『沈む夕日』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
沈む夕日に、絡む赤色、滲む夜。
この声が太陽にも届くかな
知らねえけれど
さよーならまたあした!
「しーずむゆうひにぃー」
「なんだっけ、それ」
「わからん」
「あーーー、ここ、ここまで出てる」
「それはもう出てるのよ」
「なんだっ……けぇ……ちょ、もっかい歌って。」
「しーずむゆうひにぃー……てらさぁれぇてぇ〜」
「まさかのアルト」
「え、まって、ソプラノじゃなかった?」
「なにが?あ、私?」
「おん」
「だったかも」
「いけるべ、これ」
「ま?……やってみるか」
「沈む夕日」
オフィスビルの展望室
わずかに耳を掠める都会の喧騒が
落日の光と溶け合う
この時間が私は好きだ
今日という日の終わりに向けて
人々がざわめき始める
さぁ、
今日は同僚と、飲みにでもいこうか
【沈む夕日】
レースカーテンを靡かせて、冷えた空気と海の匂いを巻き込んだ潮風がアトリエに吹き込んできた。顔にかかった髪を払い窓へ視線を向ければ、太陽を飲み込もうとする海が赤くに染まっていくのが目に入る。
「……なんか、寂しいね」
「寂しい?」
ぽつりと床に落としたはずの呟きは耳聡い彼に拾われ、少し離れた所で絵筆を持ったまま首を傾げる姿が視界の端に写った。
「うん。夕日を見ていると、そんな気分にならない?」
ゆっくりと青に沈んでいく赤を眺めながら言葉を投げかければ、彼もそちらへ視線を向ける。
「そうかな」
「そうだよ」
潮風に熱を奪われた指先を擦り合わせて一つ瞬きをした。
「夕日が嫌いかい?」
「ううん」
首を横に振る。
「でも、見ていると寂しくなって、綺麗だけど、胸がぎゅうっと締めつけられて苦しい様な感じがするの」
「ふうん」
聞いてきたのは彼なのに、随分と素っ気ない返事が寄越されてしまって苦笑する。
「興味無さそうだね」
「そんなことはないよ。君の事なら何でも興味津々さ。ただ、」
彼が絵筆を置いてこちらを見た。私も窓から視線を逸らして彼を見る。
「寂しいのなら、どうしてそんな所にいるんだい」
「え?」
「僕と一緒にいるのに、どうして1人で感傷に浸っているのさ」
ほら、とスツールに腰掛けたままの彼が両腕を広げた。彼の目を見れば、優しげに緩んだそれが見つめ返してくる。戸惑いながらも一歩、二歩とゆっくり足を進めて彼の前へ辿り着くと、思い切って彼の腕の中へ飛び込んだ。おっと、と声を漏らしながらも受け止めてくれた彼は、そのままぎゅうと強く私を抱き締める。
「ちょっと、痛いよ」
「これでいいんだ」
抗議の声を上げても取り合って貰えず、諦めて脱力すれば、彼の手が私の髪を梳いて、それから小さなリップ音が聞こえた。
「何してるの?」
「気にしなくていいよ。それより、まだ胸は苦しいかい?」
「へ?」
抱き締められたまま、耳元で尋ねられる。一瞬考えて、「こんなに強く抱き締められていたら、そんな事考える余裕もないよ」と返せば、「だろうね」と頷く気配がした。
「もう、何がしたいのよ」
「だって君が変なことを考えているから」
「変?」
胸板に手をついて体を離す。彼の顔を覗き込んで首を傾げれば、彼はまた頷いた。
「夕日を見て感傷的になる、君のその感性は大切にすべきものだ。でもそれは、僕と一緒にいる時には必要のないものでもある」
「……あなたの言う事はいつも難しいよ」
眉を寄せて返せば、僅かに口角を上げた彼が少しだけ距離を詰めてくる。
「そうかい?そのままの意味だよ。僕といる時の君に寂しさなんてものは無縁だし、胸が締め付けられて苦しいというなら僕がこうして体ごと締め付けて、そんな事考えられなくしてあげる」
彼の指先が頬を滑り、細められた瞳が私を捉えた。
「つまり、慰めてくれてるの?」
「そうとも言うね」
ちゅ、と額に唇が落ちてくる。
「別の言い方があるわけ?」
「…………」
頬に触れた彼の手に自分のそれを重ねて見つめ返すと、彼の目が僅かに揺れた。
「ねえったら」
「……これから先夕日を見る機会なんて山ほどあるのに、その度落ち込まれたんじゃ適わないからね」
「面倒くさいってこと!?」
「あ、いや、そうじゃなくて!」
思わず顔を顰める。慌てた彼がぶんぶんと首を振って、それから片手で口元を覆って息を吐いた。
「その……、君が落ち込むのを見たくないというか、…………僕以外の事で感情を振り回されるのを、あまり見たくないというか」
ぱちりと目を瞬かせて彼を見る。気まずそうに目を逸らした彼の耳が僅かに赤く染っているのを見て、衝動的に彼の額に口付けた。
「は、」
「もしかして夕日に嫉妬してるの?」
大きく見開かれた瞳がこちらを見る。口角が上がってしまうのを自覚しつつ見つめ返せば、口を尖らせてふいとそっぽを向かれてしまった。
「……そうだよ。悪い?」
「まさか!ねえ、拗ねないで、こっちを見てよ」
ふわふわの髪を指で梳く。染まった耳に唇を押し付ければ、彼は大袈裟なほど体を跳ねさせて勢いよく私を見た。
「ちょっと、何を……!」
「嬉しいよ」
こちらを向いた頬を両手で捉えて距離を詰めれば、彼は息を呑んで黙り込む。
「夕日に嫉妬するほど、私の事を想ってくれて嬉しい」
「…………」
「あなたと一緒にいれば、寂しい思いなんてしなくていいんだものね」
「……うん、そうだよ。寂しさも苦しさも、君が感じる前に僕が全部塗り潰してあげるから」
じわじわと彼の頬が熱を持つのを感じながら、ふと思う。
「あなたの目って少し夕日の色に似ているね」
「え?」
顔を寄せて至近距離で彼の瞳を覗き込んだ。彼の頬にさっと赤が差すのを横目で見ながら、笑みを零す。
「あなたは夕日を寂しく思う感性を大切に、って言ったけど、もうそんな事考えられなくなっちゃった。これから先はきっと、夕日を見る度あなたを思い出すよ」
人生が進むたびに薄暗さを増していく。沈む夕日のように淡々と時は過ぎ去り晩年が見えてくる。濃淡はあれど乏しい色彩で染まりながら景色が変わっていくと、そう感じていることこそが感性が萎んでいるのかもしれない。黄昏時の朱に染まる世界を眺めて同じ色に染まる自分の姿がその世界に融けていく。それでも心の中の薄暗がりまでは染まることなく影だけがそこにある。世界に染まりきれないものを抱えるようになる。
「沈む夕日」
赤でも
黄色でも
オレンジでもない
地平線に沈んでいく光が
ただただ眩しかった
夕日色の頬で笑った君は
きっとあの光に攫われてしまったのだ
沈む夕日
引っ越した頃、窓から差す夕日には気持ちよさと景観を独占する事への優越感を感じていた。
次第に外での不安や苦痛をためていくと、夕日はただの生活の一部となった。
失業し、疲れ、立ち上がれない自分は時間が余っている。
毎日、変わらない自分に比べると夕日は毎日違う時刻にたんたんとやってくる。
思うことはある。
外から漏れ入る子供の声。
隣の家の食器の音。
これは変わらない。
毎日、同じ時刻だ。
なら、自分も変わることに焦る必要はない。
そう思いたい。
必ずくる夕方に、すこし恐怖が芽生えたのは少し前。
今はどうか考えに耽るだけで、何もしなかった1日と人々の生活音に負けた実感が湧く。
同時に何もなかった1日に安堵した。
明日、何を感じるのか。
何も無い時間に空虚な思考のみが充満した部屋。
夕日は空虚を加速させた。
今日も陽が沈む。
地平線の見える場所。
先ほどまで青かった海は、空と共にその姿を変える。緋色に燃え盛る焔のようだ。
昨日もこの場所で、陽が沈むのを見ていた。
明日も、明後日も、その先も私はここで陽が沈むのを眺めるのだろう。
そんなことをぼんやりと考える。
世界が変わる瞬間、一歩ずつ歩む瞬間、ゆっくりと終わりに向かう瞬間をここで見届けるだけ。
刺激とは無縁。退屈な光景を、日々楽しみにする。これが当たり前であるように、変わらぬように。
この光景が今日も私が生きた証なのだから。
もうそろそろ冬物を仕舞っても大丈夫だろう。
明け方の寒さも和らいで、厚手のセーターよりも薄手のカーディガンの出番の方が多くなってきた。
出掛ける時もウールのコートでは、少し歩くだけで汗だくになってしまう。
臭いがこびりついて取れなくなってしまう前に、セーターやコートを洗ってしまおう。善は急げ、だ。
セーターやコートを丁寧に一枚ずつ畳んでから洗濯ネットに入れて、浴槽に水を貯めて。
お洒落着用の液体洗剤を少なめに入れた冷水の中に静かにセーターやコートの入った洗濯ネットを沈めていく。
何度か優しく押して、水面から出てこないように重し代わりに水の入った洗面器を洗濯ネットの上に乗せた。
テーマ「沈む夕日」
沈む夕日すら見られなくなった日々に、小さな幸せが一つ消えたことを実感する。夕日が沈む空の色ほど美しいものはないと思う。小学校時代、絵の具で何度表そうとしたことか。電車の中から見る移り変わる景色と、雨の日の紫陽花、黄昏時の夕日。日常の中で何気なく見られるのが好きだったのに。今度は朝焼けの空でも眺めてみようかな。
夕日が地面を焼いている。
名残惜しさから地面を焼いている。
自身を薪にしているかのように。苛烈に。穏やかに。
それでもゆっくりと遠のくほむら。
沈んでいく夕日が最後の抵抗にと空を焦がしていた。
沈む夕日
沈む夕日――――
学校帰りの夕暮れ時、いつも決まった場所で一休みするのが日課だ。家と学校の中間に河川敷があり、そこから見る景色はとても美しいものである。浅い川だがしっかりと透き通った水は、夕方になると淡いオレンジになり、空には濃く照らす夕日。体感5分……実際のところは15分程度時間が進んでいるのだが、ゆっくりと沈む夕日を眺めて、今日一日の締めくくりとする。
沈む夕日、
都会の夕日と田舎の夕日はそれぞれ違う。
都会の夕日は、日照時間が長いが、すぐ高い建物に隠れてしまう。
田舎の夕日は、日照時間が短いが、山の後ろにゆっくりと太陽が沈む。
皆さんは、どちらの夕日がお好きですか?
私は、田舎の夕日がとても好きです。
私の地元は田舎で、日照時間がとても短い地域で住んでいました。今は、海が近い地域に引っ越して何も不満なく暮らしていますが、
やっぱり、楽しかった思い出は、あの故郷に詰まっているので、寂しい気持ち反面、とても恋しい気持ちがあります。
幼い頃、まだネットには触れていない時なので、暇だった時は、幼馴染と一緒に遊んだり、後から生まれた私の妹と外で追いかけっこをして遊んでいました。
外で遊んだ後、家に帰る時に見る夕日は、ほんとうに綺麗だった。
あの夕日を見る度に、「今日は楽しかったな」、「いい一日だったな」といい気持ちでいられた。
それが見れなくなった今は、「あの町に帰りたい」といつも寂しく思う。______________
Anna
「夕方って知ってるかい」
ボクの演奏を聞いていた彼女にボクは尋ねた。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
彼女は黙ったまま首をふる。星空の話をした時に見せたそんな顔で。
「⋯⋯⋯⋯太陽があるだろう」
「ん」
「それが沈むんだ」
「ん」
「その光景が『夕方』なんだよ」
「ん」
彼女は特段興味ないように相槌を打った。
なんだか少しだけ違和感を覚えるような、まるで彼女が彼女では無いようなそんなことを思って尋ねようとした時に口を開いた。
「⋯⋯⋯⋯知ってた」
「⋯⋯え?」
「知ってた、『夕方』」
夕方を、知っている?
この世界は昼しかない。日は永久に照り続け、暑さも寒さもなくずっとちょうどいい気温が続く。
そんな世界なのに、夕方を知っている。
「⋯⋯ここも全部こうってわけじゃないから」
彼女の言葉は酷く冷たかった。
「それなら夕日の美しさも知ってるのか」
彼女はその言葉に対して、少し目を伏せて返答した。
「嫌い」
それが夕日に対してかどうかは一目瞭然だったのだろうか。
「⋯⋯⋯⋯嫌い、だよ。夕方は寂しいから」
子供っぽいようなことを言って、彼女は微笑んだ。いつもとは全然違う、力のない笑み。
「⋯⋯じゃあ、一緒に見ようか。星空を見るついでに。そしたら寂しくないよ」
その言葉に彼女は微笑んで言った。
「楽しみにしてる」
夕日の沈みかけた空からは、何か不思議なものを感じる。もちろん美しいとか切ないといった感情を抱くこともあるが、それらとはまた違った気持ちだ。オレンジ色に染まった空を見るとそれがどうにも地球によって生み出された景色には思えず、今までいた世界から切り離され、違う星とか異世界に来たような錯覚に陥る。
僕はとある夏に、少し不思議な人に出会った。
その人は、音楽がとても好きだと言っていた。思い返してみても、音楽を聴いているか、歌を歌っていることが多かったように思う。
その人は、いろいろなことを音楽や音楽用語で例えた。おかげで、僕も少し音楽に詳しくなった。主にクラシックに。
その人は、朝遅刻しそうになると、『熊蜂の飛行』というクラシック曲が頭の中で流れ出すらしい。僕も実際に聴かせてもらったけれど、確かにあれはかなり焦る。
その人は夏が来ると、『ツァラトゥストラはかく語りき』という曲の冒頭が思い浮かぶ、と笑っていた。これは僕も知っていた曲だったけれど、そんな風に聴いたことは無かったから面白い考え方だと思った。
その人は海を見ると、『海の歌』という曲を思い出すと、少し寂しげに言っていた。その曲はオーケストラではなく、吹奏楽の曲らしい。その人は、昔演奏したことがあると言っていた。
その人は海に沈んでいく夕日を見ると、『アルメニアン・ダンスパート2』と『マーチ プロヴァンスの風』と『天国の島』という曲を思い出すらしい。どれもまた吹奏楽の曲らしい。その人いわく、『アルメニアン・ダンス』と『天国の島』は演奏したことがあるのだそうだ。
その人は海から登る朝日を見ると、『マードックからの最後の手紙』という吹奏楽の曲を思い出すらしい。その人が言うには、その『マードックからの最後の手紙』はタイタニック号の事件を元に書かれた曲らしい。素敵な曲だから一度は演奏してみたかったと、遠くを見つめながらその人は笑った。
その人は心から音楽を愛していた。それは音楽に詳しくない僕にだってわかった。それなのにその人は、もう音楽はやらないのだと寂しそうに言った。聞くべきではないとわかっていた。でも、あまりにその人が寂しそうに言うものだから、僕は思わずどうして、と聞いてしまった。その人は遠くを見つめながら、どうしても、と言う。今考えてもその人がどうして音楽をやらなくなったのかは分からない。けれど、いつか本当のことが聞けるのならば聞いてみたいと思う。
夏の影に消えてしまったあの人に。
テーマ:沈む夕日
この時期の沈む夕日は季節を感じさせる。冬や夏、秋の夕日とは違ってなんか青春ドラマのオープニングを思い出させる。
今日も思うように絵が描けなかった。
毎日彩画室で残って描いていても、談笑しながらこなすクラスメイトの方がコンクールで受賞している。
対して努力もしてないくせに、と自分より楽しそうに制作する奴らに対する劣等感と自分に対する罪悪感に浸りながら、沈む夕日の中で自転車を漕いだ。
「沈む夕日」
どんなに辛いと思っても、納得のいかないものでも、死ぬ気でやり続けたあの時。
毎週のように帰り道で沈む夕日を見る度に、涙をこれえたあの時。
がむしゃらにやるしかない時もあるけれど、それでも潰れずに毎日やり続ければいつか結果は出ると信じてやり続けて良かった。
思えばあの時の沈む夕日が、毎週背中を押してくれた気がする。
ありがとう。ありがとう。
目隠しされて冷たい岩の上に横たわる
あなたに言わなければならない
美しい嘘すら波音にさらわれて
口元に微笑をたたえ
静かに還ってゆく
どうか、どうか。
代われるならば僕の
体ごと全部あげるから
涙すら不浄
その抉られた傷の中にさえ
僕はいない
何者も繋ぎ止められない
あなたが居ない明日に
どう意味を見い出せばいい
♯沈む夕日