「ねぇ、この海で1番素敵なところを知ってるかい?」
変なやつに声をかけられた。少しだけ、うとうとしていたので返事が遅れたが、やつは呑気なものだ。
波をちょろちょろとくすぐっている。
ずいぶんとぼってりしたやつだなとぼんやり思っていたら
「ねぇ、聞こえないのかい?」
懲りずにやつは絡んでくる。
「……知らないよ、僕は動けないからな」
ピタリと動きを止めて「そうなんだ」つぶやいた。
「…あのさ、きみのピンクの髪がキラキラゆれて、素敵だね。お土産話を持ってまたくるよ。待っててね」
やつは、こちらがうんともすんとも返す前から、重そうな体を振って陽気に去っていった。
次の日も、次の日も、やつは来なかった。もうやつから香った甘い匂いも、忘れてしまいそうだ。
海の底【たい焼きくんと桃色サンゴ】
1/21/2024, 1:19:47 AM