「夕方って知ってるかい」
ボクの演奏を聞いていた彼女にボクは尋ねた。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
彼女は黙ったまま首をふる。星空の話をした時に見せたそんな顔で。
「⋯⋯⋯⋯太陽があるだろう」
「ん」
「それが沈むんだ」
「ん」
「その光景が『夕方』なんだよ」
「ん」
彼女は特段興味ないように相槌を打った。
なんだか少しだけ違和感を覚えるような、まるで彼女が彼女では無いようなそんなことを思って尋ねようとした時に口を開いた。
「⋯⋯⋯⋯知ってた」
「⋯⋯え?」
「知ってた、『夕方』」
夕方を、知っている?
この世界は昼しかない。日は永久に照り続け、暑さも寒さもなくずっとちょうどいい気温が続く。
そんな世界なのに、夕方を知っている。
「⋯⋯ここも全部こうってわけじゃないから」
彼女の言葉は酷く冷たかった。
「それなら夕日の美しさも知ってるのか」
彼女はその言葉に対して、少し目を伏せて返答した。
「嫌い」
それが夕日に対してかどうかは一目瞭然だったのだろうか。
「⋯⋯⋯⋯嫌い、だよ。夕方は寂しいから」
子供っぽいようなことを言って、彼女は微笑んだ。いつもとは全然違う、力のない笑み。
「⋯⋯じゃあ、一緒に見ようか。星空を見るついでに。そしたら寂しくないよ」
その言葉に彼女は微笑んで言った。
「楽しみにしてる」
4/7/2024, 4:27:53 PM