工、仮面に施されたペイントをしげしげと見ているといつまでも見ていられるような気持ちになってくる。
「オキャクサン」
パン、と目の前で手を叩かれて我に帰ると店主と思しき外国人が立っていた。
「けっこうな時間見てたけど、あんまり見すぎないほうがイイヨ」
どういうことかとスマートフォンで時刻を見ると半時間ほどが経っていた。その間の記憶が一切ないことに気付いて背筋が冷える。
「この仮面、なんで置いてるんですか」
「一応売れてほしいから値札付けてるんだけど、誰も買わないんだよネ」
店主さんは複雑な表情でため息をつく。
「もしかしたら、いろんなとこから視線を集めるために僕に付いてきてるのかもしれないネ」
背筋がさらに冷えた気がして何も買わないまま急いでその場を去った。振り返らずに歩く途中に一点を見つめる人を何人か見かけた。その人たちは一様にあの店の方向を見つめていた。