『柔らかい雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
【柔らかい雨】
ウッドデッキに置いたロッキングチェアに腰掛けて、雨音へと耳を澄ませる。パラパラと音を立てて降る雨は、それ以外の世界の音の全てを消し去ってくれた。
この煩わしいことに溢れた世界で、それでも私がこうして息をしているのは、こうして時折降り注ぐ柔らかな雨のおかげだ。遠い昔に死んでしまったあの人が、荒れ狂う情動をもてあましていた幼い私へと微笑んで告げてくれたから。
『君が辛い思いをしている時には、僕が雨を降らせるよ。そうして君を苦しめるものは全部、まっさらに洗い流して仕舞えば良い』
水の精霊に愛された彼はその言葉通り、いつも私の周りを雨で覆ってくれた。あの人の雨に包まれるたびに、大嫌いな世界をほんの少しだけ好きになれた。
「大好きだよ、ずっと」
雨音に溶け込ませるように囁いた愛の言葉は、果たしてあの人へと届いただろうか。優しい気持ちでそっと、私は瞳を閉じた。
桜雨のこんな日は泣いたって気づかれないよ
もう考えたって分からないし生きている意味だって無い
こんな奴生きている資格だって無い
なんて何度も何度も、自分に言い聞かせたって止まれないんだ
こんな不愉快な痛みがずっと体の中で泳いでる
なんてね、全部『ウソ』
ただの夜咄。
雨の日はずっと泳いでる。
【柔らかい雨】#77
柔らかい雨は好きだった。
この頃は見かけなくなったが、
私が静かに流す涙を見つけては
共存してくれていた。
でも、柔らかい風を好きになった。
風は私に涙を流させないように、
止めてくれた。
無理をさせようとか、我慢させようとか
そういうような類の気を感じさせない。
そんな柔らかさがある風が今は好きだ。
だが、柔らかな雨よ。
私は雨のことが嫌いになったわけでない。
今は、風の方が気が合う。
それだけのことなんだ。
「はっ!私はなんでこんなところにいるんだ。私は死んだはずなのに」
私は朝、目を覚めたら何故か生きていた頃のベットで寝ていた。私は不思議に思いベットから起きて自分のスマホで今日の日時を確認した。私は言葉が出なかった。なぜなら10年前の中学卒業の日だったからだ。考えてみたら確かに今までよりも手や足が小さい。
柔らかい雨
雨は嫌いだ。雨が降ると道は混むし、匂いもきつい。雨の匂いが好きだという人も中にはいるけれど、どうしても僕はそれを好きになれないでいた。
そんな中、理想郷は完成した。雨が降らなくなった。否、雨は降っているのだ。必要なところだけに、局所的に管理された雨を降らせていた。
あんなに嫌っていた雨なのに、いざ無くなるとどこか物寂しい感じがした。
ポツポツと雨が降り始めた。綺麗に僕の周りにだけ降り注ぐ、柔らかくて優しい雨。望めばなんでも手に入る、そんな理想郷も案外悪くないのかもしれない。
しとしとと頬を濡らす柔らかな雨。
舐め取ってみると、それは妙にしょっぱかった。
▶柔らかい雨 #36
あのころの私は、
溢れてしまった弱い心を、打ち消してしまうほど
激しくうちつける雨がほしかった
けれど、
大切な人に降り注いで欲しいのは弱さを隠す雨じゃなくて
じんわりと浸透するように、
しおれた双葉がまた立ち上がれるように、
さんさんと、ただ
柔らかい雨を降らせたい
君を見ていたらそう思った
『柔らかい雨』
【柔らかな雨】
傘をさしてたはずなのに
霧のような雨粒が
横から、後ろから、
私の身体を包み込む
触れているのか
そこにいたのかも分からないくらい
優し過ぎる手で
そっと
トントンしてくれる
こんなか弱い力
あってもなくても何も変わらないはず
むしろ拒んできた存在
なのに何故か
ありもしない温もりを感じて
傘の下
私は顔を濡らした
柔らかい雨
1人で寂しいの。
でも、あなたがいてくれるから……
私は生きていられるの。
涙の数だけ強くなれるよ。アスファルトに咲く花のように。
なんていう歌が昔は聞こえていたけれど、今ではあまり聞かなくなったわね。
というか、アスファルトに咲く花からすれば、涙を流せば強くなる人間と私たち花では全然違うの。
花には水は必要不可欠。だけど人間は違うでしょう?涙を流さなくたって生きていられるじゃない。
……あら、泣いているの?
…ふふっ、私は見ていないわ。泣いてないのなら何で私は濡れているのでしょうね?
雨よりも柔らかい雨みたいね。だって、泣いていないんでしょう?
1人で寂しかったのよ。ありがとう、話し相手になってくれて。
「柔らかい雨」
子どもを見てると
雨の日は柔らかい
「大人になった」自分が滑稽に思える
煩わしいと何時から思うようになったんだろうか
泥だらけになって笑った。
私が辛い時
僕が限界な時
私/僕 達が泣けない時
代わりに泣いてくれた貴方は
本当は冷たいのに
どこか暖かくて
私を包み込んでくれるみたいでした。
【柔らかい雨】
#柔らかい雨
落ちた身体を
柔らかい雨が受け止める
全身ずぶ濡れだけど
なんだか暖かいなぁ...
#柔らかい雨
雨というものは冷たく、時に痛い。柔らかい雨など存在するだろうか。
栞は高畑に言われた言葉を思い出しながら、わずかに首を傾げた。
雨はまだ止みそうにない。傘を持ってくれば良かった。雨宿りのつもりで駆け込んだこの軒先にいつまでいようか少しの間逡巡し、携帯の時計を確認して諦めた。
「栞ちゃんは柔らかい雨のような存在なんだ」
先ほど高畑に言われた言葉。続きはなかった。ちょっと照れくさそうに笑って、「じゃあ」と3つ年上の先輩は去っていったのだ。
「雨って濡れるしあんまり好きじゃないんだよな」
つい口を尖らせてしまう。隣に同じように避難していた中年男性がチラリとこちらを見た。栞は慌てて会釈して下を向く。そして今日のことを考えた。
お姉ちゃんの友達。それが高畑を表すただ一つの表現。それ以上もそれ以下もなく、また、その他もない。
たまに家に遊びに来るから、挨拶くらいはする。
お姉ちゃんの命令でコンビニにアイスを買いに行くときに一緒に行ってくれたり、お姉ちゃんに用事があって教室の入り口でモゴモゴしていると真っ先に栞に気づいてお姉ちゃんを呼んでくれる人。
考えてみれば、高畑はいつも栞に優しい。
今日もお姉ちゃんの誕生日プレゼントを一緒に選んでくれた。
部活が忙しいはずなのに、今日なら補講で居残りのお姉ちゃんにバレないからと、駅で待ち合わせしてくれた。
そのおかげで栞は無事にお姉ちゃんのクラスで流行っているキャラクターのポーチを買うことができた。
その帰り道。栞はなんの気なしに呟いたのだ。
「なんでこんなに良くしてくれるんですか?」
高畑の答えが先ほどの言葉だった。
「栞ちゃんは柔らかい雨のような存在なんだ」
好きということなのか、嫌いということなのか。いや、嫌いというニュアンスは含まれていなかっただろう。それくらい、中学生の栞にもわかった。
どのくらい首を傾げていただろう。栞がふと気づくと、雨が止んでいた。
再び携帯の時計を確認し、走って家に向かった。走っている間は、高畑のことも雨のことも考えていなかった。
その夜、栞はお姉ちゃんに「柔らかい雨ってどういう意味かわかる?」と聞いてみた。
「霧雨のことじゃない?」
なるほど、と栞は思った。私は霧雨?
次にお母さんにも「柔らかい雨ってどういう意味かわかる?霧雨のこと?」と聞いてみた。
「国語の宿題か何か?ネットで調べてみたら?」
高畑の言葉の真意がネット上に転がっているわけなどないので、お母さんには「ありがとう」とだけ返した。
お父さんは栞が起きている間には帰って来なかった(これはいつものこと)。
寝る前も栞は高畑のことを考えた。答えが出ることもなく、意識が落ちて、そして朝になった。
中等部と高等部は同じ敷地内の隣り合わせのため、その日も栞はお姉ちゃんと一緒に登校した。
いつも通り、パン屋さんの角を曲がると高畑が待っていて、お姉ちゃんの隣に並ぶ。
高畑に変わった様子はない。昨日の朝と同じように「はよ」と短くお姉ちゃんと挨拶を交わし、栞に「おはよう」と微笑む。
お姉ちゃんと高畑は栞にはわからない話をずっとしているし、栞はわからないまま歩く。
学校に着く前に、栞は高畑に昨日のことを聞きたかった。でも、お姉ちゃんには聞かれたくない。
その日はチャンスが訪れることがないまま終わった。
わざわざ高畑を呼び出して聞くようなことではない、そう栞に決心が着くまで三日かかった。つまりはそれまで言うに言えず聞くに聞けず、栞の頭の中は高畑でいっぱいだった。
高畑に会うことはある。大体お姉ちゃんと一緒にいるし。毎朝3人で登校するのだ。それなのに2人きりで話す機会がないまま。ただ、高畑の顔、話し方、声、仕草を思い出しては懊悩し、栞の胸に高畑がどんどん濃く焼きついていった。
日曜日。高畑が遊びに来た。私服の高畑は慣れない。学校帰りに来る高畑と違う人のように感じる。栞は自分の部屋に閉じこもって、高畑が帰るのを待った。
しかし、お姉ちゃんの気まぐれはそれを許さなかった。
「栞!ちょっとコーラ買ってきて」
ドアが勢いよく開き、仁王立ちのお姉ちゃんが栞に命令した。この絶対服従の命令を聞かないと、後で酷い目に遭う。栞は「ええ……」と口の中で不満を殺すと「はあい」と立ち上がった。
「栞ちゃん、それじゃ一緒に行こう」
お姉ちゃんの後ろから高畑が笑顔で手招きをする。
「えー、高畑も行っちゃうの?自販機すぐじゃん」
「かわいそうでしょ」
「じゃあスマブラの続きしてっわ」
お姉ちゃんは手をヒラヒラさせながら戻っていった。栞は高畑に軽く頭を下げて一緒に玄関を出た。
コーラが売っている自動販売機までは数百メートル。
その間に栞は決意を持って、高畑に尋ねた。
「あの、この間言ってた……」
「ん?何?」
高畑の顔が近い。揺らぐな決意、と思いながら続けた。
「私のこと、柔らかい雨って、どういう意味ですか?」
高畑は立ち止まり、「えと……」と僅かに言い淀んだあと。
「心地良いから、ずっと一緒にいたいって意味だよ」
栞も立ち止まった。立ち止まって、振り返り、優しく笑む高畑を見て、そして、しゃがみ込んだ。
なんなのなんなのなんなのなんなのなんなのなんなのなんなのなんなの……。
なんなのかは、わかっているのに心が追いつかない。
急にしゃがみ込んだ栞に、高畑が慌てて手を差し伸べる。
「どうしたの?具合悪くなった?」
「そうじゃなくて!」
「大丈夫?」
「わ、私も!高畑さんがお姉ちゃんだったら良かったのにって、いっつも思ってました。高等部では高畑さんがキャプテンしてる女子バレー部に入るつもりだったし、私、その……」
声が徐々に小さくなり、最後は消え入りそうに「好きです」と言った。
栞は顔を伏せていたため、その時の高畑の様子は見えなかった。自分のことで精一杯だったし、いつものセーラー服姿ではないボーイッシュな格好の高畑は栞の目には眩しすぎた。
「そうかぁ」
残念そうな、嬉しそうな、そんな高畑の声を聞き、栞は面を上げた。
いつの間にか、雨が降っていた。
「ごめんね、栞ちゃん。私、実は……」
雨音が栞の耳を塞ぐ。高畑の言葉は聞こえない。
やはり雨は冷たく、痛い。どんどん、栞を濡らして体が心が頭が冷えていった。
柔らかい雨など、なかったのだ。栞は天を仰いだ。
2023・11・7 猫田こぎん
肌寒い朝 騒がしい昼
思い出した
記憶を消したらまた会えるかな
あの頃とは違うのに
あの頃となにも変わらない気がする
懐かしいと思ったけど
新鮮だとも思った
全部知っているのに
まだなにも知らないふりをした
記憶を消したら会えるかな
雨あがりの空
雪の降った朝
変わらずここにあるもの
人と会う予定があり、急ぎ目的地まで早歩き。
ポツリと脳天に何かが当たった。
以前鳩フンを被弾して以来、確認をしないと気が済まない。
おそるおそる手でさわってみる、手を見る。透明だ、ほっ。
ま、確かにもっと重たく生温かかったな。
ボタッて感じで被弾と同時に滴ってきたもんな。
こんなに柔らかく、すぐに消え入りそうな存在ではなかった。
ま、なんにせよ透明なのが有難い。
最悪予定が実行不能になるからな。
雨なら問題ない。雨でよかった、ほっ。
135 優しい融解
柔らかな雨が世界をそっと溶かしています。
お題 柔らかい雨
世界は残酷だけれども
優しさを忘れたことはないよ
言えない気持ちがたまっていく
ぽつり、ぽつりと
少しずつ、確実に
流れて消えたりなんかしないから
今日もまた、伝えることができなくて
君と離れた後に、手に持った傘を閉じた
意気地なしの僕に
柔らかい雨が刺さる
(柔らかい雨)
ポツポツと、冷たい水が顔に当たってくる。
雨だ、雨が降ってきたんだ。
早く屋根のあるところに行かないと、頭の中では分かっているのに、体は動かない。
指先を動かすことすら出来ず、もう自分は駄目なのだと悟る。
「〜〜〜!!」
遠くの方で声がして、うっすらと目を開ける。
周りには人がいて、何か叫んでいる。
心配して声掛けてくれているのかもしれない。
でも何を言っているのかは分からない。
目線を空に移す。
どんよりした雲の隙間から、陽の光がさしていて、なんだかとても綺麗だった。
冷たかったはずの雨もだんだん、温かく感じてきて、
『あぁ……気持ちが、いいなぁ。』
そのまま……柔らかい雨に打たれながら、
眠りについた。
#柔らかい雨
珍しく定時で上がれたので、ちょっとだけ寄り道。
駅前にある三階建ての本屋を上から順番にウロウロ。
学生向けの辞書や参考書、赤本を見て、遠く懐かしい学生時代を思い出す。
あの頃は、遊んでばっかりだったなあ。
クスッと溢れた笑い声を咳で誤魔化しながら、隣の棚へと移る。
出版社別に並べられた漫画本、そういえば買い損ねていたヤツがあったな、と棚を行ったり来たりして
見つけた漫画をカゴに入れていく。
ついでに面白そうな漫画や小説も何冊かカゴに入れて、下の階へ降りた。
二階は普段使いの文房具や子供が好きそうな可愛らしい雑貨に定番の事務用品が並んでいた。
多種多様な文房具を眺めている内に、普段は滅多に湧いてこない物欲が……。
余計なものをカゴに入れてしまう前に一階へ退散して、そのままレジへ向かうと、レジのすぐ側の自動ドアが開いた。
白い飛沫と滝のような轟音と共に、塾の鞄を濡らした女の子がピョンと飛び込んでくる。
キャーキャーとはしゃぐ学生の声が、激しい雨音に混じって聞こえた。
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