『海の底』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「ねぇ、この海で1番素敵なところを知ってるかい?」
変なやつに声をかけられた。少しだけ、うとうとしていたので返事が遅れたが、やつは呑気なものだ。
波をちょろちょろとくすぐっている。
ずいぶんとぼってりしたやつだなとぼんやり思っていたら
「ねぇ、聞こえないのかい?」
懲りずにやつは絡んでくる。
「……知らないよ、僕は動けないからな」
ピタリと動きを止めて「そうなんだ」つぶやいた。
「…あのさ、きみのピンクの髪がキラキラゆれて、素敵だね。お土産話を持ってまたくるよ。待っててね」
やつは、こちらがうんともすんとも返す前から、重そうな体を振って陽気に去っていった。
次の日も、次の日も、やつは来なかった。もうやつから香った甘い匂いも、忘れてしまいそうだ。
海の底【たい焼きくんと桃色サンゴ】
海の底にはコケとかサンゴショウとかが沢山いて綺麗
そして、海の中は魚たちがたくさんいる
危険な魚たちもいる
人間と同じで魚も色んな魚がいる
海の底
深く、暗く、、、、一度ハマると、抜けられない。
まるで、君みたいだネ。笑
海の底
「やあ」
『やあ?』
「久しぶり」
『久しぶりだねぇ』
「今回行ってきたのはね、クジラの島だよ」
『とてもファンタジー。とても良いねぇ』
「クジラの死骸の島なんだ」
『とてもダーティ。とても嫌だねぇ』
「クジラの肉が地面でね、骨があちこちから出てるの。とっても鋭い山みたいにね。地上の山、オオクチさんは見たことある?」
『無いよぉ。ここから動いたことなんてないからねぇ』
「そっか。今度一緒に見に行こう?ぼくが連れていってあげる」
『んふふぅ。だぁめだよぉ』
「どうして?行こうよ」
『いけないよぉ。ぼくは君みたいに動けないからねぇ。動いたら、死んじゃうと思うよぉ』
「死んでも良いよ。引っ張ってあげる」
『遠慮しとくぅ。それよりも、ねぇ、クジラの話を聞かせてよ。ねぇ』
「むぅ。クジラの肉は腐りかけでね、多分、凄い匂いがしたんだと思う、鼻が無いから分からないけれどね」
『何で臭いが分かったのぉ?』
「そこにいる動物たちがみんな鼻が無くて、口も無かったからだよ」
『口が無いのぉ?どうやってご飯を食べるんだろうねぇ?』
「さあ、分かんない」
『分かんないかぁ』
「今度は一緒に行こうよ。それで、確かめよう?」
『死んじゃうってばぁ』
「死んで良いよ。引き摺ってあげる」
『んふふぅ。やぁだねぇ』
「むぅ。鼻と口の無い動物たちたちはね、クジラの腐って溶けかけた肉の上を、ざりざりざりざり這って動くの」
『ウミウシみたいにぃ?』
「ウミウシみたいに。でもね、ウミウシと違って毛むくじゃらだったし、ぬるぬるしてないから、アレは動物だったの。きっとそう」
『本当に?』
「目も分厚いガラスみたいなので覆われててね、ずぅっと濡れてたの」
『沁みるのかなぁ』
「たまぁに火山が噴火するみたいに地面が揺れてね、腐った肉の底の方からガスが出てきて爆発するの」
『臭そぉ』
「肉が飛んできちゃうから、避けなきゃなの」
『そっかぁ。避けれたぁ?』
「避けれなかったよ。当たっちゃった」
『ふひひっ』
「オオクチさんは火山って見たことある?」
『無いよぉ。見たくも無いねぇ。きっとからからに茹ってぐつぐつに干からびちゃうよぉ』
「見に行こうよ」
『んふふぅ。嫌ぁ』
「何で」
『死んじゃうからねぇ』
「死ねば良いよ。殺してあげる」
『やだよ。まだ死ねないから』
「そうだね」
『クジラの話はもう無いのぉ?』
「無いよ。おっきな爆発があってね、それで沈んじゃったの。海の底に」
『あぁ。だからぼくはこんなに満腹なんだねぇ』
「嬉しい?」
『とてもぉ?』
「今回はここまでね。じゃあね」
『じゃあねぇ』
じゃあねと言って
目の前に居るふわふわした生き物を見る
目なんて無いのに何でか見えちゃう
たぶんぼくは、コイツを憎んでいる。
きっとコイツは、ぼくを憎んでいる。
何が理由かは忘れたけれど
何が理由かは覚えてないけど
暗い暗い海の底で
昏い昏い心の底で
ずっとずっとずっとずっとずっと
互いの憎しみを探ってる
かみさまに取られた感情を
ずっとずっとずっとずっとずっと
探してる
《キャスト》
・ベニクラゲさん
死なない生き物。オオクチボヤさんが大嫌い。
・オオクチボヤさん
大食いの生き物。ベニクラゲさんが大好き。でも憎い。
【海の底】
差し込む光は、いつでも頼りなく、誰かが上を通ると、突然暗くなってしまうような、そんな場所だった。温い流れがあって、私はいつでも、そこでゆらゆら、じっとしている。時折腹が減ったら、暗くなる時に、腕を素早く伸ばせば良かった。そうすると、五回に一回くらい、小さなものが手に入って、私が口へ運べば、腹がくちくなった。
ぼんやりとそこにいる。時々誰か、ここをよこせとばかりに、ぶつかってくる。私はそれは、我慢ならない。腕の先をぎゅっと丸めて、それを殴るのだ。大抵のやつは、私の一撃に驚き、逃げ帰ってしまう。けれど、本当に稀に、何度も何度も、ぶつかってくるやつがいて、そうなると私は、参ってしまって、一度その場を離れるのだ。足元で、得意そうに、そこに入り込んだやつめに、私はありったけ、黒い靄を噴き付けてやる。すると、やられたやつは慌てふためき、大暴れして、そこから出ていく。私はまた、悠々と、その場所に座り直す。
私の居場所を、取り戻して、ほっとする。
光のゆらゆらの向こうから、見えるもの、ずっと遠い、白いもの。あれは時々、赤くなったり、黄色くなったり、消えてしまったりする。けれど、私をずっと見ている。お互い、喋らないけれど、お友達のようなものだ。
見ていたかい、友達。私は今日も無事に、ここで過ごせるようだよ。そう思って見上げていると、ゆらゆらの向こう、白かった友達が、少しずつ黄色くなって、橙になって、赤くなって、やがて紺色に変わってしまった頃、光と一緒にいなくなってしまった。
眠って起きたら、顔を出すのは、知っていたから、私は不安でなかった。座り込んで、腕を動かして、いい場所に座れるようにする。ゆっくりと、意識を緩めて、眠ることにした。
海の底
だらだらと次々流れる動画を観ていたら
『閲覧注意』と記載のものが再生された。
どういう状況かわからず観ていたら
怖ろしい事件が映し出されていた。
観たくなかった。
知りたくなかった。
それほど残酷で哀しいものだった。
ヒトの人生を奪ってまで得たいことなのか。
悪魔がいないのなら海の底で生きよう。
暗くても息がしにくても
獲物にされないのなら海の底で生きたい。
海の底
船から海水に足を浸す
私は、今から初めてのスキューバダイビングに挑戦だ。
ウェットスーツみたいのに着替え
水中ゴーグルみたいのを付け
酸素ボンベを背負い
魚のヒレみたいなものを履き
付き添いの人と一緒に海にダイブ
シュワシュワと泡みたいな気泡が空気の
穴から抜けて行く
付き添いの人に誘導されながら
講習会で教わった通りに
徐々に海の底の方へ潜って行く
最初は、怖々 暗い海の底が見える。
緊張で体が強張るが付き添いの人の合図で
下を見る。
そこには、私が今まで見たことが無い
風景が広がっていた。
色とりどりの魚がいっぱい居た。
魚にこんなに色があるなんて知らなかった
大きな魚や小さな魚
肉食の魚を見かけた時は、少し怖かった。
海ガメやイカ タコもいて食卓で
お馴染みの魚やお寿司屋さんで並んでいそうな魚も居た
海の底に居なきゃ見られない
サンゴ礁なども見かけて キラキラして
綺麗だった。
だいぶ時間が経ってそろそろ陸に上がる
時間になった
私は船に戻り酸素ボンベを取り
水中ゴーグルを外し
息を吸う
初めてのスキューバダイビングは、
大成功で とっても楽しかった。
海の底には、其処に足を踏み入れた者しか
見れない宝石が眠っていた。
まるで宝石箱に閉じ込めるみたいに
海の底と言う蓋を掛けて...
海の宝石を守るみたいに...
海が優しく 時には厳しく
海の生物や私達人間達を見守っていた。
母なる大地が大切に大切に...
海と言う揺りかごで
私達全てを包みながら
今日も見守ってくれていた。.....。
俺は俺が落ちて沈んでいくのを笑顔で見ていた。
あいつが嫌いだ。
あいつも俺が嫌いだ。
俺は彼女が好きだ。
あいつも彼女が好きだ。
苗字も同じ
誕生日も近い
ほぼあいつと俺は同じだ。
それだからテストの点があいつの方が上だったら
ムカついたし頭に血が上りそうだった。
俺はあいつに少しも負けたくなかった。
あの日は風の強い日だった。
その日はサークルで旅行行くことになっていた。
あの日はあいつから俺を呼び出した。
確かあいつから俺に襲いかかったと思う。
違う...お...俺からだったかも。
分からない。
何話したかも覚えてない。
ただ鮮明に海の底に落ち続けるあいつの姿が
残っている。
それと1つ覚えいることは
同時に俺が俺をあいつを見て笑ったこと。
─────『海の底』
海の底
真っ暗な部屋の中、ぱらぱらと涙を零した。
ここは深海。私のような深海魚はここ以外では生き辛い。
カーテンは締め切っている。きらきらと降り注ぐ太陽光も、ぼんやりと照らす月明かりも、今の私には眩しすぎるんだ。
今はただ、底知れぬ闇と溢れんばかりの悲しみが私を守ってくれる。
誰にも見つからないように。
誰にも聞こえないように。
隠してくれるんだ。私を包み込んでくれるんだ。
ここは海の底。
私だけの深海だ。
人は悲しくなると海を眺めにやってくる。
そして、悲しみを海に放り込み、整って日常に帰っていく。
思い出したくもない悲しみなんて、暗くて冷たい海の底に永遠に沈んでしまえ。
海の底
まだまだ知らぬ
深海魚
食してみたら
世界広がる
お題☆海の底
砂浜を歩いた
丁度、僕の気持ちが海の底に沈んでる
気持ちだけ、ね、
もう海近くに来ているのだから
そのまま全部海の底へ
沈んでしまえば楽なのにね
でも
また君と笑いあった日々
を思い出すと
沈めなくなる
海の底
苦しいな。オーバードーズして気持ち悪くなって、また飲んでの繰り返し。紐に首を通しても紐はちぎれ繰り返す。好きな人に依存して振られて愛に肥えて、ネットに浸って溺れた。今は海にも溺れてる。もう海の底だ。
「溺れるって苦しいな。」
お題『海の底』
テーマ/海の底
ゾクッとした。
このテーマを見たとき、なんで知ってるの?
と思った。
いや、そんなことはない。
そんなことがあったら逆に怖いって思う(笑)
でもときどき、このアプリが表示するテーマを見ると
なんだか見透かされているような気になるのだ。
私の、この世で一番大好きな詩がある。
金子みすゞさんの《星とたんぽぽ》
いつ、どんなときもその詩を言葉にしたくなるとき
私は声を出して、空で暗唱している。
そんな、つねに自分と共にある詩……
《星とたんぽぽ》 金子みすゞ
青いお空のそこふかく、
海の小石のそのように、
夜がくるまでしずんでる、
昼のお星はめにみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
ちってすがれたたんぽぽの、
かわらのすきにだァまって、
春のくるまでかくれてる、
つよいその根はめにみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
この詩を中学生のときに初めて読んだとき、
私の愛読書『星の王子さま』に出てくる
キツネの言葉を思い出した。
幼いながらも〝とても大切な言葉だ〟と思っていた。
「さっきの秘密をいおうね。なに、なんでもないことだよ。心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」
海の底
海の底に沈む都市
世界中にはその痕跡だけを残すものがいくつもある
地球での歴史はずいぶんと昔に終わったかに見えて
もしかしたら別の世界で生き続けてるのかもしれない
「海の底」
空高く飛ぶものが
鳶だとして
彼らにとって「空の底」は地獄
鳶にとっては死の世界
海の表面に浮かぶものが
鷗だとして
彼らにとって「海の底」は地獄
鷗にとっては死の世界
空の底は地球の一番外側の地上
海の底は地球の一番外側の表皮
地表が「大空の底」であるように
海底が「地球の表」であるように
終わりは始まり
始まりは終わり
「海の底」
「ね、聞いた?イタ子最近ヤバいって。」
「聞いた聞いた。徘徊?してるって。」
昼休み、いつもの友人達と、いつもとは違う会話。
「イタ子って?」
聞きなれない名前にぼんやりと見ていた端末から顔を上げる。
「知らない?駅前によくいるんだけどさ。」
曰く、ロリータファッションの小太りの女で、手鏡を見ながらぶつぶつ呟きながら歩いているらしい。
呟いている内容がおまじないのような、お祈りのような言葉らしく、痛い子とイタコを掛け合わせてイタ子と呼ばれているのだとか。
それだけなら害はないのだが、時折誰かをターゲットにしては後を追いかけるそうだ。
「イケメン追いかけてることが多いかな。女の子で追いかけられてるとしたら大抵その彼女。」
「うわぁ…結構怖いね。」
「でしょ。それが最近鏡も見ずに虚ろな顔で徘徊してるみたいでさ。噂ではちょっと前に変な行動してたみたい。コンビニのイケメンに執着してたから、ついに呪いでもかけたんじゃないかって言われてるよ。」
呪いってほら、穴二つ?自分にもかえってくるとか言うじゃん?
と言う友人の言葉が目の前を通りすぎる。なんとも信じられない話だ。
「そう言えば呪いって言えばさ…」
渋い顔で黙り込んでしまった私に気遣ってか、もう一人の友人が明るく話題を変える。
「黄昏時の誰もいない海で願いを書いた紙を流すと、海神様が願いを聞いてくれるらしいよ。」
呪いじゃないんだけど、実際に願いが叶ったとか、海神様の姿見たとか言う子もいてさ。
□□□
オレンジと紫が合わさったような、なんとも言えない色合いの空を、広大な水鏡が反射する。
キラキラとした水しぶきがどこか物悲しくて、なんだかノスタルジックな気分になる。
放課後私はまっすぐ海まで来ていた。噂に感化されたと言われれば、そう。女子高生なんて、好奇心と流行が大好きなんだから仕方ない。
噂を鵜呑みにしたわけじゃないけど、藁にもすがりたい願いごとというのは誰にでもあるものだと思う。
防波堤へ降りて、不安定なテトラポッドを進む。
ふと、海の中に一ヶ所だけ夕日を反射していない場所があった。障壁もないのに、不自然に波も立ててないソコは、不気味なのに何故か目を離せない。
それどころか、体はその暗闇に向けて腕を延ばしていた。
気づいたら腰まで海水に浸かり、腕も海の暗闇を捕らえていた。
腕はぐんぐん進み続ける。自分から向かってるのか、引っ張られているのかわからない。
これ以上は、駄目。
脳ミソがけたたましく警鐘を鳴らしている。
呑まれる、駄目、怖い、食われる、嫌、嫌、イヤ、イヤ、イヤイヤイヤイヤイヤイヤイ
イ
イトヲシイ
海の底の真っ暗闇がにやりと嗤った。
海の底に携えて、重い気持ちもそこに沈めてしまいましょう。
あなたが思っているほどそんなに気持ちは重くないんです。
軽く手放してしまいましょう。
そこから新しいスタートが見えてくるんですよ。私たちとともに楽しい時を過ごしませんか?
「海の底」
海の底かぁ…。冷たくて暗くて静かなんだろうなぁ。
でももし心の深さを海で表すなら海の底はどんな所なんだろ…。少し興味があるような…億劫なような…。
んー…
……
………
…………難しくなってしまった。
#海の底
ちいさな人魚の子どもが、尾びれを止めてふり返りました。
なにか、光った気がしたのです。
泳ぎよって、そっと拾いあげてみます。
オレンジ色の、丸い石です。
ほんのり、透きとおっています。
手のひらにのせると、サラサラします。
この石のことは知っていました。これは
「お日さまのかけら」です。ときどき、海のなかに落ちています。波にとけたお日さまの光が、長い
あいだ海をただよって石になるのだそうです。
年長の子どもたちのなかには、宝もの入れ
いっぱいにこの石を集めている子もいます。羨まし
くて仕方ありませんでした。自分の巣穴にもどって
くると、人魚の子どもは枕元の砂を掘りおこして、
ちいさな二枚貝の宝箱に、石を大切に しまいまし
た。
つぎの朝。
人魚の子どもは肩からポシェットをさげると、浅瀬へ泳いでいきました。大人たちに見つからないよう、こっそりと。
──ぜったいに、陸へ近づいてはいけません。
人魚の子どもたちは、生まれたときから言い聞か
されます。
ニンゲンは人魚たちの兄弟です。大昔、陸にあがった人魚たちの尾びれが裂けて、ニンゲンになったのです。けれど、人魚たちとちがって陸の兄弟は
乱暴です。やさしい海に見捨てられて、すべてを呪っているのです。呪いのせいで、陸の上だろうと海の上だろうと、好き勝手に暴れまわるのです。人魚たちはみんなそう信じています。
それなのに、この子どもの人魚は、かまわず
泳いでいきます。
ちいさな入り江までくると、ちゃぷんと海から顔を出して、尾びれで水面をぱちゃぱちゃ鳴らしまし
た。砂浜を歩いている影が、顔をあげてふり返りま
した。
ニンゲンの子どもです。
人魚の子どもに気づくと、こちらへ両腕を大きくふりました。砂浜からは桟橋が一本、まっすぐのびています。その先端まで歩いてきます。
泳ぎよった人魚の子どもに、バナナの葉っぱの
帽子を持ちあげて、ニンゲンの男の子がニッと笑い
ました。
この人魚の子どもだって、やっぱりニンゲンは怖いと思っています。
でも、この男の子だけはとくべつです。命の恩人
なのです。
はじめて入り江に迷いこんだときのことです。
ニンゲンの罠にひっかかって、痛くて暴れて泣いていたら、逃がしに来てくれたのです。海に飛び込んで、尾びれにギシギシ噛みついてくる見えない糸を、一本ずつ切ってくれたのです。
きょうも男の子の足元には、大きなバケツが
置いてあります。
先端に針のついたニセモノの魚、こわれたビーチ
サンダル、ボロボロのビニール袋、空き瓶空き缶がたくさん、あの恐ろしい透明な糸も、ぐるぐる巻き
で入っています。男の子は『ゴミ』と呼んでいます。『ゴミ』がなんなのか、人魚の子どもには
わかりません。
人魚の子どもは、肩にさげたポシェットを
あけました。
いちばん底から、二枚貝の宝箱をとりだします。そのなかの、いちばんの宝ものを、大切につまみ
あげます。
きのう見つけた、お日さまのかけらです。
明るい陽の光をあびて、きらきらオレンジ色に
かがやいています。海のなかで見るより、ずっと
鮮やかで、すてきに見えます。
人魚の子どもはニコニコ笑って、桟橋の端っこで
しゃがんで待っている男の子に石を見せました。
男の子は、人魚の子どものいちばんの友だちです。
人魚の子どもが海から持ってくるものを、いつも
キラキラした目で熱心に眺めてくれます。だから、いちばん最初に教えたかったのです。だって、
「お日さまのかけら」を見つけたのです!
男の子は、人魚の子どもが嬉しそうにかかげた
オレンジ色の石を見たとたん、凍りつきました。
だれかの尾びれに引っぱたかれたような、
おかしな顔をしています。
それから、唇をかみました。悔しそうに、恥ずかしそうに、まっ赤な顔をクシャクシャにしました。
男の子がなにを言っているのか、人魚の子ども
にはわかりません。陸の言葉は、人魚にはヘンテコ
すぎるのです。
でも、とても怒っていることはわかります。声がとげとげしています。悲しそうでもあります。
まっすぐな茶色い目に、涙がにじんでいます。
オレンジ色にかがやくお日さまのかけらを睨みつけて、男の子が言いました。
『ゴミ』
バケツを、こちらへ突きだしてきます。
『ゴミ』
『ゴミ!』
『ゴミ!!!』
男の子の手が伸びてきて、むりやり石を奪い取ろうとしました。人魚の子どもはあわてて海にもぐりました。
すこし沖合いの波間から顔をだして、信じられない気持ちで男の子を見つめました。
追いかけてくる様子はありません。桟橋の端から身を乗りだして、バケツを抱えて、男の子が泣きながら叫んでいます。
『ゴミ!!』
『ゴミ!!!』
『ゴミーッ!!!!──────
人魚の子どもはわけがわからず、一目散に海の
底へ逃げ返ってきました。
こわくて、悲しくて、巣穴にとじこもって
ワアワア泣きました。もう二度と陸へは近づき
ませんでした。
やがて男の子は大人になって、ニンゲンたちの
なかでも、とても偉いニンゲンになりました。
彼の施策により、海辺の大量のゴミはすっかり姿を消し、捨てられた釣り糸にからまって命を落とす
たくさんの海の生きものたちもいなくなりました。海は少しだけ賑やさを取り戻し、人魚たちは少しだけ、ニンゲンを信じるようになりました。
おなじ頃、海の底で人魚がひとり、二枚貝の小さ
な宝箱をあけました。
はるか頭上でかがやく海面に、半透明の石を
すかしました。オレンジ色のやわらかい光を
見上げ、しくしく痛む胸の底から、ちいさな泡を
吐きました。