『最初から決まってた』
何もない土地で一から村を作り上げてきた。困った人には手を差し伸べ、奪い取ろうとするものには制裁を加え、そうするうちに人々が集い大きな集落となった町には商人が立ち寄るようになった。物資や技術の流通は集落を進化させて魅力的な街となり、さらなる人々を呼び寄せた。
街をゆく人たちは自分を見かけると市長、と呼びかけ声をかけてくれる。そして次に話題にすることはみな同じ。
「また吸血鬼が出たそうですよ」
首元に牙で刺したような穴が開けられ、そして全身の血を失った人や獣の亡骸はここが小さな村だった頃から定期的に見つかっている。一度騒ぎになればしばらくの間は収まり、そして忘れられかけた頃にまた同様の事件が起こる。ここのところは被害に遭う人の数が多く、みな怖がっているようだった。
かつて村長であった頃、村長が吸血鬼なのではないかと疑いの目が向けられたときにはその目を覆い、この手にかけた。かつて町長であった頃も似たようなことがあり、似たような対処をした覚えがある。市長である今は生活する人々の多さに少し気が緩んでいるのかもしれない。
「自制をしなければいけないな」
昔に比べて少し出た腹をさすり、誰に言うでもなく呟く。誰にも聞かれることのない呟きは風に流れて消えていった。
8/8/2024, 3:20:35 AM