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父の死後、一人になった母の安否確認を毎晩している。
今日の出来事、会った人、体調、庭の草木、食べ物の話、だいたい母がひたすら喋るのを私が聞いているだけだが、思春期以降で母とこんなに話したことがあったかと思うくらい話している。
私と全然違う人間に育っちゃって、と言われたことがあったが、偶然隣りあった通行人同士と同じくらい私と母は性格も価値観も世界観も違う。思春期には軋轢があり私は早く実家を出た。
それでも私はあの家庭の記憶が失われることを恐れている。
弟がいるからまだましだが、母が亡くなったら私の幼い頃の記憶を共有できる相手はいなくなる。
夜に母と昔の話をした記憶をいつか懐かしく思い出すときが来るのだろうと思う。

絆という言葉から思い浮かぶ空想上の綱は、動物を繋ぎとめる綱の意味から太く頑丈で切っても切れない荒縄のようなものだ。土着的で血族血縁で金田一耕助という感じだ。

3/7/2024, 9:34:34 AM