【月は白いか黄色いか】
無性にアイスが食べたくてコンビニに行くことにした。
昼過ぎにベットから抜け出して、シーツを剥ぎ取り洗濯機に入れて何となく充実したフリをした1日だった。
しかしハリボテの充実感は、日が暮れるまで昼寝をしたせいですっかり夜の湿気を帯びてしまった。
シーツは冷たく、埃っぽい匂いがする。
【長時間湿気ていると増加する菌、モラクセラ菌のせいである】
チャットGTPは教えてくれた。
それって人間も同じ?と聞きたくなった。
何かをしている時は忘れられる。
本を読んでいる時。
誰かと話している時。
仕事をしている時。
社会的に、生きている時。
長く、湿気ていると、増加する、菌。
嫌だな、と思う。
季節は秋。
利き季節大会を開催しても、秋であることは即答できる、そんなまごうことなき秋の夜である。
冷たい夜でもまだ息は白くない。
月は、白いのだろうか。
それとも、黄色いのだろうか。
コンビニの自動ドアはだれも拒まない。
店内のBGMはおすすめ商品や次に発売予定の製品を紹介をしている。
ショーケースのアイスはどれも宝石のように見えた。
パッケージに光が当たって反射している。
青はサファイヤ、赤はルビー。
白はオパールで、緑はエメラルド。
どれもきらびやかに見えて、何を食べたいか、忘れてしまった。
違う、今日はこれじゃない。
体は口優しいお酒を欲していた。
氷結レモン、500ミリ。
缶チューハイはもう、これしか飲まない。
スピリッツが体に合わないから、リキュールのお酒をいただくことにしている。
そんなこだわりが捨てられない。
こんな夜こそ、捨ててしまえばいいのに、とも思う。
年齢確認商品です、自動音声の確認は残酷だ。
捉えようによっては、口説いているではないか。
若く見えるか、それはお前にとって魅力的に見えているということかと迫りたくなる。
今日も健全な狂気を持ち合わせている自分に少し感動する。
喜怒哀楽の中で一番距離があるのが「怒り」で一番近しいものは「哀」だから。
あーくだらね、と、心の鏡に嘲笑し、ちゃっかりポイントを貯めてタッチレス決済をする。
有人レジでさえ店員さんとも話さずにやり過ごせるようになったのはいつからだろう。
監視カメラにも見逃されてしまうくらいモブだろうなと思いながら帰路に着く。
行きすぎる車は羨ましい。
トラックも、乗用車もどこかに向かっている。
目的があっていいなと、ぼんやり思う。
ヘッドライトに撃ち抜かれて、膨張する自分の影が面白くて立ち止まった。
タイミングよく、赤信号になったらしくおもちゃを取り上げられた子供のように立ち尽くした。
月の光は、強く影を刻む。
アスファルトに焼き付いてしまうほどくっきりと浮かぶ自分の影を優しく撫でてみた。
冷たいその感触に乾杯、と缶チューハイを小突いた。
孤独という音は自分の中に返ってくる。
カシュッという音はタイミングよく青信号でかけてゆく車にかき消された。
手に納めていても冷たい缶チューハイは酔わせるより醒めさせる。
今日も、よくごまかせました。
なんとなく生きている状態は好ましくない。
けれども毎日刺激的に生きたいと思う程、若造でもない。
3連休は世界新記録を更新した、こうして年々彼は老いてゆく私に変わって颯爽と駆け抜けてしまう。
月は、白いか。黄色いか。
孤独の中に、言葉を放る。
光蜥蜴。
お題キープ
【消えない焔】
突然の急ブレーキで乗客のほとんどがぐにゃりと歪んだ。あちらこちらからスイマセン、スイマセンとぎゅうぎゅう詰めの中でも会釈をする。
しかし異常な急ブレーキに嫌な予感がする。
地下鉄老若線は西の老人街と東の若輩東都(じゃくはいとうと)を結ぶ唯一の交通手段で利用者の多くはどちらの都市でもいわゆる身分の低いものたち、マイナーと呼ばれているものたちだ。
車掌がマイクのスイッチを入れた音がした。小さな子どもの声がスピーカーから聞こえてくる。
「とつぜんの、きゅうぶれーき、ごめんなさい」
「ただいままえをはしる、でんしゃが、とまりました」
「げんいんを、しらべています、ごめいわくごめんなさい」
【書いてる途中】
差別されることに疑問を持つほどの感性もなく、自分たちの従事する主人の元へ今日も運ばれてい
消えた星図
かきときちう😥
「あ、すごい雨だ」
電話口からぽつりと聞こえた独り言に、心なくふぅんと返した。
「それより次はいつ?」と会話を切り返したのはあまりに愛想がなかったように思う。
11月の連休は2度あるが、彼はいざ繁忙期という具合で祝日も出勤が決まっている。予定を合わせるのであれば有給を取ってもらうことになる。
「今すぐは決められそうにないな」
「じゃあ、もう寝よう、バイバイ」
通話終ボタンを押した途端プツリと何かが切れた。
星は西から南へと何かを携えて渡ってきた。
そして南から西へとまた帰っていくのかと思っていた。
深夜、雨が降ってきた。
それはもうすごい雨だった。
いつもはおやすみ、なのに「バイバイ」で終わったことが悲しくて、眠れずにいる。
雲は空を隠してしまった。
雨はいっそう強く感じる、窓は不定期に揺れる。
さっきまであなたに降った同じ雨が
今まさに私を濡らしているかもしれない。
そう思い立った頃には
もうまどろみの波にさらわれていた。
大きなヘッドホンは枕に当たって不快になった。
白いスマホの画面は音も立てずにヒビを入れた。
水槽越しのキスはただ体温を奪うだけ塗る