『梅雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「入梅の頃。覚えやすかろう?」
彼はそう言って目尻を下げた。チャームポイントの太眉と膝小僧が本日も愛らしい。
梅雨入りを知らせるその日は、彼の誕生日である。
正確に言うと、彼がそう決めた日である。
彼にとって大切な日。眼前にいる彼女に救い出してもらった日。
あの日手を引いてくれた彼女の微笑みは、彼は一生忘れないだろう。
しとしとと遠くの方で雨の降る気配がした。匂いもする。もうすぐこちらにも雨雲がくるだろう。
テレビのニュースで、今年は例年より早く梅雨入りしたと言っていた。
また一年が過ぎた。今年も彼女と共に過ごせることを彼は心から喜んでいる。彼女や同居人は、きっとパーティーとやらもして盛大に祝ってくれるのだろう。
梅雨入りのジメジメとした空気は、昔のことを思い出す彼にとって、彼の心を土砂降りに、そして梅雨明けのように晴れやかにするのであった。
/『梅雨』
あさき、〜の某彼を。
急ぎあげ。
梅雨の時期はジメジメしてて苦手
雨は好きだけど、ジメジメし過ぎてる梅雨は苦手
雨の中で傘をささずに濡れるのは楽しい
嫌な事も少しは忘れられるから
自分の涙なのか雨なのか、
泣いていても分からないから
周りの皆は「風邪を引く」とか「冷えちゃうよ」とか
そんな事ばっかり
好きな事をして何が可笑しいの?
雨に濡れてると気持ちいいから
モヤモヤしてるのを少しの間だけでも流してくれる
周りになんて言われても、私は雨が好き
泣きたい時に泣いたら、隠してくれる
でも、ジメジメし過ぎてるのは苦手
たまに降るぐらいの雨が一番いいや
お題〚梅雨〛
僕の彼女が死んだのは梅雨真っ只中で火葬路に彼女の眠る棺が放り込まれたときですら僕は彼女が死んでしまったという実感が持てなくて、彼女の身体が炎に飲み込まれていく間も煙突からもくもくと燻る灰色の煙をぼんやり眺めているだけだった。
きつく寄り添っていた間柄やのに涙のひとつも流されへんなんてどうしようもなく薄情なやっちゃなあ。
———「なんやあの猫ちゅーる食べ終わったらどこかへ行ってしもたわあ。ほんま薄情やねえ。でもまあ猫ってそういう生き物やから、それでええんかもね。それが正解なんよ。私が勝手にちゅーる食べさしたんやから触らせてくれるやろなんて当然のように対価を求めて縋ってしまっただけなんかもしれん」
かつて彼女が言っていたことを思い出した。僕も、あのときの猫と同じやんなあ。泣かれへんやもん。薄情やろ? ごめんなあ。言い訳かもしれへんけど、君がまだ生きてるような気がしてならん。なんでやろうなあ。冷たくて青白くなった君を見たのに。この目で確と見たのに。なんでそんなふうに思ってしまうんやろうか。
紫陽花一緒に見に行こう言うてたやんか。あれどないすんの。行くんやろう? なあ、聞いとる? ああ、もうわかったぞ。悪戯好きな君のことやし、ひょいって死角から出てきて僕のことびっくりさせよう思うてるんちゃう。残念でした。そんなん僕はもう騙されません。僕はもう驚いたりせえへんよ。せやからさあ、いい加減、姿を見せてくれへんかなあ。僕な、ひとりは嫌やねん。怖いねん。君が居らんのにひとりで生きていくなんて怖すぎるよ。
君の好きな紫陽花色の宝石が施された指輪、この指輪、どないしよ。紫陽花見に行ったときにな、僕のお嫁さんになってくださいって言おうとしてたんよ。練習もたくさんしてたんよ。もう言われへんのか? 君は聞いてくれへんのか? 僕のお嫁さんになるん嫌やった? 困ったなあ。ほんま困ったなあ。 僕は君の旦那さんになりたかってんけど、それは独りよがりやったんかな。でも君も同じ気持ちや思うてたんやけど。やっぱもう答えなんて聞かれへんやろうか。しんどいなあ。
梅雨が過ぎれば君にまた会えるんちゃうやろかって思うてしまうのは、なんでなんやろうか。
雨が降れば止むのと同じで季節は巡っていくのに、君の時間は止まってしもうたなんて信じられへんよ。
骨壷に詰められる君やったもの。真っ白い骨。みんな泣いてる。僕は相変わらず泣かれへん。それでも手は震えていた。かつて僕が素肌の上から手を這わせた、その下にあった骨を今箸で掴んどるなんてやっぱ信じらへん。なんでなんやろ。わからん。わからへん。信じらへん、それしか思われへん。今も君は絶対にどこかに居てる。隠れてんねやろ? 僕を揶揄ってるんやろ? 僕が狼狽する瞬間をじっと待って、けたけた笑うてるんやろ? なあ、この冗談はほんまにおもんないよ。早う出てきてや。なあなあななあ。なあ、頼むよ。お願いやから。なんでも言うこと聞いたるやん。せやからさあ、ほんま還ってきてくれへんかなあ。
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雨の音で目覚めた深夜。悲しい夢を見た。彼女が死んでしまった日の夢。梅雨時期はどうしても彼女を思ってしまう。彼女はまだ還って来ない。
あれから長い時間が流れて紫陽花色の指輪もずいぶんと色褪せてしまったけど、いつか渡せるそのときまで大事にとっておくんだ。
しとしと降る雨の音を聴きながら「彼女に会えるいつか」を待って今宵もひとり寂しく眠る。
梅雨って気持ち悪いよね。
こんな時期に家出なんてしなければよかった。
自分が泣いてるのかも、わからないや。
まぁ、もうどうでもいっか。
泥の上を歩いていく。
梅雨
ちょっとした小雨なら、傘差さないで歩きたい
でもちょっとでも雨に濡れると髪の癖が普段よりもひどいことに…
だから私は髪の毛のために傘を差す☂️
でもそれが仕事帰りで、このあと家に帰るだけって時なら差さないかなー
もちろん、大雨の日は髪がどうとか言ってられないけど…w
今までに出会ってきた人や家族一人一人の笑顔を目をつぶって思い出してみる。すぐにキラキラした笑顔が浮かぶ人もいる。私は今、ダイアナ妃の素敵な笑顔が浮かんだ。???どうしても浮かばない人もたまにいるのは何故だろう。すぐに笑顔が浮かぶ人は、素敵な人で、良い人なのだろうなぁ。笑顔ってやっぱりいいですね。
梅雨はちょっぴり苦手
じめじめするし、気持ちも晴れない。
まるで天気に比例しているみたいで苦手。
でも、雨が降っている分君との帰り道が長く感じるから
梅雨もまぁ悪くないかも。
『梅雨』
しとしと、しとしと、雨が降る。
家路を急ぐ車の中で、ラジオが言った。
「梅雨入りですね、明日も雨になるでしょう」
ザーザー、ザーザー、雨が降る。
僕は小さくため息ついた。
まいったな。雨が降ると渋滞しちゃうんだ。
ポロポロ、ポロポロ、雨が降る。
「梅雨の空は泣いてるみたい。
泣いてるお空は悲しいの?」
チャイルドシートにちょこんと座る、幼い娘が問いかけた。
どうだろね。
存外、お空はうれしくて泣いてるかもよ。
僕は娘に語りかける。
ほら、幼稚園にあっただろ?
最近咲いた、ピンクのお花やチョウチョたち。
お空はもしか、「みんな立派に大きくなったなぁ。もっと大きくおなりよ」って泣いてるかもよ。
「うれしくっても泣いちゃうの?」
ルームミラーに映った娘は笑う。
そう言えば、娘は「幼稚園行きたくない」って泣かなくなったな。
しとしと、ポロポロ、雨が降る。
大きくなったな。うれしいよ。と雨が降る。
私は雨が好きで雨が嫌いだ、
なんでかって、それは
泣いた時に誰にもバレずに泣くことができるから、そして誰かが泣いていた時に気づいてあげられることが出来ないからだ
気づいてあげられない自分を許したくない、気づいてあげられない自分がすごく嫌で嫌いだ
だから私は雨が好きで雨が嫌いだ。
『梅雨』
梅の雨が降る季節があるらしいの。
どれかしら?
雨のように、
空からたくさんの梅の実が降ってくるのかしら?
それとも、
ひらひらと梅の花が舞い散る様子を雨に例えたのかしら?
はたまた、
梅の果汁が雨のように降り注いでいるのかしら?
「どれでもない」だなんて言わないでね。
これは空想上の『梅雨』の話。
雨だと遠出できず残念だった
今は、天気に関係なく
長年のパートナーがいなくなり
遠出はしなくなった
一緒に居た頃の梅雨は、うっとうしかった。
今は、雨だと安心…
どこか行かないとって考えなくていい。
雨だと行けないからと
自分を納得させる
舞
しとしと雨の降る夜道、会社からの帰り道。
湿った空気に混じって、甘酸っぱい香りが何処からか漂ってきた。
どこか懐かしいその香り、何の匂いだったかと記憶を辿る。
遠い昔、母が作っていた。
赤いホーロー鍋の中身を木べらでかき混ぜて、キッチンには、その甘酸っぱい匂いが充満していた。
トロリとした琥珀色、口いっぱいに広がる甘酸っぱい味にほっぺたがキュンとした。
ああ、あんずジャムか。
もう随分と食べていない、杏の時期はほんの一瞬だから。
もうすぐ暇な時間も増えることだし、こんど作ってみようかな。
玄関のドアをガチャりと開けると、ふんわりと甘酸っぱい香りがした。
テーマ「梅雨」
梅雨に入って、雨ばかりになった
でも、今年の梅雨は一味違った
何せ本物のアメが降ってきたんだ
赤色のイチゴ味、黄色のレモン味、緑色のミント味…
毎日毎日、空から色とりどりの甘いキャンディーが降ってくる
神様からのプレゼントだとか、宇宙の因果律が狂ったのだとかいろいろいわれているけど、何が原因なのかは分からない
そして梅雨が明け、
燦々と太陽が輝く夏が来た
梅雨ですね
雨が嫌いな訳じゃないけど
濡れるのが嫌
そう言っていた君
梅雨になると
会えなくなる
だけど
そんな君が好きなんです
『梅雨』
雨は気分が落ちる。
髪の毛は膨れ上がって
湿って気持ち悪いし
匂いも悪い。
偏頭痛で体調までも最悪。
だけれど
雨はなんでか
気持ちが楽になる。
体にうちつける雫が
心地よい。
暗く泣く空までも
まるで自分を見ているようで
地にうちつける雨と
零れた涙が同化する。
雨音と私の恋が
弾けて消える。
空は笑っても
私の天気は雨模様。
梅雨の時期になって、彼女はなぜか楽しそう。
「こっちは雨ばっかでうんざりしてるけど、好きなの? 梅雨」
「うん。だってお気に入りの傘をたくさん使えるから」
日傘兼用じゃないの? と問いかけようとしたけれど、ちょうど教授がやってきて流れてしまった。
家に帰ってから、授業中にふと思い出した「モノ」を探す。私は昔から雨が嫌いだったが、いつからだったろう、と記憶をぼんやり辿って、ある出来事に着地した。
「あ、った」
ピンク色のてるてるぼうずだ。小学生のとき、雨ばかりで不機嫌になった私に母が作ってくれたものだった。
『ほら、かなこが好きな色のてるてるさんよ。これをつけていればきっと晴れるわ』
今なら迷信でしかないと笑うところだけれど、当時の私は素直に言うことを聞いていた。次の日晴れなければ「お願いの力が足りなかったんだ!」なんて真面目に反省して。
それに、手のひらいっぱいの上で笑っているてるてるぼうずが可愛くて、雨の日以外でもちょこちょこつけていた。
「いつからつけなくなったんだっけな」
たぶん中学生になってからかもしれない。単なる迷信だと気づいたのか、母親の手作りマスコットなんて恥ずかしいとか、思春期にありがちな理由だったんだろう。
改めて手のひらに乗せる。記憶のなかよりも色褪せて、取り付け用のゴムは伸びてしまっているけれど、笑顔は変わっていない。
「ゴム変えればつけられそう」
口元を緩めながら、顔の部分を軽く撫でる。
もしかしたら本当に雨が上がるかもしれないけれど、あの子には秘密にしておこう。
お題:梅雨
この時期特有のひんやりした雨の日が続くと、ルーカスは落ち着かない。自分ですらソワソワしていることを自覚しているのだ、領主様やベルンにも気づかれている。元々甘い領主様が更に甘やかしてくるし、いつもなら嗜めるベルンがそれを黙認しているのだ。
だからといってそれを全面的に受け入れられるほどルーカスは子供でなかった。もう再来月には10歳になる。以前はいつか屋敷を追い出されるんじゃないかとヒヤヒヤした時もあったが、2年近く過ごすうちにそんな不安は解消された。領主様は縁もゆかりもない孤児を背負って執事見習いに雇うようなお人好しだし、ミスをしても改善するまで横で見ているのがベルンだ。仮にルーカスが屋敷を離れようとしたら、彼らの方から呼び止められることは予想付く。
その日雨は一日中降り続いた。外で体を動かしてないせいか、夜ベッドに入ってもなかなか寝つけなかった。トイレにでも行こう、起き上がったルーカスは部屋を出て壁沿いを伝って廊下を歩く。昼間はなんとも思わないのに、人の気配がない廊下が、暗闇から浮き出て見える花瓶が、誰かわからない人物画が無性に恐ろしかった。
……肌寒いのは雨のせいだ。ルーカスはそそくさとトイレに行った。部屋までの帰り道、ふと階下を見るとほんのりした光が見えた。ごくりと唾を飲み込んで、恐る恐る階段を降りた。半分ほど降りて光の方に着目すると、それは台所のあたりだと気づいた。
エルンスト様だ!途端に肩の力が抜けたルーカスは、足取り軽く残りの階段を駆け降りて、明かりの付いている台所に顔を覗かせた。
「エルンスト様!」
「うわあっ!…………って何だルーカスかあ、驚かすなよ」
振り向いたエルンストは、どうしたの眠れないの?と言う。台所には、一つ大きなテーブルがあり、四脚の椅子が並んでいる。座りなよと席をすすめるエルンストに甘え、台所に入る。
「いい匂い……コンソメ?」
エルンストが火の元で何かを煮ている。
「そうだよ、具材は何もないけどね」
ルーカスもいる?と尋ね、食い気味に欲しいと言うと笑われた。そこの棚のコンソメと後追加の水、という指示に従い自分の分のそれらをエルンストに渡す。
スープのぐつぐつした音と、ぼうとした火の音だけが台所を包み込む。
ねえ知ってる、静寂を破ったのはエルンストだった。
「夏が訪れる前のこう言う時期に降る雨のことを、とある外国では梅の雨と呼ぶんだよ」
「梅の雨?」
プルーン聞いて思い浮かんだのは、この前食べたお菓子だ。もちっとして、ちょっとカスタードの味に似ていたファ、ファー……
「ファーブルトンね」
「それだ!でも何でプルーンなの」
「えーっと……その地域でもプルーンに似た果実が収穫されるんだけど、その収穫時期がちょうど今みたいな雨が続く季節だからだよ」
「そうなんだ、雨じゃなくてプルーンならおいしいのに」
梅の雨にはもう一つ説があるのだが、母国語の読み書きを習い始めたばかりのルーカスに、表意文字と表音文字の違いや同音異義語をわかりやすく教えるのは難しかった。
そろそろか。エルンストは火を止めた。
ファーブルトンまた食べたいなあと呟くルーカスのために、明日料理人に頼んでみよう。
梅雨
たたたた たんたん たんたたん
白く煙った 空と街
霞がかった 山と塔
ゆううつそうな 人のため息
だだだだ ざんざん かんたたん
喜び満ちる かえるの歌と
濡れてつやつや 光る木々
雨音鳴らして 踊る傘
雨がしとしと降ってきた
いえ
サーサーかな
そう思っている間に
ざあざあ降ってきた
色鮮やかな紫陽花の上を
雨粒たちは
ぴょんぴょん飛び跳ねる
ぴょんぴょんぴょんぴょん
飛び跳ねる
紫陽花たちも嬉しそうに
器いっぱいに雨を抱き込んで
その色を一層輝かせている
『梅雨』より
湿気なのか気圧なのか、息が詰まる感覚が取れない。
まるで水中の中にいるように呼吸がしづらく、たくさんの錘を服につけているように身体が重い。
昔はそんな風に考えていなかったけど、今ならこれは気圧の影響だということはわかる。
だるく、重くて陰鬱。これが今の私が思う梅雨の印象だ。
あー、仕事帰りたいなぁ。