『絆』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
学校から帰る前、ゲーム友達の友也にゲームを貸してもらった。
友也は『絶対面白いから』と押し付けるように貸してきたが……
タイトルはキズナ・クエスト。
友人が言うには、文字通り絆を売りにしたゲームとのこと。
これまでもたくさんゲームを貸してもらったが、外れは無かった。
これも期待していいのだろう。
押し付けられたものではあるけど、ちょっとだけ楽しみである。
と言うわけで家に帰ってすぐプレイすることにした。
そしてゲームをプレイし始めてから一時間。
絆を売りにしているだけあって、仲間とのイベントが熱い。
連携技も豊富で、なるほど友也が進めてくるのも分かる。
そして、ついに初めてのボス撃破。
一章のボスながら強すぎず弱すぎず、非常に戦い甲斐のある敵であった。
序盤にもかかわらず、達成感がすさまじい。
これからどんな冒険が待っているのか。
期待に胸を膨らませながら、ボスを倒した報告しに街へ戻る。
すると怪しい人間が近づいてきた。
『あの強敵を倒す場面を拝見させていただきました。思わず見とれていまいました』
初対面にもかかわらず、急にゴマをすってくる不審者。
『貴様、何者だ』
主人公が不審者を問いただす。
何が目的だろうか?
『私、奴隷商人でございます。単刀直入に申し上げます。あなたの仲間を売ってください。高額で買取させていただきます』
仲間を売れだと?
ふざけているのだろうか?
仲間を金で売る?
そんなの出来るわけ――
『10万GOLD出しましょう』
その金額に心臓が高鳴る。
え、10万?
それだけあったら強い武器帰るじゃん。
ちょっとボス厳しかったから、装備充実させたかったんだよね。
じゃなくて。
仲間を売るわけないだろ。
選択肢は「いいえ」だ。
俺は正気に戻る。
まったくだ、仲間を売るなんてありえない。
『分かりました。では15万GOLDでいかがでしょうか』
増えた。
そして出てくる「はい」「いいえ」の選択肢。
そこで俺は気づく。
このゲームて、もしかして『絆が売り』じゃなくて『絆を売る』ゲームなのか?
とんでもないゲームシステムだ。
まったく、友人もとんでもないゲームを貸してきたものだ。
こんな目先の
そして俺は「いいえ」を選択した。
…………………
…………
……
△ ▲ △
翌朝、学校で。
「おっす、ゲームどうだった?」
「面白かったわ」
「ならよかった」
俺の答えに、友也が嬉しそうに笑う。
「いくらで売った?」
「100万GOLDと珍しいアイテム」
「粘ったなあ」
「どうせ、売るんだからと思って、思いっきり吊り上げてやった。商人が最後泣いてたな」
俺の言葉に友也は腹を抱えて笑う。
これだけ笑ってもらえたなら、売られた仲間たちも満足であろう。
「それでさ、ゲームしながら思ったんだよね」
「何を?」
友也が笑うのをやめて、不思議そうな顔でこちらを見る。
「俺と友也の友情、売るとしたらいくらかなって」
「そんなの決まってる。プライスレスだよ」
「俺もそう思った。やっぱ友也は親友だな」
そしてお互いにがっちり抱き合う。
世界よ、これが真の友情だ。
「こほん、盛り上がっているところ悪いが、少しいいか?」
いつのまにか側に立っていた担任が立っていた。
「どちっかに授業の準備を手伝ってほしいんだが――」
「「こいつが行きます」」
俺たちはお互いに指を差す。
休憩がつぶれるのが嫌で、友也に押し付けようとしたのだが、あっちも同じことを考えたらしい。
「さっき親友といったんだから、俺のために役立て」
「は?友達は売ってナンボだ」
言い争いする俺達を見た担任が呆れた顔で言った。
「……その友情、金をもらってもいらない」
脆いという印象しかなかったそれを
覆してくれたのは他でもない
お前だったな
そう思いながら
目の前に横たわるお前を
壊してしまう
ああ、きっと、俺の罪は
無間地獄なんかじゃ足りない
2024/03/07_絆
お題:絆
タイトル:絆、きずな、キズナ
絆というのは本当に尊いものだ。
人々の結びつきをより強固にし、協働して問題を解決したり困ったときに助け合ったりする力になる。
また絆を題材にした作品も数多く存在する。
友との絆、愛する人や動物との絆、家族の絆、同僚との絆…どの作品においても、絆は素晴らしいものとして描かれている。
ところで、いつも隣にいるこの人と自分は本当に絆で結ばれているのだろうかとふと疑いたくなってしまうことはないだろうか。
単なる利害の一致で一緒にいるわけではないだろうか、あるいは本当は自分を疎ましく思っているんじゃないだろうかと、考えてしまうことはないだろうか。
世界の終わりみたいな窮地にでも陥らない限り、この疑念が晴れることはそうそうないだろう。
もしも絆が目に見えたら、楽なのかもしれない。
ただそれはそれで問題が発生するのが何とも皮肉らしい。
占いとか心理テストで感じたことがある人もいるかもしれないが、自分の心の内を他人に知られるのは何だか気恥ずかしいし、恐怖を感じることだってある。
そういった不確実性すらも、私たちが絆に惹き付けられる要因の一つなのかもしれない。
今私が感じているのが悲しみか美しさかわからない
ただ自然と頬をつたうぬくもり
それがどんな気持ちでも 全ては過去に消えてしまう
それならいっそ美しく彩ってしまいたい
すべて終わってしまうとわかっているのに
喜びを求めてしまうのはなぜだろう
生きた瞬間に保証される死
この瞬間が過去になって それが美しくても醜くても
永遠に刻んでいたいと思えますように
【絆】
絆
絆というものは長い年月を掛けてゆっくりと作る信頼関係のようなものもあれば、大好きや愛と言った一方的なものもあるのではないかと思う
だって絆は目に見えないのだからこれといった決まった形はないのでしょう
なにを、どう保てばいいのか、私には分からない。
〈絆〉
「私達、絆でつながってる?みたいな」
言って自分で恥ずかしくなったのかそっぽを向く君。
でも、耳が真っ赤で何も隠せてないのがかわいい。
つなぐ手から伝わる君の体温。
河川敷。
目の前に広がる夕焼け。
馬鹿みたいだなあ。甘い妄想に浸って。
ピピピピピ……ピピピ…
目覚ましを止める。
あのとき言えなかった続きを、今でも思い出す。
『追悼』
絆
父の死後、一人になった母の安否確認を毎晩している。
今日の出来事、会った人、体調、庭の草木、食べ物の話、だいたい母がひたすら喋るのを私が聞いているだけだが、思春期以降で母とこんなに話したことがあったかと思うくらい話している。
私と全然違う人間に育っちゃって、と言われたことがあったが、偶然隣りあった通行人同士と同じくらい私と母は性格も価値観も世界観も違う。思春期には軋轢があり私は早く実家を出た。
それでも私はあの家庭の記憶が失われることを恐れている。
弟がいるからまだましだが、母が亡くなったら私の幼い頃の記憶を共有できる相手はいなくなる。
夜に母と昔の話をした記憶をいつか懐かしく思い出すときが来るのだろうと思う。
絆という言葉から思い浮かぶ空想上の綱は、動物を繋ぎとめる綱の意味から太く頑丈で切っても切れない荒縄のようなものだ。土着的で血族血縁で金田一耕助という感じだ。
お題:ひなまつり
『家族とひなまつり』
記憶喪失のまま過ごしてきたけれど、優しくて特に困り事もなく過ごせている。
今日はひなまつりなのでちらし寿司を作るらしいから手伝いに行こう。
お題:大好きな君に
『シオンを1輪』
『僕は何がなんでも忘れてやらないから。』
そう言って渡してくれたシオンは栞にして持っている。
それは私がみんなに会う勇気をくれる。
お題:たまには
『やらない日』
両親に言われた課題や習い事、それらをするのはいつも疲れるから、習い事がなくて両親が見張っていない珍しい時は趣味をしたり寝たりとサボってしまう。
だけど、たまにはいいよね。
お題:絆
『お揃いのキーホルダー』
これはとある少年少女の話。
『このお揃いのキーホルダーがある限り、離れても記憶喪失になっても絆は無くならないからね。』
そう一人が言ったらみんな笑顔で頷いていた。
「これなんだろう、早く記憶思い出したいな。」
少女はキーホルダーを手に持って呟いた。
「絆」
「おいキミ!!!教えてくれたまえ!!!」
自称マッドサイエンティストの子ども(?)が自分に聞く。
宇宙を救うために知らなくちゃいけないことなのか?
昨日は「ムー大陸は本当にあったのか」「布団から出られなくなる理由」「明日の昼ご飯は何か」「猫ってかわいいね」「高いヘッドンホホが欲しい」などなど、少なくとも「宇宙を救うため」に必要だとは到底思えないことばかり聞かれたから、ついそう思ってしまった。
「ああ!!!必要だとも!!!ボクを疑うっていうのかい???」
「……まあいい。ところでキミは『絆』って何かわかるかい?色んな作り話で取り沙汰されるコイツの辞書的な意味はちゃーんと確認したよ!!だが、だいたいの話ではあんまり現実味がなさそう……というかボクを認識できるニンゲンが今んとこぼっちのキミだけだから、『絆』が存在するかどうか確証が持てないのだよ。」
「というわけでボクは思いついたのさ!!!キミとボクとの間で『キズナ』を育もうじゃないか!!!いいアイデアだろう?!!」
絆。人と人とを繋ぐもの。
ミントグリーンの髪のコイツよりもこの星で過ごした時間は多いはずなのに、自分はちゃんと「絆」を知らない。
なんでだろう?考えても無駄か。
「……心中お察しします!!!まあキミがこれから誰かと深く関わる時のための練習だと思って、ボクと仲良くしてくれたまえ!!!」
「そうだね〜……まず、ボクはキミの事をよく知らないといけないし、逆も然りだ。今夜は色々語り合おうじゃないか!!!」
今日の夜は長くなりそうだ……。こんな調子で宇宙が救えるのか?
まあとにかく、自分たちができることをやるだけだ。
今まで出会った誰かと、これから出会う誰かのために。
絆
すぐ嫌われてしまったと不安になる
嫌いになりそうなときだってある
絆があると思うと
少し楽になる
感情に流されない見えないもの
もっと見つけたい
絆
『絆の檻』
人はみな、大きくて凶暴な動物を恐れる。
「オオカミが来た!みんな武器を持て!」
僕の名前はルーリエ、まだ産まれて18年だ。
僕の住んでいる村は小さくてよくオオカミに襲われる。
だから村民たちはオオカミが来るたびに武器を持ち、殺してしまう。
昔からその光景を見るのが嫌だった、あまりにも残酷だから。
「よしやったぞ!今日も大量だ」
「マンモスの肉よりかは落ちるがオオカミの肉も美味しいからな」
「それにマンモスよりかは狩りも楽だからいいよな」
そんなある日
またいつものようにオオカミが村へとやってきた。
「オオカミが来た!みんな武器を持て!」
そのオオカミは怪我をしていて弱っていた。
「このオオカミ弱ってるぞ」
ルーリエ「待って!殺さないで!」
僕はそんな可哀想なオオカミを守るようにかばった。
「何をやってるルーリエ、どくんだ!」
ルーリエ「ヤダ!」
「そいつは村を襲う、それに食料になる、俺達が食われる前にこっちが食べてやるんだ!」
ルーリエ「この子は村を襲ったりしないし、みんなを食べたりなんかしない」
「だからって生かす意味なんてないんだ」
ルーリエ「オオカミが狩りを手伝ってくれる、みんな言ってたじゃん!マンモスの狩りは大変って、だからオオカミに手伝ってもらえばいいじゃん」
「なに言ってるんだ、どけ!」
僕はどかなかった
ルーリエ「わかった、じゃあ今から1週間僕はこのオオカミと同じ檻の中で生活する、それでオオカミが僕を食べなければこのオオカミを殺さないで」
「いいだろう、お前がなんと言おうと1週間檻からは絶対に出さないからな」
そう言って僕はオオカミと檻の中で生活することになった。
僕は1週間を乗り越えた。
1週間後には僕はオオカミと仲良くなっていた。
心を通じ会えるようになった。
それから僕の村ではオオカミと一緒にマンモス狩りをするようになり、日々の食事が豊かになった。
鎖のように結びついている、ようなものだと私は思っている。
絆
自分には関係のないものだけど、漫画なんかでよくみる。
あまり良い意味ではなかったんだよ、
指同士を繋ぐ色糸を辿って彼は言う。
人を結ぶ暖かさじゃなく、
家畜を繋ぐ綱だったのだと、
糸の先の私に言う。
貴方と私、畜生はどっちだったのかしら
分かっていて私は問う。
随分と高評価なんだね、
溜め息を付くように貴方は答える。
赤とは反対色の糸に繋がる、
貴方と私の定めを嗤う。
<絆>
ハイネックのシンプルワンピ
マキシ丈のスカートと幅広ベルト
帽子とネイルはお揃いデザイン
警察も好奇の目線も知ったことか
反物の色もモチーフも全部計算ずくに
現代の着物スタイル、最前線は此処なのだ!
<たまには>
絆なんて物私には見えない。人間なんて絆を大切に、裏切るなとか言う癖に簡単に裏切る。同じ人間なのに戦争、炎上、誹謗中傷、殺人、いじめなんて絶えない。でもそんな人間だけじゃない事がわかった。あの人に出会って。
「君は来てはダメだよ。私は天使だから一緒になれないごめん。」
お題『絆』
血縁は鎖か絆か
鎖は断ち切るのが難しい
絆なら柔らかくほぐして時間と風と共に散らばせることができる
絆がほどけても心には暖かいものが残る
[絆]
人間が嫌いでたまらない気持ちになったら
何と絆を結ぼうか
街を歩けば前も見ずに歩く勝手な者ばかり
前を見て気をつけてぶつからないよう避けて立ち止まって歩いている私には
前も見ずに安全を他人任せにしている傲慢な者達の醜い姿が見えている
おぞましくて反吐が出る
小学生の頃、たまたま受けたドラマのオーディションで隣同士座っていた。挨拶してから何年生かと確認し合ったら、お互い小学2年生で同い年なのがわかった。あとは、他に何か仕事したことあるかとか、どの辺りに住んでるのとか始まる前に少し世間話をした。仲良くなったわけでもなく、喧嘩したわけでもない。ただ隣に居合わせたから、同い年だったから話しただけ。
ただし大人はそう思っていなかったらしい。オーディションに二人で合格した後、俺と泰司は仲の良い生徒役を任されることになった。台本を見れば台詞は少ないものの、二人の掛け合いが毎回あった。
何で俺がアイツと。
泰司は演技が上手かった。声、目線、仕草、表情、歩き方。どれも普段のアイツとは別人に見えた。それぐらい子役の時から周りより秀でていた。役にヒョーイするってこういう人を言うのかもしれない。
悔しかった。俺だってもっとできるのに、本番になるとつい緊張してしまう。
「どれくらい練習した?」
撮影の休憩時間、生徒役の子どもたちから少し離れた場所にいる泰司に声をかけた。一人でボーッとしてパイプ椅子に座っている。膝の上に広げた弁当は、まだ手をつけてない様子だった。
泰司はチラッとこちらを見て「わからない」と答えた。
分からないってなんだよ。普通、台詞覚えるのに時間とか日数とか、大まかに数えるだろ。どこまで覚えたかってページ数とかシーンの番号とか。
俺はすごくイライラした。これが俗にいう天才ってやつなのかと思った。でもここで怒ったり、大きな声を出したら負けだと知っている。子役同士は仲が良い、特にペアの役を演じている子たちは。大人の期待にはちゃんと応えておかないと、次のオーディションにすら呼ばれない可能性がある。子役はたくさんいる。俺の代わりなんて、たくさんいる。
俺は深呼吸してから口を開いた。
「一回読んだだけで全部覚えたってこと?」
「違う」
そんなの出来るわけないだろ、と続けて言った。アイツの回答は意外だった。
「じゃあどうやって」
「台本もらってから、さっきの本番までの間で、全部頭の中に叩き込んでる」
「え?」
「俺、漢字苦手だからふりがな振らなきゃ分からないし。家で漢字全部調べて、ふりがな振って、ずっと音読して、本番までずっと頭の中でお芝居する。でも最近、台詞増えたからこの覚え方厳しいんだよね」
昇は何か案ある? と逆に聞かれた。
俺は首を横に振って「頭の中でお芝居する以外、一緒だから」とだけ答えた。
泰司は丸い目をもっと丸くして、こちらを見上げてきた。
「え、お芝居しないの? するでしょ、普通」
「普通の、あの辺りにいる子役たちもそこまでしないと思う」
「だって、本番でりんきおーへんに動くなんて無理だろ」
「だからイメージするんだね」
「イメージじゃなくてお芝居!」
「頭の中だし、どっちも一緒だろ」
「全然違う!」
頭を抱えながら唸る姿は、年相応の子どもだった。役になりきって、澄ました表情を浮かべているアイツよりも、親しみやすさを感じた。何となく、距離が縮まった気がした。
*
子役の寿命は短い。特に男は声変わりを境に現場がガクッと減る。俺も例に漏れず、オファーどころかオーディションの話すら来なくなった。
泰司はコンスタントに役をこなしていた。すごく羨ましいほど、映画やドラマに引っ張りだこだった。更には特撮のヒーロー役に抜擢されて、西川泰司は今やイケメン俳優の筆頭だ。
アイツの活躍ぶりを目の当たりにするたびに、俺は悔しくて情けなくて仕方なかった。スタートはほぼ一緒だったはず。いや、そう考えているのは俺だけか。スタート地点からすでに差が開いてた。アイツの生まれ持った才能と、培ってきた努力で今のポジションがあるのは明白だ。俺が、自分に無い才能を埋めるための努力を、もっと沢山やれば。
泰司とまた共演することになったのは、学園ドラマだった。アイツはクラスのまとめ役というメインどころで、俺は教室の片隅にいる物静かな役。一応俺がメインとなる回が半ばにあるらしいが、それ以上取り上げられることはないだろう。明確な格差に愕然とした。
撮影が順調に進んでいたある日。来週からとうとう俺メインの回の撮影が始まる時期に、スタジオの前室で泰司に声を掛けられた。二人で紙コップのコーヒー片手に、壁際のベンチに腰を下ろした。
「今まで全然話せなかったな」
「まぁ、お前囲まれてたから」
「何でだよ、割って入ってこいよ」
「無茶言うなよ。役柄的に、いや俺の性格上それは無理」
他愛もない話は、あまり長続きしなかった。俺はコーヒーに口をつけるが、泰司は飲む気配がない。昔、苦いものが嫌いって言って、マネージャー代わりのお母さんにこっぴどく怒られてたが、味覚は早々に変わらないのかもしれない。
「俺さ、この間までニチアサ出てたんだぜ」
「知ってる」
「体もしっかり絞って筋肉つけてさ」
「やりすぎたらスタントの人に迷惑かかりそうだけど大丈夫だった?」
「監督に怒られた」
「だろうな」
何が言いたいんだろうか。本当に話したいことは別にあるような気がして、つい裏の意味を探ってしまう。
泰司はこちらに体を向けた。何か覚悟を決めたような目つきだった。
「俺、このドラマ終わったらアイドルやるんだ」
一瞬理解が追いつかなかった。体感にしては何時間も経過しているように感じたが、実際は数秒だっただろう。
「はぁ!?」
人生で一番大きな声が出た。いつの間にか腹から出していた。泰司は壁に寄りかかって、天井を見上げた。
「わかる、そんなリアクションになるよな」
「いや、え、おま、え? アイドル?」
「詳しく言うと、今の所属事務所って子役俳優事務所だから十八歳が節目みたいな、退所しなきゃいけないんだよ。それで、次の事務所のオーディション色々受けて、決まったのがアイドル事務所だから、多分、いや確実にアイドルになるだろうな」
「それは、もったいねぇな」
あまりの衝撃で言葉を失ってしまった。今勢いがあって、これほど演技力に恵まれて、ストイックに努力を欠かさないヤツが。それらを一旦置いといて、一から歌とダンスを作り上げる必要があるのか。
「もったいない? 俺が?」
「もったいないだろ、普通に考えて。まぁ、お前ならアイドルデビューしてもやっていけるだろうけど。それより」
俳優仲間が減っちゃうのは寂しいよ。
声には出せなかった。一方的に俺が泰司をライバル視して競争して、ある意味戦友みたいな意識があったけれど。アイツにとって俺は子役時代からの知り合いにすぎない。
何と言おうとしたか気になるのか、飛んでくる質問をのらりくらりと躱していたら、撮影再開のために泰司が呼ばれた。泰司は後ろ髪引かれるのか、何回かこちらをチラチラ見ながらスタジオへ入っていった。
俺は数シーン後の教室撮影まで空きだから、先に融通してもらった来週の台本に目を通すことにした。でも台詞は一切入ってこない。これまで、西川泰司の活躍ぶりを見て対抗心を燃やしてここまで来たようなものだ。アイツに負けたくないという意地とプライドだけで。そんなヤツがいつまでか分からないが俳優界隈から一足先に降りることになる。完全に勝ち逃げだ。
でも俺は、アイツの影を追ってまでこの仕事を続ける意味はあるのだろうか。
*
結局、細々ではあるが俳優業は続けていた。ドラマや映画の仕事は限りがあるから、舞台やミュージカルにも出演した。歌って踊りながら演技するマルチタスクは得意ではないが、自分の身になっていることは確信していた。
泰司は宣言通り、あの学園ドラマ後事務所移籍の発表をした。その後一、二年ほど鳴りを潜めていたが、事務所の新ユニットのアイドルグループとしてメジャーデビューを果たしていた。センターでもリーダーでもないが、持ち前のポテンシャルの高さが目立っていて、あっという間に人気メンバーの仲間入りを果たしていた。
初共演から二十年、学園ドラマからは九年。がむしゃらに芝居をし続けた俺にオファーが来た。探偵ドラマの準主役で、探偵である主人公の相棒役だった。突然のビッグチャンスに驚きと、疑問が残った。特に注目を浴びた覚えもない。業界の偉い人と仲良いわけでもない。オーディションも受けていない。それなのになぜ、俺が抜擢されたんだろう。背中に冷や汗が流れる。撮影どころか台本すらもらってないのに、今から緊張していた。
俺の疑問と緊張は、初顔合わせで解消された。主人公の探偵役が泰司だったからだ。デビューしてアイドル活動を続けつつ、最近は俳優業も再開したと聞いていた。再開後すぐに主役を張れるなんて、もう凄い以上の言葉が見つからなかった。
準主役だからか、俺は泰司の隣に座った。目の前の読み合わせ用の台本をチェックしようとすると、肩をトントンと叩かれた。嫌な予感がしつつ振り向くと、頬に指が刺さった。
「久しぶり」
ニヤニヤしながら肘をついて軽口を叩くヤツに、視界の端にいる泰司のマネージャーが焦っているのがわかった。そうか、事務所移籍してから初共演だから、俺らが昔からの知り合いと知っている人はいないのか。俺も最近、マネージャーは新しい人に代わったし。
「古いな」
「リアクション薄っ」
これぞお前って感じするけど、と笑いながら手を離した。意外と深く食い込んで痛かったから助かった。
頬をさすりながら泰司の顔を見た。昔から整った顔立ちをしていたが、アイドルになってから磨きが掛かったみたいだ。ノーメイクで私服なのにオーラがキラキラしていて目が痛い。
ポツポツと他愛もない話をし始めた。そしたらお互いの出演作品やコンサート等を観に行っていたことが発覚した。関係者席でなく、一般のお客さんとして。
「最初から言えよ、チケット用意したのに」
「俺お前のライン知らないんだけど」
「SNSのDMがあるだろ」
「あっその手があったか!」
公式でフォローしよう! ていうかライン交換しよう、と泰司がスマホを取り出したので、ラインのQRコードを表示させた。無事読み取れたのか、早速メッセージにスタンプが送られてきた。俺もスタンプで返信して、西川泰司のSNSを公式の方でフォローした。フォロワー数の差が歴然すぎてもはや乾いた笑いしか出なかった。
「俺さ、超楽しみだったんだよね」
「あぁ、お前芝居好きだもんな」
「それだけじゃなくてさ。前一緒だった学園ドラマの時、俺と昇の掛け合いが中々良かったと思ってたから」
それは俺も良かったと思った。入念に打ち合わせをしたわけでもないのに、一発でオーケーテイクが出た。自然体のまま演技ができて、すごくしっくりきていたのを覚えている。
突然スマホを掲げてSNSのストーリーモードの画面を見せてくる。「イェーイ相棒に会ったよー」って真顔の棒読み台詞に思わず吹き出してしまった。そのまま投稿したらしい。俺のスマホにストーリー更新の通知が届いた。
「ちゃんと楽しそうにしろよ」
「楽しみだったんだよ」
「さっき聞いた」
「相棒役の候補色んな人がいたらしいんだけど。俺は何となく東谷昇になる気がしてたよ」
「は」
スマホから目を離して隣を見た。泰司はSNSのコメント欄をチェックしているのか、スマホに目を向けたまま話し始めた。
「子役の時に『泰昇コンビ』ってニコイチ扱い受けてたけど、そこまで仲良いわけじゃなかったじゃん。でも俺はお前の存在があったからここまで続けてこられたっていうか。お前の活躍見てたら嬉しい気持ちより悔しい気持ちの方が強いんだよな。置いてかれる前に頑張らなきゃって。学園ドラマ以来全然会わなかったけどさ、意識せずにはいられなかった」
まさか同じ考えでいてくれたとは知らなかった。こちらの一方的なライバル視だと思っていたから。
「ずっと一緒にいたわけじゃないけど、切っても切れない縁が昇との間にはありそう」
泰司がチラッとこちらを流し見た。いいこと言ったよね、俺。そう伝わってくるような、勝ち誇ったようなドヤ顔だった。
俺は顔を歪めて苦し紛れに言った。
「俺が大好きなのは女の子だ」
「突然なんだよ、俺もだけど」
『絆』
絆というものは結ぶよりあるものだと信じたい
僕とママの
6歳の時
一方的に解かれた現実的な絆なんて
信じたくない