『行かないで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
行かないで
お願い
私を置いて行かないで
あなたのいない人生なんて
意味が無い
お願い
行かないで……
「行かないで!!」
思いっきり息を吸い込む。そこは馴染みのある自分の部屋のベッドだった。瞬時にあのことは夢だと悟る。
最近はこういうことが多い。額に脂はベッタリだし気持ち悪い。手術中に麻酔が切れるでもしないとこんなに気持ち悪い目覚めはない。
何よりも死に別れた人の事を思い出して気分が落ち込む。
私が13歳の頃、学校への行き渋りが激しく不登校になった。親は私を心配し世間の目を考えてフリースクールに通わせた。フリースクールには色んな人がいて、正直私が馴染めるような雰囲気ではなく吐き気がしていた。
そんな中、一人の女の子が話しかけてきたのだ。
女の子は化粧をして犬のような見た目。身長が高くスタイルがいい。彼女の第一印象は、コミュ力が高いだ。
「何歳?」
「中1です」
「へぇ、かわいいね。大人っぽい!」
返答に困っていると次の質問が飛んでくる
「なんて名前?」
「美鈴です。」
「ええ、かわいい。なんて呼べばいい?」
「えっと、友達にはすずって」
「じゃあすずちゃんね!すずちゃんはさぁ、どこから来たの?」
「えっと、埴輪公園の近く」
「えーっと、そこあんま行った事ないかも。他になんか目印とかない?」
普通に言われれば少し気まずくなる内容たが、明るく早口な言葉でよく馴染んでいた。
「あんまり他の目印はないかも」
「あー、そっかぁ。てか後で大富豪するんだけどすずちゃんもする?ルール教えるよ」
「...一回だけ」
コミュ力は高いと思われたが、実際は噛みまくって滑舌も良くなく、意味不明な語彙、早口で偶に何を言っているのか分からないこともあった。
しかし、一人でいると話しかけてくれる。私はそれだけでよかった。
彼女に会うため気軽に通い始めたフリースクールも一年間通い、先生や皆んなとも馴染めるようになれていた。
彼女とは色々あったが、唯一無二の親友と言い張れる仲だった。唯一彼女だけに心を開いた。
そんな中、彼女はある日からフリースクールに来なくなったのだ。先生に聞いても少し気まずそうに悲しそうな顔をして教えてくれない。
私は彼女の家に直接訪問した。すると気力がなさげな彼女の母が出た。
「あの、〇〇ちゃんはいますか。」
私は彼女の母の顔を見て只事ではない何かがあったのだと察した。彼女の母親の頬は痩け、目元にはクマ、唇なんかは乾燥して顔面蒼白。
目なんかは死人のように生気が感じられなかった。
彼女の母はあぁ、と一言だけ呟いて中に入るように言われた。彼女の部屋には何度かお邪魔したことはあったがリビングは初めてだった。
今から何を言われるのか緊張で心臓がものすごい速さで鳴った。
リビングに上がって少し部屋を見渡すと、写真を見つけた。黒い小さな祭壇の上に大きな額縁が飾ってあって彼女の笑顔が水色の背景に貼り付けられている。
これじゃ、正に遺影だ。私が目を開けてジッとその写真を見ていると背後から声が掛けられた。心臓がそのまま飛び出しそうなほど驚いたが、私が後ろを振り向くとそこには彼女の母が居た。
彼女の母と向き合って話を聞く時、私は頭痛がして耳鳴りがして吐き気がして、心臓が火傷するほど激しく動いた。彼女は自殺したと聞いた。
咳き込みながらも私は彼女との思い出を思い出していた。彼女の笑顔や、微笑み、面白くない冗談。全てに霧がかかったような気がした。
これ以上の絶望は恐らく後にも先にももうない。喉が掠れて熱くなって声が出ない。
私は返事もせずに席を立った。私は早歩きで彼女の部屋へ向かった。足が忙しない。彼女の部屋を見ると既に少し片付けられていた。私は大きく息を吐いた。
私は涙が出なかった。
悲しみというよりあまりに唐突な死に、ショックが勝った。それと同時になぜ自殺だという怒りが湧いて来た。
この感情は彼女に対してもだし、気づきすらしなかった私に対してもだし、彼女の周りの人たちに対してもだし、死という概念自体も対象だった。
私はその後一ヶ月の記憶はない。その間何をしていたのかも分からないし、何を考えていたのかも分からない。
ただ何もしていなかった。
そして、一年が過ぎ、未だ彼女の悪夢を見続けるのだ。
こんな事ならばフリースクールになんて行かなければ良かったと思うほどに、私の人生の中で最も最低最悪な記憶だ。
「行かないで」
おや?
私の人生に無かった言葉かも?
娘も行って欲しくなかったとしても
行かないで…とは言わなかった
自分で自分を否定しちゃうけど…
私の周りにいる人は
『いいよ』って言ってくれているんだなぁ
感謝
行かないで
未練?悔恨?怒哀?哀惜?寂寞?
それとも、、、
#行かないで
#10 行かないで
ねえ、指先が冷たいよ
ねえ、夜が寂しいよ
ねえ、泣けないよ
ねえ、笑えないよ
痛いよ、なんて何度も叫んで、自分の感情だけあなたにぶつけていた。あなたもきっと辛かったのに。
それでも、それでも
ねえ、行かないで
行かないでよ
昔々とある村に、いつも提灯を持っている男がいました。
彼は、提灯が役に立たない昼間でも提灯を持ち歩き、片時も離すことはありません
とはいえ、彼も生まれた時から肌身離さず、提灯を持っているわけではありません。
数週間前、彼は突然提灯を持ち歩くようになったのです。
彼は村では『勉強好きの変人』と有名でした。
なので村人たちは『勉強のし過ぎで狂ってしまったのだ』と噂し、彼を憐れみました。
そして『落ち着くまで放っておこう』と、彼から距離を置きました。
ある日の事です。
村の男の子が男の元を訪れました。
少年は、自分の中にある疑問を男にぶつけます
「あなたはなぜ、提灯をいつも持っているのですか?」
男は答えます。
「近い内に世界が暗闇に覆われる。
その時にコレが役に立つのだ」
この話を聞いた少年は、他の子供たちにも伝えました。
そして子供経由で、話を聞いた大人たちは『やっぱり彼は狂っているのだ』と疑念を確信に変え、男からさらに距離を置くようになりました。
ある日のことです。
その日は、気持ちのいいほど良く晴れた日でした。
見渡す限りどこまでも続く青い空。
『こんな気持ちのいい日に外に出ないなんて損だ』と村人たちは外に出てきます
普段村の仕事で忙しい彼らも、今日ばかりはゆっくり過ごしていました。
そして提灯の男も、他の村人たちと同じように外へと出てきます。
もちろん提灯を持ってです。
しかし他の村人たちとは違って、ソワソワしていました。
明らかに挙動不審でしたが、村人たちは気にしません。
そんな事が気にならないほど、いい天気だったのです。
ですが信じられないことが起こりました。
先ほどまで明るかった空が、突然暗くなったのです。
『太陽を隠すほど厚い雲は無かったのになぜ?』
人々は不思議に思い、空を見上げます。
そこで彼らは見ました。
太陽が徐々に欠けていく様子を……
そう日食です。
現代に生きる我々にとって、日食は説明できる自然現象。
しかし、当時の人々は何も知りません。
彼らは何が起こっているかもわからず、不安に駆られて大騒ぎし始めました。
提灯の男の予言通り、世界が暗闇に包ました。
そこでポオっと、ある一点が明るくなりました。
提灯の男が、提灯に火を灯したのです。
不安に押しつぶされそうな彼らは、光を求める虫の様に、提灯の男に集まります
救いを求めるように、男に集まる人々。
ですが、そこでも信じられない物を見ました。
提灯の男が不可解な行動をしていたからです。
男は、提灯の灯りを頼りに、欠けていく太陽をスケッチしていました。
彼の鬼気迫る雰囲気に、村人たちは声をかける事も出来ず、ただ見ることしか出来ません。
そして、なぜそんな事をするのかも分からず、村人たちはさらに混乱しました。
村人たちが大混乱していると、周囲がだんだんと明るくなっていきました。
空を見上げると、なにも無かったかのように空は晴れ渡っていました。
日食が終わったのです。
男は提灯の火を消すと、満足した顔で立ち上がり、自分の家へと帰っていきます。
村人たちは、それを呆然と見送ることしか出来ませんでした。
しばらく時間が経った後、村人たちは気を取り直します。
そして、こう思いました。
『寝て忘れよう』と……
村人たちは、各々の家に戻っていきました。
誰も何も話すことなく、バラバラと解散していきます。
そうして出歩く人は誰もいなくなりました。
そして残されたのは、どこまでも続く青い空だけ。
雲一つない、気持ちのいい青空でした
引き留めて引き留められるは若い花
去る者追わず温度差に散る
♯行かないで
【行かないで】
目の前に無くなってしまった彼女がいる。
話しかけても返事をくれない。
あれ、離れていく。
「待って待ってよ。置いてかないで」
なんで、なんで行っちゃうの?まってよ、置いていかないで
〝行かないで〟
ここで目が覚める。あぁ、と今日も思う。
〝また夢か〟
お題《行かないで》
ありふれた言葉では何も叶わない、届かない。
常識なんてものは滑稽だ。
言葉にしなきゃ何も伝わらない、だって人は、そんなに優れた生き物じゃない。
愚かさでいい。
その、愚かさがいい。
友達が家に来た。
一緒にご飯を食べて、ゲームして、そろそろお開きという時間になった頃、奴が現れた。
黒光りするGから始まる虫が……! しかも二匹!
私も友達も悲鳴をあげ、逃げ惑う。
あろうことか友達は帰ると言い出し、私は縋り付いて懇願する。
一泊していこ? 一緒にゴ〇ジェット買いに行こ? ホイホイでもいいよ?
だからさ、行かないで帰らないで一人にしないで!
一人で頑張れってそんなこと言わないで!
行かないで! いやほんとマジで! 行かないで!!
……そんなすったもんだの末、友達は私の渾身の懇願にほだされ……ることなく、帰って行った。
後日、激闘を制した私に友達が詫び料として超お高いケーキとチョコ、それとバル〇ンをプレゼントしてくれた。
……バル〇ンの結果を見る時は友達も連れてこよう。今度は絶対に帰らせないんだから。
〝 行かないで 〟
俺には幼稚園の頃から好きだった幼馴染が居る。
だが、本人は俺からの好意に気付いていない。
結局好意を伝えられることも出来ずここまで来て、今ではもう高校生だ。
彼女は頭が良いから、俺も必死に頑張って勉強をして、やっと同じ高校に入る事が出来た。
今年こそは告白をするぞって意気込んでいた。
周りの友人も、応援してくれていたんだ。
でも彼女は可愛いし、誰からもモテるような存在。
俺とは釣り合っていないんだ。
だから、だから。
彼女は別の男の所へ行ってしまったんだ。
俺に魅力がないから。釣り合っていないから、という事はちゃんと分かっている。でも、流石にここまで好意を向けているのに、なんで彼奴は気付かなかったんだろうな。鈍感にも程があるよ。
いつの間にか溢れていた涙を制服の袖で乱暴に拭い、いきなり泣き出した俺を驚愕の表情で見つめる彼女に対して俺は笑顔を向ける。
その笑顔が貼り付けただけの、心からの笑顔では無いことに、彼女は気付いていたのだろうか。
まあ、今となってはどうでもいいことだ。俺はもう彼女のことは諦める。
でも、でもさ、最後にこれくらい、言っても許されるよな?
「 俺から離れていかないでよ …… 」
俺の、最初で最後のワガママに。
彼女の瞳が、大きく揺れた。
今更後悔しても、もう遅いのにな。
夏樹は宝物探しが得意だ。
今日も散歩に出かける。宝物を探しに。
キラキラと光る太陽、綺麗な青色の空、美味しそうな綿菓子みたいな雲、そして心くすぐる甘い金木犀の匂い。
そこら中に宝物が溢れていて、今日もワクワクして出かける。
あっ、可愛いピンクのコスモスみたいなお花。
「今日もかわいいね」と声をかける。
お気に入りの本を持って、温かい砂糖入りの紅茶を鞄につめて、ツバの広めの帽子も持ってきた。
準備は万端だ。
ハミングをしながら背の高い木々がたくさんある公園にやってきた。
日陰になってるベンチを見つけて座る。
顔に心地良い甘い風が当たる。
目を閉じて深呼吸して…
目を開けると葉のひとつひとつに太陽の光が反射してキラキラして見えた。
今日もいい日だ。平和だなぁ…
鞄から本を取り出し、水筒を置き 栞が挟んでるページを開いて読み始める。
本の世界にあっという間にのめり込んでいた。
読んでいたページに葉が落ちてきて、ふっと前を見ると向かい側のベンチに男性が座っている。
眠っているようだ。本を開きながら…
心地いい天気だもんなぁ…
ふふと微笑み、甘い紅茶を一口飲み、またページを開き始めた。
何時間経っただろう、風が少し冷たくなってきて
そろそろ帰ろうかなと思ったちょうどそのとき、向かい側のベンチに小さいタオルが落ちていた。
あ…、きっとあの人のだ。
どうしようかな… 下に落ちたら汚れちゃうなぁ
またここで会えたとき渡せるかな
そう思い、鞄にしまった。
またお休みの日が来た。
今日もあそこに行ってみよう。
夏樹はお気に入りの公園に出かけた。
今日は…… いないみたいだな…
ちょっと残念に思い、読みかけのページを開く。
楽しい世界が始まる。
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ
大きな音が全身に響いた。
どうやらお腹の音らしい。
おなかすいたな…
と目をあげると、この前の男性がいた。
あっ!!!!!
「あの!」と思わず声を掛ける。
少し離れた向かい側のベンチで「?」の顔をしている男性。
小走りで男性のところにいく。
「あの、これ! あなたのですか?」
鞄からタオルを取り出す。
『!!!!!』
『……ぼくの!』
「よかった。大切なものなんじゃないかなって思って… 会えてよかったです」
『ありがとうございます。どこかに落としちゃったのかと思って悲しかったんです。あってよかった。』
「渡せてよかったです。」
『「 あ、雨 』」
『避難しましょう』
2人はいそいで屋根のあるところに走った。
『大丈夫ですか?』
「はい」
肩で息をしながら夏樹はこたえた。
『これ…よかったら使ってください。』
さっきのあのタオルを渡された。
「そんなそんな、せっかく渡せたのに」
『いいんです、せっかくだから使ってください』
「じゃあまた洗濯してお返ししますね」
それから2人は好きな本の話、食べ物の話、歌の話、たくさん話した。
驚くことに好きなものが次から次へと出てきて、
気づくと日が落ち始めていた。
そろそろ、かえりましょうか、
と彼があるき出そうとしたとき…
「あっ、いかないで」
夏樹が止めた。
「あなたの名前… まだ聞いてない
教えてもらってもいい?」
『僕は大樹。大きい樹でだいき。きみは?』
「すごい。わたしも樹なの!
わたしは夏の樹で夏樹!」
『わぁすごい。こんなことってあるんだね』
2人はくすくす笑いながら夕焼けに照らされた街路樹を歩き出した。
それからそこは2人の大切な場所となり、今は隣で本を読むデートが毎週の楽しみになっている。
残り何回で終わりが来るのか、
あとどれくらい、君とこうして居られるかな。
いつか来るその瞬間が訪れたとして、
果たして僕は、君の背中に何か言えるだろうか。
行かないで
あなたは私を信じてくれたのにたのに
私はあなたを信じれなかった
ごめんなさい
行かないで私をおいて行かないで
行かないで
君に会うたび
通り過ぎたときに
行かないでと言いたくて
たまらないのに
言えなくて
悲しむ日々ばかり
今日は突然
あってびっくりした
変な体制で
恥ずかしかった
あのときも行かないで
って思った
口では言えないけど
伝わってほしい
何度思ったか、何度言ったか
貴方は知らない…家で一人だった私のことなど
家族のためにだとはわかっていてもずっとそばにいて欲しかった。
吐き出すほどに泣きながら「お母さん」と呼んだ私は1人寂しく家で留守番をしている。
ねぇ何度ひとりはヤダと言ったかあなたは知ってるだろうか?いえしらないだろう
行かないで
そう言えた私は、きっと前より素直になった
でも、本当は
あなたの行き着く先に、追いつけるようになりたい
もっともっと、欲を言えば
あなたに追いすがられる程、私が求められたい
行かないで
今は私が言う番だけれど、
きっといつか、あなたに言わせてみせる
――行かないで、と。
行かないでって言えてしまったから
言えてしまったから、今こんなことになっているのだろうか。
引き止めたこの手はもう下ろすことが出来ない。
私を見つめる視線を感じる
私はそれを見つめ返すことが出来ない
ああ、なにか言わなければ、言わなければ
引き止めた言葉の続きを
カラカラに張り付いた喉をなんとか震わした
「 」
〈行かないで〉
これは私のある人生の一部の物語である。
私はいつもの様に''あの子''と一緒に下校をしていた。
あの子とは前の私的には
親友というのであろう''ゆい''という名の子であった。
ゆいは元気で明るく、まるで闇を知らないのでは無いかと思うぐらいであった。
私は彼女(ゆい)と良く私の家で遊んでいた。
時には宿題をしたり。
時には本を読んだりととても楽しい時間であった。
だがある日、彼女(ゆい)は遠い所に引っ越すことになった。
私はとても悲しかった。
私は聞いた「何処に引っ越すの?」
彼女(ゆい)は言った「東京に引っ越すんだ、!」
この頃私は小学生であり東京という場所はとても遠いと言うことは分かっていた。まだ高校生なら自分のお金で会いに行けただろうが今の私にはどうする事も出来なかった。
「そっか、、もしこっちに遊びに来たらまた、遊ぼう!」「うん!」「そうだ!良かったらこの本をあげるよ!」
と言われ私は「え!良いの!?」と言った。その本は今私が気に入っている本であった。
「うん!良いよ!その代わり大事にしてね?」
そう彼女(ゆい)は言った。
「絶対大切にするよ!」
そして彼女が引っ越して何ヶ月か後
「やっほ!」
彼女(ゆい)はここに来ていた。
「ゆい!!」
そして私は久しぶりに彼女(ゆい)と遊んだ。
そして帰る時間が迫ってきた時に彼女(ゆい)は言った
「私ねまた引っ越すだ、」「え、?」
私は衝撃を受けた。
また引っ越す、?これ以上遠い所に行く、?
「また、会える、よね、?」
「……」
彼女(ゆい)は黙りとしていた。
「いや、行かないで、!!」
「ごめんね。」
彼女(ゆい)は悲しそうな顔で私に謝った。
#5
有名になりたい、彼はそう言ってこの町を出ていった。
あれから五年。
今や、テレビで彼の顔を見ない日はないほどの超売れっ子となった。
そしてある日、自宅マンションで一人、自殺未遂を起こしたのだった。
深夜、電話が鳴る。
「よう、久し振り。どうだ、最近は」
あの頃と変わらない話し方。ずっと友達だったかのように。
「こっちは特に変わらないよ。大変そうなのはそっちだろ」
「ああ、騒いでんのは周りだけだけどな。俺はいつもと変わらない」
「お騒がせ過ぎるんだよ。今日もワイドショーが取り上げてたぞ」
「他にネタがないんだろ。他人の不幸は蜜の味ってな」
「美味しいネタくれてやんなよ。プライベート無くなんぞ」
「もともとねえよ、そんなもん」
念願叶って有名人。
だが、様々な代償も払ったはずだ。
見たくないものを見て、したくないことをしてきたかもしれない。
彼は何も言わないから、こちらからも聞かない。
「ところでさ、俺の話、どこまで聞いてんの?」
「話って…リストカットした話?」
「ハッキリ言うなって。思い出したくないんだから」
「思い出したくないようなことすんなよ」
「週刊誌くらい読んでんだろ?どんなこと書いてある?」
「さあ…ほとんど読んでない」
「お前…俺のこと気になんないのかよ。親友だろ」
「親友だったら、手首切る前に相談しろよ」
「…ごもっとも」
親友だったはずだ。
何か企む時はいつも一緒だった。
なのに、彼は一人勝手に東京行きを決めて、この町を出ていった。
俺も「行かないでくれ」とは言わなかったが、心のどこかで思いとどまることを願ってた。
…あの頃は。
「お前は成功したんだからさ、今さら泣き言言うなよ」
「泣き言なんか言ってないって。ただ、皆がどう見てるか気になってさ」
「だから、そんなの気にすんなって」
「あのさ、一歩外に出たら、誰もが俺のこと知ってんだぜ。俺が死のうとしたことも。気にせずにいられると思うか?」
「それも覚悟の上だろ。この町を捨てた時から」
「…捨てたとか言うなよ。そこは俺の故郷だぜ」
「じゃあ、帰ってくるか?そっちの全部捨てて」
「さっきから何怒ってんだよ。こんな時間に、迷惑だったか?」
「時間はどうでもいいよ。直接会って話せよ」
「…会ってくれんのか?」
「死ぬほどツライことがあったんならな。お前が普通の人間だってことを知ってる奴が必要だろ?」
画面越しじゃないお前に会えば、あの頃の二人が蘇る。
あの頃の二人なら、死を選ぶほどお前を苦しませたりしない。
一緒に悩んでやる奴が一人いれば、俺達は何だって乗り越えられる。
だから、もうどこへも行かないで欲しい。
俺の心だけ置き去りにして、一人離れていかないで欲しい。
「じゃあ、明日朝一番で帰るわ」
「本気かよ」
「本気だよ。俺を救ってくれる奴がいるんだから、帰るしかないだろ」
「明日の仕事は?」
「映画の撮影。明日から始まるんだけど、すっぽかすよ」
「映画?タイトルは?」
「さあ…何だったかな。くだらないラブコメだよ、どーせ」
「ラブコメ?お前が?」
「あんなことして、そんなもん出てる場合じゃないっつーのにな。マネージャーがアホなんだよ、まったく」
「…それ、観たいよ。お前のラブコメ。ちゃんと撮り終えてから帰って来いよ」
「なんでだよ。なんでそーなるんだよ」
「ずっと待ってるからさ。スクリーンで笑うお前の顔、見せてくれよ」
「えぇ…んー、まあいいけど」
心変わりは突然に。
たぶん、あいつが笑っていてくれれば、それでいいんだ。
もう、あの頃の俺達とは違う。
絆が薄れた訳でもなく、親友でなくなった訳でもない。
だけど、それぞれの道を歩き出して、望まずとも大人になっていく俺達は、離れて暮らすことも当たり前に受け入れなければならないんだろう。
あの頃の思い出はそのままに、俺達はつながっている。
だからもう、「行かないで」とは言わない。
「撮影、頑張れよ」
俺は電話を切った。