『梅雨』
しとしと、しとしと、雨が降る。
家路を急ぐ車の中で、ラジオが言った。
「梅雨入りですね、明日も雨になるでしょう」
ザーザー、ザーザー、雨が降る。
僕は小さくため息ついた。
まいったな。雨が降ると渋滞しちゃうんだ。
ポロポロ、ポロポロ、雨が降る。
「梅雨の空は泣いてるみたい。
泣いてるお空は悲しいの?」
チャイルドシートにちょこんと座る、幼い娘が問いかけた。
どうだろね。
存外、お空はうれしくて泣いてるかもよ。
僕は娘に語りかける。
ほら、幼稚園にあっただろ?
最近咲いた、ピンクのお花やチョウチョたち。
お空はもしか、「みんな立派に大きくなったなぁ。もっと大きくおなりよ」って泣いてるかもよ。
「うれしくっても泣いちゃうの?」
ルームミラーに映った娘は笑う。
そう言えば、娘は「幼稚園行きたくない」って泣かなくなったな。
しとしと、ポロポロ、雨が降る。
大きくなったな。うれしいよ。と雨が降る。
6/2/2023, 5:34:41 AM