雷羅

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「それじゃあ、また明日!」

 そう言って、彼女は笑顔で別れを切り出す。
 いつも通りの帰り道。ちょっとお茶に寄って、満足するまで喋り倒して、それじゃあまたねと、分かれ道で言われているだけの言葉。
 その笑顔はかわいくて、無邪気で、明日も会えると信じて疑わない。
 それがあまりに眩しくて悲しかった。私に向けるその笑顔が、他の人に向けるものと何一つ違いがないから。
 私がここで「行かないで」と一言言ったらどうなるのだろう。
 きっと彼女は優しいから、なにかあったのと一番に聞いてくれる。私が言い出すまで側にいて、優しく背を撫でてくれるだろう。
 でも私は、そんなんじゃ足りない。
 また明日、と笑って去ろうとする手を取って浚いたかった。二度と「また明日」が来ないように閉じ込めて、私と彼女二人きりの世界に行ってしまいたい。
 どこにも行かないで。私とだけ一緒にいて。
 そう叫んでしまいたい衝動がどれだけ彼女の迷惑になるかわかっている。優しい彼女が私の手を取ってしまいかねないことも知っている。そんなのは駄目だ、だって私は、みんなのために一生懸命になれる彼女が好きなのだから。
 相反する衝動を懸命に飲み込んだ。
 大丈夫、今日もちゃんと言える。

「うん、また明日」

 完璧な笑顔を作って言えば、彼女は手を大きく振りながら背を向けて歩き出した。
 夕日の中、一人立ち止まってそれを見送る。
 そっと手を伸ばした。
 その手は、まだ彼女には届かなかった。

10/24/2023, 11:41:57 PM