梅雨の時期になって、彼女はなぜか楽しそう。
「こっちは雨ばっかでうんざりしてるけど、好きなの? 梅雨」
「うん。だってお気に入りの傘をたくさん使えるから」
日傘兼用じゃないの? と問いかけようとしたけれど、ちょうど教授がやってきて流れてしまった。
家に帰ってから、授業中にふと思い出した「モノ」を探す。私は昔から雨が嫌いだったが、いつからだったろう、と記憶をぼんやり辿って、ある出来事に着地した。
「あ、った」
ピンク色のてるてるぼうずだ。小学生のとき、雨ばかりで不機嫌になった私に母が作ってくれたものだった。
『ほら、かなこが好きな色のてるてるさんよ。これをつけていればきっと晴れるわ』
今なら迷信でしかないと笑うところだけれど、当時の私は素直に言うことを聞いていた。次の日晴れなければ「お願いの力が足りなかったんだ!」なんて真面目に反省して。
それに、手のひらいっぱいの上で笑っているてるてるぼうずが可愛くて、雨の日以外でもちょこちょこつけていた。
「いつからつけなくなったんだっけな」
たぶん中学生になってからかもしれない。単なる迷信だと気づいたのか、母親の手作りマスコットなんて恥ずかしいとか、思春期にありがちな理由だったんだろう。
改めて手のひらに乗せる。記憶のなかよりも色褪せて、取り付け用のゴムは伸びてしまっているけれど、笑顔は変わっていない。
「ゴム変えればつけられそう」
口元を緩めながら、顔の部分を軽く撫でる。
もしかしたら本当に雨が上がるかもしれないけれど、あの子には秘密にしておこう。
お題:梅雨
6/2/2023, 4:30:35 AM