『自転車に乗って』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
いつも家の玄関先に猫がいる。
私は自転車を出して玄関先を猫に申し訳なさそうに出る。
猫は王様
自転車に乗ってどこまでもいけた
あの無限の体力と無敵感が欲しい
平凡なフードコートも、友達と一緒なら無敵に楽しかった
「雲と私と雨の音」
外に出る
大雨の中
目をつぶる
そこにあるのは
雲と
私と
雨の音
私の心の中には
ゆらゆらとした
軽い気持ちが舞い降りる
空は落ち着く
どこよりも
それはなぜか
そこにいるのは
自分だけだから
自転車に乗って中学校へ。
毎日遅刻ギリギリに登校、もちろん間に合わない日もあった。
そんな時はそーっと後ろの扉から入るのだが、大体先生にバレて、同級生に笑われる。そんな日々だった。
息を殺して、目立たないように、手を上げるだけで心臓がバクバク
人並みに塾にも通わさせられたが、ストレスで脱毛症に。
あの頃乗っていた自転車はもう錆びついて、もう他の人の手に渡った。
私も就職して働いている。
今も変わらず人に怯える日々。
お盆も終わり、また会社だ。
自転車に乗ってもどこへも逃げられない。
今はね…。
行けたらいいな
どこまでも
あの頃のように
気の向くままに
どこまでも自由に
お題:自転車に乗って
2台のトラックが猛追してくる。
フルフェイスを被った男の表情はわからないが、足の回転から何か事情があるのを察する。
自転車の後ろの部分に跨がる少女は男の腰回りで自分の両手を繋ぐ。
と、そこで自転車のタイヤにガタが来て、自転車と男女2人が高く宙を舞う。
謎の黒ずくめの男達が、橋から河川敷へと放り出された少女を探しだし、恐らく"頭"らしき男の前へ連行する。
少女はその黒ずくめの組織の一員だったのだがそこを裏切り抜け出したところを捕まってしまったのだ。
頭が少女へ裏切りの制裁を加えようとしたその時。
ピキュイーーーーーン
少女、頭、黒ずくめの男達の視線は一斉に河川敷の土手沿いに集まる。
男はこちらを見下ろしていた。
頭は少し嬉しさの籠った驚き声で言う。
「バッタオーグぅ、完成していたのですか!」
「自転車に乗って」#20
暖かい日差しが指す朝、、、
そよ風吹く土手の上で
颯爽と駆られたい
君に乗って、、、
アスファルトの上の紙くず、
誰かが吐いた唾、
風で転がる空き缶、
灰皿に入れるつもりが 落っこちてった
吸殻。
誰かの話し声。
車の排気ガス。
スモッグ。
ガムを踏んで 何かに対して罵る言葉。
食べ物じゃないモノをついばむ鳩
主人と意見が合わずに 自分の行きたい方向に行きたがる犬
遊びながら歩く小学生
彼らを足早に抜いて行く大人たち
「ああ……飲みすぎた……」思わず漏れる言葉
そんな中、すごい笑顔で自転車に乗っている人を見た。
見上げた空は、涼しげ。
見たことのない景色を目指して、
今日もひたすら漕ぎ続ける。
私の相棒の自転車と一緒に。
上り坂、下り坂、でこぼこ道。
定期的なメンテナンス。
空気を入れてあげるのも忘れずにね。
絶好の晴れの日。
――さて、今日も行こうか。
〜自転車に乗って〜
【自転車に乗って】
自分の足で漕ぐ、地下鉄で七駅分の距離。
遠いはずなのに、職場を目指す三十分よりも短く感じる。
心が急いても安全運転を第一に。焦る必要はない。
もうすぐ彼に会えるのだから。
信号待ちで時間を確認すると、彼からの連絡に気づいた。
〈駅まで迎えに行くよ。いまどの辺?〉通知は五分前。
〈ごめん、電車使ってない〉すぐに返事がきた。
〈免許持ってたっけ?〉〈いやケッタ〉〈ケッタ?〉
〈ケンタッキーの略?〉全くもって的外れな推測。
でも本来の意味よりそれらしくて笑ってしまう。
〈自転車のこと〉〈言わんて。どこの方言だよ〉
続けて、不満げな表情の柴犬スタンプが送られてきた。
〈ゆっくりでいいから安全に来てよ〉信号が青に変わる。
りょーかいと笑顔で敬礼する男の子スタンプを返した。
また漕ぎ出し、最寄り駅より近くなった彼の家を目指す。
顔を見て話せるまであと少し。
午前中に着く予定だったが、結局着いたのは昼過ぎ。
先に連絡するか、インターホンを押すか。家の前で悩む。
チラッとスマホを確認すると〈二階〉と通知が届く。
見上げれば、窓から顔を出した彼が手を振っていた。
「いらっしゃい。どうぞ」扉を開け、招き入れられる。
いつ来ても、ここは柔らかい匂いで満ちている。
「疲れたでしょう。ちゃんと電車使いなよ」
私の前にお茶を置き、対面に座る彼は呆れ顔で笑う。
それから緊張したような面持ちになって、口を開く。
「あの、さ。もし嫌じゃなかったらなんだけど……」
遠いとたまにしか会えないし、と言い訳みたいに呟いた。
素敵な未来はすぐそこに。
坂道を転がる細いタイヤ。
スピードが出過ぎないように時折かかるブレーキ。
だけど早朝だから音が鳴らないようになるべく慎重に。
グリップを指先は赤い。
僕の鼻先も赤い。
首までずり落ちたマフラーは道に合わせてガタガタと尾ひれを揺らしていた。
早朝四時。
朝日が登る前に、君の家まで駆けていく。
某映画に触発されたんだろなんて揶揄はやめてほしい。少しだけその通りだけど。
吐く息は白く、僕の緊張がそのまま吸い込まれていくようだ。
もうすぐ君の家に着く。
あのポストを左に曲がれば、すぐだ。
まずは早朝に来たことを詫びて、それから朝日を見に行かないかと誘う。
道中は今度の球技大会や、試験勉強のことなんか話したりして。
それから――君に伝えたいことがあるんだ、って言う。
/『自転車に乗って』8/14
あかいおなかの きもり
ひろげたすばめの つばさ
あをいめだまの ここどら
でんきのいぬの しっぽ
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて
自転車に乗って
自転車に乗ってどこまでも行こう
君の行きたいところ全部行こう
僕はどこまでも着いていくよ
お前を1人にしない
俺らは2人でひとつだ
あれはもう秋だったと思うんだけど、みんなでサンフランシスコに泊まりで行ったよね。見晴らしのいい高台で2人の写真を撮ったり、ケーブルカーに乗ったり、フィッシャーマンズワーフでご飯食べたり、アルカトラズを回る船に乗ったり、なんとなく一緒にいるなぁとは思ってたけど、帰りのバスでは当たり前みたいに隣に座ってくるから、もうその時には私もそういう意味で意識してて。お互い何も言葉に出来ないし、手を握られてたのか、ただ肩が触れてただけなのか、あぁ覚えてないな…バスの空調のせいかもしれないけど、体も心もくっついてて汗ばむくらい熱かった。
帰り着くまで何時間も緊張してたんだよ。
全然覚えてないんだけど、帰ったその日なのか違う日なのか…サカイの部屋でも私の部屋でもない、真っ暗な知らない天井の部屋のベットでお互いの気持ち確認したね。両思いなんて初めてだったから、覚悟というか、周りの反応への諦めというか開き直りみたいな決意のようなものを強く感じたのを覚えてる。
私はとっても恥ずかしかったんだけど、周りのみんなはサカイの気持ちを知ってたのか、私たちのこと初めから認めてくれてたよね。
どんな言葉で告白されたのか、少しも覚えてない。
それからはたくさん『好き』を言ってくれたよね。
無邪気な自分を受け入れてくれる
貴方と一緒にどこまでも行きたい
『自転車に乗って』
「自転車に乗って」
映画で宇宙人を扱ったものは多い。昭和の世代、そうしたサブカルチャーはたくさんあった。いま私は『E.T』を思い出している。
あの映画のラストシーンでは、美しい満月の夜、主人公とE.Tは自転車に乗って舞い上がった。どうして、こうしたSF映画が生まれてきたのであろうか。製作者の無意識が生み出したのか、それとも明らかな意図があったのかは、わからない。
けれども、今という混沌として、先の見えない世界の到来を予感していたのかもしれない。環境問題、絶滅し続けている生命への危機感、温暖化の問題など、以前から警鐘は鳴っていた。いまだに、まだまだ先のことで自分自身には関わりのないことだと、言い聞かせている人達は多い。
宇宙人の姿は想像するしかないけれど、かつてプラトンが考えたイデアという理想世界があるのだとすれば、やはりそれは、高次元のどこかにあると想像している。
そして宇宙人は人は善を求めるものと考えているし、それを願っているだろう。宇宙人が、地球の侵略者として表現された作品も多いけれど、私はそうは思わない。
この地球が可能な限り、美しく生命あふれる惑星であってほしい。それは、この銀河系全体の願いであり、この宇宙の最大の関心ごとだと捉えている。
あの景色を見に行きたい。
車とか電車とか、写真とかでもなくて、
ただあの頃みたいに、2人で自転車に乗って見に行きたい。
あのころの僕達で あの景色を見に行きたい。
誕生日にお父さんが買ってくれた、大切な黒の自転車。
予算的に中古だけど、僕にはキラキラして見える。
前の持ち主さんが大切に使ってたんだろうなぁ。
今度は僕が大切にします。
自転車に乗ると、反射でチカチカ輝いていた__。
*自転車に乗って*
400いいねありがとうございますー!!
今回もすっごく適当ですねwいやちょっと、なに言ってるのか自分でもわからんです
自分の力でぐんぐんと進んで行く
風の影響をもろに受けるから
追い風の時は気持ちがいいくらいに速く
向かい風の時は押し戻されないように
必死に足に力を込める
何から何まで自分次第だけど
徒歩よりも快適で頼もしかった
今ではもう
車ばかりを使うようになってしまったけれど
たまにはあの頃を思い出して
また旅に出てみてもいいかもしれない
【自転車に乗って】
夏になると田舎に住む祖父母の家に行くのが恒例行事だった。都会に住む私にとって、田舎というのはとても刺激的な場所だ。
周りは田んぼと畑と山があるだけの小さい集落。車が無いと不便だが、最近は大型のショッピングモールも近くに出来て、便利になったのだと言っていた。
昼間は蝉の声を聞きながら虫やカエルを捕まえて、夜は蛍を見に行った。縁側でスイカを食べたり、庭で花火をする事もあった。
そんな田舎と祖父母の家が大好きだった私は、小学校3年生の夏休み。1人電車とバスを乗り継いで、祖父母の家へと行ったのだ。これはその夏の不思議な思い出話だ。
***
その日は酷く暑い日だった。
いつもの通り朝一番にその日の分の宿題を済ませ、今日一日何をして遊ぶか考える。
集落に歳の近い子供は居ない。居るのは、私より遥かに歳が下の赤ん坊か、年上の中高生の大きな子供。
去年最後の小学生が卒業し、小学校は閉校したと聞いている。中学校からは町の方に通うので不便だと、みんな子供が大きくなる前に町に引っ越してしまう。おかげで、若い人が居つかないとよく祖母がぼやいていた。
同年代の子供は居なかったが、私は一人遊びというのも悪くないと思っていた。
両親は共働き。帰りが遅い日もあったので、自ずと部屋で1人過ごす時間が多かった。
外で遊ぶのが好きな子供だったので明るい時間は公園で友達と遊び、夕方は帰ってきて部屋で1人本を読んだりして過ごしていた。
しかしここでは明るい時間から1人。そして、見知らぬ物が沢山ある。何処へ行くのも何をするのも全てが私にとって大冒険だった。
その日祖父母は近所の日の通夜があると言って、手伝いの為朝から居なかった。
昼ごはんは弁当箱に詰められていたので、私は弁当と水筒に麦茶、お気に入りのお菓子を少しリュックに詰めて冒険へ出掛ける事にした。
祖父の自転車にリュックを入れ、自転車を押してスタンドを外す。憧れの大人用自転車だ。
自分の自転車は小学校に上がった時に買って貰った子供用の青い自転車。あれはあれで好きだけど、大人用のはカゴもタイヤも大きくて立派に見える。しかもお爺ちゃんの自転車は後ろにもカゴが付いた特別性。荷物を沢山積む事が出来る。
タイヤが大きな分、早く進むことができるし、何より大人になった気分になれる。子供じゃ無い。大人用の自転車に乗っているという事が、子供心にとって一種のステータスのようなものだった。
家では足が届かず危ないからと大人用には乗せさせてくれない。しかし、こっちでは祖父の自転車しか無いから特別に乗せさせて貰えるのだ。
身長はクラスでも前から数えた方が早い。小さい身体の私がサドルに座ってしまうとペダルを下まで踏めなくなってしまう。その為殆ど立ち漕ぎ状態で漕ぐ事になるのだ。
座って漕げない訳でもない。これにはコツがあって、下に行ったペダルは反対のペダルを足が届くギリギリまで踏み込んでから、上がってきたペダルを足の甲を使って上に持ってくる。
これを繰り返す事で座ったままでも漕ぐ事ができるのだが、それより立ち漕ぎで進んだ方が早いのだ。
今日は何処まで行こうか。いつもはお昼までに一旦帰って来なくてはならないのでそう遠くには行けないのだが、今日は弁当も飲み物もある。
置き手紙はしてきたし、祖父母には出掛ける旨の話もしていた。少し遠くまで行っても問題無いだろう。私は大人用の自転車でどんどんと山奥の方へ走って行った。
幾つかの田を超え、山道に入り坂を登る。子供の足で漕ぐにはキツい坂は自転車を押して上がった。
どれくらい走っただろう。山の中にポツリと浮かぶ赤い鳥居が目に入り、私は自転車を停め行ってみる事にした。
鳥居は山の上にあった。入り口が何処にあるのかわからず、鳥居を目印にとりあえず山の中へと入っていった。
しばらく進むと、鳥居へと続く階段が目に入る。大分横から入ってしまったらしい。階段の中段辺りに出てきた。下を見ると長い階段が続いている。もう少し上がってくれば階段があったようだ。
どうせ誰も来ない山の中。荷物は持ってきたので、自転車は置きっぱなしでも大丈夫だろうと思い、そのまま鳥居まで上ることにした。
階段を上がりきると、綺麗な朱色の鳥居が出迎えてくれた。気のせいだろうか、下から見た時より大分綺麗な色をしている気がする。
参道の脇には狐の石像が2つ。向かい合った形で鎮座している。その奥には8畳ほどの木製の建物があり、手前に賽銭箱。中に祠のようなものも飾ってあった。
思った通り神社だった。それも稲荷の神社らしい。そういえば、前に祖母がこの地に伝わる稲荷伝説があると言っていた。
「大昔この地が干ばつにあった際、村に現れたお腹を空かせたキツネにエサをやった所、お礼に雨を降らせてくれ。それからというもの、この地ではキツネを村の守り神として祀っている」とか、そんな話だったと思う。
当時の私には、干ばつやキツネを祀るの意味がよくわからなかったが、良いキツネが居たという事だけは理解が出来た。
祖母はこうも言っていたのだ。
「どんな相手にも親切にしなさい。必ず自分に返ってくるからね。良い事は良い事で、悪い事は悪い事で返ってくる」
これは、祖母の口癖のようなものだったが、あの体験の後ではそれがどういう意味なのかよくわかる。
神社の境内をぐるりと一回りした所で、お腹が空いてきた私は昼食をとることにした。
お賽銭は無かったので鈴を鳴らして手を合わせるだけだったが、お参りをして「お昼ご飯食べさせて下さい」と、一応キツネの神様に挨拶をした後、持ってきたレジャーシートを敷き、階段に腰掛てお弁当箱を取り出した。
ふと視線を感じ横を見ると、木の陰からこちらを覗く顔がある。同い年位だろうか。色白の肌につり目ながらに大きな瞳。ツンと突き出した小さな鼻と血色感のない唇が、何かを言いたげにこちらを見ていた。
「一緒に食べる?」
私はその子供に声を掛けた。祖母の教えがあったからだ。子供はこくりと頷いて、おずおずとこちらに歩いてきた。
背丈は私と変わらない。髪はおかっぱで、男とも女とも取れない見た目をしていた。淡い水色の無地の着物に草履という出立は今時の子供には見えず、不思議な雰囲気を纏った子だとそう思った事だけは覚えている。
「これが梅干し、こっちがおかかで、これは…さけのおにぎり。好きなのとって良いよ。おかずもちょっとだけど、あるから。おすすめは卵焼き。おばあちゃんの作るのは甘くって美味しいんだ」
私は持ってきたおにぎりを並べ、弁当箱を開きおかずを見せる。
日頃から「よく食べなさい」と言って、1人分以上のご飯を作ってくれるおばあちゃんのご飯は美味しかったが、いつもお腹がはち切れそうになっていた。2人で分けても充分お腹いっぱいになれる。
着物を着たその子供は、初めて見るのだろうか。アルミホイルに巻かれたおにぎりを陽にかざし、キラキラと反射するのを不思議そうに眺めている。
「それにするの?見てて、こうやって…アルミホイルは剥くの。中におにぎり入ってるから」
私がやってみせると、子供も真似する。出てきたおにぎりに目を輝かせるかぶりつき、美味しかったのだろう。もう一口、もう一口と、大人の拳大ほどあるおにぎりをあっという間に完食してしまった。
「もう一個食べる?」
私の言葉に大きく頷く。余程おにぎりが気に入ったらしい。私は祖母の作ったご飯を喜んで貰えたのが嬉しくて、ピックに刺さったおかず達も勧めた。
私がおにぎりを食べている横で、子供は一口一口を噛み締めるようにおにぎりを頬張り、おかずを口にすると目を丸くして美味しさを表情の全てで表現していた。
あっという間に食べ終わった私達は「ごちそうさまでした」と手を合わせてからお弁当箱をしまった。食後に持ってきた麦茶を付属コップに入れて分け合い一息ついた所で子供が立ち上がり裾を引っ張った。一緒に遊ぼうという事だろうか。
私はリュックを階段の脇に置き、その子供と山の中を駆け回り遊んだ。
山の中は私の知らない場所が沢山あった。綺麗な沢の流れる小さな滝や、大きな洞窟。見た事ない程に大きな木があり、ごつごつとした岩にも登った。
同年代の子供と遊べるのはやっぱり楽しい。時間はあっという間に過ぎていった。
かなりの時間遊んだと思っていたが、不思議と辺りはまだ明るかった。一向に暗くなる気配が無い。
神社で出会った子供と更に山の奥へと入っていくと、そこにトンネルが出てきた。
今は使われていないのだろう。反対側の僅かな光が薄ら見える程度で、中は真っ暗。苔が生え冷たい空気が中から漂うなんとも不気味なトンネルだった。
普段なら絶対に近付かない。怖い物は苦手だ。テレビで怖い番組を見てしまったりしたら、1人でトイレには行けなくなってしまう。夜は豆電球をつけて寝ているし、昼間の墓場だって嫌な位だ。なのに、この時は何故かそのトンネルの中に入りたかった。そう、呼ばれている様な気がしたのだ。「おいで、おいで」と。
自然と足がトンネルの方へと向く。見た目は古びたただのトンネルなのに、何故か吸い込まれていく。1歩、また1歩と進みトンネルの入り口に差し掛かった所で、腕を掴まれた。
振り向くとあの子供が泣きそうな顔をしてこちらを見つめて首を横に振っている。ハッと我に返った私がトンネルの方を見ると、暗闇に紛れ白い影が無数にこちらを睨んでいる様に見えた。
「ひぃっ!?」
「もう少しだったのに……邪魔なキツネめ…」
私の声にならない悲鳴の後、白い影がそう呟いた様に聞こえた。
「キツネ………?」
後ろの子供を見る。子供には耳と尻尾が生えていた。そう、まるでキツネの様な薄茶色いフサフサの…。
***
「ゆうき…ゆうき…!」
名前を呼ばれ目を覚ますと、そこは神社の階段だった。心配そうに私の顔を覗いている祖父と、周りには近所のおじさんが2人。
「大丈夫か!?怪我してないか?痛い所は?」
私は質問の意図がわからなかったが、いつの間にか辺りが真っ暗になっていた事に気づいた。空には月まで昇っている。
「大丈夫かい?家に居ないから心配して皆んなで探してたんだよ。眠っていただけなら良かった」
どうやら、私は昼間お弁当を食べた所で眠っていたらしい。通夜を終え帰ってきたら祖父母が家に私が居ない事に気がつき、村中総出で探しに来てくれたのだ。
「心配掛けてごめんなさい…」
謝る私にみんなは怒る事なく、優しく頭を撫でてくれた。
夢だったのだろうか。全部。
私にはあの子供と一緒に食べたお弁当も、遊んだ事も、あのトンネルの奥に連れて行かれそうになった事も、全部現実に思えて仕方なかった。
家に帰ってきてから、その日あった事を祖父母に話したら2人は顔を見合わせてから、私の頭をまた撫でてくれた。
「そりゃぁ、おキツネ様だな」
「おキツネ様?」
「んだ。前にばあちゃんがここのキツネ伝説の話ししたんは覚えとるか?この地の守り神のおキツネ様は、子供にだけ見えると言われてる。その子供と同じ年頃の姿で現れて、一緒に遊んであげると願い事を叶えてくれるって話だよ」
「ゆうきもお参りしたろ?何願ったんだ?」
「えっとね…お弁当食べるからお邪魔しますって。あと、おじいちゃんとおばあちゃんが長生き出来ますようにって」
その言葉を聞いて、2人は顔を緩ませる。
「ゆうきは本当に良い子だ。優しい子に育ってくれて嬉しいよ」
2人の笑顔が私にとっては一番嬉しい事だった。この願いを聞き届けてくれたのか、あれから10年以上経った今も、祖父母は元気に過ごしている。
後にわかった事だが、あの時呼ばれたトンネルは戦争の最中沢山の人が亡くなった場所らしい。
トンネル自体もう老朽化により閉鎖され、その後あった地震の影響であの時既に無くなっていたはずだという。
存在しない筈のトンネルは確かにそこにあり、私はトンネルの中に呼ばれていた。もしあのまま進んでいたら、私は今どうなっていただろう。
あの時手を引き止めてくれたあの子は、お弁当のお礼に助けてくれたんだろうか。
「どんな相手にも親切に。必ず自分に返ってくる」
今でも私にとって大事な言葉である。
あの日以降、毎日の様にあの神社に行ってみたが、子供には出会えなかった。だが、おにぎりを置いていくと必ず無くなっていた。
食べているのが子供なのか、それとも別の動物かはわからない。けれど、またあの子供に会えたら直接お礼を言おうと決めている。
***
あれから毎年夏になると田舎に遊びに来ては、神社へのお参りが恒例行事となっていた。
あの夏の思い出は、誰に話そうと信じて貰えはしないけれど、それでも良い。
私にとってかけがえの無い物で、確かにあった冒険の一日だったのだから。
#夏のある日の冒険譚 【自転車に乗って】