にや

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「ね、聞いた?イタ子最近ヤバいって。」
「聞いた聞いた。徘徊?してるって。」

昼休み、いつもの友人達と、いつもとは違う会話。

「イタ子って?」

聞きなれない名前にぼんやりと見ていた端末から顔を上げる。

「知らない?駅前によくいるんだけどさ。」

曰く、ロリータファッションの小太りの女で、手鏡を見ながらぶつぶつ呟きながら歩いているらしい。
呟いている内容がおまじないのような、お祈りのような言葉らしく、痛い子とイタコを掛け合わせてイタ子と呼ばれているのだとか。
それだけなら害はないのだが、時折誰かをターゲットにしては後を追いかけるそうだ。

「イケメン追いかけてることが多いかな。女の子で追いかけられてるとしたら大抵その彼女。」

「うわぁ…結構怖いね。」

「でしょ。それが最近鏡も見ずに虚ろな顔で徘徊してるみたいでさ。噂ではちょっと前に変な行動してたみたい。コンビニのイケメンに執着してたから、ついに呪いでもかけたんじゃないかって言われてるよ。」

呪いってほら、穴二つ?自分にもかえってくるとか言うじゃん?
と言う友人の言葉が目の前を通りすぎる。なんとも信じられない話だ。

「そう言えば呪いって言えばさ…」

渋い顔で黙り込んでしまった私に気遣ってか、もう一人の友人が明るく話題を変える。

「黄昏時の誰もいない海で願いを書いた紙を流すと、海神様が願いを聞いてくれるらしいよ。」

呪いじゃないんだけど、実際に願いが叶ったとか、海神様の姿見たとか言う子もいてさ。

□□□

オレンジと紫が合わさったような、なんとも言えない色合いの空を、広大な水鏡が反射する。
キラキラとした水しぶきがどこか物悲しくて、なんだかノスタルジックな気分になる。

放課後私はまっすぐ海まで来ていた。噂に感化されたと言われれば、そう。女子高生なんて、好奇心と流行が大好きなんだから仕方ない。

噂を鵜呑みにしたわけじゃないけど、藁にもすがりたい願いごとというのは誰にでもあるものだと思う。

防波堤へ降りて、不安定なテトラポッドを進む。

ふと、海の中に一ヶ所だけ夕日を反射していない場所があった。障壁もないのに、不自然に波も立ててないソコは、不気味なのに何故か目を離せない。

それどころか、体はその暗闇に向けて腕を延ばしていた。

気づいたら腰まで海水に浸かり、腕も海の暗闇を捕らえていた。

腕はぐんぐん進み続ける。自分から向かってるのか、引っ張られているのかわからない。


これ以上は、駄目。

脳ミソがけたたましく警鐘を鳴らしている。

呑まれる、駄目、怖い、食われる、嫌、嫌、イヤ、イヤ、イヤイヤイヤイヤイヤイヤイ



イトヲシイ


海の底の真っ暗闇がにやりと嗤った。

1/20/2024, 10:26:13 PM