Open App

 仕事時の彼は研ぎ澄まされた剣のよう。部下の意見を取り入れながら事細かに指示を出している。姿にどこも隙がなく、見とれてしまうほどかっこよかった。
 彼に届け物があって職場までやって来たけど…。職員の人達は忙しなく動いているし、ここから見るに彼も忙しそう。声はかけずに受付の人にお願いして…。
 最後にと盗み見た筈がばっちり目が合っていた。元々大きめの海色の瞳を見開き目を擦っている。まるで幻でも見たのかって顔はすぐにおさまって私の名を呼んで早歩きでやって来た。

「呼んでくれればすぐ向かったのに」
「邪魔しちゃいけないと思って…」
「君が邪魔だなんて思う訳ないだろ。何かあった?」
 纏っていた鋭い雰囲気が消え去っていて柔らかく笑う。私が誰よりも見ることが出来る彼の顔。
「これ必要な物じゃないかなって持ってきたの」
「え、俺忘れて…。これから必要だったんだ、助かるよ」
 鞄から厚めの封筒を取り出して見せると大事なものだったらしい。何事も抜かりのない彼が忘れて行くなんて珍しい事もあるんだなと思いつつ、せっかくの機会にと別の物も持ってきた。

「あとね、これも」
「ん?こっちには覚えはないけど」
 君から差し出された大きめの長方形の包み。持ってた記憶もない物だ。
「…渡せたし、忙しそうだから帰るね」
 受け取ると俺の返事を待たずそそくさと帰ってしまった。忘れ物と心当たりのない包みを持って戻ると12時を知らせる鐘の音が。置いた包みの端に「食べて」とメッセージカードが付いている。
 これって、これってもしかして…!?君の耳が赤かった事に合点がいって、『胸が高鳴る』には十分すぎる理由だった。

3/20/2023, 9:11:01 AM