『明日、もし晴れたら』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
長く続いた雨も終わり、久方ぶりに見る青い空に目を細める。
恵みの雨とはいうものの、雨空が続けばやはり晴れの空が恋しくなるのだろう。贅沢なものだと苦笑して、去っていく黒い龍を見送った。
「雨は過ぎたのか」
「おや、珍しい」
常世の彼の訪れに、何かあったかと首を傾げる。相変わらず眉間の皺が濃いが不機嫌さはなく、どこか困惑したその表情は滅多に見た事がない。
「明日の朝。晴れたのならば、生まれた子に言祝いでやれ」
「何だそれは?そんなの、宮司がやる事だろう」
「先日流れて来た者らがいるだろう?そこの子だ……おそらくは双子となる」
意味が分からない。双子を忌むものとする慣習がある事は知っているが、この村にはないはずだ。外から流れて来た者だという事を踏まえてもだ。
変わらず彼は眉間に皺を寄せたまま。村へと視線を向け、静かに息を吐いた。
「妖が人間として生まれる事は可能だと思うか?」
何を言っているのか。それは常世に在る彼が誰よりも知っているだろうに。
「人間が妖に成る事はあるだろう。鬼、蜘蛛…全ては人間の強い情が転じて成ったものだ……ならば妖が人間として生まれるには、その為に何を転じるというのか」
「そうだね。自らの存在を変えてしまう程の情を妖は持てないから、そんな事はありえないよ」
そういう事か。
彼が現世に来た意味。生まれる子に「おそらく」と言った意味。生まれる子らに言祝げと言った意味。
人間。妖。生きる者。在るモノ。姿は似せれど、決して同一にはならないもの。
明日生まれてくるのは、人と妖だったもの、か。
ならばそれを可能とするのはやはり。
「けれど人が強く望んだとしたら。願い、祈ったとしたら、それはあり得ない事ではないのかもしれないね。妖とは人の望みに応え、在るモノなのだから」
「そうか……本当に恐ろしいな、人間は」
眉間の皺が濃くして納得したように頷くその姿に、思わず笑みが溢れる。気づかれぬようさり気なく視線を逸らし、そのまま何気なしに空を見上げた。
快晴。明日はきっと朝から晴れてくれるだろう。
「初めての事だ。どうなるか分からん。生きるか、死ぬか…人の形を取れるかも怪しい」
「大丈夫さ。明日は晴れの日だからね。しっかりと言祝いであげよう」
「そうだな。頼む…守ってやってくれ。此度の生は、愚かな龍に煩わされる事のないように」
そうか。還ってきたのか。
あの男ならばやりかねない、と耐えきれずに声を上げて笑う。最期の時まで妖を想い、在り続ける事を望んでいたのだから。
「頼まれた。あの二人の為だ。励むとしようかな」
面倒事ではあるが、仕方がない。
強く頷いて、彼らのこれからを祝福した。
20240802 『明日、もし晴れたら』
《巡り逢うその先に》
第2章 11
主な登場人物
金城小夜子
(きんじょうさよこ)
玲央 (れお)
真央 (まお)
綾乃 (母 あやの)
椎名友子 (しいなともこ)
若宮園子 (わかみやそのこ)
大吉 (だいきち)
東山純 (ひがしやまじゅん)
向井加寿磨 (むかいかずま)
ユカリ (母)
秀一 (義父)
桜井華 (さくらいはな)
大樹 (父 たいじゅ)
高峰桔梗(たかみねききょう)
樹 (いつき)
葛城晴美 (かつらぎはるみ)
犬塚刑事 (いぬづか)
足立刑事 (あだち)
柳田剛志 (やなぎだたかし)
桜井大樹(さくらいたいじゅ)
横山雅 (よこやまみやび)
京町琴美(きょうまちことみ)
倉敷響 (くらしきひびき)
黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)
海江田
自転車業界を狙った詐欺事件の被害者達は店を取り戻すために団結し、2週間後に弁護士を交えて話し合うことになった。
サイクルショップ田中の社長はあまりのショックから、胃潰瘍を再発させ、小夜子に全てを任せることにした。
椎名友子はバイト先の社長(小夜子のおじいちゃん)の計らいで小夜子の手伝いをバイトしてすることになった。
そして2週間後、東京へ出発することになる。
桜井華は父殺害の証拠を手にできず、しかも、黒鉄銀次と繋がりのある海江田まで殺害され落ち込んでいた。
「桜井どうした。落ち込んでるヒマなんかないぞ!」
「犬塚さん、福島への出張お疲れ様でした。何か掴めましたか?」
犬塚は福島で会った少年が、華の父の生まれ変わりであることを伝えたかったが、“華には言うな”と硬く口止めされたために言えずにいた。
その時、高峰桔梗から連絡があり、チンピラ風の男が華に会いたがっているというので、待ち合わせ場所に向かった。
「華さんこの男です」
「どうしたんだ、傷だらけじゃないか」
「そんな事はどうでもいいんだ。あんた、兄貴のカタキを取ってくれるかい」
「お前、海江田の舎弟か?」
「ああ、兄貴はこうなる事がわかっていたのかもしれない。出掛ける前にコイツを俺に預けたんだ。
何かあったらコイツを桜井っていう女の刑事に渡せって」
それは、ジップロックに入った血の付いたナイフだった。
「これは、まさか」
「これがあれば、黒鉄さんを死刑にできるらしいぜ」
「ありがとう、よく持って来てくれた。病院まで送ろう」
「よしてくれ、これ以上マッポと関わるのはゴメンだ」
「そうか、わかった」
「おっと、忘れるところだった。
自転車業界の詐欺被害者達が団結して東京で集まるらしいが、黒鉄さんはそいつらを個別に襲って解散させようとしているようだぜ」
「という事は黒鉄銀次も東京に居るってことか」
華と桔梗は署に戻り犬塚刑事に報告をした。
「でかしたぞ桜井、高峰。早速ナイフは鑑識に回せ、俺達は東京に向かうぞ」
「私も同行させてくれませんか?
東京には弟がいます。そこを拠点にして動けると思います」
「いいだろう、高峰も来い」
こうして、桜井華、高峰桔梗、犬塚刑事は東京へと向かった。
犬塚はこの事を柳田少年(桜井刑事の生まれ変わり)に話すべきか悩んだが、言わなければ後でこっぴどく怒られると思い連絡することにした。
「わかった、知らせてくれてありがとう。俺も東京に向かうあっちで合流しよう。車を1台回してくれ」
「それはできません。どんな理由でパトカーに小学生を乗せて東京まで連れてこさせるんですか?」
「それもそうだな、なんとかするしかないな」
隣りで聞いていた横山雅が話しかけてきた。
「剛志、どうやって東京に行くの?」
「それが問題なんだ、何かいい手はないか?」
「私も一緒に行っていいなら、私がお金出すわよ」
「そんなお金よく持ってるな」
「そんなの妻として当然でしょ。
玲央・真央のお姉ちゃんと一緒に行きましょう」
こうして、剛志も東京へと向かうことになった。
京町琴美と倉敷響は東京に戻り響の父の病院で、昔のカルテをデータ化するアルバイトをしていた。
「響、このカルテちょっと見て」
「どれ、鬼龍院加寿磨って福島の金城小夜子さんの探している相手じゃないか。この病院に通ってたのか」
心療内科の担当医はまだこの病院にいたので話しを聞いたところ、強いショックを受けたことにより、記憶を封印してしまったのではないか?とのことであった。
また同じような強いショックを受けると記憶が戻る可能性があるが、医師としては容認できないとのことであった。
そして、向井法律事務所が中心となり、自転車業界詐欺事件被害者の会の弁護団が結成され、加寿磨は高峰樹とともに義父の手伝いをすることとなった。
第2章 完
『明日、もし晴れたら』
初めて鍵盤に触ったあの日から、数日が魔法のように過ぎていった。またあのピアノを触りたい。でも、何故か
それよりも朝日さんに会いたいう思いが強かった。
次にもしあのお店に行けるとしたら、明日が本命と言ったところだ。いつも通りすぎていく日々を変えたくて。私は運試しをすることにした。
明日、もし晴れたら―[朝日さんのお店に行く。]
自分と約束するように私は呟いた。
晴れますようにと願いながら、私は眠りについた。久しぶりに早く明日にならないかなとドキドキした。
《朝からの使者》EP.1.5 期待
明日、もし晴れたら
「空を見上げてみてください」
以下のふざけた話は、数年前に私が死に損なった時のものである。
「その、私はですね、貴方が言うところの神様と呼ばれる者なんですけど」
「いや、取り込み中なの分かりますよね? あと、『なんですけど』で止められても、だから何なのかが分かりません。それから自分に『様』をつけるのは」
「すみません、言い直します。私は貴方が神とか天使とか、そういったものに対して抱いているイメージをなるべくその…具体化するように命じられている者です。そして、貴方のような方を『次の場所』に案内するのが仕事でして」
「納得しました」
かれは「降りて」きた。
此処は自宅のすぐそば、私の住む三〇一号室すぐ上の屋上である。
柵に腰掛けた私の目に、階段の途中で潰れている私が見える。柵を乗り越えて自宅まであと三段の位置に落ち、動かなくなった私が。
月の明るい夜だった。
「何と申し上げればいいか」
「いや、お気遣いなく」
私は泥酔しており、かつ今日は、いやだいぶ前から死にたかった。だが何と言うか、もう少しうまくやれなかったものだろうか。
「…せめて道路に落ちろよとは自分でも思ってますけど」けどで止めてしまった。
大家さんはご高齢で、いつもにこやかな女性だ。「優しかった方の祖母」を思い出す。そんな方がすぐ下に住んでいるビルを事故物件にしてしまった。
「神様なんですよね? せめて敷地外にしたいんですけど、やり直しってできませんか? あとできれば事故っぽく」
「一度に三つのご要望にはさすがにお応えできかねるんですが…」
「じゃあ何ならできるんすか」
今一度お伝えしておくと、この時の私は泥酔している。
「最後に何か伝えたい方などがいれば夢枕に…」
いとこが突然死んだ時、その子の姉が「夢に出てきた」と言った。優しそうな男の人の、「最後だから、言い残したことがあったら言いなさい」という声の次に、弟の声で「お姉ちゃんありがとう」と聞こえたのだという。
いとこは心の病気で、まともなコミュニケーションができない状態だった。みんな、きっと伯父さんが迎えに来てくれたんだよ、と言った。
伯父さんとは私の死んだ父である。実のところ、私はこの話を信じてはいない。だが少なくとも、少しだけ慰めにはなった。私のところにも、迎えに来てくれてもいいはずだ。
「一番伝えたい相手はもうそちらに行ってます。いやそもそも今、今くらい来てくれてもいいんじゃないですか? 夢にも出てきたことないんですよ⁈ こんな知らんおっさん寄越さんでも」
「なんかすみません」
「いえすいません、さすがに失礼でした。ちょっと納得はしてないですけど」
「担当業務が違うんだと思います。あの、もし良ければ伝言だけはできると思うんですけど」
「じゃあ、伝えてほしいんですけど」
ごめんなさい。ありがとう。ごめんなさい。ありがとう。ごめんなさい。ありがとう。…
三十回くらい繰り返したところで、「必ず、しっかりと、お伝えさせていただきますので」と遮られた。
のでなんだよ。あと敬語も変だよ。新入社員かお前は。
「新人さんですか」
「…経験不足なのは間違いありません」珍しく断定形である。
「私が成仏したらあなた一人前になれたりします?」
「…えーと…」
「取引相手がグダグダ言ってんだから、嘘でもいいからいいこと言って丸め込みなさいよ。『素晴らしき哉、人生!』って映画に出てくるでしょ半人前の天使が」すでに神様だとは思っていない。
「初めて聞きました」
「ちょっと疲れてる人にはすごく効く映画です…本当に死にたくなった後だと分かりませんが」
「…機会があったら観てみます」残念ながら、効く時期は通り過ぎちゃいましたが。
死を選んだが他人を巻き込まなかった人たちは、しばらく「次の場所」で休憩するのだという。
「温泉旅行あたりをイメージしていただいて」
せめて湯治と言ってくれ。
ほんの少し、苦しみを手放せた人たちは、こうして「自分と似た人」を案内していくのだという。
「あの今更なんですけど、何かすいません、色々暴言吐いて」
「あ、それはもうお気になさらず。人生最大レベルに衝撃的な出来事でしょうから」
「多分あなた、私よりずっとお若いですよね。実はさっきからずっとお顔が二重に見えているので、よくは分からないんですけど」
「あ、そこはモザイク処理になってるんです。万が一の場合に記憶に残らないように」
「向こうで会うかもってことですか?」
「いえ、万が一仮死状態だった時に、目覚めた方がものすごく絵がうまくて、私たち個人の顔がバレたりすると色々面倒なので」
妙に納得したところで、場違いな電子音が鳴った。何と言うか、昔ながらの「ビープ音」。1980年代のパソコンが出していた音だ。
「すみません」
かれは腕時計に目をやると蓋を開け、そこからアンテナを引き出した。何やらメッセージが来ているらしい。
「どこの骨董品? レトロSF?」
「上層部の趣味だそうです。特撮に出てきそうですよね」
確かに現実にはないと思う、そう言えば私の父は『ミクロの決死圏』という、手塚治虫のアイディアをパクったと言われているアメリカ映画(※詳細な事実関係は確認せずに書いています)がお気に入りだったけど、その中ではコンピュータのプログラムが穴をあけたパンチカードに入ってた、と言うとかれは驚いたようだった。
「うちの父に会ったら、その話もしてやってください」
「そのことなんですが、状況が変わりました」
貴方まだ死んでないみたいです。
「嘘でしょ? あそこでみっともなく転がってるよ⁈」
「万が一の事例が発生したと今連絡が来ました。酔っ払ってますし、気絶してるだけかと」カバンが下敷きになったおかげで、致命傷にはなっていないそうです。
…恥の多い人生を送って来ました。
でも、此処まで恥ずかしかったことは一度もない。
多分今悩んでることは、十年後にはどうでもよくなってるんだろうと思ってはいた。犯罪の被害に遭った訳でも、大きな災害に巻き込まれた訳でもない。ただ、かなり疲れた酔っ払いがバカなことをして、相応の代償を払ったというだけの話だ。私なら、今の私に同情しない。ひたすら大家さんに同情する。
私のイメージしていた神様とはちょっと違ったけれど、仕事でわざわざ来てくれたこのひとも、何か辛いことを抱えて「次の場所」に行ってしまったひとなのだ。そしてこのひとはもう、戻って来られない。
「たぶん、もうしばらくすると目が覚めます。怪我はしてるでしょうし痛いと思いますが、何とか救急車を呼んでください。もしかすると不可逆的な」私はかれの言葉を遮った。
「分かりました。自分でちゃんとできるし、必ずやりますから心配しないでください。ただ、あなたに一つだけお伝えしたいことがあります」
ごめんなさい。そして、本当にありがとう。
かれは「…どうも」と言ってくれた。改めて聞くと、とても若い声だった。
「それでは、何とか助けを呼んでくださいね。あと、これは業務上のアナウンスなので、ご無理のない範囲でお願いしたいのですが」
明日、もし晴れたら、空を見上げてみてください。
「バルンガでも浮いてるんですか」
「え、バルンガ知ってるんですか⁈」
「いや、何で『ミクロの決死圏』も知らない人が『ウルトラQ』知ってるんですか」
「日本の特撮は最高ですよ!」あ、個人情報は話してはいけないんでした。すみません。
「話を戻します。太陽をじっと見ていると、目が痛くなるでしょう? 苦しいことを見つめ続けると、それに呑み込まれそうになることがあります。目をそらしてください。見つめる必要はありません」
「太陽も死もじっと見つめることはできない、ですか」
「はい。能力的にできないのではなく、無理をして見続けなくていいよ、という意味で私たちは使っています」
私はもう一度、お礼を言った。
目が覚めたら明け方で、階段に突っ伏していて、口元がやたらに痛かった。
前歯がぐらついていて、唇が切れている。珍しかったので人生で初めて自撮りをした。
眼鏡は傷だらけで鼻当てがぺちゃんこに潰れており、鼻の頭が擦りむけていた。意識はあって動ける。救急車を呼ぶのは気が引けたので、医療機関の案内みたいなやつに電話して、朝を待って近くの大きな病院の歯科に行った。会社も休んだ。
タクシー乗り場で、昇ったばかりの太陽をじっと見上げる。目が痛くなったところでタクシーが来た。
前歯二本と引き換えに、私はほぼ元通りになった。医師からは目や顔の骨を傷つけなくて良かったね、としみじみ言われた。私の前歯はワシントン条約で保護されてもいいんじゃないかと思うくらいに綺麗で、「デカすぎるからなくなってほしい」と思っていた昔の自分に説教をしたい、と今では思っている。
母からは「お父さんが守ってくれたんだと思いなさい」と半泣きで叱られた。文字通りそうなんじゃないかと密かに思っている。
ただ、あの時酔っ払って取り乱した私に、ちゃんと向き合ってくれたかれ-かれがもう少し事務的なひとだったら、私は今頃あちら側に旅立っていたのではないかと思う。かれが不慣れで、私のおしゃべりに付き合ってしまったから連絡が間に合ったのだろう。
私は元いた、好きな仕事の部署に異動になった。
自分がその後、何か思慮深くなったとは全く思わない。だが。
最近、風船怪獣バルンガのイメージ元と言われるシェクリイの「ひる」を再読した。「もう一度読める」のがどれほど贅沢なことか、それくらいは分かっている。
明日もし、晴れたら、いつものお店で何か短篇を読もうと思う。
何か不思議で、ユーモアがあって、気の利いたオチのある素敵な話を。
「明日、もし晴れたら」
「お知らせ(?)」
長すぎるあらすじが気になっていたから、今回は試しに後ろにくっつけてみたよ!!!どうだろうか???
それにしても、いい加減あらすじを作り直す時間が欲しいものだね!!!
◆*:.'.:*◆*:.゚.:*◆*:.'.:*◆*:.゚.:*◆*:.'.:*◆
「ねー⬛︎⬛︎ちゃん!あのおねーしゃんがこわしちゃったうちゅうのこと、おちえてー!」「機密事項だからダメだよ?」
「⬛︎⬛︎ちゃんといぱーいおはなちちたいだけなのにー!」
「そうだなあ……。ちょっとだけだよ?」「わーい!」
「宇宙のことは広すぎて説明しきれないから、ボクの拠点のことでも話そうか!」
「あの星には色々な生き物や植物がいるんだ!」
「ニンゲンと呼ばれる生き物があの星を支配していてね、そこそこの文明を築いているようだよ!」
「ニンゲンは他の動物や植物を、ほとんど思いのままコントロールしているのさ!」「んー。しょれ、わるいことじゃない?」
「まあ弊害がないわけではないが、悪いことばかりでもない!」
「例えば、美味しいものがたくさん食べられたり、美しい花がたくさん見られたりする。いつかキミにも見せたいねぇ!」
「ボクもみたーい!」「この話に決着がついたら、一緒に行ってみようか!今頃、ひまわりという花が咲いているんじゃないかなぁ?ちなみにひまわりは種も美味しく頂けるそうだよ!」
「おいちいの、たべたーい!」
「⬛︎⬛︎ちゃん、そのほし、しゅき?」
「そうだね、ボクは……大好きだよ。」
「ボクもしゅきー!」
「キミはあの星のことを全然知らないだろう?!」
「んー。でもねー、ボクもしゅきなの!おしょろーい!」
「お揃いかあ……。いいね!」「でしょー!」
「ボクもいっちょにいきたいのー!」
「へへへ、晴れているときに遊びに行こうね!」「んー!」
ニンゲンくん、今頃キミの住んでいるところは天気があまり良くないようだね。そういう時期だから仕方がないか。
明日、もし晴れたら、キミはどこに行くの?
……楽しく過ごしてくれていたら、ボクは嬉しいな。
「前回までのあらすじ」────────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにしたら、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかったのだ!!!
そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!!!
……とりあえずなんとかなったが!!!ちょっと色々と大ダメージを喰らったよ!!!まず!!!ボクの右腕が吹き飛んだ!!!それはいいんだが!!!ニンゲンくんに怪我を負わせてしまったうえ!!!きょうだいは「倫理」を忘れてしまっていることからかなりのデータが削除されていることもわかった!!!
それから……ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。いつかこの日が来るとわかっていたし、その覚悟もできたつもりでいたよ。でも、その時にようやく分かった。キミにボクを気味悪がるような、拒絶するような、そんな目で見られたら、お覚悟なんて全然できていなかったんだ、ってね。
もうキミに会えるのは、きょうだいが犯した罪の裁判の時が最後かもしれないね。この機械の体じゃ、機械の心じゃ、キミはもうボクを信じてくれないような気がして。
どれだけキミを、キミの星を、キミの宇宙を大切に思ったところで、もうこの思いは届かない。でも、いいんだ。ボクは誰にどう思われようと、すべきこととしたいことをするだけ。ただそれだけさ。
そうそう、整備士くんや捜査官くんの助けもあって、きょうだいは何とか助かったよ。
712兆年もの間ずっと一人ぼっちで、何もかも忘れてしまって、その間に大事な人を亡くした彼は、ただただ泣いていた。ずっと寂しかったよね。今まで助けられなくて、本当にすまなかった。
事情聴取は無事に済んだ!その上、ボクのスペアがきょうだいを苦しめた連中を根こそぎ捕まえてくれたからそれはそれは気分がいい!
だが、実際に罪を犯した以上、きょうだいは裁判の時まで拘留されなければならない!なぜかボクも一緒だが!!
……タダで囚人の気分を味わえるなんてお得だねえ……。
牢獄の中とはいえ、随分久しぶりにふたりの時間を過ごせた。小さな兄が安心して眠る姿を見て、今までずっと研究を、仕事を続けてきて本当によかったと心から思ったよ。
きょうだいのカウンセリングの付き添いがてら、久しぶりにニンゲンくんと話をしたんだ。いつも通り話がしたかったけれど、そんなことはできなかった。
ボクの心は、ボクの気持ちは紛れもない本物だと信じて欲しかったけれど、受け入れてはもらえなかった。
機械のボクはもう、キミに信じてもらえないみたいだ。
でもまあ!!!きょうだいもボクも元気に牢獄暮らしが送れているうえ、旧型管理士の彼女も調子がよさそうだから、当面はよしとしようか!!!
多分ニンゲンくんの事情聴取も終わっている頃だろう。あとは何度か取り調べを繰り返して、いつか来る裁判の時を待つだけだね。
……というかこの「あらすじ」、長すぎるね!!!何がどう荒い筋だと言うんだい???……また作り直すよ!!!
ふえぇ全然時間が取れないようぅ……。゚(゚´ω`゚)゚。
────────────────────────────────
「あつい〜…!」
そうアナタが嘆く。
真夏の日差しは2人を照らしていて、肌をジリジリと焼いていく。
「君が外で遊びたいって言ったんでしょ?」
「だってこんなに暑いとは思わなかったんだもーん!」
そう言いながらアナタは公園のベンチに座る。この暑さでは、どの遊具も金具の部分が熱を持っているから、遊ぶのをやめたみたい。
ドクドクと熱さからか鼓動が早く動く。アナタの頬を伝う汗を無意識に目で追う。
「?…どうしたのー?」
「ううん、なんでも。」
「そっかー……ねぇ、飲み物買わない?流石にこんなに暑いと私溶けちゃうよ〜」
「いいよ、あそこの自販機行こっか」
「やったー!」
勢いよくベンチから立つその姿に少し笑いながら、2人で自販機の近くまで行く。
「あつー…飲み物これにしよ〜」
「私どうしようかな…」
「アンタ優柔不断だもんね〜」
「だってこんなに飲み物があるんだからしょうがないでしょ?逆に、君は迷わなすぎよ」
「あちゃー、痛い所つかれちゃった!でもそんな私も可愛いでしょ?」
「……別にー?」
おちゃらけて笑うアナタが真夏の太陽に負けないくらい眩しくて、思わず顔をそらす。そんな私を気にする様子はなく、アナタは近くの電柱に貼られたポスターを見た。
「……明日か〜」
「?……あぁ、お祭り?今年も2人で行くでしょ?」
「あー…それなんだけどぉー…今年は一緒に行けないんだ…」
「えっ…?」
アナタの可愛い声からでたその言葉で、私は飲み物を買おうとしていた指を止める。
当たり前のように今年もアナタと一緒に行くと思っていた私は、頭から冷水をかけられたかのように体の熱さも忘れていた。
今までアナタが遊ぶ隣には必ず私がいたのに、どうして?そんな疑問が浮かぶ。
「ど、うして?」
詰まるのどを無理やり動かし、アナタに聞く。
アナタはその眩しい笑顔を赤くさせ、目を逸らしていた。そんな表情、できたんだ。さっきとは違った心音がドクドクと鳴って、心の中が不安で埋め尽くされていく。
アナタはその可愛らしい口を動かして言葉を紡ごうとしていた。
「えっとね、これは秘密にしててほしいんだけど_」
嫌な予感が全身を駆け巡る。
「実はね、私__」
だめ、どうかその先を言わないで。
「…好きな人がいるんだ」
その瞬間、胸を貫かれたかのような痛みがした。
「だ、だれっ…?」
「この前知り合った別クラスの男の子!とても優しくてカッコいいんだ!」
顔を赤くしたまま笑顔で話すアナタの目には私がいない。その事実で胸が綿を敷き詰められたように苦しくなった。
私のほうがずっと前から、中学校の時からアナタのことを好きだったのに。その子よりもずっと前から。…それなのに。
「…お祭り、その子と一緒に行くの?」
「うん!誘ったらいいよって!だから明日、雨でお祭りが中止にならなければその子に……その、告白しようと思ってて…」
「そ、か…」
…でも、アナタが好きになった人ならきっと素敵な人なんだろうな。だって、アナタをそんなに可愛い笑顔にできるんだもの。
関係が崩れるのを恐れて、ずっとこの関係に甘えていた私には勝ち目がない。そんなふうに無理やり自分自身を納得させる。その後の私は、どんな会話をアナタとして帰ったのか覚えていなかった。
ただ一つ覚えているのは、家のテレビで見た天気予報では明日の天気は快晴だということだけ。
(あぁ、明日のお祭り中止になったらいいのにな)
『明日、もし晴れたら』
明日もし晴れたら
カーテンを全力で開けよう
昨日のお題を見てそう想った。
昔からカーテンを開閉する音が大好きな私。
シャッ♪
心地よい朝の始まりの音。
明日の天気予報は晴れ。
軽快な音と光ともに寝起きを楽しもうと眠りについた。
そして本日の朝
シャッバキッ…ゴトッ♪
何かちっちゃ部品が落ちてきた…
全力と力ずくを間違えた朝のお話でした。
奇跡は起こるんだ。
私はそれを信じていた。
明日もし晴れたら、一緒にドライブに行こうといった。
彼女は嘘つきだ。
人はひとりでは生きられない。
彼女の支えがあっての自分だ。
しかし、そんな考えは馬鹿げている。
人間は皆ひとりで生きている。
生まれてから死ぬまでずっと1人だ。
誰の力も借りたくない。
誰も信じない。
【明日もし晴れたら】
ぎゃくからもよんでね
「ひとつ、賭けをしませんか?」
「断る」
「ひどい!まだ何も言ってないのに!!」
梅雨の長雨に飽いてきた僕が何の気なしを装って「賭け」を持ちかけてみるも、内容を言う前にバッサリと断られてしまった。
「お前さんの考えなど私にはお見通しだよ。大方、雨にかこつけて口説き落とそうとでも目論んでいるのだろう?」
「何で分かっちゃうんですか…そこは貴女の持ち前の豪運を信じて乗っかってくれてもいいでしょう?」
「興味のない賭けはしない主義なんだよ」
この人の自宅兼工房は木造の古い日本家屋だ。
そして僕達はその縁側に肩を並べて寛いでいるのだが、どう見てもしっかり寛いでいる筈なのにこの人には本当に隙がない。
それは心のことではなく、物理的にも隙がないのだ。
もうかれこれ7年は想いを向けているというのに、何度交際を申し込もうと…なんなら求婚までしているのに先程と同じように毎回バッサリと振られてしまう。
その癖、僕が遊びに来ることは許されていて、今も隣に腰掛けていても「帰れ」という態度は見せていない。
つくづく、思考が分からない人だ。
だからこそ、僕は諦めることなく何度でも本気で想いをぶつけるのだが、多分この人が首を縦に振ることは今後も一度だって無いのだろう。
まぁだからと言って諦める気は更々無いので今日もこうして趣向を凝らしたプロポーズをと思ったのだが…
「そんなつれないことを仰らず、ひとつ乗ってみて下さいよ」
「内容による」
「ほら、雨が降っているでしょう?だから今日のうちに止むか明日まで降り続くかで賭けてみようと思いましてね。」
「なら夜明けまで私もお前さんも寝ずに雨を眺めるって訳か?冗談はその軽そうな頭の中身だけにしてくれんかね」
「相変わらず毒がお強い…良いじゃあないですか、眠らぬ夜を共にするのも」
「……お前さん、近頃は中年臭い言い方をするようになったな」
「やめて!?そんな鬱陶しいものを見るような目で僕を見ないでくださいよ!!」
「鬱陶しいとまでは言わんが、今の時代で言う「せくはら」というやつじゃあないのかい?それ。」
「…ハラスメント、に、当たるのでしょうか?嫌なんです?」
「ああ、話を聞くだけと思って喋らせていたことを猛烈に後悔しているよ。」
「そんなぁ……」
一見かなり冷められているように見えるだろうこのやり取りだが、実はこれでもかなり脈がある方だ。
この人の性格はかなりハッキリとしているので、本当に嫌なら本前の薙刀捌きで僕を追い返していることだろう。
だがそれをしないということは、少なくとも本気で帰ってほしいとは思っていないという事である。
………多分。
だんだん不安になってきたので確証欲しさに話を戻してみる。
「……で?貴方はどちらに賭けますか?」
「お前さんと同じ方」
「それじゃ賭けにならないじゃないですか…ほら、賭けるからにはちゃんと選んで!」
「やれやれ…そうさな…なら、今夜のうちに晴れる方に賭けよう」
「では僕は明日の朝に晴れる方に賭けます。」
「……で?何を賭けるんだい?まさか何も出さない訳じゃあなかろうに。」
「勿論、僕は自分の想いを賭けますよ。もし今夜のうちに晴れたなら、今度こそ貴方へのプロポーズは諦めます!」
「何だそりゃ…ならもし明日、晴れたなら、お前の求婚を受けてやろうじゃあないか。」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ、私に二言はないよ」
信じられない!
本当に乗っかってくれるだなんて!これは必死に祈るしかない!
雨よ、どうか日の出まで持ちこたえてください、僕の恋の命運がかかっているのです!!
目を閉じて手を合わせ必死で祈っていると、隣で彼女が一瞬だけ密やかに優しい笑い声を漏らした。
気になって片目を開けて見てみれば、彼女は可笑しそうに笑っているが、その微笑みはとても優しかった。
これは、本当に脈アリなのでは?
…なんて、僕の淡い期待も虚しく、無情にも雨は夜のうちにすっかり上がってしまった。
途方に暮れて彼女に目を向ければ、普段飄々として落ち着いた雰囲気の彼女にしては珍しく爆笑している。
よほどおかしいのか、床までぺしぺしと叩いている始末だ。
「……そんな、笑わなくてもいいじゃないですか…」
「や、だってお前さんがあまりにも悲壮な表情をしているもんで…まるで捨てられた犬みたいだ、と思ってな…!ふふ、ふふふ……」
「本当に、なんてひどい人だ…!」
「私が元からこうなのを知ってて惚れてる奴に文句を言われたくはないね」
「それは、確かにそうですね。」
「…はー、笑った笑った!さて、約束通り求婚は諦めてもらうよ」
「分かっています…もう、プロポーズは諦めます」
「……ですが!恋い慕う気持ちはこれまで通り諦めませんから!!」
「…こりゃ、一本取られたなぁ」
そう言って彼女は嘆くように床に仰向けに転がってしまった。
どうやら呆れて力が抜けてしまったらしい。
だが、ここは僕も譲れない。
第一、この賭けは恐らく彼女の計算勝ちなのだ。
今まで幾度となく物や流行りの文化で彼女の気を引こうとしても頑として首を縦に振らなかった彼女があっさりと己の人生を賭けたということは、つまりは賭けに勝つと確信していたが故なのだ。
だからこそ、このくらいの屁理屈は許してもらわないと。
「困った子だな、これじゃあ当分の間は落ち着いた隠居生活を送れそうにないなぁ」
「隠居にはまだ早すぎますよ。ご年配の人でもあるまいに…」
「言っておくが、見た目の割にかなりの年寄りだぞ?」
「美魔女ですか、寧ろ大歓迎です!!」
「ばかたれ、そうじゃあないわ!」
本気で言ったのに、さながら授業中にふざけすぎた子供のように頭にゲンコツを貰ってしまった。
「何でだめなんですか……」
「興味のないことに付き合うつもりがない」
「嘘ですよね、それ」
「本心だとも。……まぁ、ひとつ付け加えるなら、私みたいな禄で無しに貴重な人生を無駄遣いするもんじゃないってところかね。」
「貴女のそういう素直じゃないところも好きですよ。」
「お前さんにそれを言われたくないね。本当はわざと負けたんだろうに。」
「…………何のことでしょう?」
「今の文明なら天気予報なんてものもあるのだし、雨雲が去るまで何刻かかるかなんて分かるのだろう?」
しまった、やはりこの人には見抜かれてしまうか。
「それは……」
「お前さんが負けた末に私が如何なる反応を見せるかを確かめたかったのだろう?」
「う……」
「やはりな。だが残念ながら私は誰にも執着しちゃいないし今後もそのつもりだよ。濃い繋がりなんて面倒なもんは私には不要さね。」
「……」
今だ。今が勝機だ。
僕は人生最大の反論をこの人に振るった。
「なら何故、そう言いながら寂しそうな顔をしているんです?」
明日、もし晴れたら、ピクニックに行こう。ね?
君はお気に入りのギンガムチェックのワンピースを見せびらかしながら、楽しそうに言った。
彼女の小麦色の肌には、薄い黄色のギンガムチェックワンピースがよく映えた。きれいな笑顔は真っ白で、ももいろ。麦の香る不格好な帽子も、しゃらり優しい音を立てる草花も、全てが君のためにあるみたいだった。
No.4【明日、もし晴れたら】
明日、もし晴れたら、僕と一緒に居てくれますか。
明日、もし雨が降ったら、僕と一緒に居てくれますか。
明日、もし曇りなら、僕と一緒にいてくれますか。
明日、もし僕がいないなら、幸せになってくれますか。
明日、もし君がきえるなら、僕は幸せになれますか。
明日、君と僕は、幸せになれますか?
明日、もし晴れたら
土曜日の昼下がり、私は家のソファーの上で丸くなった。窓の外からは絶えずバシャバシャという激しい雨の音がする。今日は出かけられなさそうだな。私は基本的に休日はアウトドア派なので、家の中にいてもやることがない。暇すぎて死にそうだ。今年から私も受験生なのだから、勉強でもしろというものだが、溜まりに溜まった2週間分の課題には、いまだに手をつけていない。もしそのことが同居人にバレたら、またぐちぐちと文句を言われそうだ。私は一年ほど前から、2歳年上の大学生と同居している。親族でも友達でもないのだが、なぜか毎日一緒に過ごしているのだ。意地悪で上から目線な彼女と、同じ屋根の下で暮らすのは窮屈そうだが、案外そうでもない。なんせ家事はすべて彼女に任せているし(本人は面倒そうだが)、勉強も教えてもらえるからだ。そんな彼女と、今日は2人で映画を観に行く約束をしていたのだ。なのに、こんな天気になってしまった。外の様子からも分かるとおり、相当な降りようで、政府から大雨警報が出されたのだった。彼女との外出は初めてではないけれど、それなりに楽しみにしていたというのに。なんだかんだ、私は彼女のことが大好きなのだ。こんなことを言ったら、気色悪いと睨まれそうだけれど。そんなことを考えながら、ソファーの上でうーんと寝返りをうつ。ふと視界のはしに、彼女がたたんでくれた洗濯物が見えた。一つ一つ丁寧にたたんである。几帳面な彼女らしい。私はもう一度寝返りをうって、冷蔵庫の横にかけてあるカレンダーに目をやった。今日は2月10日。バレンタインまであと少しある。せっかく家にいるのだから、いつも家事や勉強を教えてくれる彼女に、チョコでも作ってみようか。少し早いけれど、まあいいだろう。彼女が帰ってくるまでまだ時間があるから、その間に作ってしまおう。そして、疲れて帰ってくるであろう彼女に、一番に渡すのだ。いつもありがとうの気持ちをこめて。
下駄や靴でする天気占いを知らぬ子らが、ブランコから靴を飛ばして遊んでいる。ようやく持ち手を持てる熱さになった時間にも、夕立を告げる積乱雲の影はない。
(あーした てんきに なぁーれ!)
暦の上では「大雨時々に降る」の季節らしい。昔はなかった季節を生きる私の頭に響く記憶の声をそっと上書きして祈る。
(あーした ゆうだち ふーれ!)
明日、もし晴れたなら、靴でも洗おうか。
晴れを楽しみできる気持ちを頑張って育てて、冷房の効いた家へと子の手を引いて帰る。
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正確には、大雨時行…たいう ときどきに ふる と読むらしいです。夕立が少なくなりゲリラ豪雨が増えたとの文章も数年前からいくつもありました。大きな災害になりませんように。
日本には上記の履き物による天気占いやてるてる坊主と言った天気に関するおまじないがありますが、外国にはないのかなと昨夜は検索祭りをしてしまいました。気候の違いかあまり天気に関するものは見つからなかったのですが、アメリカ南部の方にあるという結婚式の日が晴れるようにバーボンの瓶を埋めてお願いをするというジンクスはなんだか味があって面白かったです。当日に掘って開けて飲むんですって!
「渇水対策本部」、雨の降らない地域では耳馴染みのある言葉だろう。
他県の人とこの話をした時「何それ令和のNERV?」とその存在を信じてもらえなかった。
エヴァンゲリオンよろしく、そんなものがあったとてお天道様を操縦することは誰にも叶わないのだ。
毎年この時期になると憂鬱になる。
いつ雨が降るか、次はいつ水の恵みを受け取れるのか。
ダムの貯水率をニュースで聞き、節水を心掛けて日々を営む。
てるてる坊主を逆さまに吊れば雨が降ると聞いたことがある。
もし明日も晴れるなら、そろそろてるてる坊主にでもお願いするしかあるまいよ。
明日、もし晴れたら
その晴れた空を眺めて過ごしたい
雲もあるといい
密度の濃い真っ白な雲
流れているのが見てわかる雲
ぬるい風に吹かれて
太陽の眩しさに顔を顰めて
夏が早く終わらないかなとか
そういう
どうでもいいことを考えたい
繁忙期の残業続きで疲れ切った体に鞭を打つ。ちょうどいい温度で湯を張って、ゆっくりと浸かる。
胸まで浸かると、お湯の温かさに包まれてほうっとため息が出た。クーラーで冷え切った体が芯から温まる感覚がする。あまりの心地良さにウトウト眠気を誘われながら、浴槽の縁に頭を預けた。
明日は休みで誰とも会う予定がないから、お風呂に入っても入らなくてもいい。汚れた自分に接するのは私だけだから。
でも歳を重ねるごとに睡眠の質が関わってくるのだと気がついた。夜ぐっすり眠るには、体を温めたほうがいい。それからは休みかどうか関係なく、湯船にまで浸かっている。
「あーーー、明日どうしよう」
一人暮らしを始めてから、明らかに独り言が増えた。なるべく外で声に出さないよう堪えているが、家だと人目がないから我慢せず口にしていた。今のところ近隣から苦情が来ていないため、多分ポツポツ喋る分には平気だろう。
手を動かして、肩の方までお湯をかける。足元では急騰の吸い込み口がゴウっと鳴った。
「明日晴れるんだよね確か」
電車の中にある液晶画面で見た天気予報を頭に思い浮かべる。酷暑と呼ばれる最高気温でカンカン照りらしい。
「あーーー、じゃあシーツ干すか」
ついでに布団も。あとデニム類も洗おう。
ゲリラ豪雨が例年より多い今年は、油断して外に干したまま出かけると雨に降られる可能性が高い。明日は一日家から出ないと決めたから、万が一ゲリラ豪雨がきても取り込める。
だから明日は洗濯日和にしよう。
こめかみからじんわりと汗が垂れてきた。結構浸かっただろうか。急騰のモニターを見るとたった十分しか経ってない。冬だと二十分でも三十分でも浸かっていられるのに。やはり夏は暑いし堪えられない。
私はそそくさと湯船から出てシャワーを取った。お湯を抜いて掃除をしたら私のお風呂ルーティンは完成である。ささっとぬるま湯で流しつつ、今日は早く寝ようと決めた。
実際起きたら日が若干傾きかけてたんですけどね。
『明日、もし晴れたら』
明日もし晴れたらきっと体ごと溶け出すかもね、じゃあまた明日。
明日もし晴れたら
2024 8月2日
明日、もし晴れたら君に会いに行こうかな、
あなたとの逢引時を浮かべてと
楽しい時はいつも儚く
ちっぽけなわたしも、あかるい太陽に照らされて
すこしはマシに見えるのかな
【もし明日晴れたら】