『脳裏』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『脳裏』って漢字に裏を使ってるのに意味は『頭の中』。
たしかに脳裏をよぎるって使う時は頭の中に映像が映るように感じる。
日本語って難しい。
『脳裏』
頭をよぎるのは、一番幸せだったかもしれない、あの日。
「俺、君のこと好きなんだ。ずっとずっと好きで、君は違うかもしれないけど、諦めきれなくて」
夢なんじゃないかと疑ったけれど、わたしを抱きしめるぬくもりも、少し苦しさを感じる力も、間違いなく本物で。
わたしには手の届かない人だと思っていた。
はじめて好きになった人と想いを重ね合わせられるなんて、思っていなかった。
――ねえ、やっぱり、夢だったの? それなら早く覚ましてほしかった。
あなたの心が、別の場所にいることなんて、とっくに知っているの。
わたしが共に歩みを進めようと手を差し伸べても、渋ったままやんわり拒否をしていること、気づいているの。
それなのに……中途半端に愛を囁いてくるせいで、断ち切れないでいる。
ああ、早くこの悪夢から逃れないといけない。
手遅れになる前に、はやく。
お題:脳裏
脳裏に焼き付いた思い出達 ガラスのようにきらきら輝く
お前らのクソみたいな発言ずっと脳裏をよぎるから死んでほしい
「『脳裏』は比較的ハナシに埋め込みやすい単語だと思う。ひとまず登場人物に何か考え事させりゃ良いだけだからな」
俺が時々ハナシ書くの苦手に感じる理由、自分自身がそういうネタさして好きくないにもかかわらず、自分でその、さして好きくもない「ちょっと説教っぽい作風」のハナシを書いちまってる説。
某所在住物書きは己の脳裏にひらめいた仮説に少し同意して、ゆえに途方に暮れ天井を見上げた。
自分が自分のさして好まぬ物語を書いてしまうのは、どうしろというのだ。
「豆知識ネタは、好きだけどさ。ちょっと過ぎれば問題提起ネタやら、説教ネタやらになっちまう……」
作風、難しいわな。物書きは大きなため息を吐いた。
――――――
私の職場に、「解釈」、特に「解釈違い」って言葉がトラウマな先輩がいる。
原因は、先輩の初恋のひと。
酷い解釈押し付け厨で、自分が最初に先輩のこと好きになったくせに、いざ先輩が初恋さんに惚れると、
「地雷」、「解釈違い」、「おかしい」って、呟きックスのサブ垢か裏垢か知らないけど、鍵もかけずにディスり散らして、
それが、先輩の目に止まっちゃった。
先輩の初恋さんは、名前を、加元さんと言うらしい。
散々先輩をディスったくせに、まだヨリを戻せると思ってるみたいで、先々月私達の職場に突撃訪問してきた。
「話がしたい」って。
「自分はその人の恋人だ」って。
加元さんはまず恋人の意味を検索すべきだと思う。
「最近は昔ほど、酷いアレルギー反応は、出なくなってきたがな」
昼休憩、「朝ちょっと揺れたね」ってオープニングトークを、ちらほら、あちこちで聞きながら、休憩室のテーブルでお弁当広げて、コーヒー置いて。
なにやらシンプルなデザインの便箋を、何度も何度も視線で読み返す先輩と一緒にランチ中。
「時間の経過か、お前がたまに解釈解釈言って、耳が加元さんじゃなくお前で慣れてしまったか」
何はともあれ、アナフィラキシーを起こさなくて良かった。
先輩は呟いて、スープジャーの中を突っつきながら、また便箋を目でなぞった。
「なに見てるの」
「お前が私によこした仕事を」
「私何も投げてない」
「お前だろう。今週の月曜日、11月6日、『自分自身のために、加元さんの投稿で自分が傷ついたことを、自分の気持ちをハッキリ伝えろ』」
「まさかカンペ?……先輩がカンペ?!」
「断じて乾パンでもハンペンでもないぞ」
「ごめんネタ分かんない」
ずいっ。
身を乗り出して、先輩の便箋の文章を見る。
便箋には真面目で几帳面な先輩らしく、加元さんの何の行為で心が傷ついたか、今自分が加元さんをどう思ってるか、今後どういう関係でありたいか、
淡々と、平坦に、事実だけ、加元さんを必要以上傷つけないような言葉の選び方で、まとめられてた。
仕事中はスラスラ言葉が出てくる先輩が、ただの恋愛トラブルの喧嘩でカンペを作る。
私にはそれが、すごく不思議だったけど、
同時に、ふと、脳裏にそれっぽい理由がよぎった。
きっと、本来の先輩は「カンペ作る方」なんだ。
仕事中の、「スラスラ言葉が出てくる方」は、学生が何度も何度も膨大な量の数学の問題解いて、解法を覚えちゃったようなもので、
本当はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ話をするのが得意じゃないか、
あるいは量産的な言葉を機械的に素早く出す会話より、相手をしっかり見て、オーダーメイドな言葉を渡すのが、好きなんだ。
「……。
いや多分違う。なんか違う。いや違わない?」
「は?」
「私が私の中で先輩の解釈論争」
「……、……は?」
私の後輩は今一体何を悶絶しているんだ。
先輩の目は点で、スープジャーを突っつく手も止まってて、口がちょっと開いてる。
先輩実は話をするより話を聞く方が好き説、
本当は大量生産より一点物の会話をするタイプ説、
トラウマな初恋相手との会話が緊張するだけ説、
等々、等々。
私の脳裏は某動画のコメント字幕みたいに、右から左に解釈が流れて流れて、
その私の目の前で、先輩が意識の有無の確認みたいに、右の手のひらをヒラヒラ振ってた。
【脳裏】
波打ち際で月光と踊る君の姿を思い出す。白いワンピースの裾がひらひらと、誘うように揺れていた。
君と過ごした最後の夜の記憶。素敵な思い出をありがとうと微笑んで、君は夜の海へと還っていった。
寄せては返す波の狭間へと、そっと手を差し入れる。冷たい温度がまるで、君の手のひらのようだった。
(ずっと、ずっと、君だけを愛してる)
たとえ君が人間でなかったとしても。海から生まれ海へと還る、人間の形を模しただけのただの化け物だったとしても。それでも僕にとっては、君だけが世界の全てだった。
脳裏に焼きついた君の、はにかむような笑顔をなぞりながら。遥か遠い海原へと永遠の愛を捧げた。
脳裏
その光景が脳裏に浮かぶ。
まるまるとした赤ん坊を抱き、
周りの拍手する人々に、
ありがとうありがとうと頭を下げる私。
上気する頬。
人々はさらに泣き叫ばんばかり。
と、赤ん坊は身をよじってのけぞり、
私の懐から抜け落ちた。
落ちたー照明がガチッと切り替わり、
真っ暗に。人々は無表情で立ち尽くす。
赤ちゃんは、赤ちゃんは何処⁈
私は足元を必死で探す。いない。いない。
そこで目が覚める。目尻に涙の後。
いないのです。私には初めから、
幸せなど。
脳裏によぎったのは、最悪の状況だった。
僕は急いで家路に就く。
玄関は閉まっていた。
(心配しすぎだったかな…。)
鍵を開けると、そこには変わり果てた
娘の姿が横たわっていた。
#7『脳裏』
脳裏に過ぎる。今さっきトラックに轢かれたことを。そして自分は異世界転生したんだっけ。
そしてめざめると俺は既に馬車に跳ね飛ばされて。
脳裏に過ぎる。俺は確か何故馬車に轢かれて、めざめたらモーターカーに跳ね飛ばされて。
脳裏に過ぎる。俺はさっきはモーターカーだったが、次は機関車のようだ。何回俺は轢かれるんだろう。
脳裏に過ぎる。軽自動車に轢かれて、空中で飛行機によってヒューマンストライクされて、海中で潜水艦に激突する。
脳裏に過ぎる。たしか神様が俺を間違えて異世界転生させたんだっけ。死ぬ度に別の場所に転生しているけど、必ずリスキルされる。
「すまぬすまぬ! 次こそは上手くやるから!」
「あぁ……はい」
脳裏に過ぎる。あれ? ここって俺が最初にトラックに轢かれた場所じゃん。それならばと考えた矢先に、俺は止まりきれなかった救急車に轢かれた。
「あ〜! もう現世に復活させてやろうと思ったのに! タイミングが最悪じゃった!」
「あの、もう大丈夫なので。神様は何もしなくて良いですよ」
「いや、そうはいかん! わしはお前を何としても異世界に送る! 次だ、次で成功するから!」
脳裏に過ぎる。あれ? これってまた繰り返すのか? 俺は既に場所に跳ね飛ばされていた。
彼が忘れたはずの過去が、脳裏に蘇る。
思い出というより妄想かもしれない。
彼は幼い頃に見た夢と瓜二つ。ただし、それは夢のはずなのだが、なぜ彼の日常が同じになっているのだろうか。
彼の気持ちが揺れる中、現実か夢か、境界線が消えていく。
愛する貴方に胸を貫かれた時、最初は何があったのかよく分からなかった。
信じてくれないのとか、もう私のことは愛してくれないのとか、色々な想いが溢れていたけど。
途中でなくなって、その先端が包帯できつく巻かれた片腕を見たら、私の脳裏に浮かんだのは三つ。
まだ私を愛してくれていた貴方が抱きしめてくれた時に存在した両腕の温もりと、貴方も苦しんだのかという、全てを焼き尽くすような痛い想い。
あと一つ。貴方を愛しているということ。
脳裏
「私の事は、忘れてしまっていいから」
そう言った 君の寂しそうな笑顔を
僕は、頭の中で何回も何回も再生する。
意識が揺蕩っている直前 明かりが
パッと付く
見ると映画の エンドロールが流れていた。
「お兄ちゃん 行くよ!」
妹に そう声を掛けられ
僕は、席を立つ
「この映画アンコール上映が何回も
されてるよね
お兄ちゃん上映されるたび何回も
見に行くんだもん!
だから、私も興味出て来て
今日一緒に付いて来たけど...
すっごく良かった。」
妹が隣で、燥いでいる。
パンフレットを見ながら僕の方を向く
「この 女優さん お兄ちゃんと
同い年だね!」
「うん...」僕は、静かな声で頷いた。
いつか 君が言っていた
忘れてしまっていいからを
僕は、守りたくなくて、
君の笑顔を脳裏に焼き付けたくて...
僕は、君に性懲りも無く会いに行く
映画館のタイトルポスターを
見ながら また同じ風に席に
座り 君が再生されるのを眺め続けている。
脳裏 #15
脳裏って無意識ってこと。
ひらめきとか
ふとした瞬間にうかぶ。
心が無になったとき、でてくる。
脳の裏。
松果体。
日本語ってすごい。
そんな話をもっと知りたい。
脳裏によぎるのは
子供の頃の記憶
この記憶は本物なのか
母に刻みつけられた偽物なのか
「もしもし?うん、なに、どしたの?(笑)……え?うん、今仕事終ったとこだから、…お開きになったら連絡ちょうだい、迎えにいくわ…うん、いや、良いよ別にそんなこと気にしなくて、久しぶりなんでしょ?…うん…うん…もうちょっと楽しんできなよ、次またいつ会えるかもわかんないんだからさ。…うん、…え、私!?私はいいよ(笑)…うん、よろしく言っといて……はいはい、じゃあ、また後で。」
恋人との通話を切る。地下鉄のホームで電車を待つ。
ドンッ
地下の深淵は、つんざくような悲鳴にも似た車輪の音に包まれる。
その時、脳裏に浮かんだのは、あなたの
(脳裏)
脳裏
あなたのことがいつも脳裏に浮かんでしまう
だから今日もあなたのことを考えてしまう
床一面の朱
右手に握る銀
光を失った一対の黒
次に何をするべきか
わかってはいるのだけど
ここで俺も終わろうか
そう思ってしまうほど
眩しく煌めいて離れない
2人だけの青
『脳裏』2023/11/1019
あの頃の出来事が、脳裏に焼きついてしまった。どうあがいても離れない。
あんなもの
そこまでいい思い出ではない。
そんなモノが、脳裏によぎった。
ああ、最低な気分だ。
「おーい、飲んでるかぁ?」
「まあ……」
酒はそんなに好きじゃない。だけど酒でも飲まなきゃやってられない、というときは確かにあるのだ。そして今日は酒は飲んでも飲まれるな、というときでもある。
だもんでチビっとずつ泡の消えたビールを飲んでいたところを、向かいに座っていたコイツが隣へ来て僕に絡み始めた。
半年程かかりっきりだったプロジェクトが一段落し、部内全員での打ち上げが行われていた。大抵の飲み会はスルーする僕でも、さすがに出席しないわけにはいかなかった。
高校時代から天敵のコイツ。まさか中途採用で同じ会社に入社してくるなんて、腐れ縁もいいところだ。
このクソ野郎は昔から声がデカくて態度もデカい。僕と違って友達も多い、所謂陽キャ。それだけでも目障りなのに、コイツはことあるごとに僕にウザ絡みしてくるのだ。
そして……僕の大切なものを踏みにじり、大切な彼女を馬鹿にした。
会社で再会してからもそれは変わらなかった。もう限界だ。プロジェクトも一段落つき、僕の責任分は果たした。今ならコイツを殴って会社を辞めることになっても、取引先への迷惑もそんなにかからないだろう。だから僕は密かに決意していた。今日の飲み会でコイツが彼女を馬鹿にしたら、そのときはコイツを思いっきりぶん殴ってやる。
脳裏に彼女の心配そうな顔がよぎる。
決意が鈍らないよう、僕は頭を振った。
「……よぉ、お前さ、まだあの子のこと好きなの?」
きたっ! ……彼女の話題だ。大抵このあとは、正気かよ? どこがいいんだよ? 気持ちわり〜などと続く。僕は拳を握りしめて続きを待った。
「ゆったん、だっけ?」
こんな奴にあだ名で呼ばれたくない。
「ユリウスだ」
「俺、お前に謝んねーとな……」
「は……?」
握られた拳は行き場をなくし、膝の上にぽとんと落ちた。
「ずっと言えなかったんだけど、お前が羨ましかったんだ。……お前の好きな人は生きてるから」
「え……」
鞄をゴソゴソ探ると、クソ野郎は僕に取り出したものを見せた。
「……! ら、ライナさんのアクスタ!!」
「俺が昔からずっと好きな人」
そう言って寂しそうに笑った。
僕が子供のころに流行った美少女たちが変身して戦うアニメ。その主人公のユリウス、僕はずっと彼女一筋だ。そのユリウスたちの敵役のボスであるライナは、最終回でユリウスたちに殺されてしまったのだ。
「……ごめん、僕は君の気持も知らずに浮かれていて」
「いや、世間から見たらライナは悪さ、滅びるのも仕方ない。そうは思ってもやっぱりユリウスが憎いって気持ちも捨てきれなくて。お前に八つ当たりして悪かったよ」
「そうだったんだね」
「今度放送から十五年ってことで特別番組が放送されるそうじゃないか。もう十五年か、随分時が経ったんだな。俺も大人にならないとと思って」
「……今日はライナさんの命日だね」
「覚えていてくれたのか?」
「当たり前だよ。忘れるわけない」
「お前いいやつだな」
クソ野郎はグズっと鼻を鳴らした。
僕はビールジョッキを持つ。
「ライナさんに」
「……ライナに」
ジョッキをチンと打ち合わせた。
「ねぇ、何かこの二人怖い」
「訳わかんないこと言って、泣きながらビール飲んでるんですけど……」
同僚たちが遠巻きに自分たちを眺めるのも構わず、ずっと大嫌いだったコイツと肩を組んでビールを飲んだ。
#8 2023/11/10 『脳裏』