『忘れられない、いつまでも。』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
歯車がひとつ、こぼれ落ちた。
世界から色が消えた。
生まれて初めての喪失感を知った。
欠けた歯車でも、ぎこちなく生きる事を覚えた。
時が経って、なんでもない風に生きる事を覚えた。
人間の記憶は思ったより雑だって知った。
なのに。
今でもあの感覚を忘れられない、いつまでも優しい痛みが歯車を軋ませる。
帰れるなら、戻れるならといつまでも振り返り続ける。
【忘れられない、いつまでも】
忘れない、いつまでも。
忘れられない人がいる。
いつまでも心の奥に残り続ける出会いというものは、たしかに存在するのだと思う。
あの人とは、不思議なくらい話が合った。好きな音楽も、本の趣味も、沈黙の心地よさまで似ていた。初めて会ったはずなのに、ずっと前から知っていたような感覚があった。何時間話しても飽きることはなく、帰り道になると、もっと一緒にいたいと思っていた。
けれど人生は、ときどき残酷なくらい自然に、人を別々の道へ連れていく。
大きな喧嘩をしたわけでもない。嫌いになったわけでもない。ただ、お互いの暮らしや環境が変わり、少しずつ連絡の回数が減っていった。そして気づけば、最後に会った日から長い時間が流れていた。
それでも、ふとした瞬間に思い出す。
雨上がりの匂い。
夕暮れの駅前。
何気なく耳にした懐かしい曲。
そんな小さなきっかけで、記憶は静かによみがえる。あの頃の笑顔も、声も、まるで昨日のことのように胸に浮かぶ。
もし違う巡り合わせだったなら、今も隣で笑っていたのだろうか。そんなことを考えてしまう夜もある。
でもきっと、出会えたこと自体が奇跡だったのだ。別れがあったとしても、心に残り続ける人がいるというのは、それだけ深く誰かを大切に思えた証なのかもしれない。
忘れられない。
いつまでも。
それは悲しみではなく、人生の中で確かに光っていた時間の記憶なのだと思う。
・・·・・· 忘れられない、いつまでも。 ・・·・・·・・· ·・・·・・·・・ ·・・·・・・
·・・·・・·・・·・・·・・· ・ Je suis en train d'écrire. ・·・・· ·・・·・・·・・・・·
忘れられない、いつまでも
時間の経過と共に忘れて行く記憶があるのに、過ぎて行く時間と共に記憶が鮮明になってしまう出来事もある。
まるで、切り取られたかの様にふとした瞬間に思い出す。
そして、思い出す度に何故か強固なものになって行く。
昨日の事の様に鮮明、なのにどこか薄らぼんやりにも見える。
例えば、子供の頃に家族で行った海の家とか。
小学校の運動会とか。
初恋のあの人に出会った瞬間とか。
初めてキスをした時にあの人の肩ごしに見えた雨上がりの景色とか。
例えば、初めてお友達と喧嘩した日とか。
ピアノが上手に弾けなかった習い事の帰り道とか。
おばあちゃんが亡くなった日の和尚さんのお経がおかしくて我慢するのに必死で悲しかった事がどこかに行ってしまった事とか。
あの人と別れた日に泣きながら見た大きな夕焼けとか。
歳と共に、忘れられない事は
今でも増えていて、きっと色褪せないんだと思う。
忘れられない、いつまでも。
良い事も悪い事も。
忘れられない、いつまでも…
忘れられない人や、場所、言葉、色々あると思う
でもそれが"トラウマ"ではないことが僕の願いかな。
あの人にこう言われて…とか
あの場所であの人にこうされてとか
そういうのじゃなくて
誰とどこどんなことを話したのかとか
ハッピーな思い出であるといいな
忘れられないものが暗いものではなく
明るいもの、些細なものでもいい、大袈裟でもいい
それが君のこれを読んでいる貴方の宝物
お守りなのだからそれを僕は否定したくない
いつまでも忘れられないすごく明るくて
暖かくて優しい思い出が1つでもあるといいな
#忘れられない、いつまでも
「この人は誰だっけ…」
「お母さん、どうしたの…」
「え、どうしたってどういうこと…?」
「ううん、何にもないよ」
母が、父のことを忘れた。
半年前、突然倒れた父。
仕事先で倒れて、そのまま帰ってくることはなかった。
悲しみに暮れる私とは違い、
恐ろしくなる程に母は冷静だった。
いや、冷静じゃないと
自分を保つことができなかったんだ。
葬儀が終わると、母は抜け殻のようになった。
仏壇の前に座り、静かに泣いている。
それが最近の日常だった。
なのに、誰なんて。
怖くなって病院へ行った。
結果は何もなかった。身体は健康だった。
でも、心を守るために
悲しみをなかったことにしたかったのかもと
精神科の先生が言った。
娘の私が恥ずかしくなるくらい、でも羨ましいくらい
両親は今も愛し合っていたと思う。
そんな2人が最期の別れを告げられないまま
離れ離れになった。
父がいなくなって悲しいけれど、
父を忘れてしまった母を見る方が悲しかった。
1人でまた病院を訪れた。
母に思い出してほしい。
でも抜け殻のような母は見たくない。
「先生、私どうしたら…」
「傍にいてあげたらいいと思うよ。
無理に思い出すのはきっと身体にも負担がかかる。
あなたがいることがきっとお父さんを思い出す1番の
きっかけになるんじゃないかな。
2人が愛し合ったから、君がいるんだから。
でも、君も自分を大切にね」
母と一緒に旅行へ行った。
駅から歩いて20分。
潮の匂いと、目の前に広がる青い海。
「見て!めっちゃ綺麗だね!」
久しぶりに来る海に、当初の目的を忘れて感動する私。
いつも絶対返事をしてくれる母からの声がない。
なんだか怖くなって母の方を振り返ると、
静かに涙を流す母の姿があった。
「お母さん、どうしたの…」
「ごめん、私大事なこと忘れてたね…」
「…っ、お母さん…」
「私の両親、あなたのおばあちゃん、おじいちゃん
まだ元気でしょ…?
親を亡くす悲しみって分からなくて…。
お父さんを亡くしたあなたに心配かけたくなくて、
でも余計に心配かけたわね…」
「心配かけてよ…。一緒に悲しもうよ…。
お父さんいなくなって悲しかったよ。
でも、お父さんのこと大好きだったお母さんが
いなくなることの方が悲しかった…」
「…っ、ごめんね…」
「ねえ、聞かせてよ。お父さんとの思い出。
ここ初デートの場所だったんでしょ?」
「なんで知ってるのよ…」
「お父さんから散々聞いたのよ。
お母さんがいかに可愛かったのか」
「もう、あの人は…っ」
「お母さんからの話も聞きたいな。
私が2人の思い出全部覚えておくね」
「お父さんみたいなこと言うのね。
いいわよ、あの人と出会った時ね…」
そう言って母は父との思い出を話し始めた。
父を思う母の顔は、娘の私が見ても素敵だった。
お母さん、あのね。
高校生の時、私お父さんとここに来たことあるんだ。
今みたいにお父さんにも思い出話してもらったの。
その時のお父さんの顔、とっても素敵だったんだ。
帰ったら、その写真見せてあげるね。
見つからないように、そっと。
恥ずかしそうに話す母の横顔を写真に残す。
2人の横顔と、潮の匂い。目の前に広がる青い海。
思い出話も、ここでの私の思い出も。
いつまでも忘れないよ。忘れられないよ。
謝る人が嫌い。謝ってもなんにもならないのにただ自分が救われたいがために謝ってる。申し訳なくてもなんにも思ってなくても過ぎたことは変わらないし変えられない。
でも謝る。そんな自分が大っ嫌い
どうして
いつまでも辛いことが忘れられないのかな
ねぇ、お父さん
冗談でも
死ねなんて言ってほしくなかった
あなたからもらった
褒め言葉は
もう、思い出せないよ
『忘れられない、いつまでも』
名前を呼ばないでください
足元がジャリジャリする。それだけではない。大小様々なゴミが一面に広がってる。ガラスが割れる感触。グシャッと潰れて硬いものが折れる、飲み物の缶かな。板のようなものが撥ねる。柔らかい感触に足が滑る、布かな。柔らかいものを踏み抜く……鼠か……。一歩一歩、次は何を踏むのか身構える。壁に手をつくと、これもザラつく感触、埃?煤?なにか空から落ちてくる。
前には小さな背中。この足元をスイスイと歩く。何もないかのように。
「……ねぇ、まだなの?」
上からの埃が入らないように、なるべく口を開けないで聞く。
「……」
しかしそんな問いかけなどないかのやうに一言も上げない。
「ねぇ!」
こんなところを歩かせておきながら、何の説明もないなんて!
置いていかれないように足を運ぶ。パリン、とガラスが割れる。
「……」
アキラは少し振り返り、細い目をこちらに向け、また前を向き歩いていく。
「ちょっと、なんなの、いい加減に……」
と言った瞬間、前が明るくなった。両脇の壁がいきなりなくなった。
目が開けられない。
薄く目を開けると、アキラがこちらに目をやった。
「……こちらです」
軽く顎を向けた先には、家並みが広がっていた。
「……ここが……」
黒い瓦が白く縁取られている。薄茶色の土のような壁が柔らかく丸みを帯びた壁。小さな窓にはガラスが嵌め込まれていた。どれも平屋建てで低い塀で区切られている。10棟より多いかな……
「クニムラです」
一瞬遅れて漢字を思い出した。久邇村……依頼を受けた村だ。
「区長には声をかけています」
高く澄ました声。その声に足を踏み出した途端。
「名前は呼ばないでくださいね」
え、と振り向くと、アキラは薄く微笑んでいた。
「それは、どういう……」
「これから会う人の名前を呼んではいけません。私の名前も、ヒトシさんの名前も、そしてあなた自身も」
すっかり立ち止まってしまい、アキラの顔を見る。
「どういうこと?」
「名前を教えると、取り込まれてしまうんですよ」
取り込まれる……?誰に?
「……私は仁志さんを取り戻しに来たんだけど」
「ああ……」
アキラの顔から表情が消えた。
「言ったのに……」
その途端、家の奥から腕が伸びた。私の腕を掴み、引き込もうとする。足を踏ん張り抵抗しようとするが、力が強い。ズリ、ズリと家が近づく。
「いや!やめて!ちょっと、これはどういう!アキラ!ねえちょっと!!」
さっきまで通っていた壁の向こう側で、アキラの声が響く。
「ホラ、また」
なんで!名前を呼んだらこんなことに!!
「だからあなたに名前を教えたんですよ」
含み笑いの声が響く。
黒い手が無数に私を掴む。引き摺られながら、その声を聞いていた。
やられた、やられた!この先には行きたくない!なにか、そんな気持ちがする!
忘れられない、いつまでも
好きな方のポスト見て辛くなったから、吐き出したい。
好きな方はSNSをやるには心が綺麗すぎるし優しすぎる。だから好きだけどそれで身を滅ぼしたら意味がないんです。好きだから生きて欲しいんです。生きて欲しいから、私はSNSに言葉を書くのが怖いのです、、
感受性の高いあなたが私の何気ない発言を自分を責めるための言葉として捉えるのではないかと恐れてしまう。
私は自分の発言が全く関係ないとしても、自分の「あの発言が悪かったのではないか」と恐れてしまう。
実際に何度かある。それで離れて行った友人もいた。
だから、怖い。
だから、好きな方が視界に入るところで私は自分の思っていることを書けない。
(忘れられ無い、いつまでも。)🦜
あのね
僕は 大日如来。の眷属として
お仕事をして居るんだね。🦜
✣普段は優しい 如来、様。が
怒った時を 一度だけ
観た事が有るんだよ。🦜
・如来。が怒った時は
[不動明王。]に変身し、
恐ろしい姿に変わるだね。🦜
(其れは。)
「表情は片目を閉じ 片方の歯で
下唇を噛む、所謂 憤怒相。に
也
背中の日輪。が 迦楼羅焔光。に
変わり、右手に剣を持ち
左手に縄を持つ
[教令輪身。]に成るんだよ。」
❣其の姿を観た時の事を・・・
いつまでも、忘れられない。んだね。🦜
❣如来、様。は決して只
起こっている訳では無く
間違って居る考えを
力付くで正しい方向に
導いて居るんだよ。🦜
❣其の姿を観れば、昔の人々なら
純粋な心だから必ず正しい
方向に変わると僕は思う。🦜
❣でも、最近の人々は、SNS.等の
情報過多の弊害で心が汚れ
如来、の教令輪身。位では
特殊詐欺。等は無くなら無い、
時代に為った事を僕は
眷属、として とても悲しんで
居るんだよ。🦜🦜🦜
🦜🦜🦜
【忘れられない、いつまでも】
私が忘れられないのは、高校生の夏にみた空。
雲がひとつも無いくらいの快晴で
ひどく澄み渡っているのは覚えてる。
つい、パシャリとスマホに収めてしまい
今もスマホに残っている。
思えば、学校の中で写真をあまり撮らなかったから、あの写真は少ない思い出の1枚になったのだと
見返して気がついた。
今からでも遅くない。
学生の時に写真は撮っておいたほうがいい。
きっと懐かしくて見返したいときがいつかくる。
「忘れられない、いつまでも」
忘れられないことなんて、ない。
いつまでもあるものも、ない。
あの燃えるような想いも
灼けるような憎しみも
“その時”が来れば、僕らはみんな忘れて、
そして、忘れられていく。
まるで、雨の中で流れた涙のように。
(ロイに捧ぐ)
あれは忘れもしない、耳だけが浮かんでいる光景を見たんだ。
寺の本堂で琵琶の音と読経の声がしていて、ただ、その姿は見えず、耳だけ。
あぁ恐ろしい光景だった。忘れもしない、いつまでも。いつまでも。
(忘れられない、いつまでも。)
耳なし芳一のオマージュ、結構怖いな。
忘れられない、いつまでも。
その感触が今も残っている。指しきれなかったトドメ。普段と違う手応え。攻撃がすり抜ける感覚。全てがこの時は違う気がした。違和感は恐怖となり強く出せなかった。その躊躇いが致命傷だった。バグスターの触感。雨、冷えていく体温、何もかもを覚えていて何もかもを忘れていた。
雨の日はいつだって嫌でも思い出させられる。敗北と許されない失敗の記憶を。
※二次創作です。
お題【忘れられない、いつまでも】
『赦過』
生ぬるい風が、湿った夜の匂いを運んでくる。
ベランダのコンクリートは、昼間の熱を微かに残して、私の素足の裏を頼りなく温めていた。
街の灯りは、水槽の底に沈んだ色褪せたおはじきみたいに、鈍く、ぼやけて。
「……ねえ、聞いてる?」
背後から、鼓膜をなぞるような低い声。
振り返らなくてもわかる。彼は今、テーブルの角に指を這わせ、私の沈黙を計っている。
「聞いてるよ。」
「怒ってる?」
「怒ってない。ただ、考えてるだけ。」
嘘だ。
胸の奥では、どろりとした黒いインクが溢れ、肺を浸食している。
吸い込んでも吸い込んでも、空気は冷たく尖っていて、気管を傷つける。
彼が犯した過ちは、もう何ヶ月も前のことなのに。
あるいは、たった数時間前のことのように、瑞々しく私を苛む。
「ごめん。」
その三文字が、部屋の空気に投げ込まれる。
あまりに軽薄で、あまりに重厚な、呪いの言葉。
彼は、私がこの三文字を受け取るのを待っている。
受け取って、喉の奥に押し込んで、飲み込んで、そして笑ってみせるのを。
「その『ごめん』は、何に対して?」
「全部だよ。君を悲しませたこと、不安にさせたこと、全部。」
「全部、か。便利な言葉だね。」
私は手すりに身を乗り出す。
夜気は、彼の体温を忘れさせるほどに鋭い。
「許してほしいの?」
「……勝手なのはわかってる。」
「そうね、勝手だわ。」
もし、ここで私が「いいよ」と言えば、世界は再び平穏な円環を描き始める。
昨日と同じ朝を迎え、同じコーヒーを飲み、同じように愛を囁き合う。
けれど、許さなければ。
この沈黙を貫けば、私たちはこの夜の淵から一歩も動けないまま、永遠に互いを削り合うか、あるいは、ぷつりと糸が切れるように他人になるか。
どちらも、地獄だ。
「ねえ。許すって、どういうことだと思う?」
「忘れること、じゃないかな。」
「違うわ。忘れられないのよ、いつまでも。脳の裏側にこびりついて、剥がそうとすると血が出る。それでも、それと一緒に生きていくって決めることよ。」
私は彼の方を向く。
部屋の明かりを背負った彼の顔は、影になっていてよく見えない。
ただ、その肩が微かに震えているのだけが、やけに生々しい。
「私はね、あなたの『ごめん』を飲み込むたびに、少しずつ透明になっていく気がするの。」
「……行かないでくれ。」
「行かないわよ。行く勇気なんて、最初からないもの。」
私は歩み寄り、彼のシャツの裾を掴んだ。
洗剤の清潔な匂いと、彼自身のわずかな脂の匂い。
五感が、彼を個として認識してしまう。
嫌いになれたら楽なのに。この匂いごと、ゴミ箱に捨てられたらいいのに。
「いいよ。許すわ。」
嘘を吐いた。
心の底では、まだあの夜の裏切りが、鋭利なガラス片となって暴れている。
でも、人間の一生なんて、そんなに長くない。
一生かけて呪い続けるほど、私たちは特別じゃない。
許せないことを抱えて歩くのは、重い。あまりに重すぎて、足がもつれてしまう。
「本当に?」
「ええ。だから、もう一回だけ『ごめん』って言って。」
「……ごめん。」
今度の声は、少しだけ湿っていた。
私は彼の胸に顔を埋める。
心臓の音が、一定のリズムで時を刻んでいる。
許すことは、負けることじゃない。
新しい絶望を受け入れて、それでもなお、明日という光を無理やり捻り出すことだ。
私たちは、泥濘の中でしか踊れない。
清らかな水の上では、足がつかないから。
「お腹、空いたね。」
「パスタでも作ろうか。」
「いいね。辛いやつにして。」
赦しは、愛の終わりであり、生活の始まりだ。
私たちは、いつまでも忘れられない痛みを、スパイスのように日常に振りかける。
逆説的に、この苦味があるからこそ、私たちはまだ、互いを求め合えるのかもしれない。
結局、人生で絶対に許せないことなんて、それほど多くはないのだ。
それを認めるのが、一番の残酷で、一番の救い。
明日も、世界は回る。
不毛は、美しい。
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『跪拝』
足の裏に、薄氷を踏むような予感がずっと張り付いている。
リビングのソファに座る彼女の背中は、凪いだ海のように静かだが、その深淵では巨大な渦が巻いていることを僕は知っている。
「……ねえ、聞いてる?」
僕の声は、情けなく空気に溶けた。
彼女は振り返らない。テーブルの角に細い指を這わせ、僕の剥き出しの動揺を値踏みしている。
「聞いてるよ。」
「怒ってる?」
「怒ってない。ただ、考えてるだけ。」
彼女の嘘だ。
胸の奥では、どろりとした黒いインクが溢れ、肺を浸食しているはずなのだ。
僕が犯した過ちは、もう何ヶ月も前のことなのに。
あるいは、たった数時間前のことのように、瑞々しく彼女を苛む。
「ごめん。」
その三文字が、部屋の空気に投げ込まれる。
あまりに軽薄で、あまりに重厚な、呪いの言葉。
僕は、彼女がこの三文字を受け取るのを待っている。
受け取って、喉の奥に押し込んで、飲み込んで、そして笑ってみせるのを。
「その『ごめん』は、何に対して?」
「全部だよ。君を悲しませたこと、不安にさせたこと、全部。」
「全部、か。便利な言葉だね。」
彼女がベランダへ向かう。
カーテンが揺れ、夜の冷気が流れ込む。
都会の夜の匂い。排気ガスと、誰かの夕食の残りと、饐えた孤独が混ざった匂いだ。
「許してほしいの?」
その問いは、刃物だった。
許されるということは、彼女に僕の罪という重荷を一生背負わせるということだ。
僕が楽になるために、彼女の清廉な記憶に泥を塗る。それが許しの正体だ。
「……勝手なのはわかってる。」
「そうね、勝手だわ。」
彼女の手すりに身を乗り出す横顔は、街灯に照らされて青白い陶器のように見える。
触れれば崩れてしまいそうなのに、その意志だけは鋼のように硬い。
僕は、彼女に許されたいのではない。
ただ、この断絶した時間の連続性に、無理やり楔を打ち込みたいだけなのだ。
許されなければ、僕たちはこの過ちの夜を、死ぬまで永遠にリピートし続けるか、あるいはぷつりと他人になるか。
「ねえ。許すって、どういうことだと思う?」
彼女が振り向く。瞳の奥に、僕の惨めな姿が映っている。
「忘れること、じゃないかな。」
「違うわ。忘れられないのよ、いつまでも。脳の裏側にこびりついて、剥がそうとすると血が出る。それでも、それと一緒に生きていくって決めることよ。」
血が出る。
その言葉に、胃のあたりが焼けるように熱くなった。
僕は彼女の人生に、消えない傷跡を刻んだのだ。
その傷跡を愛せと、僕は今、この三文字で強要している。
「行かないでくれ。」
喉の奥が震えた。
彼女のシャツの裾を掴む指が、自分のものではないように泳ぐ。
彼女から漂う、微かな石鹸の香りが、僕の罪悪感をいっそう加速させる。
「いいよ。許すわ。」
彼女は言った。
それは、救済という名の宣告だった。
彼女は今、僕という汚れを丸ごと飲み込むことを選んだ。
僕たちはこれから、この許せない記憶を抱えたまま、何食わぬ顔でパスタを茹で、テレビを見て、同じ布団で眠るのだ。
「本当に?」
「ええ。だから、もう一回だけ『ごめん』って言って。」
僕は、彼女の胸に額を押し当てた。
心臓の音が聞こえる。トク、トク、と、僕の罪を数えるような正確なビート。
許された瞬間に、僕は以前の僕ではなくなった。
何かを言いかけようとした僕の口から、言葉にならない、ただの情けない喉鳴りだけが漏れた。彼女の細い指が、僕の髪をゆっくりと、一定のリズムで梳き始める。
「……ごめん。」
喉の奥で、鉄の味がした。
許されることは、愛されることよりもずっと、残酷で、重い。
でも、この重みこそが、僕たちが生きていくための重りなのだ。
浮かび上がって消えてしまわないための、鈍色の。
「お腹、空いたね。」
「パスタでも作ろうか。」
「いいね。辛いやつにして。」
彼女が笑う。その笑顔の裏側に、僕が殺した彼女の一部が、今も泣いている。
それでも、僕はこの地獄を、天国として生きていくしかない。
全部わかったうえで、僕を地獄に留めてくれた彼女を、一生かけて裏切り続けながら。
永遠は、酷だ。
数年後の今、僕たちはその消えない傷跡を光と見間違えながら、健やかに老いている。
僕の記憶は、いつも曖昧だ。
何も衝撃的なこともないのに、なぜかいつまでも忘れられない日ってあるものだ。
それはある日、まだ両親と手を繋いで歩いていたくらい小さい頃に、一人で家の日差しのさす窓ぎわで寝転んでいたときのこと。
腕が突然ムズムズした。私はこの感覚を以前も味わったことがあったはずだ。(なぜ『はずだ』と書くかというと、当時は覚えていたはずの、その感覚を味わったエピソードを思い出せないからだ)
以前はその感覚について何も表現できなかったが、今回はその感覚を表現しようと試みて、ムズムズするところを掻きながら、
「お母さん、くすぐったい」
と表現した。その時、母は一瞬キョトンとしたが、状況を察したのか、
「『痒い』のね。それは『痒い』と言うのよ」
と私の蚊に刺されたであろう腕を見て言った。
その後、痒み止めを塗ってもらったのかもしれないが、私の記憶はそこで終わっている。あの日の感触-日差しを受けたカーペットの包みこむような香り、網戸を通じて流れこんでくる風のせせらぎ-も覚えている…のかもしれない。遥か遠くの記憶同士が溶け込んでしまって、その境界線も正直曖昧だ。
だけど、私は覚えているつもりだ、いつまでも。このなんの特別でない『痒い』という語彙を知った日の記憶を。
これまでも、おそらくこれからも。
でも普通『痒い』よりも『くすぐったい』を先に知っていることなんてあるか?
ああ、思い出せなくてとても歯痒い!
いや思い出せなくて『くすぐったい』のか?
『忘れられない、いつまでも。』
"美崎"
その声は、今でも耳元で反芻する。
"___美崎"
彼が触れる感触も、肌はまだ覚えている。
この部屋も、ベッドもあの日のまま。
そして私も、あの日から変わることができないまま。
"忘れてはいけないよ"
それは、まるで呪いだった。
人をだめにしてしまう呪いだ。
たったひと晩で私の全てを暴いたその男は、まるで玩具を扱うように、反応を見ては楽しそうに微笑んだ。疲弊して動かなくなったことをいいことに、監禁してもっと酷いことまでしてきて。
そして____
「今の君では、もう楽しめないね」
簡単に、捨てた。
忘れることのできない悪夢を人に強要したのに、
当の本人はなんてことのないようなことで
____ふざけてんの?
適当に書いてたら意味不明文章が完成しました
脈絡ないお話
いつか書き直します
忘れられない、いつまでも
あの日、あの出来事
私はきっと忘れない
死ぬまで忘れない
誕生日を〝暴力〟で祝ってくれたあの人を
私は一生忘れない
忘れられない、いつまでも。
あの人の、あの一言が忘れられません。
正直、人に怒られる年でもないし
最近、あんな風に他人に言葉を発せられる人が
近くにいなかった。
マジでびっくりです。
逆に新鮮でした。
「人に嫌われる」っていうのが怖くないのね。
自分が正義なのね。
夜、寝る前に後悔しないのかな?
羨ましいね!
負けるな!アタシ!