『暗がりの中で』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
夜中電気つけたら眩しいから暗がりの中で動こうとするけど、決まってどこかに何かをぶつけるんだよなあ
#暗がりの中で
人通りがほとんどない路地裏、
雑貨屋の隣にある小さな建物。
暗がりの中で1つの灯りが
今日も優しく光る。
ワタクシはここで
幸せを届けるオシゴトをしております。
なあに、
オシゴト内容はカンタンです。
上のパイプから落ちてくる手紙の中身通りに
物を包んでいけばいいだけです。
物は隣の雑貨屋さんに
全て揃っています。
制服の指定はありますが、
髪色は自由です。
たまに文字化けした手紙が落ちてきます。
その時はすぐに
ワタクシを呼んでください。
決して、
その手紙を見た後に振り返らないでください。
え?
振り返ったらどうなるのか
気になるのですか?
漫画やアニメだと
幽霊が出てきて
呪われる…。
みたいなことになりますが、
ここには怪物も幽霊もいません。
とても大きなオオカミが来て
食べられてしまいます。
それはそれは大きくて、
この建物の天上に
ギリギリ届かないくらいなのですが、
見ての通り
ここの床と天井までの距離は
1500mほどです。
ええ、もちろん。
食べられた方もいらっしゃいますよ。
なのでお気をつけくださいね。
最後に、
お帰りの際は
絶対に「夜の鳥」を利用してください。
はい、あの迷子列車です。
オオカミが近くにいた時、
家を知られてしまうと
何かと面倒なので。
それではお気をつけてお帰りください。
また明日、お待ちしております。
"Good Midnight!"
あなたの近くに行ってみたくて
奥のほうに足を踏み入れると
暗がりに迷い込んでしまったようで
当てにもならない目印を頼りに
私が右往左往していることを
あなたは知る由もないのだろう
06
それでも毎日は過ぎていく
今日は倉庫で書類の整理
入れ換える書類を抜いていると
電気が消えた
またか…
人がいるのを確認しないで
消されることが前にもあったので
暗がりの中
出口へと向かう
その時
電気がついた
「すみません」
入ってきたのはあの子だった
安心したのか
暗がりの中で怖かったわけでもないのに
涙が出た
「すみませんでした!」
慌てて駆けよって
なだめてくれようとする
その優しさに甘えたくなった
暗がりの中で
私は「傷ついた分だけ優しくなれるよ」という言葉を聞くと、複雑な気持ちになる。というか、私はあんまり好きじゃない。 なぜなら、私にとって「傷つく」というのは優しさに繋がるものではなく、ただただ深く、終わりなく傷が増えるようなものだったからだ。
同じような苦しみを持つ人を見れば、心の奥に劣等感が反応して、「自分の方が不幸だ」と張り合おうとしてしまう。そして自分とは違う境遇の人を見れば、その人の不幸を見下し、自分を保とうとする。自分の心が荒れ果てた乾いた土地なのに、一滴の水すら吸収できない、そんな枯渇した状態なのが分かる。たとえ一粒の涙がこぼれたところで、乾いた心には届かないのだ。
私の中には余裕もなかった。もし空腹のときに目の前に食べ物があれば、きっと他人に分ける余裕もなく奪ってしまうだろう。そして、残るのは罪悪感だけだった。くだらない虚栄心や嘘、陰口といった些細な行動が、じりじりと自分の心を蝕んでいく。転がる石は止まり方がわからない。私は「傷ついた分だけ優しくなれる」どころか、「もっと傷ついてきたのに!」と周囲に主張して、また他人を傷つけてしまうのだ。
これを言葉にして表現すると、なんだか幼いように感じられて、自己嫌悪や恥ずかしさが湧いてくる。それでも、正直なところ、これが私の中にある感情そのものだ。
それでも、「傷ついた分だけ優しくなれる」という言葉に、どこかで惹かれてしまう。たとえ自分にとっては難しく感じられても、信じていたい気持ちがあるのだ。
私の人生の暗がりといえば、職を失い、病気になり、頼りにしていた人に別れを告げられた時期だった。お金も底をつき、未来が真っ暗に見えていた。何もかもが空虚で、不安すら感じられないほどだった。誰にも何も言わず、ただ死ぬタイミングを考えていた。そんなとき、友人がそばにいてくれた。
その友人は、私よりも多くの死別を経験し、早くに自立していた。彼女自身も望まぬ不条理を背負っていたけれど、それでもそこから滲み出る魅力があった。同年代には持てない深みと余裕が彼女にはあったのだ。そして、彼女が私に「生きていればそれでいいよ」と言ってくれた言葉が、私の心に深く届いた。まるで心臓が身体の奥底に落ちるような感覚だった。
友人は、ただ私の存在を受け入れてくれていた。彼女の傷が、彼女の言葉と佇まいのすべてに滲み出ていた。私はただその存在に感謝しても仕切れなかった。そして、友人が乗り越えてきた痛みが、確かに私を癒してくれた。あの日、私はその友人や同じように痛みを抱えた人に、心から優しくしたいと思った。自分の未熟さを痛感して泣いた。
人生の暗がりの中で、誰もが傷つく。傷つかないほうが良いし、苦労しないならそのほうが良いに決まっている。けれど、望まずに刻まれた傷が、思いもよらない形で他人を救うことがあるのだろうと思う。
「傷ついた分だけ優しくなれる」という言葉を、本当は心の底から言える自分になりたいのかもしれない。まだどこかで反抗してしまう自分がいるけれど、暗がりの中で、あの日の友人のように、私は誰かに静かに寄り添える人でありたいと思うのだ。
2024.10.28 エッセイ-暗がりの中で
・4『暗がりの中で』
その時部屋が突然暗くなった。停電か?と思ったが
ヤツが消したようだ。
なんのつもりだと問おうとしたが
言葉は出なかった。
小さな沈黙がとても息詰まるような静寂になり
俺の反対は封じられてしまった。
そしてソファーに座っていた俺の腕を迷うことなく掴み立ち上がらせると背中に腕をまわされ肩に頬が乗せられた。
そのまま無言のまま玄関に追いやられた。
【続く】
暗がりの中で
これはもう、人生経験対人経験共に少ない私からすれば、怖い系か色恋系でしょうよ。
こう見えて(どう見えて)見えないものが見えます的な能力は持っていません。
しかし、小さい頃から不思議な夢を見たりはしていました。
その中の一つが私の奇行の一つに関係しています。
幼稚園に通っていた頃、夜は押入れの上段に布団を敷いて寝ることを好んでいた私は、田舎暮らしで街灯もない外の闇と、戸を締め切った真っ暗の押し入れの中に慣れているせいか、見えない闇の怖さをあまり感じていませんでした。
そんな中夢で見た光景。
それはまさに【蠢く闇】が適当でしょうか。
暗い押し入れの中に仰向けに寝ているのに、見えるのは天井ではなく何かが蠢く黒の空間。
人っぽい感じもしますし、草木が揺れているようにも思えました。
大人になった今思い出すと、暗闇の中でさらに深い闇が蠢いているんです。
怖さはなくなんだろうなぁくらいに見ていると、視界の隅で手が左右に振っているんです。
まるで道端で少し前から知り合いが歩いてくるのに気が付き、こっちだよと気づかせるかのように。
しかもそれは、ちょうど私の右手のすぐ先で振っている。
これはこちらも振り返した方がいいかなと思ったところで気づきました。
身体が動かないんです。
視線だけは動かせますが、見えるのは蠢く闇と振る手。
でも怖さはない。
それらと対峙しながらいつしか眠くなり、夢の中で眠りへ。
次の気づいたのは朝。
押し入れの引き戸の隙間から明かりが差していました
そんな話を朝ご飯を一緒に作りながら祖母に話すと、またお前は変なこと言ってと怒られて終わり。
まあ夢の話ですし、現実ではないでしょうからね。
暗がりの中で蠢くものは、そしてこちらを意識するかのようなあの手は、夢だったのかそれとも……。
暗がりというよりは暗闇でしたね笑
思いのほか長くなったので、色恋系のほうは他の方にお任せしておきましょう。
ここはどこ?ずっとずっと光のない道を彷徨って彷徨って彷徨って、考えても考えても私の道なんて見つからない。答えのない問いばかりが、ぐるぐるぐるぐる頭の中を回ってる。誰かの道を見つけては縋って縋って縋って、空っぽの自分を隠したくて、でもそれにも限界がきて、またそれの繰り返し。
なんとなく周りの音も色も薄くなってきて、何もしない日が多くなって、ただただ無気力になっていく。このままじゃいけないって踠いて踠いて踠いても抜け出せなくて、どこかで諦めてる自分もいて。
人に疲れたのに人に依存して、またどこかで人に期待してる。人に縋っているときだけは、その人の一筋の光の道を歩き自分は大丈夫だって安心する。でも自分を抑えられなくなってまた戻るんだ。
私は私を探して歩く。縋って、踠いて、みっともなくたってずっと、この「暗がりの中で」
『暗がりの中で』
20241029
布団を頭まで被り目をぎゅっと瞑る。
...ダメだ。やっぱり寝れない。
諦めて目を開けて真っ暗な世界を見つめる。
布団から手を伸ばしスマホを手探りで探す。
いつもの手触りを見つけ布団に引き込む。
スマホは布団の中の世界を眩しく輝かせる。
...目が痛いから優しい明るさに設定する。
特に興味のない内容の投稿を流していく。
晒し系、惚気話、愚痴...
みんな各々のことを呟いている。
...あんまり興味が無い。
薄い内容ばかりであくびが出てきた。
このまま眠れそうだ...
布団の中の世界はまた暗くなる。
朝まで眠れると...いい...な。
語り部シルヴァ
〈暗がりの中で〉
私は閉所恐怖症だ。特にエレベーターが怖い。どのエレベーターが怖いかと聞かれると、私は必ず上る時や下る時に照明が消えるエレベーターだと答える。
あの上っていると分からせる重力に加えて、暗闇で見えない状態になると、動悸がする。
最近のエレベーターはそんな仕様はない。少なくとも、今まで見たことはない。ただ、幼い頃、テーマパークへ遊びに行き、泊まるホテルのエレベーターがその仕様だったのだ。幼い私は「怖い」という感情を上手く伝えることができず、泣きながら過呼吸になった。それ以来、エレベーターを使う度に緊張するようになった。
「じゃあ、上村頼んだぞ」
上司からそう言われ、大手の芸能事務所へ足を運んだ。
私はぺこりと頭を下げ、会社の外で待っているタクシー運転手に行き先を伝え、流れる景色を窓から見ていた。
契約を結ぶというのは、子どもの頃の指切りげんまんのような軽いものでは決してないことに気づいた。そんなのは、当たり前だが、今まで順風満帆な生活を送ってきた私は、社会人として少し世の中を舐めていたのかもしれない。エレベーターを除いて。
「着きましたよ」
運転手の声ではっと気が付き、経費で払い、目の前にそびえ立つ事務所に圧倒された。今や世界を握る事務所との契約を任されたという自覚が、今になって引きずる。
事務所に入り、カウンターで受付を済ませ、待っていた担当者と挨拶を交わした。
40代、いや50代くらいだろうか。白髪交じりの高身長な男性は、年齢が娘でもおかしくない私でも物腰の柔らかい対応をしてくれた。
「では会議室は12階にあるので」
その一声で背筋が凍る。
大丈夫だ、今まで数々のエレベーターを乗ってきたが、照明が暗くなるエレベーターとはあったことがない。
大丈夫、大丈夫。
私は心の中で言い聞かせ、担当者と一緒にエレベーターに乗った。
案の定、暗くならない仕様のエレベーターだったようで、安心する。
これなら大丈夫だと私の脳も認識したようで、私から担当者に、最近勢いのあるアーティストについて話しかけた。お互い同じことを考えていたようで、意外にも盛り上がり、担当者と束の間の談笑を楽しんでいる中で、急にエレベーターが止まった。
照明が落ち、真っ暗になった。
「あっ、止まっちゃったかな?」
担当者は冷静にスマホを取り出し、ライトを付け、エレベーターの緊急事態ボタンを押した。
しかし、そんな冷静な担当者とは、反対に私は息苦しくなった。何とか耐えてたつもりだったが、私の乱れた吐息に気づいたのか、担当者が私の顔をのぞき込む。
「もしかして閉所恐怖症ですか?」
図星を突かれ、どうすることもできない私はこくこくと頷くことしかできなかった。
「大丈夫ですよ、私の妹も閉所恐怖症なんで。対処法は知ってるつもりです」
そう言い、ゆっくり呼吸するように促された。
この3ヶ月半、このプロジェクトのプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
だが、やると決めたからには必ず結果を残さなければならない。
学生気分でいたら恥ずかしい。と自分で喝を入れ、何度もリサーチやマーケティングに励んだ。
今日初めて会った人とは思えないが、担当者の柔らかい声に意識が遠のいていった。
何も見えない暗がりの中で。
手探りの中、温もりと質感のある、いわゆる『生きた何か』に触れたならば。
それはある意味、幽霊よりこわい。
それが人肌であるなら、なおさら怖い。
暗がりの中で、君と。
いつまでもいられたらいいのに。
暗がりのなかで
誰にも助けて貰えない、誰も助けてくれない
逃げ道もない、逃げ道を塞がれる
自分が分からなくなる、自分を見失う
そんな暗がりの中で
誰かが手を差し伸べて、絶対に離さず繋いでてくれるのを
ずっと、ずっと、
待っている
誰か、この暗闇から、鎖から、
「助けて」
暗がりの中で求めた光
ほんのわずか小さな光でも
足元を照らしてくれる
この暗く前も後ろも横も分からぬ世界で
私に前に進む勇気をくれるもの
光はなんだっていい
物でも人でも言葉でも
自分の空想で創り出した存在しないものでも
私が前に進むきっかけになるのなら
それは素敵な宝物
私を私でいさせてくれるもの
ろうそくの火がほんの小さな風で消えるみたいに
光もそっと急に消えるかもしれない
目の前に崖があって、光がないと越えられない時
その瞬間かもしれない
光がいつまでも自分を照らしてくれてるとは限らない
光が照らしてくれているうちに少しでも前へ進む
貴方の世界に暗闇の世界が訪れたとき
きっと一筋の光があなたの元へ舞い降りて来てくれる
自分はずっと暗闇の中にいて、光なんて存在しない
と思っていても、よく周りを見て欲しい
ちっぽけだけど必ず貴方を照らしてくれる光があるはずだから
暗闇だけど世界を広げてみたらどこか遠くかもしれないけれど小さな光が見つかるかもしれない
世界を狭めていたら見つかる光も見つからない
こちらから目を塞ぎ込んでいたら照らしてくれているのにも気付かない
結局自分から行動しなければ何も変わらないのだ
暗い世界で前に進めない人が
光を見つけて前に進み出せますように
暗がりの中で
怖いと怖いとずっと
怯えています。
誰か私を認識して。
人間の形が保てないんです、
暗い暗い影は
暗闇が嫌いだった。
おやすみなさいと挨拶したあとで
湿布をし忘れたことに気づき
暗がりの中冷蔵庫まで辿り着いた
目が完全に闇に慣れてから
湿布貼るのに電気つけないと意味ないことに気づき
今度はまぶしいと思いながら
湿布をして
自室に帰って寝るところです
みなさん、良い夢を
暗がり中で
〜はてしない物語の後に〜
バスチャンは虚無との戦いに敗れたのか、アトレーユもその白馬も憂いの沼に生きるモーラもファンタージェンも虚無によりバラバラに破壊されてしまったようだ、沈黙が支配した。子供たちは夢を見なくなった物語を馬鹿にして笑うようになった、バスチャンはそんな中で、ひとり屋根裏部屋で黴臭く分厚い古書を広げ夢想の世界を旅する孤高の少年であった、だから選ばれたアトレーユと旅をしファンタージェンを守り想像する、おわりのはじまりになる少年として、今バスチャンは砕け飛んだファンタージェンがあった場所で虚無に包まれ暗がりの中で涙をふいていた。
遠くに光が見えた、バスチャンは光に吸い寄せられた、どれくらい時間が流れたろうバスチャンは暗がりの向こうに小さな光の塔を見つけた、そして「バスチャン、バスチャン」と名を呼ばれたバスチャンは光の塔へと歩み、そこでファンタージェンの王女幼心の君に出会う、「どうして、僕なんかを選ばれたのです」
「僕はなにも出来ずに、ファンタージェンを虚無に奪われてしまいました」肩を震わすバスチャンに幼心の君は言った、「いいえ、あなたがいるじゃないですか」「誰もが見捨てる、埃のかぶった古書を開き私たちと旅したあなたが」「あなたが、はじまりの子供になってください、どうか私に名を、そこから新しい物語がはじまるのです」バスチャンは幼心の君に母の名を贈った、そこからまた新しい物語がはじまるのです、暗がりの中に誰かが光る名前の種を蒔く種はやがて芽吹き花をつけ実をつけ、その花の名前が広がって行く、物語はそうしてはじまりました。
あなたの物語を描きましょう。
バスチャンはファルコンに乗り、子供のふりをした独居老人と悪魔が住む森に飛び、今まさに虚無と手を結び世界を闇と暴徒と自分本意な多様性とか寄り添うとか優しくありたいとか言いながら実は画一的独裁で、自由な夢想や物語を禁じて魔女狩りのような子供たちをつくろうとする、独裁独居の子供のふりをした老人と悪魔に竜巻を送りました、老人と悪魔はバスチャンが起こした竜巻とファンタージェンの新しい朝の光に吹き飛ばされ十字架の刻印を胸に受け消滅してしまう、その最後の命の瞬きに、バスチャンはまた新しい名を与えました、独居老人の最後の命の光の瞬きは、まだ微かに灯っており、また新しい名を与えられて光はじめるのでした。
子供のふり若者ぶっても分かります、下手な若者言葉身についてません、背中は人生を語り、あなたの歳を伝えます、伝える力がある背中を持ちたいです、その時こそ子供時代は良かったよねと、ファンタージェンは素晴らしかったねと語ってください、私は今こそ語りたいと思います、「大人こそ夢を語れ!」
寂しい独居老人バレバレでは悲しいです、大人は子供のふりは出来ません、拗ねてみても、時間は待ってくれません、扉を開けるのはあなたです。
はてしない物語の後に…
令和6年10月28日
心幸
暗がりの中で、息を潜める。天井から垂れ下がったカーテンと草の隙間から、通路をうかがう。
通路の向こうから、男女の2人組がやってきた。カップルだろうか。やりがいのある相手だ。
彼らが私の目の前を通り過ぎようとしたその瞬間――
「おいてけぇ〜〜腕おいてけぇ〜〜〜!!」
叫びながら通路へ上半身を乗り出す。
「キャーーーーーーーーーーッ!!」
2人は怯えて身を寄せ合い、女子の方は甲高い悲鳴を上げてくれた。
私の右腕は今、ズタズタに切り刻まれている(ように見えるよう絵の具で描いた)し、顔は墓場から出てきたような土まみれ(に見えるメイク)で、我ながらかなりおどろおどろしい格好だ。そう、私は今、文化祭のお化け屋敷でお化け役を演っているのだ。
クラスメイトから“片腕おいてけ婆婆”と名づけられたこの役を、私はかなり楽しんでいた。
私が何かすれば、客が即リアクションを返してくれて、実に痛快だ。ここはお化け屋敷ゆえ、客も驚いたり怖がったりすることを前提で入ってきてるので、どんなリアクションが返ってきても罪悪感がないのもいい。客は、カップルだったり友達だったり兄弟姉妹だったり、バラエティーに富んでいて、それぞれ表情も少しずつ違って全然飽きない。
また通路に現れた客を虎視眈々と狙いながら、天職見つけちゃったかも、なんてアホなことを考えてしまう私だった。
観客のまばらな映画館だった。
古い映画のリバイバル上映。
公開当時はかなり人を集めた映画だったが、日々新しい作品は作られる。
撮影技術や演出も古臭くなり、出演している俳優もその名前を知る人は少なくなり、それでも名作とされているが故に何度目かのリバイバルとなる。
私はシートに身を沈め、聞き覚えのあるセリフ達を、聞くともなしに聞いている。
…いつの間にか眠ってしまったようだ。
映画は続いている。
このシーンもよく覚えている。
主役の少年の恩師でもある高校時代の担任が、校舎の屋上から大きく手を振るシーン。
大声を張り上げて、校庭の生徒達に別れを告げている…はずだが、声が聞こえない。
あれ?音響設備の不具合かな。
客が少ないからって、このまま上映を続けるつもりじゃないだろうな。
そう思って周りを見回すと、観客は誰もいない。
数人はいたはずだが…眠ってる間に出ていったのか?
スクリーンに目を戻すと、件の担任教師が、校舎の屋上から飛び降りるところだった。
…いや待て。こんなシーンは無かったぞ?
もう何度もこの映画は観てる。
こんなショッキングなシーンがあったら忘れるはずがない。
卒業してゆく生徒達に向かって、担任の先生が「頑張れよ!」とエールを送る感動的な場面のはずだ。
カメラは、落下してゆく教師を追いかけ、耳を塞ぎたくなるような音を立てて、地面に叩きつけられる瞬間を映していた。
「こんな映画じゃなかったですよね」
突然、背後から声をかけられ、慌てて振り返る。
さっきまで誰もいなかったはずの真後ろの席に、男が座っている。
暗がりの中で目を凝らすと、それは、スクリーンの中で校舎から飛び降りた担任教師だった。
いや…教師役の俳優と言うべきか。
「私も反対したんですがね。こんな脚本は良くないと。監督がどうしても聞き入れてくれなくてね」
状況が分からない。
何が起きているのか…この暗がりの中で…スクリーンにはエンドロール。
「この中に、私の名前、見つけられますか?」
この役者の名前…確かに、覚えていない。
「どんどん忘れ去られてゆくんですよ、私達は。単なるお芝居の中の登場人物として、存在していないものとして」
何の…話だ?闇が濃くなってゆく。
出口は…どこだ?
エンドロールが終わり、暗転。
しばらくして、照明が灯る。
後ろの席には、誰もいない。
だが、周りの席にはちらほらと観客が座っている。
元に…戻った。
何だったんだ、今のは。
映画の途中で眠ってしまって、夢を見たのだろうか。
それ以外に考えられない。
あの教師が地面に叩きつけられる音が、耳に残されている。
そんなシーンは無かったはずなのに。
映画館を出て、スマホであの役者を調べる。
…数年前に亡くなっていた。
そして、今日が命日だという。
死因は明かされていなかったが、あの音が耳から離れない。
そういえば、こんな名前の役者だったな。
「名前、覚えたよ…いや、待てよ」
映画のタイトルで検索して、彼が演じた教師の役名を調べる。
「覚えておいて欲しかったのは、こっちの名前なのかもしれないな」
あの、全身全霊で演じた、彼の代表作。
また、リバイバル上映されることがあるなら、きっと観に来るだろう。
彼の熱演が、忘れ去られることのないように。
人々の記憶の中で、葬り去られることのないように。
暗がりな中で
叫び続ける
なんで!どうして!なぜ私!?
誰もわかってくれない理解してくれない
心が明るくなれないずっと閉ざしてるから暗い
作り笑いも疲れた
スマホで気晴らし
我に返るのが怖い
ずっと探してる光の明るさを
私の光はどこにあるのかな…
誰かに聞けばわかるのかな…
何処かに行けば見つかるのかな…
無い無い無い無い無い
暗がりにいる自分を救い出せるのは私しかいない
待ってて、時間はかかりそうだけど絶対救い出せるから
暗がりな自分の中の私