『最初から決まってた』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
最初から決まっていた貧富の差は。しかし、それに抗いもせず諦めようとするのは情けない。何事にも頑張ることがその後の経験値となるのだ。
最初から決まってた。
それが人生なら、全てを受け入れて気楽にゆくのがいい。
心はどんな時も自由なのだから、決められた人生の中で思い存分楽しめばいいのだと思う。
最初から決まってた。
誰もに平等に死は訪れる。
最初から決まっている。生まれると言うことは死ぬと言うことだ。
最初から決まってた
この恋は
必ず終わりがくること
お題『最初から決まってた』
俺が歩む人生の流れは最初から決まってるらしい。それは、物心ついた瞬間に自分が歩む人生のストーリーが全部見えてしまったからだ。
入る高校や大学は決まってるし、どこに就職するかも決まってるし、将来結婚する相手も決まってるし、子供は何人で、孫は何人、それから最期に心不全で亡くなることまで全部見えてしまった。
一時は、こんな先が見えてる人生はつまらないと思って、一生の趣味になると言われてる野球をやめてバンドを始めたり、結婚相手とは程遠いかわいいだけの女の子を狙ってみたり、本来就職する業界とはまったく違う業界に面接に行ったりしたが全部だめだった。向いてなかった。
ギターのフレットが思うようにおさえられなくて切れた弦で怪我してからいやになってライブ出る前にやめたし、かわいいだけの女の子は俺に目もくれない、受けた業界は周りのメンバーが華やかすぎて地味な俺には眩しすぎた。
そうやってようやく諦めたのが三十になる前だ。職場で主任に昇進して、気が合う一つ年上の同期と結婚を決めて、「あぁ、俺幸せだ」って悟ったんだ。ちなみにそのどちらも最初から決められてたものだった。
これからも俺は最初から流れが決められてる人生をなんだかんだ幸せだと思いながら生きていくんだろうなと思う。
最初から決まっていた。
そう自分に言い聞かせることで私の心の傷は少しだけ和らぐような心地がした。
私の手には今年の初めに買った占い本。
そしてピコンピコンと通知がやまない携帯には心配と励ましと、時々彼への批判が混じったメッセージ。
4年付き合った、私が愛を注ぎ込んだ彼との別れは
想像もしていなかったほど一瞬のことだった。
1ヶ月前から違和感はあった。
毎週のように行われる会社の飲み会。
当たり前に日が変わってから帰宅する彼。
休日が合わない私達が唯一会える平日の夜も、彼は職場の人とPCゲームの予定を入れていたっけ。
今日も仕事おそいの?ご飯一緒に食べようか。
最後にそう言ってくれたのはいつのことだったっけ。
私だって気づきたくなかった。
彼の心が他の女性に揺れていることを。
知りたくなかった。
私に嘘をついて、女性に会いに行っていたことも。
その手で他の女性に触れていたことも。
彼と女性のメールのやり取りを見つけた時、
初めて血の気が引く感覚を味わった。
見たくないはずなのに、自分でも恐ろしくなるほど冷静に食い入るようにメールを読んだ。
"裏切られた"
もうその一言だけが頭の中を駆け巡る
裏切りを問い詰めた時の彼の表情は
別れた今でも頭の中にこびりついて消えない。
ごめん。本当にごめん。
俺もこうなるなんて思ってなかったんだ。
裏切ってることも分かってた。
でもどうすればいいか分からなくて…
俯きながら辛そうな表情を浮かべてゆっくりと話す彼を
私はどんな表情で見つめていたのだろう。
私が淡々と話す姿を見て彼は何を感じていたのだろう。
別れた今となっては彼の本当の気持ちなんて分からないし、わかる必要もない。
今でも彼のことを愛おしいと感じる自分がいる。
彼のことを幸せにしたい。幸せになって欲しいと思う自分がいることを痛いほど感じている。
しかし、好きな気持ちだけではどうすることもできない事もある。
彼が自分の意思で嘘を選び、選択の繰り返しのなかで過ちを犯したのは紛れもない事実で、
それを許すと言う選択肢は今の私にはなかった。
ただそれだけだ。
私は今日も空っぽの心を抱えて生きている。
私の瞳に映る全てのものに彼との思い出という亡霊が付きまとう。
いつまでこの悲しみと絶望と喪失と…
怒りと憎しみと、嫉妬と…
XXXX年X月8日
『幻創病』について分かったことを記す。
病院でスキャニングした資料を検めたところ、この病気は『患者の無意識に抑圧された感情や記憶が化物を作り出す』病気であると書かれていた。同時期に複数の不可解な殺人事件が多発しているのも、この病気によって発生した化物の仕業であるらしい。
眉唾だと言ってしまいたいところだが、困ったことに否定できない材料を見てしまった。
……拠点へ戻る途中、霧に白く染まった空の向こうに長い何かの影を見た。それはゆっくりと旋回し私の頭上遥か高くを通過してどこかへと去っていった。ガラガラと硬い何かがぶつかり合う音が耳に残っている。
あれが病が作り出した化物なのだろう。
最初から決まっていたことだが、都市の封鎖はこのまま継続されるべきだ。
この土地に人が入るのはあまりにも危険だ。
人生は選択の連続だ、と誰かが言っていたのを今も鮮明に覚えている。
よほど倫理的に道徳的に道の外れたもので無ければ、その選択はどれもが間違いで、どれもが正解で。
自分で選んだものが実は最初から決まっていたものだとしても、後で振り返った時に「それで良かった」と思えるような生き方をしたい。
ぼくたちのやるべきこと
やらなくちゃいけないことなんて
最初から決まっていたんだ
少しだけ寄り道したけど、もう大丈夫
この先は、ぼくらだけが進む運命の道
『最初から決まってた』
何もない土地で一から村を作り上げてきた。困った人には手を差し伸べ、奪い取ろうとするものには制裁を加え、そうするうちに人々が集い大きな集落となった町には商人が立ち寄るようになった。物資や技術の流通は集落を進化させて魅力的な街となり、さらなる人々を呼び寄せた。
街をゆく人たちは自分を見かけると市長、と呼びかけ声をかけてくれる。そして次に話題にすることはみな同じ。
「また吸血鬼が出たそうですよ」
首元に牙で刺したような穴が開けられ、そして全身の血を失った人や獣の亡骸はここが小さな村だった頃から定期的に見つかっている。一度騒ぎになればしばらくの間は収まり、そして忘れられかけた頃にまた同様の事件が起こる。ここのところは被害に遭う人の数が多く、みな怖がっているようだった。
かつて村長であった頃、村長が吸血鬼なのではないかと疑いの目が向けられたときにはその目を覆い、この手にかけた。かつて町長であった頃も似たようなことがあり、似たような対処をした覚えがある。市長である今は生活する人々の多さに少し気が緩んでいるのかもしれない。
「自制をしなければいけないな」
昔に比べて少し出た腹をさすり、誰に言うでもなく呟く。誰にも聞かれることのない呟きは風に流れて消えていった。
運命なんてない。
私の人生はずっと親の決めたレールの上を走っている。
最初から決まっていた。最初から決められていた人生を歩んでいる。
好きな物、好きなこと、好きな人まで全部全部親が決めてきた。
私の人生なのに私に決定権はない。
「これはあなたのためなの。」
何度も聞かされてきたそのセリフは毎日繰り返され、私は親の言うような"いい子"に育ってきた。
ついには婚約者が現れ、私の結婚が知らされた。
そう。全ては最初から決まっていた。
「昨日といい一昨日といい、随分、強敵難題なお題ばっかり続くな……」
「最初から」って。何のネタをいつから、どういう風に決まってたことにすっかな。
一難去ってまた一難の某所在住物書きは、ガリガリ頭をかき、ひとつため息を吐いた。
なお「次」も、この物書きにとっては難題である。
さてどうしよう。
「『あらかじめ全部が事前に決まってた』、
『最後の尻尾から頭に向けてではなく、最初の頭から尻尾に向けて、順に決定していった』、
『最初から、それが簡単に予測可能で、決まっているも同然だった』。 あとは……?」
出来レース、決定のベクトル、予測容易回避不能。
物書きは今日も悩み、書き、白紙に戻す。
――――――
酷い落雷の翌日、最近最近の都内某所某支店、昼。
「やぁ、まったく、酷い目に遭ったものだ」
従業員から「教授支店長」の愛称でたまに呼ばれている支店長が、その従業員と共に、
大皿に載せたクリーム色と各自に配布した小さな紙コップに小皿を囲んで、談笑している。
「先頭の、最初の方から順調に決まっていったんだ。ただ、順調だったのは前半だけ。尻尾が一切決まらない。本当に見事なものだったよ」
彼等が食しているのは、片や土産用のたこ焼き、片や同じく土産用の明石焼きセット。
諸事情により、支店長は昨日まで兵庫に居たのだ。
用事を済ませ、予定通り兵庫で従業員用の土産を購入し、それこそ「最初から決まっていた」空港に向かい最初から決まっていた飛行機の指定座席に座り、
いざ東京へ帰還。離陸して、しばらく。
『ご搭乗のお客様へ、お知らせいたします』
目的地におけるゲリラ豪雨である。最初から決まっていた航路を離れ、飛行機は大阪の空港へ向かった。
彼の前の座席では誰かがグチグチ文句を垂れ、
横の座席では子供が不安そうに親にしがみ付いている――後ろの座席の婦人が子供の肩を叩き、飴を数個差し出した。『機長さん、どうしても皆で一緒に、大阪でタコパしたいねんて』
「で、今こうして食べ比べタコパが実現したと」
いやはや。空の逝っとけダイヤとは、きっとアレのことを言うのだろうよ。
支店長は透き通る出汁にクリーム色を浸し、ぱくり。染み渡る滋味に、幸福なため息を吐いた。
「結局支店長、兵庫に何しに行ってたの?」
「友人の二度目の結婚式の、事前準備の手伝いを」
「ファッ?!」
「私の大学と院生時代の悪友でな。今は神戸の大学で、図書館の事務職員をしている」
「教授支店長、ご友人が居た……!」
「失敬な。私のような物書きにだって、ニッチな仲間のひとりやふたり居るとも」
途中までは、トントン拍子で話が進んだよ。
式のプログラムの最初の方から、順に簡単に決まってたんだがな。問題はクライマックスから後だ。
もっちゃ、もっちゃ。次々好評に消えていく粉モンの球体と共に、支店長の話も進む進む。
「結果としてその日の内には決まらなくてな」
支店長は言った。
「私も今日、仕事がある。仕方無いから所定の時刻に、所定の空港へ行って飛行機に乗って。
そうしたら東京でゲリラ豪雨だ。ふむ」
私の昨日の収穫は、きっとこの大阪兵庫合同タコパだろうよ。 再度ため息を吐く支店長は、しかし大阪側のたこ焼きも気に入ったらしく、冷凍袋のパッケージを確認して、スマホで販売元を調べる。
「最初から決まってたことが、そのまま決まってた通りに進むとは限らないことの証左だ」
支店長は言った。
「ただ、事前に決まっていたなら『たこ焼き』の他にも『どろ焼きとお好み焼き』だの、もんじゃ焼きだの、他にも色々仕込めたんだがな……」
「どろ焼き is なんですか」
「知らんのか」
「知らないです」
「知りたいかね」
「知りたいです」
「調べたまえ。東京でも食える」
そう…最初から決まっていた
「約5分待つ」
作り手が試行錯誤して
算出された時間
私はそれをタイマーで管理し
極力厳守している
なぜかいつも蓋をしてしまう
ピッピッピッピッピッ
できた❕
羽根つきギョーザ😋
✴️112✴️最初から決まっていた
『最初から決まってた』
いつか別れが来ることは、最初から決まってた。
始まりがあるから、終わりがある。
終わりがあるから、始まりがある。
何かを得ることで、何かを失う。
何かを失うことで、何かを得る。
大事なのは、始まりと終わりの間をどのようにしていくかということなのだろう。
きっと、その過程が、別れの結果となるのだろうから。
こうなる運命だからと
何かを諦める言い訳にはしたくない
最初から決まってた道筋を
ただ辿らされてるだけなんて思いたくない
それでも
何通りの道筋を試したとしても
あの出会いにだけは辿り着きたい
会った時から決まっていた
あなたと倶に生きていくと
口笛吹くタイミングも 一緒
笑ったり泣いたりして年をとるのも一緒
最初から決まってた
「俺と一緒に働かないか。」
お酒を飲みながら仕事への思いを熱く語っていたら、とんとん拍子に次の仕事が決まった。最初から決まっていた運命のようだ。そう感じるほどに新しい仕事は楽しく、職場の人達は優しく、友人の存在は心強かった。
ただ、やりたい仕事ではない気がする。そんな小さな違和感から歯車は狂っていった。過去の経験が上手く活かせず、何度も叱責され頭が真っ白になる日々。友人の顔に泥を塗るわけにはいかない。でも自分は必要とされていない。次の転職が上手くいくかもわからない。もう死ぬしかない。これこそが最初から決まっていたことなのかもしれないと思った。
今となっては自分が何を話したのかすら覚えていない。「この病気には理解があるから安心してね。」と言う先生の声は優しく、涙が溢れそうになった。
これから何をしたらいいだろうか。自分がやりかった仕事とはなんだったのか。過去に語っていた夢や理想がふと蘇り、漠然とした思いの数々は繋がっていった。まばらに置かれた共通点のないパズルのピースが、あるきっかけによりまとまりを見せた。全ては必要だった。
外堀から埋めていったり、同系統でまとめたり、何となく置いたりして、徐々に完成像が見えてくるパズル。一つのピースだけを見つめても全ては見えてこないし、どのピースが欠けても完成しない。一見何もないようでも、完成後に美しさを引き立てる大事なピースとなる。
全てのピースが当てはまり、パズルは完成する。そう、こうなることは最初から決まっていたのだろう。
最初から決まってた
運命論、だね?この世のすべては生まれた瞬間から決定されている。
自分の意思なんてものはすべてまやかしに過ぎずなにもかもが生命の設計図であるDNAに従って動いているにすぎない。
人間なんてものは肉でできたロボットでしかない。ロボットに自分の意思なんてないし決められた行動しか取れないだろう?人間もそれと同じさ。
などとそれっぽいことを漫画のセリフ風に書いてみた。
人間の意思はその存在を証明できないけど誰もが確かにあると思っているもの、なんてのを聞いたことがある。
哲学的ゾンビとかこういう話は結構好き。無意味な思考実験とか面白いよね。
話題は変わるけど昨日は雷がすごかった。以前得た教訓から雷の音が聞こえた瞬間にパソコンをシャットダウンさせてコンセントを抜いた。
でも雷ってパソコンだけじゃなくて電化製品全部壊す可能性あるらしいね。詳しく調べてないからよくわからないけど。
なので昨日は雷でエアコンが壊れないか気が気じゃなかった。今の季節エアコンのコンセントを抜くのは難しいからな。
《最初から決まってた》
外は多少弱まる気配が出て来たけれど、まだまだ日差しも強い。
それから逃れるように、彼とリビングで冷たい飲み物で一息ついていた。
そんな時、私はふと「しりとりしません?」と言ってみた。
何となく、してみたくなったから。
彼はほんの一瞬、きょとんとしたように私の顔を見ていたけれど、「いいですよ。」とにこやかに受けてくれた。
始まったしりとりは、結構順調に進んだ。
我ながら、なかなかいい勝負が出来てると思う。
彼も初めのにこやかな表情を崩すことなく、自分の番が来ると間を置かず淡々と単語を口にしていく。
やっぱり、頭いいんだよね。
そして、15分ほど経った今。
次は、彼の番。
ストレートのアイスティーを一口飲んだ彼は、スッと言葉を上げていく。
「単刀直入」
うん、行ける。
私もアイスミルクティーを飲んで、答える。
「腕っぷし」
彼は更にテンポを上げるように、答えを紡ぎ始めた。
それには全く淀みがない。
「四方八方」
ま、まだまだこのくらいなら。
少し答えを浮かべるの遅くなってるけど、大丈夫。
「う…丑三つ刻!」
「危言危行」
え? また『う』?
「うぅ…うしかい座…」
「残酷非道」
「………ぅ」
う…うー!
気が付けば、彼の口から出る言葉は『う』で終わる物ばかり。
あれ? もしかして手っ取り早く潰しに掛かられてる?
脳をフル回転させて『う』から始まる単語を探そうにも、もう他は出し尽くして品切れ状態。
沸騰しそうな頭から残りの言葉が転がり出て来ないかなとぶんぶんと頭を振っても、何も出てくるはずもなく。
考えすぎて眉間に寄せた皺が取れないままちらりと彼の顔に目を向ければ、一見すると平静な余裕の表情。
でも、違う!平静じゃない!
余裕の微笑みに見えるけど、奥歯で笑いを噛み殺してる!
く、悔しい。悔しすぎる。
でも、その普段とは微かに違う表情を捉えられたことが嬉しくて。それも、悔しい。
まあ、これも当然。
そもそも彼は、代々皇帝に仕えてきた一族の人。その教育水準はもちろんかなりの物。
そして彼自身の真面目で努力家なところが、そのレベルを更に引き上げている。
最初から、勝負は決まっていた。
私、何でしりとりしたいとか言い出したんだろう…。
テーブルに置いたアイスティーも、かなりの汗をかいている。
私はほんの少しだけ眉間の皺を取り、小さく溜め息を吐いて両手を上げた。
「降参です。」
彼は、表情を変えることなく勝負の終わりを告げた。
「いい勝負でしたね。お疲れさまでした。貴女の集中力も切れ始めたみたいなので、ちょうど頃合いでしょう。」
そこまで見抜かれてた。だから、最後の『う』止まり攻撃だったのか。もう、ホント悔しい。
そして。…まだ我慢してる。
私は半分目を座らせて、今だ笑いを噛み殺してるような彼に言った。
「…いっそ笑ってください。我慢してるの分かってますから。」
しりとりの負けどころか、もう何度も貴方に負けている。
その悔しさからちょっとだけ拗ねた口調になってしまった。
すると、彼の余裕の表情は崩れ、眉尻が困ったように垂れ下がり、細めた目元はふわりと柔らかくなった。
そしてついと視線を私から逸らせ、緩めた頬を赤らめた。
その照れたような表情に私の視線は捕らえられ、胸が締め付けられる。
「えっと、すみません。悪気はないのですが、その、」
逸らせていた彼の視線が、一瞬だけ私へ向いた。
「一生懸命悩んで考えている表情が微笑ましくて、顔が緩みそうになるのを抑えていました…」
最後の方は尻すぼみになった、彼の声。
貴女は真剣だったので、悪いとは思いつつも意地の悪い言葉選びをしてしまいました、と囁くような言葉。
そんな事、思っててくれてたの?
あの我慢には、そんな意味があったの?
貴方の笑みに、言葉に、私は完全に不意を突かれた。
顔中が、熱い。夏の熱気なんて、目じゃないくらい。
絶対、今の私、顔が真っ赤だ。
グラスの中のアイスティーの氷が半分溶けて、カランと涼やかな音を立てた。
それに。意地の悪い、なんて言ってるけど。
気が付けば、あの連続攻撃の時、彼は自分に四字熟語縛りを課していた。
真剣に手を抜くことなく、それでも私とのハンディキャップを上手に埋めてくれていた。
もう、全部。何もかも勝てない。
多分、いつになっても。いつまでも。
「勘弁してください…本当に負けましたから…。」
彼の顔を直視できなくなった私は、赤くなった顔を見られないように両手で自分の顔を包み込み、俯きながら呟いた。
最初から決まってた
歌声には自信があった。町内会の盆踊り大会の、のど自慢では子供ながらに、いつもトロフィーを手にしていた。
カラオケで友達の前で歌う度に「瀬奈!絶対歌手に向いてる〜」と言われた。
その時々に流行する、特に若い世代に響く歌を好んで歌った。家で寛ぐ時などは、EDMもクラシックもJAZも耳障りが良くて聴いている。もちろんロックも。
母のお腹の中にいた時から、音楽は私の側にあり、まさにノーライフ、ノーミュージック。音楽に恋している高校1年生の女子である。
歌姫にも憧れがあって、母の影響か海外アーティストではホイットニーヒューストンやリアーナ、シャーデーの歌声が好きだ。日本でも、UAや椎名林檎、宇多田ヒカル、昭和歌謡の80年代アイドルも大好きだ。
解散してしまったBiSHのアイナ・ジ・エンドの歌声は親子で虜になってしまった。
たまたまTVで観ていた、カラオケの採点で王者を決める番組に「出てみれば?」の、母の一言で出演を決めた。
選んだ曲は、Adoの新時代だ。
駅前のカラオケ店に通い詰めて、99点を何度も叩き出した。歌はずっと自己流だったので、アルバイトで貯めたお金でボイトレにも通った。
本番当日。控室に通された私は、同じ高校生の出演者を目の当たりにして、少し緊張していた。
仕事だった母も会場には来れなかったので、付き添いなしは私ひとりだけだった。
歌う前は、がんばれ!わたし!と自分を鼓舞した。
出場者の中でも、取り巻きというのだろうか…スーツ姿の男性と世話役の母親らしき人総勢5人に囲まれた女子がいた。制服姿が多い出場者には珍しく、どっしりと構えた着物姿が印象的だった。
本番がスタートした。皆90点超えの接戦となった。
司会のタレントが、その着物姿の女子にだけ妙に馴れ馴れしい感じがしたのは、私だけだろか…。
その娘は、堂々とした歌いっぷりは良かったものの、抑揚があまりなくせっかくの演歌なのに少し残念な歌声だった。その娘の後に歌った爽やかな男子の、スキマスイッチの奏の方がとても響いた。
トーナメント制で勝ち抜き一騎打ちになったのは、私とその娘だった。
先発で歌ったその娘は音を、置きにいくような単調な歌声に感じたけれど、安定感というやつなのか、99.78という高得点を叩き出した。
負けたくない。私も決勝では勝負曲の宇多田ヒカルのFirst Loveを熱唱した。会場の拍手が嬉しかった。
しかし…結果は惨敗…。97.58という点数だった。
これが現実なのかな、と肩を落として帰り支度をしていた。TV局のトイレで私服に着替えて廊下に出たその時に見てしまった。
今日はありがとうございました〜とその番組のお偉いさんに、菓子折りと封筒を渡すスーツ姿の取り巻きの姿を。
控室からのそのトイレ前は丁度死角になっていた。
最初から決まっていたんだ!
なんだ出来レースだったのか…。TVの裏側と権力を見せつけられた気がした。
後で噂で聞いたが、あの娘はTVの関係者の親戚で地方の地主らしく県庁にも顔が利いて、子供の頃からのど自慢荒らしと言われて有名だったらしい。
私はどこ吹く風で、今もオーディションに通う日々だ。
返って反骨精神が宿ったらしい。
もし、この先夢が叶って有名なアーティストになった暁には、「あのタレントとエラが張ったプロデューサーの番組はNGで!」と声高らかにマネージャーに宣言するつもりだ。
がんばれ!わたし!