『胸が高鳴る』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「胸が高鳴る」
君がくれたあの言葉。思い出すたび胸が高鳴る。
胸の鼓動と共に呼吸が早まるのを感じた
全身に鳥肌さえ覚えた
目の前で起きていることに頭が追いついていかない
ただ綺麗だと思った
素直に単純に
人間は綺麗な物を見ると
瞬きどころか呼吸も忘れるのだと全身が震えた
手を伸ばし触れたい衝動に駆られるが届くはずもない
それがより一層私を強く震わす
この名を_
『胸の高鳴り』と呼ぶのだろうか。
よそ見した
浮つく心
皿のうえ
「メイン・ディッシュね」
胸が高鳴る
【胸が高鳴る】
【胸が高鳴る】
朝、起きて、ふとんにくっついた毛糸を手で払った。
昼、正午の呼び鈴で、グゥ~~とお腹がなった。
夕、閉めた窓の外側に張りつく小さな虫を見つけた。
そして、夜。特に何も起こらないまま、眠りにつく。
とびきり心躍るような毎日じゃない。
でも、ほら、あなたも聞こえるでしょう?
トクッ……トクッ……トクッ……と。
己の身体に手を添えると、確かに響いてくる。
まるで胸が高鳴るような鼓動。
それは、何気ない日々を彩る一つのBGM。
テーマ『胸が高鳴る』
子供の頃、親にダメだと言われたことをやってみた
スーパーで好きなだけお菓子を買ったり
同じ服で数日間生活してみたり
一人で好きに歩いて、行った先のカラオケで思い切り歌った
やりたいと思ったことを素直にやってみたら
なんとなく「生きてるな」って感じがした
子供の頃のまま消化不良だった気持ちが、少しだけ解けた気がする
胸が高鳴るっていうほどじゃないけど、じんわりと温かくて
子どもの頃の私が、楽しそうに笑ってるのがみえた
胸が高鳴る
彼の手が肩に触れたとき、心臓が跳ね上がるように鳴った。人肌を感じる事自体が遠い過去の記憶だった。家族は皆、私を見ると二言三言話して離れていったし、使用人も腫れ物のように私を扱った。それで当然だと受け入れてきたが、触れられてみると、これがあるべき状態だというような懐かしさがあって、戸惑いを覚えた。指の温もりがもたらす安堵と胸の早鐘で、目が回りそうだった。
そして、永遠のように長い誓いのキス。頭がちかちかしそうな万雷の拍手。
身を離し、拍手の止んでいくのを聴きながら、私はおそるおそる彼の目を覗き込む。彼は健やかな笑顔を浮かべていて、私は息をついて笑みを浮かべた。何故かまた、拍手が沸き起こる。その中に私の家族はいない。
カーテンを閉め切った真っ暗な部屋の中、ただ一つのランプに照らされたベッドの上で、私と彼は相対した。隣室にも、ドアの前にも、そよ風ほどの気配もない。今夜は特別な夜だから、人払いをさせてあった。
胸はずっと高鳴っていた。それこそ彼に聞こえるほどに。しかし、気にすることはない。それは自然なことだから。
彼は私を強く抱き締めた。かつて感じたことのない安堵の波に、私は哀しくなった。彼は続けて私の唇を貪り、まるで皿まで味わい尽くすように歯の裏側まで貪った。それから彼は私の中へ侵入し、息を荒らげて身体を震わし、やがて果てた。
彼は動かなくなった。
のしかかる男の身体を横へ仰向けに転がし、私はベッドから下りた。
カーテンを開ける。いやに明るい月夜だった。振り返ると、青い顔をした男の身体が、汗や体液できらきらと光っていた。私の身体はまだ熱かった。火照った頬を伝い、軌跡を描いて汗が落ちていった。私は窓を細く開けた。風がひんやりと髪を揺らした。私は胸に手を当て、激しかった拍動が次第にひいていくのを感じた。
男の頭横に座り込み、首元に手を当てる。それから閉じた瞼を指で開いて月明かりに照らし、唇に耳を近づける。儀式はあっけなく終わった。
私はベッドに座り込み、指に自分の体液を掬った。
これが猛毒だなんて。
まさにその毒に侵された者がすぐ横に転がっていても、自分の血も汗も涙もすべての体液が猛毒でできているとは、なかなか実感が持てなかった。
毒を含んだ体液をシーツで拭い、服を着る。
私は窓際に戻り、外を見下ろした。予定では、屋敷を囲う茂みの中に、逃亡のための人員が待機している筈だった。窓から降りて受け止めてもらい、それから森の闇に紛れて行方をくらます手筈だった。しかし、どこにも誰も見当たらない。合図の光どころか影一つ見当たらない。
よく考えればそうだ、これは何度も使える暗殺手段ではない。私は使い捨てだったのだ。
私はベッドの男を見遣って、胸が苦しくなった。触れられた場所をおもむろになぞる私の手はひどく冷たかった。
2023/03/20
僕のスポーツ観戦は、ミーハーだ。
今は、WBCを楽しんでる。
その前は、サッカー。
さらに、その前はオリンピック。
その瞬間は、胸が高鳴る。
でも、終わってしまえばどうでもよくなる。
今まで全てがそうなのかもしれない。
胸が高鳴った記憶も思い出せない。
あれは、忘れていいものだったのだろうか。
仕事時の彼は研ぎ澄まされた剣のよう。部下の意見を取り入れながら事細かに指示を出している。姿にどこも隙がなく、見とれてしまうほどかっこよかった。
彼に届け物があって職場までやって来たけど…。職員の人達は忙しなく動いているし、ここから見るに彼も忙しそう。声はかけずに受付の人にお願いして…。
最後にと盗み見た筈がばっちり目が合っていた。元々大きめの海色の瞳を見開き目を擦っている。まるで幻でも見たのかって顔はすぐにおさまって私の名を呼んで早歩きでやって来た。
「呼んでくれればすぐ向かったのに」
「邪魔しちゃいけないと思って…」
「君が邪魔だなんて思う訳ないだろ。何かあった?」
纏っていた鋭い雰囲気が消え去っていて柔らかく笑う。私が誰よりも見ることが出来る彼の顔。
「これ必要な物じゃないかなって持ってきたの」
「え、俺忘れて…。これから必要だったんだ、助かるよ」
鞄から厚めの封筒を取り出して見せると大事なものだったらしい。何事も抜かりのない彼が忘れて行くなんて珍しい事もあるんだなと思いつつ、せっかくの機会にと別の物も持ってきた。
「あとね、これも」
「ん?こっちには覚えはないけど」
君から差し出された大きめの長方形の包み。持ってた記憶もない物だ。
「…渡せたし、忙しそうだから帰るね」
受け取ると俺の返事を待たずそそくさと帰ってしまった。忘れ物と心当たりのない包みを持って戻ると12時を知らせる鐘の音が。置いた包みの端に「食べて」とメッセージカードが付いている。
これって、これってもしかして…!?君の耳が赤かった事に合点がいって、『胸が高鳴る』には十分すぎる理由だった。
とん、と跳ねた心臓を自覚した時には、もうわたしは手遅れだった。喉がきゅっと締まって息ができなくて、彼を視界に入れることすらできない。けれども、苦しいからと目を逸らしてみれば、おかしな事に満たされない感覚を覚えるのだ。その感覚は視界に入れるよる苦しさよりもずっとずっと辛くて、身が引き裂かれそうになる。結局、わたしは彼を見る事による苦しさを選択した。
静かに微笑む口元、どこか鋭く冷ややかな瞳、細く、けれど骨ばった指、彼のすべてがわたしを殺さんとばかりに射抜く。「貴方のせいでこんなに苦しい」と、制服のスカートを力いっぱい握って、叫んでやりたい。貴方が穏やかに笑うから、時折どこか遠くを見つめるような、泣きたくなるくらいの表情を見せるから、わたしと目が合った時、氷みたいな瞳を優しく緩ませるから。わたしは、胸が痛くて、高鳴って、甘くて仕方がない。どうにかしてよ、貴方のせいなんだからって、文句を言いたい。
……それってもう告白と相違ないのでは?
頭の中で、理性的な部分がそう呟く。違う、そんなのじゃない! わたしは瞬時に反論し、ギュウギュウ軋む胸を抑えた。ほろりとひとつ涙が落ちて、彼があの指で優しく拭ってくれたらいいのに、と願った。
どうしたって胸が痛い。彼が恋しくて夜も眠れない、テストの成績だって落ちそう。良いことなんて全然無いのに、わたしは、彼に焦がれることをやめられない。
【胸の高鳴り】
ドクドクと強く鼓動し、必死に生きる命の音が聞こえる。ダクダクと溢れて流れ落ちて聞く努力の滴りが、服やタオル、ベンチやマットを艶やかに濡らしていく。紅潮した顔を顰めながら、絞り出す吐息は上昇した体の温もりを感じさせる。時折痙攣を起こす肢体は、もはやこの身体を支えることさえ出来ないでいる。大きく肩を上下させて息を継ぐが、新鮮な酸素を求めてやまない。刻一刻と時だけが虚しく流れていくが、体が言うことを聞かず、私は動くことを諦めていた。
昨日は大好きな腕トレと肩トレの日だった。バチバチに追い込んで、二時間掛けてハイボリュームなワークアウトを終えた時には腕は赤く火照り、身体中の水分が集中しているかのようにパンプアップしていた。最早、トレ後のプロテインさえシェイク出来ないほどに力を使い切ってしまっていた。電子レンジのガラスに映る自分の体をまじまじと見つめれば、パンパンに膨らんだ三頭筋が存在を主張していた。最後に追い込んだ前腕は握力という概念さえ忘れたかのように、私から握る力を奪い取ってしまった。肩は上腕に負けと、これでもかと見せつけてくる。
朝の身支度を終えて、気分を高めるために好きな歌い手のメドレーを再生する。シューズを履いてウェイトをセットすると、ストレッチを始める。筋肉が伸びきらないよう、静的ストレッチではなく動的ストレッチで体を解していく。ワークアウトドリンクをひとくち口に含めば、気合いとともに強く飲み込む。スマホでタイマーアプリを起動し、設定済みのレスト(インターバル)タイムを準備すれば、あとは強いイメージを頭と身体に叩き込むだけだ。
まずは軽重量で筋肉に血液を送り込み、ゆっくりと、だけど確実に温めていく。アームカールで二頭を起こしてやれば、スーパーセットで三頭筋に呼びかける。朝だ! 起きろ! と自衛隊の起床ラッパが如く勢いをもって目覚めさせる。メインセットのメソッドもスーパーセットを選択し、重量設定は筋肥大をターゲットする。レストは二分を設定している。1セット目の並びはAC(アームカール)に続いて、FP(フレンチプレス)だ。二頭の収縮を意識しつつ、巻き上げないよう、押し上げてくるイメージで羽化を丁寧に載せる。三頭筋の伸長と収縮を感じながら掌底でウェイトを突き上げる。息も絶え絶えに、スマホの画面をタップすればタイマーが時を歩み始める。休みながらも、自作のワークアウトノートに重量とレップスを記入する。備考欄には、感じたことや気づきを書き残しておく。
腕を追い込めば残すところは肩である。肩のメソッドとしてはジャイアントセットをチョイスしているが、心が折れかけている。というのも、私は血管運動性鼻炎と後鼻漏で鼻水による弊害を常に受けている。これにより、ワークアウト時には常に鼻をかみ、喉に流れてくる鼻水で噎せたり、それを出そうと痰を切る要領で吐き出したりする。その時に、無意識に力むもんだから胃の中の物が上がってくることがあるのだ。つまり、私はほぼ毎度のように疲労感だけでなく吐き気を催しながら筋肉と語り合っている。しかし、そうも言ってはいられない。各種ダンベルの重量を設定すれば、準備は完了だ。精神力との折衝と、筋肉との対話が幕を開けた。肩は取れてしまいそうなほど、気持ちのいい痛みを受けていた。関節が悲鳴をあげている訳では無い、筋肉が黄色い悲鳴を挙げているのだ。もっと私を追い込め、そしてもっと刺激しろと叫んでくる。しかし、その声に被せるように精神力が瓦解せんと怪しい音を立てている。私は肩の声だけに耳を傾け、意識を集中させ研ぎ澄ませていく。自身の吐息と力みから漏れ出る声と、筋肉の黄色い悲鳴や声援を頼りに確実に苦痛の向こう側へ歩んでいく。
そこには美しい世界が広がっていた。筋肉が歓喜し、精神が乱舞し、血中アミノ酸や乳酸が目まぐるしく駆け抜けていく目が回るほどに美しい光景が眼前に広がっていた。私は成し終えたのだ。自分に打ち勝ったのだ。
しかし、まだ終わってはいない。この日はダブルスプリットを予定していた。つまるところ一日に二度、同じ部位のワークアウトをするということだ。ただし、同じメニューはしない。夕方のワークアウトでは、軽重量で短時間と決めている。全く同じ事をするなど、出来やしない。やろうと思えばやれるだろうが、筋肉を殺してしまっては本末転倒だ。
マットの上にへたり込み、ベンチに顔を埋めている私には為す術なく脱力するだけだ。地獄の脚トレを終えた私には、立ち上がる体力さえ残されてはいない。
今日は脚トレの日だ。多くのトレーニーにとって憂鬱な日と言っても過言ではないだろう。かく言う私も例に漏れず、朝から鬱々としていた。ワークアウト前のルーティンを終えるとラックの前に立ち、精神を集中させ、完璧なパフォーマンスをイメージする。バーに手をかけ、優しく握る。ハッ! と息を吐きながらバーの下に入り、僧帽筋に載せるように担ぎあげる。三度大きく呼吸をして、大きく息を吸い込み、腹圧をかけて体を固める。それでいて関節をフリーにして大腿筋の声を探っていく。どこかで呼ぶ声が聞こえれば、あとは簡単な事、その声とひとつになるのだ。
メニューはスーパーセットだ。ハイバースクワットとレッグカールで、四頭筋に続いてハムを呼び覚ましていく。2種目目はローバースクワットと、ゴブレットスクワットだ。ローバーのワイドスタンスでハムや大臀筋、中殿筋や外側頭と対話をする。ゴブレットスクワットで、四頭筋とサシで話をする。息は上がり、頭痛を覚えてき始めたが途中退席などできるはずもない。最後まで逃げず、弱虫な自分という化け物と対峙する。大粒の汗がボトボトと床を鳴らし、湿ったあつい吐息がそれを助長している。セットが進めば進むほどに、吐き気まで催してくる。ワークアウトドリンクで喉を湿し、みずみずしさも枯渇し乾き始めた大地に恵をもたらすようにアミノ酸の雨を降らせる。脚の筋肉たちは、なりを潜めていたと言わんばかりにはち切れんばかりの主張をしている。あと何セットで終わりが来るなどと、考える余裕もない。ただ思うことは「辛い」ということだけだ。だが、この苦痛は確実に私の財産になっているのだから喜んで受け入れる。
全てが終わった。早く栄養を摂らなければならないのに動けない。そんな中でも、私は喜びに満ちていた。逃げ出さず、自ら辛い選択をして、それを成し遂げたのだと喜びに浸っていた。
またひとつ成長したのだと、
胸が高鳴るのを感じていた。
二人の唇が今ゆっくりと重なる
そんなこと考えちゃって思いが高まる
僕にだってチャンスはまだある
好きだと言ってしまおうか……僕の胸が高鳴る
彼女と目が合ったその一瞬、僕の胸はこれまで生きてきた十五年間で一番と思うほどに高鳴った。俗に言う〝ひとめぼれ〟と言うやつだ。
彼女はいつも放課後の美術室でひとり微笑んでいる。恥ずかしがり屋なのか声を聞いたことは無いけれど、そんなところもいじらしくて可愛い。
彼女と少しでも一緒の時を過ごしたくて、絵心も興味も無いくせに美術部に入った。彼女に好かれる男になりたくて皆が嫌がる掃除当番も率先して行った。ささやかでもできる限りの努力をしてきた。そんな努力をする度に、彼女はいつもと変わらない笑みで僕を迎え入れてくれるのだ。
無口な彼女の分、僕は色んな出来事を語った。体育の後の六限古典はみんなへとへとで、ほとんどお昼寝時間になってしまうこと。購買の限定メロンパンを賭けたババ抜きで五連勝していること。うっかり寝間着のまま登校してしまったこと。体育倉庫で野良猫が子猫を産んでいたこと。
どんな話題だったとしても彼女は笑って聞いてくれた。それが何とも心地よくて、言葉を交わせなくとも、それだけで僕は幸せだった。
でも、そんな幸せな日々は実に呆気なく終わりを迎えた。彼女と出会って一年とちょっと、季節外れの雪が降った春の午後、彼女は突然姿を消した。
ショックでその日は部活も休んで、家でひとり苦手なブラックコーヒーを一気飲みして布団に潜った。コーヒーのせいで熟睡は叶わなかったし、酷い悪夢にうなされた。散々だ。しかしながら一度眠れば多少は落ち着くもので、次の日からは彼女の行方を探り始めた。あんなに優しく微笑んでくれた彼女の事だから、前触れもなくどこかに行ってしまうわけが無い。
そうと決まればまずは聞き込み調査だろうか。ベストなのは彼女の友達だけども……考えてみれば、彼女の事について殆ど知らないことに気づいた。交友関係はおろか先輩なのか同級生なのかも分からない。
いや、待て。彼女は制服を着ていなかった。夏でも冬でも青いワンピースを着て、腰ほどの長さの黒髪を風になびかせていた。なら、彼女は何者だ? ふと思い出すのはクラスの女子たちの与太話——何年か前の夏休みに屋上から飛び降りた少女の話。胸が早鐘を打つ。冷たい汗が一筋、背中に伝うのを感じる。まさか、僕が今まで話していた、あの子は。
ガラガラと戸が開く音で我に返る。いつの間にか美術室の前に来ていたらしい。戸を開いた主でありボサボサ頭で背の高い男子生徒、三年の長江先輩がこちらを見下ろしている。
「あ、小林。来た」
「えと、どうも……来ました」
「体調、大丈夫?」
「昨日はすいませんでした。もう大丈夫です」
「ん」
少し横に避け俺を招き入れる長江先輩。独特のテンポを持つ先輩が、僕はどうにも苦手だ。
美術室に入れば部員たちが口々に話しかけてくる。挨拶と一言二言の雑談の後、美術部に入部した頃からの仲の橋本の隣に腰掛ける。
「橋本、よっす」
「よっす、小林。昨日はびっくりしたぞ。来て早々いきなりぶっ倒れてそのままご帰宅だもんな」
「びっくりさせて悪かったよ……」
「ははは! あんなに寒きゃぶっ倒れてもおかしくないって。ピンピンしてるなら良し!」
からからと笑う橋本。本当に見ているだけで元気が出る奴だ。
そうだ、彼女はいつも美術室に居た。同じ美術部のこいつなら知ってるかもしれない。一縷の望みをかけて、僕は口を開いた。
「僕が……いつも話してた女の子の事、何か知らないか?」
「女の子……? いや知らんが」
「どんな事でもいいんだよ。ほら、青色のワンピースを着てた笑顔が可愛い子。いつも美術室に居ただろ」
「おお……あー、なるほど。そういうこと」
神妙な顔で頷く橋本。どうやら何かしら心当たりがありそうだ。高鳴る鼓動を悟られないよう、ゆっくりと深呼吸する。
「心当たりあるのか?」
「あるも何も……あれだろ、長江先輩の描いたやつだろ」
「え、絵? 長江……先輩の?」
「お前めちゃくちゃ気に入ってたもんな。時間があれば話しかけてたし。それもめっちゃ上機嫌で」
「そんな……」
「いや、でも分かるわー長江先輩の絵、リアルというか存在感あるっていうか。なんて言えばいいのか分からんけど、なんか、良いよな」
正直なところ橋本の言っている意味が理解できなかった。彼女が絵だって? あんなに優しく微笑んで、僕の話を何でも聞いてくれる彼女が絵だなんて。
だけど、考えれば考えるほどその事実は信憑性を増していく。体温が下がるような感覚がして、思わずため息を漏らしてしまった。
「小林」
「あ……な、何ですか」
「昨日配った美術展の案内、これ、小林のぶん」
丁度いいのか悪いのか、彼女の創造主たる長江先輩が話しかけてくる。差し出された案内用紙を受け取りながら、僕は先輩に問いかけた。
「……前に飾ってた女の子の絵。どうしたんですか」
「ああ、『空色の乙女』なら一旦家に持ち帰った。ちょっと日焼け、しちゃってたから」
「そう、ですか」
「ちょっと直したら、また、持ってくるね。小林、好きでしょ?」
「あ、いえ、そこまでしなくても」
「ううん、絵は見てくれる人がいた方が、嬉しいと思う、から。ありがとう。あの子の事、好きになってくれて」
それだけ言うと長江先輩は去っていった。五分にも満たない会話。それだけだったけども、語る先輩の長い前髪に隠れた表情も、その声色もとても穏やかで、〝彼女〟に対する愛情を感じた。それがちょっぴり妬けると共に、初めて彼に尊敬の念を抱いた。
「……僕も人物画、描いてみようかな」
「お! かわい子ちゃんを期待してるぜ」
「まだ女の子を描くとは言ってないって」
橋本と軽口を叩いていれば聞こえてくる部長の号令。今日もまた部活が始まる。
スケッチブックを開き、まだ誰も居ない真っ白なページに記憶の中の彼女を描いてみる。上達したといえどまだまだ拙い線で、本物には似ても似つかない。そんな己の絵心に苦笑しながらも、心臓は出会ったあの日と同じくらいにどくんどくんと脈打っていた。
【胸が高鳴る】
胸が高鳴るってほどでもないけど、好きなマンガが更新されるとドキドキする。いやドキドキするイコール胸が高鳴るで良いのか。やっぱ推し活っていいよね。
深夜1時、僕は夜空を舞う。
今回の仕事はレフィティール美術館に特別展示されているサファイアの首飾りを盗むこと。
作品名を「BlueMoon PhantomThief」
大粒のサファイアをメインに、高品質のタンザナイトとダイヤモンドが装飾されている。
なんでも、この僕の報道を見て作成したらしい。
作者は『ぜひ、私の作品をかの怪盗に盗んで頂きたい』と新聞記者に語っているほどの僕の大ファンだ。なら、僕はその期待に応えないとね。
監視カメラや警察の目をくぐり抜け、あっさりとお目当ての首飾りにご対面し、簡単に盗めた。
僕は知っていた。
ここからがショーの始まりだと。
スポットライト代わりのサーチライトが僕に注目した。
警察官達が一斉に構えの姿勢をとる。
高まる胸の鼓動を抑えながら、僕は警察達に笑顔で挨拶をした。
「ご機嫌よう。警察諸君―。」
さぁ、ショータイムだ!
【胸が高鳴る】
ドキドキと心臓がなる・・・
明日は新しい学校に転校する日だ。
これからの環境の変化に胸が高鳴る。
ああ今度は失敗しないように完璧に隠さなきゃ・・・
本当の自分を・・・
何も変わらない1日なのに、いつも通りの1日なのに、、
何故か幸せな1日だった。これがずっと続いてほしいな。
なんか面白そうだなって始めたオンラインゲーム。
ギルドに参加して音チャするようになった。
半年位毎日遊んでたらふと君の声が聞けないと寂しく感じる僕がいた。
たまにギルメンと時間が合わなくて二人きりで遊ぶこともあった。
冒険のクエストにでる度に仮想世界だけど現実の僕よりかは勇気を出して守ってあげなくちゃって思えるんだ。
「あぶない!」
「ありがとう、○○のおかげで助かったわ!」
なんて言ってもらえたら僕はちょっと誇らしかった。
刈り場のレベル上げ作業の時、夜中のテンションもあって悩んでいた君の話を聞くこともあり秘密の共有に何だか君のこと考える時間が増えてきた。
アレ何だかおかしいな?
1年を過ぎた頃過去最大のギルドイベントがあって皆の頑張りもあって結構良い成績を収めた。
リーダーが興奮して
「ねね!お祝い兼ねてオフ会やらない?」
とギルドメンバーに提案してきた。
皆賛成で程なく日時も決まった。
「みんなに会えるの楽しみだね。」
「俺はアバターに寄せてるから。」
「私は反対のイメージだから驚かないでね。」
口ぐちに期待とネット上の付き合いとリアルが融合する瞬間に少しばかりの心配と受け入れて貰えるかの不安を抱えながらギルドメンバーには申し訳ないが僕はあの子に会えることにドキドキしてきた。
会ったらなんて言おう、好きです。いやそれはないだろう。会って早々焦りすぎだ。ていうか好きなのかな?確かに会って見たいって思ってる。声も可愛い。だけどまだあったこと無いんだぜ、ナイナイナイよな?
今日いつもより早く起きた。
身だしなみが大丈夫か3回も確認した。
なんで緊張してるんだろ。ギルメンに会うだけだし、気合いなんか入れてねーし。なんて自分に言い聞かせながら家を出る。
待ち合わせの場所が見えてきた。
やべ緊張するな、もう誰か来てるかな?
えっと目印のアレ何だっけ?
「あの、○○君ですか?」不意に死角から呼びかけられて振り向いた先に君がいた。
心臓落ち着けって俺!
「あ、そうです。」
「良かったぁ。あの私☆☆です。」
「えっそうなの!」
てやっと答えられた俺は今日を無事過ごせるか自信が無くなってきた。
もうさ心臓が耐えられなさそうだよ。鼓動が君に反応し過ぎてヤバイ。五感が冴えまくってるのか良い匂いがするし、生声はチャットから聞いてる声より可愛いし、何より君を見た瞬間、俺の全細胞が騒ぎ出した。なんだこれは!電撃に打たれたとかって聞くけどそんなのよりももっとスローモーションで明確に君だけがポップアップされていくような、ほんの一瞬のことだと思うのに2時間以上の映画を見ているような・・
僕はどうやって家に帰ってきたのかよく覚えてない。君はまだ早いからカフェ行こうって僕は普段甘いの飲まないのに同じ物をとしか言えなくて飲んだ
キャラメルショコララテの味は一生忘れられない。
そして何がどうなったか分からないけど付き合うことになったって誰が信じられる?
ラインの通知音に慌てて画面を開く。
「今日は楽しかったね!何時にログインする?
また2人で会いたいな。」
彼女からのラインにまた俺の細胞が疼き出す。
彼女に触れられる日はいつになるだろうか・・
と考えながら逸る胸を押さえつつラインの返信を
考えていた。
『胸が高まる』
ー中学1年生の春ー
初めて制服を着て胸が高鳴っていた。
これから何があるのか。
友達はどんな子ができるか。
とてもワクワクしていた。
ー中学2年生の春ー
まだ入って1年しかたってないけど胸の高鳴りは無くなった。
なんにもわくわくはしない。
ー中学3年生の春ー
来年は高校。
高校は受かるか。
どんな高校に行けるのか。
既に胸が高まっていた。
不自然な胸の高鳴り
あなたに気づかれまいと
ぎこちなくなって
意地悪なこと言うからさ
泣きそうになった
キライ、大嫌い
大好きだから大嫌い
涙、こぼれる
こんなん私じゃない
すれ違う時も
声が聞こえる時も
どんなに離れていても
あなたの熱を感じてしまう
この胸の高鳴りを止めることはできない