暗がりの中で、息を潜める。天井から垂れ下がったカーテンと草の隙間から、通路をうかがう。
通路の向こうから、男女の2人組がやってきた。カップルだろうか。やりがいのある相手だ。
彼らが私の目の前を通り過ぎようとしたその瞬間――
「おいてけぇ〜〜腕おいてけぇ〜〜〜!!」
叫びながら通路へ上半身を乗り出す。
「キャーーーーーーーーーーッ!!」
2人は怯えて身を寄せ合い、女子の方は甲高い悲鳴を上げてくれた。
私の右腕は今、ズタズタに切り刻まれている(ように見えるよう絵の具で描いた)し、顔は墓場から出てきたような土まみれ(に見えるメイク)で、我ながらかなりおどろおどろしい格好だ。そう、私は今、文化祭のお化け屋敷でお化け役を演っているのだ。
クラスメイトから“片腕おいてけ婆婆”と名づけられたこの役を、私はかなり楽しんでいた。
私が何かすれば、客が即リアクションを返してくれて、実に痛快だ。ここはお化け屋敷ゆえ、客も驚いたり怖がったりすることを前提で入ってきてるので、どんなリアクションが返ってきても罪悪感がないのもいい。客は、カップルだったり友達だったり兄弟姉妹だったり、バラエティーに富んでいて、それぞれ表情も少しずつ違って全然飽きない。
また通路に現れた客を虎視眈々と狙いながら、天職見つけちゃったかも、なんてアホなことを考えてしまう私だった。
10/28/2024, 12:20:55 PM