いろ

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【柔らかい雨】

 ウッドデッキに置いたロッキングチェアに腰掛けて、雨音へと耳を澄ませる。パラパラと音を立てて降る雨は、それ以外の世界の音の全てを消し去ってくれた。
 この煩わしいことに溢れた世界で、それでも私がこうして息をしているのは、こうして時折降り注ぐ柔らかな雨のおかげだ。遠い昔に死んでしまったあの人が、荒れ狂う情動をもてあましていた幼い私へと微笑んで告げてくれたから。
『君が辛い思いをしている時には、僕が雨を降らせるよ。そうして君を苦しめるものは全部、まっさらに洗い流して仕舞えば良い』
 水の精霊に愛された彼はその言葉通り、いつも私の周りを雨で覆ってくれた。あの人の雨に包まれるたびに、大嫌いな世界をほんの少しだけ好きになれた。
「大好きだよ、ずっと」
 雨音に溶け込ませるように囁いた愛の言葉は、果たしてあの人へと届いただろうか。優しい気持ちでそっと、私は瞳を閉じた。

11/7/2023, 8:50:58 AM