『行かないで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「いかないで」
いかないで。行かないで。逝かないで。
言葉にしたそれはあまりにも重くて、唇が戦慄いた。
当然、彼には彼の理由があって。
吐き出した言葉がどれだけ無責任かなんて分かりきっていた。そして、きっとどれだけ言葉を連ねたって、彼は行ってしまうことも。
それを裏付けるように、今だって。
困った様に笑いながら、
「ごめんな」
「…謝らないでよ、」
情けなく歪んだ顔で最後の抵抗とばかりに虚勢を張る私は、さぞ滑稽に映っているだろう。
くしゃりと柔らかく頭をかき混ぜられると、いよいよ鼻の奥がつんとしてきて、ああ、どうして今は雨じゃないんだ?
どうしたって止められないのなら、いっそ言ってしまおうか。
困らせたって、知るものか。どうせ行ってしまうのだし。
叶うなら私を彼の中で残してくれと、そう願わずにはいられなかった。
「ねえ」
「なに?」
そうは思っても、やっぱり少し怖くて。つめたいアスファルトを見つめたまま、息を吸い込む。
「多分、…好きだったんだと思う」
声が震えていることは、伝わってしまうだろうけど。
「だから、わがまま言った。ごめん」
言い訳のように言い添えてしまえば、ついに十数年拗らせてきた初恋は暴かれた。
何と言われるだろう。
嫌悪か、或いは失望がいいところだろうか。
それでもいい、ただきみの中に私が残るなら。
そうひたすらに待つけれど、人気のない場所、どちらも何も発しないから、しんという音まで聞こえてきそうだ。
そうして二人の間に静けさが落ち、腕時計の秒針が2回ほど円を描いた頃。
耐えきれず見上げた彼の瞳に、初めて後悔を見た気がした。
一人でいるのが寂しかった
私のそばで
ただ心の底の安心感を
共有してくれるのが
嬉しかった
久しぶりに
その感覚を思い出し、
そばにいない寂しさを感じた
と同時に
その感覚は
もう私のものではないことも
わかっていた
私はもう一人でいられる
そして
もう一人でもない
寄りかかった感情を手放したら
本来の私の有り様が
見えてきた
「……忙しそうだな」
薄闇の奥から掛けられた声に、ルーシャスの唇が我知らず微笑みを形作る。
静かで、低い、優しいロイの声。出会った頃から今まで、どんなに時が移り、様々な苦難に遮られても、ルーシャスに向けられたその色が変わることはなかった。
「……そうだね。こう見えて、結構忙しいんだ、俺」
ルーシャスは、心持ち小首を傾げて、悪戯っぽく闇に答える。
「まだ寝ないのか」
「もうちょっと。……これ、ある程度片付けないと、気持ち悪くて」
ルーシャスは、広い机に山積みになった書類の束を、持っていた羽ペンで示す。
客人の捧げているろうそくの火が、ためらうような短い吐息に揺れ、薄闇を音もなく不規則に撫でた。
「行かないで」
何でもない風を装って、祈りのように、懇願のように、ルーシャスは闇に囁いた。
「入れよ……ロイ。それで、待ってて」
「無論だ。……邪魔するぞ」
「うん。今場所あけるから、ここへ」
ルーシャスの胸の内に安堵の吐息が溢れる。軽く弾む気持ちを押し隠して、ルーシャスは、今にも目と頭から逃げていきそうな文字の群れを、何とか手元に引き留めた。
椅子を引き摺る不規則な音、紙ずれや、引き出しを開け閉てする小さな音に、扉の鍵を下ろす微かな音が紛れる。
揃えかけた書類にふと目を留め、何事か書き付けるルーシャスの背後に、石床を刻む足音と、小さな火影に照らされた長身の影が近づいた。
手を離されて
ドン底に落ちる前に
走り去るのが
常套手段
逃げなくちゃ
傷ついて
立ち上がれなくなる前に
逃げなくちゃ
傷ついて
血が止まらなくなる前に
行かないで
そんな事言えない
言わない
行かないで
離れた想いは
戻りはしない
それでも
行かないで
その一言が言えていたら
あの時
何かが変わっていたの
「行かないで」
恐ろしい悪夢を見た。何かの遠い記憶だろうか。
悪夢の中の僕は幼かった。目の前には切羽詰まった顔をした父と母がいた。
ここを絶対に離れるんじゃないぞ、あなたはここにいて。父と母はそう僕に言い聞かせていた。
行かないで! そう叫んだ僕の手をすり抜け父と母は僕から離れてどこかへ去っていった。
だが、いても立ってもいられない僕は父と母の言い付けを破ってでも父と母後をついて行った。
その時、母の悲鳴が聞こえた。恐る恐る襖越しから見ると、倒れている父と母がいた。動かない二人に僕は恐怖で足がすくんで動けなかった。奥に何かを持っている人物がいたが、そこで悪夢は途切れた。
行かないで╱10月24日 火曜日
貴方が小五の時、私を捨てて行ったこと
今でも覚えてる。
"大好き、一緒に帰ろう"
優しい言葉をかけてくれていた貴方が
いなくなるのは、あっという間だった。
そんな貴方と、また仲良くなってから2年。
不安もいっぱいだし、辛いこともあるけど、楽しい。
でもね、私が思ってたより、心の傷は深くて大きかったみたいなの。
私たち、まだ付き合ってないから、冷められてるか不安で、怖くて仕方ないの。
お願い、私と一緒にいて?
ずっと好きでいてほしいよ。
他の人のところなんて行かないで。
行かないで
仮眠室で寝ている貴方はよく「いかないで」と寝言を言う
涙を流しながら
誰のどんな夢を見ているのか聞いたこともないし
察せられるほど貴方の過去を知らない
けれどきっと、人生において大切な人で
そして失ってしまった幸せなのだと思う
その涙を私はこっそり拭いこう呟くのだ
「私が隣にいてあげるのに」
夢にまで見る相手の代わりにはなれないけれど
新しい幸せを2人で育むことは
今ここにいる私ならできるのに
貴方はいつも私を見ないで
遠いその人を見る
そっちに行かないで、ここに居て
10/24「行かないで」
手を伸ばしたまま、目が覚めた。
夢だ。追いかけて、追いかけて、倒れて、叫んで、手を伸ばした。行かないで、と。
元彼の夢なんて久しぶりだ。とっくに未練はないはずなのに、一体どうしちゃったんだろう。
寝覚めのコーヒーを淹れながらテレビをつける。
「先程入った事故のニュースです。今朝6時頃、〇〇県〇〇市の路上で車とバイクが正面衝突し、バイクに乗っていた男性が死亡しました」
―――ああ。
そういうこと、か。
一口飲んだコーヒーはひどく苦くて、もう飲む気になれずにテーブルに置いた。
(所要時間:7分)
『行かないで』
夢を見た――
そこは聖域だった。かつてのような、晴天の日でもどこか薄暗い雰囲気の漂うそれではなく、地上を守る戦女神の加護を受けた輝かしい場所としてだ。それはきっと、十三年間聖域を欺き続けた邪悪が討たれ、本物の女神が帰還されたからだろう。
その聖域で、オレの隣にカミュが立っていた。カミュはいつものように柔らかな微笑みを浮かべていた。そこには一切の翳りがなくオレは嬉しくなった。
『これからは、本当の女神のために戦おうな』
そう言ってカミュの肩に掛けようとした手は空振りに終わった。オレは怪訝な顔でカミュを見る。その笑顔は、寂しげなものに変わっていた。カミュは首を振る。
――そうだ、カミュは、死んだ。自らが育てた弟子の手で。カミュが持つその力と意思を弟子に託して。
カミュが歩き出す。その先には光が溢れていた。その時確信した。二度と、彼と会えなくなるということを。
オレはカミュを止めようとその後を追う。だが不思議なことにカミュとの距離は開くばかりだった。カミュは歩き、オレは走っているにもかかわらず。オレの手は彼に届かず、カミュは今まさに光の中に消えようとしていた。
『待て、行くな!』
オレの叫びにカミュは足を止めて振り向いた。その表情は既に寂しいものではなく、安らかな微笑みに満ちていた。憂いも心残りも、何一つ無いというように。
『氷河を、頼む――』
彼はそう言い残し、光の中に消えた。あとに残されたオレは、ただ立ち尽くすだけだった。
目が覚めたオレの脳裏には夢の出来事と、カミュの言葉がはっきりと残っていた。カミュは死んだ。だが、その遺志をオレは確かに受け取った。
自宮を出たオレは走り出し、ずっと下の白羊宮に向かった。そして、オレの突然の来訪に驚く白羊宮の主に告げた。
「オレの血を、氷河の聖衣に使ってくれ」
行かないで
あの時、素直にそう言えてたら
今でも隣にきみがいたのかな
新しい日々を綴るSNSの
タイムラインに紛れ込む君の笑顔には
悩みも未練のかけらもなくて
別に悔しくなんてないけど
立ち止まったままの僕
軽やかに歩いてく君
どうか 行かないで
行かないで
置いて行かないで
1人は寂しいでしょ。
おいて逝かないで
1人で先に逝かないでよ…
私もいっしょに逝くよ。
「それじゃあ、また明日!」
そう言って、彼女は笑顔で別れを切り出す。
いつも通りの帰り道。ちょっとお茶に寄って、満足するまで喋り倒して、それじゃあまたねと、分かれ道で言われているだけの言葉。
その笑顔はかわいくて、無邪気で、明日も会えると信じて疑わない。
それがあまりに眩しくて悲しかった。私に向けるその笑顔が、他の人に向けるものと何一つ違いがないから。
私がここで「行かないで」と一言言ったらどうなるのだろう。
きっと彼女は優しいから、なにかあったのと一番に聞いてくれる。私が言い出すまで側にいて、優しく背を撫でてくれるだろう。
でも私は、そんなんじゃ足りない。
また明日、と笑って去ろうとする手を取って浚いたかった。二度と「また明日」が来ないように閉じ込めて、私と彼女二人きりの世界に行ってしまいたい。
どこにも行かないで。私とだけ一緒にいて。
そう叫んでしまいたい衝動がどれだけ彼女の迷惑になるかわかっている。優しい彼女が私の手を取ってしまいかねないことも知っている。そんなのは駄目だ、だって私は、みんなのために一生懸命になれる彼女が好きなのだから。
相反する衝動を懸命に飲み込んだ。
大丈夫、今日もちゃんと言える。
「うん、また明日」
完璧な笑顔を作って言えば、彼女は手を大きく振りながら背を向けて歩き出した。
夕日の中、一人立ち止まってそれを見送る。
そっと手を伸ばした。
その手は、まだ彼女には届かなかった。
彼は学生の時から役者だった。
それが軌道に乗ってテレビに映れるようになった。
私は常に彼を応援した。
彼が好きだったから。
彼もそんな私が好きだったと思う
友達に見せる顔にしては甘すぎる顔をしてたから。
人一倍応援してた私は
最近では彼が有名になって欲しくないと
思うようになった。
こんなのダメだとわかってるのに
『行かないで』
この言葉を彼に言ってしまいそうになる
今日もこの気持ちを殺しながら
テレビに映る君を観る。
─────『行かないで』
行かないで
と言ったところで
時間はするりと腕から抜けていく
嫌でも時間は進み
みんな
いってしまうんだ
お題
行かないで
「行かないで」と
引き止めたい思いは
涙と一緒に
溢れてくるけれど
未練だけの世界で
お互いを縛り合うのは
あまりにも
辛く
哀しいから
去っていく後ろ姿の君に
潔く手を振って
何も言わずに
見送ろう
泣くのは
そのあとでいい
# 行かないで (312)
《行かないで》
自分が歳を取るにつれて 小さくなっていった背中が
夢の中では今でも広くたくましい
「一緒にお酒を飲めるようになったね」と言った声も
今ではもう遠い過去のよう
私が結婚するときに
冗談めかして「行かないで」と言ったあなた
あなたがこの世を去るときに
心の底から「行かないで」と願ったわたし
病床に伏していると 思い出が駆けめぐる
「手術中」のランプに灯が灯った
ごめんなさい 私はまだそちらには逝けない
「行ってらっしゃい」と言う 小さな家族がいるから
「行かないで」
なんで私を置いてくの。あれだけ努力したのに、あれだけ愛したのに、あれだけ尽くしたのに。行かないで。私のことを愛してくれたじゃない…!
ハッ…!
起きたらそこは、私の部屋のベッドの上だった。
「またこの夢か…」
私は一ヶ月間誰かを愛して、愛した人に置いていかれる夢を見続けている。
私はあんな風に彼氏に置いていかれないように努力しなければ、愛さなければ、尽くさなきゃ…愛して、もらわなきゃ…。
彼女は愚かだった。その夢が未来の自分だと気づけていたら…なんてね。
行かないで楽しかった思い出
行かないで少し無茶しても元気だった体力
行かないで何もごとにも挑戦出来た気持ち
行かないでおなかいっぱい食べれた胃
行かないでやる気
行かないで若さ
行かないで
本当はこの高校に行ってほしくなかった。
だって、通学路が心配だから。
本当はその部活に入ってほしくなかった。
だって、心身ともに大変だと
知っていたから。
心配性の私は、行ってほしくなかった。
無難に安全に、行ってほしかった。
でもあなたは、ちゃんと自分で路を選び
大変だと知りながら挑戦した。
そんなあなたを、私は尊敬する。
お題 行かないで
つぶらな瞳に大粒の涙を浮かべて、その子は行かないでと僕に訴えてきた。まるでこの世のお別れでもあるかのような真剣な表情でだ。
「また、会えるよ。そんなに泣かないで」
僕はそう言って帰りの新快速に乗った。だがもうその子に会えることが出来なくなってしまった。
実はその子、すでに亡くなっていたからだ。しかもこの駅で。
電車に轢かれて亡くなったそうだ。僕は胸が押しつぶされそうになりながら、天国に召されるよう祈った。いつか冷たい地上から温かい天上の世界へ昇れるようにと願う。
「行かないで」
そんな言葉を発して、誰かをそちらへ呼び寄せないように。