『衣替え』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
衣替え
寒いから替え
暑いから替え
好きだから替え
[衣替え]
新しい自分になりたい
根本は残したままで、後悔だけを塗り替えたい
「お疲れさん」
「お疲れした」
俺は、更衣室で除染服を脱いで、私服に着替えた。
今日の勤めを終える。
これから、宿に戻り、風呂に入って簡単に飯を済ませる。テレビは持っていないから見ない。図書館から借りた本を読んで、眠くなったら眠る。
眠れない夜はまんじりともしない。
刑期を終えて、出所した俺は全てを失っていた。
元の仕事に戻れるはずがなかった。高校教師の俺は懲戒免職になった。
教え子に手を出した淫行教師。ロリコンエロ野郎。人でなし。
ネットが俺に与えた罪状だ。
俺は街を離れた。食い詰めてたどり着いた先は、原発事故の深手が残る海沿いの場所だった。
日雇い労働者として、除染作業を行うことで、食い扶持を稼いだ。
ここでは誰も、俺が教師だったと知らない。なんでここで働きだしたのか、理由を追及する者もいない。気楽だった。
犯罪者は北へ向かう。どこかで読んだ一文を思い出す。
ーーああ、でも俺はやはり無意識に、彼女のことを追いかけているのかも知れない。
刑務所に送られてくる彼女からの手紙を、俺は読まなかった。封を開けて中を見るのが怖かったのだ。
裏面の差出人の住所が北の、原発事故の起こった地になっていたのだけは、確認していた。お母さんが福島の生まれだといつか聞いたことがある。たぶんそちらへ身を寄せているのだろう。
針の筵にいる訳ではないと思うとほっとした。
彼女の人生に関わってはいけない。これ以上。
でも俺の記憶は蘇る。ベッドで、俺の背をなぞりながら、先生の背中に星座があると囁いた甘い声が。
擬人法を教えてくれたねと、サザエさんの歌を口ずさむ彼女が、海浜に寄せる波のように繰り返し、繰り返し。
俺を狂おしく揺さぶるのだ。
#衣替え
「空が泣く5」
衣替え
もうすっかり寒くなっていた。
嫌な予感がして、いつもの森に駆け込む。
そこで友のエルフが木に寄り添って枯れかけていた。
「ああ、いかないで。どうして」
思わず涙を流しながら彼女の肩を揺さぶる。
「大丈夫。少し眠るだけ。生命の芽吹く季節が来たら、私たちまた会えるから」
「いやだ…まだここにいてよ…」
分かってた。日が経つに連れて彼女の髪の色が変わっていっていたから。
エルフはその名の通り森の精霊。
樹々が枯れれば彼女らも消える。
「少しの辛抱でしょ?ほら、森もヒトのように衣替えをするのよ」
彼女はクスッと笑った。自分はずっと泣いていた。
「君たちには一瞬なんだろうね…。冬なんて。分かった。待っているよ。」
森と人、次の衣替えの季節にまた会おう。
花の便りが来る日まで。
暑い。そう思っても、夕方は寒く感じて
朝と晩、薄目の長袖。
昼は、半袖。
衣替えはまだ、もう少し先かな?
やっぱり、なんだか季節はずれな気がするから。
春と秋がなんだか分からないうちにすぎて、衣替えできないままのクローゼットは夏服と冬服が混在してる。
〈衣替え〉
朝が肌寒くなってきたこの季節、布団から出るのが億劫になる。
音楽業界でエンジニアとして働く私にとって、服装は動きやすさ重視で決めている。
ライブやコンサートでの音響を担当したり、アーティストのレコーディングを撮り、その後修正を加えたりと、音のことならなんでも屋さんと言われるほど忙しい日々を送っている。特にライブでの音響、PAエンジニアとして働く時はせかせか動かなければならないので、ライブTシャツにジーパンスタイルが基本。
裏方なので、お客さんからは見られないし、作曲家でもないから楽曲クレジットに載らない。たまには載るが、精々映画のエンドロールで大量のスタッフの中にいるひとりのスタッフ程度だ。
「もっとオシャレしなよ」
昨日の同窓会でそれぞれの仕事の話をしていた時、港区でOLをしている女子から言われた。
確かにこの仕事に就いてから、服装なんて考えてこなかった。動きやすさ触り心地でしか選ばずに、決して、見た目で選んではいなかった。というか、そもそも休日がほとんどない。会社で寝泊まりすることなんてザラにあるし、一度家に戻り風呂に入ってからまた会社に戻ることもある。休日なんて、半日あれば良い方だ。時間は関係なく、依頼があれば仕事をする。不規則で不安定で低収入な仕事だからこそ、服装なんて気にする余裕なんてない。今のレーベルに入社して死に物狂いで勉強した。大抵は専門学校卒から入社するか、一般大学卒でアシスタントとして働くのが主流だ。最近では後者が圧倒的に多くなり、アシスタント同士でも仕事の奪い合いが始まる。それを経て、少しずつ先輩の仕事を手伝い、やっとひとりで仕事ができるようになる。
正直、港区でOLしている人になんか、こんな気持ちは分からないだろうと貶していた。
彼女はばっちりメイクをして、ネイルサロンと皮膚科に定期的に通い、コテで髪を巻き、香水をぷんぷん振りかける。しかも皮膚科は、わざわざ韓国まで行くという。
一方で私がネイルしたら機材を運ぶ時に折れてしまうし、髪を巻けばレコーディング後の修正作業の時に邪魔になる。香水を振りかければ、私自身が匂いに敏感な為集中できない。
同好会も終わりに近づいた頃、目の前の席に座る楠木と視線が合う。
「前田はレコーディングエンジニアだったよな?」
ビール片手に楠木が聞く。
「うん、そうだよ。ていうか今ではレコーディング以外もやらせてもらってるけどね。音響には変わりはないけど」
「アイドルとかのレコーディングとかってさ、『かっこいい!』とか思わないの?」
「うーん、それが思わないんだよね。そもそもこの仕事に就いたのが、音にこだわりがある自分に向いてるんじゃないかって思って目指したから。正直、顔より歌声とか、シンセって言う所謂音源にしか興味ないね」
「へー、珍しいな。音にこだわりがあるって言うのはどういうこと?」
「んー、説明するのは難しいけど好きな音があるっていうのは1つあるかな。曲中で流れてくる、イヤフォンしたらやっと聴こえる低度の低音だったり、コップをスプーンで叩く音とかが割と好きかも」
「具体的にさ、この曲の音が良いっていうのはある?」
「あーそうだね。あの、popgirlって曲、知ってる?」
「知ってる!韓国のアイドルの曲でしょ?」
「そうそう。その子のfor uっていうラップのバックで鳴ってるギターの音色が最近好きかな」
「やー、よくそこまで聴き取れるね」
「職業病的なものだよ」
「あーなるほどね。じゃあ割と歌詞よりサウンド重視?」
「そうなるね」
一気に喋ったのでハイボールをぐいっと飲む。
「楠木は会社員だよね」
「そうだよーオフィスでずっーとパソコンと向き合ってる」
彼は自嘲するように言った。
「ずっとパソコンと向き合うと肩こり酷いよね」
私もレコーディング後の修正作業はパソコンでするので共感できる。
「あれ、やばいよな!背伸びしたら背中らへんの骨がボキボキ言うもん!」
「首とかもなるよね」
まさかの肩こりで盛り上がる私たち。
しかし、今まで肩こりや腰の痛みを笑いながら話していた彼は、顔色を変え、じっと私の方を見た。
それに気づかないほどの鈍感でもないので、さり気なく「何か悩みでもあるの?」と聞いた。
すると彼は、「仕事してる時って、やっぱり動きやすさ重視で服を決めてるの?」と想像の斜め上の質問を問いかけた。
「そうだね。やっぱりTPO的なものもあるし、何より機材を運んだり、意外と動き回るからね。その時にスカートだと、どうしても動きにくいし、服装によっては『前田はあのアイドルの〇〇が好きだからファッションに気を遣ってるんだよ』って言われかねないからね」
「確かに、ライブとか行った時スタッフさんがすごく忙しそうだったし。フリフリの服装で行ったら気があるって思われたら大変だしね」
「そうなんだよね。でも、私は元々パンツスタイルの方が好きだし、ストリート系とかオーバーサイズのものが好きだったから特に何も思わなかっけど、同僚の中にはゴスロリが好きな子がいて、仕事中はゴスロリが着れないって言ってたな」
「あー、やっぱり好きな服を着て仕事した方が捗るしな。そのゴスロリの子は大丈夫なの?」
「全然大丈夫!休みの日にめちゃめちゃ着てるし、インスタに載せてるくらいだから。その子は営業の方だから土日祝日は休みだし定時退社だから、好きなことに時間使ってるよ」
「あっ、営業の方なんだ。休みとかは部署によっても変わるよね」
「変わる!変わる!私なんか久しぶりの休日だよ~楠木はどんな感じなの?」
「俺はそのゴスロリの子とほぼ同じ。会社員だしね。前田は凄いな、忙しい中、今日も来てくれたんでしょ?疲れてないの?」
「疲れてないよ!むしろ元気もらってる感じだよ。うちは制作チームだから、みんな死んだ顔だよ。会社で寝泊まりするのがざらにあるしね。そのせいで若い子は辞めていくんだけどね」
皮肉のように言った。実際、私の後輩も先月辞めたばかりだ。これから伸びる子だと思っていたが、入社してすぐに自分の好きなアイドルのレコーディングを担当できると夢を持っていた彼女にとってみれば、自分の立ち位置が気に食わなかったようだった。入社すれば、推しに会える、付き合える可能性が高まると言った下心を持って面接に臨む人は少なくない。裏方は、ファンでさえも見れないレコーディングやリハーサル、打ち合わせに同席するのだから。そう思うのは仕方がない。ただ、スタッフとアイドルの恋愛は禁止されている。これは音楽業界だけではなく、芸能界の掟である。見つかり次第、スタッフはクビになる。どんなに優秀なスタッフでも。それくらいやってはいけないことなのだ。アイドルとスタッフの信頼関係を維持するためにも必要なことだから。
楠木は聞き上手だ。だから何でもかんでも話してしまう。辞めた後輩のことも聞いてもらった。
同窓会が終わり、各々靴を履き、店の外でタクシーを呼ぶ者、彼氏を呼ぶ者。様々な中、少し離れた所にいた楠木が近づいてきた。
「これ、衣替えって言ったら変だけど、たまたま見つけてこのくらいのアクセリーだったら邪魔じゃないかなって思って。良かったら貰って。休みの日とかにでもつけてよ」
それは小指サイズの指輪だった。しかもその指輪のブランドは、私が勤めてるレーベルとのコラボ商品で、品薄状態になっていたものだ。
「えっ!いいの?」
「うん。前田のレーベルとコラボしたブランドでしょ?自分の会社の商品くらい身につけてたほうが話のネタにもなるんじゃない?」
「ありがとう!すごく嬉しい。欲しかったんだよね」
「それならよかった。今日はあえて良かたっよ、また連絡するね」
「私も会えてよかったよ。本当にありがとね」
「じゃ、俺こっちだから。体に気をつけてね」
「うん。楠木も気をつけてね」
風のように去った彼の後ろ姿を見て、貰った指輪をつけてみた。
仕事柄、港区のOLのように可愛いスカートを履くこともできないし、メイクも最低限しかできない。年中たいして変わらなくて、寒い時はパーカーを羽織るくらいだ。
けれど、この指輪は私にとっての衣替えだ。
指輪をはめ、残っている仕事を終わらせるため、会社に戻る。
いつも違う足取りで向かう。
少し遅い秋が来た。
温かい飲みものと、美味しいクッキー。
休日の愉しみ。
木々や草花は朱く染まり、豊かな実りを与えてくれる。
ああ、なんと良い季節だろう。
ああ、なんと良い瞬間だろう。
衣替え
人恋しくなる季節の晴れた日
しまいこんだ色とりどりの洋服を取り出して
暑い日差しを共に過ごした服をお手入れし
衣替え
衣替え
最近は、季節の変わり目が曖昧だけれど…そのうち、秋が来て、冬になる…
朝夕も、何気に寒があったり、街路樹も、色付き初めて、暖かい飲み物も恋しい季節になった…
取敢えず、上着を引っ張り出してみようと、衣装ケースを押入れから出して、何枚か取り上げた…すると、紙切れが1枚ポロリと落ちた…
友達の私服を見ると季節が変わったことに気づいて、
衣替えしたのかなってどうでもいいようなこと考えちゃう。
わたしにはそんなの関係ないのになあ。
でも、わたしは衣替えの瞬間みたいなのを見るのが好きなんだよね。
違う一面を覗けるみたいでさ…なんて、考えちゃう。馬鹿みたいだよね。
年に四回ある季節の変わり目に衣替えをする
また、この季節のオシャレをすると思う
【衣替え】
白いシャツが黒い詰襟に変わる日を忘れられない
禁欲的なその佇まいはうっとりするほど美しくて
自分は永遠に着られないその上着の下の体温に憧れた
あなたほど、詰襟の似合うひとはいなかった
あなたのようになりたかった
凛として寡黙で、時々子どものように無邪気に笑う
君が
ゆっくりと
僕の肩に
頭を乗せてくる
月が水面に
映り月光が揺れて
金の船を浮かべた様
君の髪の香りが
ふわりと香り
僕の心を揺さぶる
僕は君を見つめ
月光に照らされ
ながら
そっと唇
重ねる
衣替え
季節に合わせて
制服を変える
でも君は変わらない
嗚呼
このまま何も変わらなければ
君と一緒だったのに
君とのお揃いは
また来年
: 衣替え
季節の変わり目にやってくる「衣替え」。
常に気温が一定な国では衣替えの概念すらないだろう。
そんな面倒な入れ替えを極力楽しむにはどうすればよいか。
それは「洋服を減らすこと」だ。
少ない洋服でも最高のお気に入りのものを集め、収納する。
衣替えの時期になると再会する洋服達。「待っていたよ」と言わんばかりに新たな季節のお気に入り達が再び勢揃いする。
季節の変化が多い日本で過ごせる喜びを、ささやかだけと楽しむ。面倒を楽しみに変えるだけで、人は少し陽気になれたりするんだ。
10月のはじめ。
昔から冷え性の私は、朝晩が冷えるようになりジワジワと冬が近づいてくるこの時期の朝は、いつも少し憂鬱だった。
「おはよう、アキちゃん。あれっ、もう冬服なんだね」
毎日登下校を共にする幼馴染のカナちゃんは、開口一番少し驚いた顔でそう言った。
「おはよ、カナちゃん。そうだよ。だって最近朝晩寒いじゃん。私は衣替えの時期を待っていたのよ……」
「アキちゃんはほんと冷え性だねぇ」
腕を擦り震えるふりをしながら答えると、カナちゃんは苦笑した。
そんなカナちゃんはまだ夏服のスカートに長袖シャツといった感じだ。対する私は冬服で、ブレザーもきっちり着ている。
最近は、朝晩が少し冷えるようになって、夏服ではつらい季節がやってきたと私は感じていた。だから、衣替え移行期間初日の今日、バッチリ衣替えを完了してきたのである。
学校への道を2人並んで歩く。
先週末にあった小テストの話、昨日のテレビの話、好きな漫画の話、お互いの家族の話……とりとめのない話をしながら進んでいく。
毎日話していても、話題はなかなか尽きないもので、2人で歩く道は楽しい。
学校へ続く上り坂は、日当たりが良く、今の季節は心地良く感じる。
学校に近づくにつれて、同じ学校の生徒の姿が増えてきた。半袖だったり長袖だったり、夏服だったり冬服だったり、今朝は様々だけど、いつもと変わらず賑やかだった。
校門をくぐり、昇降口を入って、階段を上がる。2年生の階に着いたところで、クラスが違うカナちゃんとはおわかれだ。
「じゃあ、また放課後にね!」「うん、また!」
手を軽く振ってそれぞれの教室へ。
クラスの友達と挨拶を交わしながら、自分の席に向かった。
私の席は窓際で、柔らかく日が差してきて暖かい。
私はブレザーを脱ぎ、椅子の背に掛けてから席に着いた。
チャイムが鳴って、朝のホームルームが始まる。
憂鬱は、いつの間にか消えていた。
朝の登校中にフリースのコートを着た人とすれ違った
「あぁ、もうそんな季節なんだ」
制服のブレザーを着て家を出る時、少し恥ずかしい様な
それでいて、安心する様な不思議な気持ちになった。
道すがら見かける学生は皆、今日から冬服になっていた。
急に寒さを感じる様な気になって、明日にでもマフラーを巻きたい気分だった。
「うちの制服ってさぁ、ブレザーダサくない?」
聡美はそう言ったけれど、私はうちの学校の制服が気に入っていた。ベージュのブレザーにグレーのチェックのプリーツスカート。聡美はギリギリまで丈を短くしていたから、太腿が露わになって一緒に歩いている私の方が恥ずかしいくらいだった。でも、可愛かった。私も聡美のようにスカートを短くしてみたかったけれど、そんな勇気はなかったし、寒いのも苦手だった。
「寒くないの、そんなに短くて」
「やだ、お母さんみたいな事言わないでよ」顔を顰めた聡美は、続けて「おしゃれには我慢が大事なのよって、もういつの人だよ〜」と言って豪快に笑った。「寒くても、スカート短い方が可愛いじゃん」「確かに、可愛いよ」
聡美はくるくる回って喜んだ。
「もうじきじゃん、1周年‼︎」
そうだ、彼と付き合い始めたのはちょうど去年の衣替えの頃。
もうすぐ、また冬が来る。手を繋いでその温もりが幸せな冬が、
「衣替え」
衣替え。
やっとだ!と私は、思った。
10月も半ばを過ぎ
とっくに衣替えの季節は来ているのだろう
しかし私のクローゼットは夏と冬が入り混じっている
3日前は真夏用のノースリーブのワンピースを着ていた
2日前は真冬用の厚手のダウンを着ていた
何てこった
差が激しすぎる
夏になったり冬になったり
でも段々と着実に寒くはなっているし
前々から秋の空気が漂っている
私の苦手な冬がやってくる気配がする
あなおそろしや〜おそろしや〜
寒さに凍えてこたつの住人になってしまう前に
今のうちにお散歩楽しもうっと
♯衣替え