こっこ

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最初から決まってた


歌声には自信があった。町内会の盆踊り大会の、のど自慢では子供ながらに、いつもトロフィーを手にしていた。
カラオケで友達の前で歌う度に「瀬奈!絶対歌手に向いてる〜」と言われた。
その時々に流行する、特に若い世代に響く歌を好んで歌った。家で寛ぐ時などは、EDMもクラシックもJAZも耳障りが良くて聴いている。もちろんロックも。
母のお腹の中にいた時から、音楽は私の側にあり、まさにノーライフ、ノーミュージック。音楽に恋している高校1年生の女子である。
歌姫にも憧れがあって、母の影響か海外アーティストではホイットニーヒューストンやリアーナ、シャーデーの歌声が好きだ。日本でも、UAや椎名林檎、宇多田ヒカル、昭和歌謡の80年代アイドルも大好きだ。
解散してしまったBiSHのアイナ・ジ・エンドの歌声は親子で虜になってしまった。
たまたまTVで観ていた、カラオケの採点で王者を決める番組に「出てみれば?」の、母の一言で出演を決めた。
選んだ曲は、Adoの新時代だ。
駅前のカラオケ店に通い詰めて、99点を何度も叩き出した。歌はずっと自己流だったので、アルバイトで貯めたお金でボイトレにも通った。
本番当日。控室に通された私は、同じ高校生の出演者を目の当たりにして、少し緊張していた。
仕事だった母も会場には来れなかったので、付き添いなしは私ひとりだけだった。
歌う前は、がんばれ!わたし!と自分を鼓舞した。
出場者の中でも、取り巻きというのだろうか…スーツ姿の男性と世話役の母親らしき人総勢5人に囲まれた女子がいた。制服姿が多い出場者には珍しく、どっしりと構えた着物姿が印象的だった。
本番がスタートした。皆90点超えの接戦となった。
司会のタレントが、その着物姿の女子にだけ妙に馴れ馴れしい感じがしたのは、私だけだろか…。
その娘は、堂々とした歌いっぷりは良かったものの、抑揚があまりなくせっかくの演歌なのに少し残念な歌声だった。その娘の後に歌った爽やかな男子の、スキマスイッチの奏の方がとても響いた。
トーナメント制で勝ち抜き一騎打ちになったのは、私とその娘だった。
先発で歌ったその娘は音を、置きにいくような単調な歌声に感じたけれど、安定感というやつなのか、99.78という高得点を叩き出した。
負けたくない。私も決勝では勝負曲の宇多田ヒカルのFirst Loveを熱唱した。会場の拍手が嬉しかった。
しかし…結果は惨敗…。97.58という点数だった。
これが現実なのかな、と肩を落として帰り支度をしていた。TV局のトイレで私服に着替えて廊下に出たその時に見てしまった。
今日はありがとうございました〜とその番組のお偉いさんに、菓子折りと封筒を渡すスーツ姿の取り巻きの姿を。
控室からのそのトイレ前は丁度死角になっていた。
最初から決まっていたんだ!
なんだ出来レースだったのか…。TVの裏側と権力を見せつけられた気がした。
後で噂で聞いたが、あの娘はTVの関係者の親戚で地方の地主らしく県庁にも顔が利いて、子供の頃からのど自慢荒らしと言われて有名だったらしい。
私はどこ吹く風で、今もオーディションに通う日々だ。
返って反骨精神が宿ったらしい。
もし、この先夢が叶って有名なアーティストになった暁には、「あのタレントとエラが張ったプロデューサーの番組はNGで!」と声高らかにマネージャーに宣言するつもりだ。
がんばれ!わたし!

8/8/2024, 2:12:00 AM